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異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~  作者: さきばめ
第八部 ~時を駆ける異世界譚~ 第1章「神話と興亡」
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#452 燃ゆる足跡 I


 ベイリル(おれ)が転生する300年以上前──大陸の東側に、【エフランサ王国】の原型が樹立する。

 それから50年以上が過ぎて大陸西端、聖王国の跡地に【イオマ皇国】が建国されるに至った。


 王国誕生から100年以上の(のち)──

 4人の手によって【ディーツァ帝国】が新たに独立し、形となっていくまでを第三視点(おれ)は立ち会っていた。



「やはり早急(さっきゅう)に対外的な体制を整えなくちゃならないわね」


 流麗な金髪に端正な顔立ち、そして長耳を特徴とするエルフ。

 後に帝国宰相となる"闊歩(かっぽ)する大森林"ヴァナディスが、拠点の一室でそう言った。


「そうですね……今でも既に大所帯なのに、ぼくたちの風聞を聞いて逃亡してきた人たちの合流も減る気配が一向にありません」


 初代帝王として子々孫々にその血脈と帝位を継承させ続ける、後のレーヴェンタール一族の祖。

 ローブを羽織り、気弱そうにも見える印象の黒髪の青年"ローレンツ"は、ヴァナディスの言葉に同意する。


「難儀なことだ」


 そう呟いたのは褐色肌の女性──俺自身も覚えのある人物……もとい竜物、誰あろう赤竜フラッドが"人化の秘法"を使った姿であった。


「よくわかんないけど、みんなを救うために求められるなら……それがおいらたちにできることなら、やろう!!」


 そして最後の一人、屈託ない意思を口にする赤髪に鹿角を生やした獣人こそ"燃ゆる足跡"アルヴァイン。

 赤竜に認められ、その加護を受けし建国の英雄にして、世界の英傑となる男。



「皇国は獣人や亜人差別が激しい以上、西へはもう行けないし……わたしたちも多様な種族とその価値観の違いで、小競り合いがいつ大きくなるとも限らない」

「どの種族を受け入れられるだけの"枠組み"が必要──ということですね?」

「うん、そういうこと。わたしたちは王国から自由になった……次に必要なのはわたしたちだけの規律と秩序」

「ヴァナディスさんには見通しがあるわけですか」


「地図なき時代に廃墟となった拠点(ここ)、実のところ立地としてはとても優れていて、このまま住みやすくしていって都市国家として体裁を整えるつもり」

「それって、おいらたちで国を作るってコト?」

「街じゃなくて国までいっちゃいますか……、ぼくたちにできますかね?」


「何年、何十年……何百年掛かってもいい。少なくともわたしはやり遂げるつもり」

「はははっ長命種(エルフ)のヴァナディスがそう言ってくれるなら、おいらたちも安心だね!」

「ぼくも可能な限りお手伝いします」


「……我も見守るくらいはしてやろう、竜にとって快適な住処を作る約束も守ってもらわねばならんしな」



 たった4人から始まった亡命・独立・建国。

 後世において、大陸の版図(はんと)を最も多く塗り潰した人類軍事国家の立脚点を眺め続ける。


「それじゃアルヴァインさんがぼくらの王様ですね」

「いやいや、おいらはそんなガラじゃないってば。それに世界中を巡って、同じ境遇の人たちを助けにいくつもりだし」

「えっ、そうなるとヴァナディスさんですか。でも長命種だからこそ、適任なんですかね」


 ローレンツは首を横に振ったアルヴァインから、エルフへと視線を移す。


「わたしはやることが山ほどできるだろうから、王様をやっている余裕はないわね」

「ちょっ──と待ってください。まさかフラッドさんは……やるわけないですよね」


「当然だ」


 赤竜にもバッサリ斬られつつ、3人の視線が集中するローレンツは目をぱちくりとさせてから自分自身を指差した。



「ぼく!?」

「他にいないだろう」

「へへっ、ローレンツならおいらはイイと思うよ」

「わたしがちゃんと支えるから安心して」


 あわてふためきながら、ローレンツは抗弁する。


「でもでも、ぼくは人族ですよ!? それが上に立つって、王国のことを思い出しちゃうしその──せめてアルヴァインさんがやってくださいよぉ……」

「ローレンツはおいらほどじゃないけど、みんなから人望あるから大丈夫だって」

「そんなぁ……無体すぎる」


「王は主導したわたしたちの中から出さねばならないし、それに同じく純粋なヒトが上に立つからこそ王国との違い──調和を明確にできるわ」

「えぇ……うぅ、わかりましたよ。ぼくだって生半可な気持ちでやってきたわけじゃないですから──精一杯がんばらせてもらいます」


 しぶしぶ受け入れたローレンツに、バシィッとアルヴァインが背を叩いて励ました。



 すると赤竜フラッドが、ふと思い出したかのような口調で追い打ちをかける。


「ヒト族の慣習に(のっと)るならば――伴侶と世継ぎ、それと新たな名だな」

「気がはやすぎる!!」

「できれば獣人か亜人がいいわね。王は人族でもいいけど、王妃まで人族だと不和が生じかねないし」

「そういえばローレンツ、王都脱出の時に手当てしてくれたあの兎人族の子と良い仲だっけ」


「なんで知ってるんですか!?」

「みんなの間でけっこう噂になってるし、あと鬼人族の子のことも聞いたよ」

「既に二人も手を出してるなんて、意外とやることやってるんじゃないローレンツ。皆に楽しい話題を提供してけっこうけっこう」


「うぐぐぐ……」

「王国だと正妻は一人だったけど、多種族のわたしたちには関係ないもんねえ」

「強い獣人の部族長なんかは、一晩で十人くらい相手にする人もいるし、ローレンツの体が保つかどうかだね」


「あぁもう! 他人事だと思って!!」

「己の心に嘘をつくことほど、愚かなことはないぞ」


 その性格に加えて最年少であることも相まってか、ローレンツは3人から微笑ましくイジられる。



「はぁ~まったくもう。……ただ世継ぎはどうなんでしょう、世襲ってマズくないですか?」

「ん、難しいところね。ただなぜ世襲かというと、それが統治において楽で(すぐ)れているからに他ならないわけで」

「おいらたち獣人だとまばらかなあ。誰か(ちから)ある者に決めちゃったほうが楽な場合もあるし」

「魔族なんかは特にその傾向が強いわね」


 権力に領地や税収のみならず、継承されるからこそ義務と責任も根付くというもの。統治とは一長一短で何が最も適すかによる。


「まあまあ次代の王位継承については今後煮詰めていくとして、さしあたってローレンツ。王様となるなら、外交的露出の為にも仰々しい姓は必要ね」

「姓ですかぁ……」

「──"エンタール"、獣達の王という意味の(いにしえ)の言葉だ」


 会話の合間に鋭く差し挟んできたフラッドに、ローレンツは少しだけ沈黙してから顔を歪める。



「……ちょっと待ってください? フラッドさんの言う大昔の王様って──」

「無論、ヒトらが"頂竜"と呼ぶ存在だ」

「恐れ多すぎます!!」

「地上生命ぜんぶの王様かぁ、こりゃおいらたちも平伏しないと」

「アルヴァインさん! 乗らないで!!」


 さすがにこればっかりは意地でも承諾しなさそうなのを見て取ってか、肩をすくめたヴァナディスが微笑みながら口を開く。


「それじゃあ――かつて"レーヴ"と呼ばれたこの土地にあやかって、レーヴェンタールでどう?」

「えぇ……結局エンタールの名は入れるんですかぁ?」

「ローレンツ・レーヴェンタール。いいじゃん」

「そこらへんが落としどころだろう。エンタールをそのまま名乗ったら、我も良い気はせん」


「フラッドさん自分から言い出しておいてソレ!?」


 赤竜がこうも馴染んでいるのを見ると、なんともはや感慨深い気分にもさせられるものだった。



「それじゃ方針を皆とも共有していくとして──」

「会議中、失礼しますッ!! 王国軍がきました!!」


 息せき切って扉を開けて入ってきた鳥人族の女は、肩を上下に揺らしながら報告を口にする。


「ありがとう、数はどれくらい?」

「えっと……いっぱい、です」

「わかった、他の皆には安心してそのまま過ごすよう伝えてくれる?」

「は、はいっ! わかりました!!」


 鳥人族の女性が出て行くと、ローレンツはググッと体を伸ばしながら大きく溜息を吐く。



「そんなにぼくたちが憎いんですかねぇ」

「……大量の逃亡者が出ては示しがつかないのと、今まで虐げていた者が自ら解放されるのが単に気に入らないのだろう」

「ホントくっだらない、おいらたちは静かに暮らせればいいってのに。それに脱出時にあんだけやられて、学ばなかったんかな」


 チリチリッと燃ゆる足跡(アルヴァイン)赤竜(フラッド)が、揃って温度を上げる。


「では御三方。武力には武力をもって──もはや安易な暴力なんて通じないことを証明するとしようか」

「だね。与えられるだけのものに、真の価値は見い出せない。本当の居場所はおいらたちで作らないと」


 立ち上がったヴァナディスに続きアルヴァインも腰を上げ、ローレンツとフラッドを含めてわずかに4人の最大戦力が出撃したのだった。


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