#450 華麗にして苛烈 II
「"神衛隊"!!」
三代神王ディアマが叫ぶと、周囲の尖塔に16人の影が立つ。
彼らはいずれも、ディアマ直伝の剣技を修得している生え抜き達。
半分は神族だったが……残りの半分は亜人や獣人、人族も一人だけ混じっていた。
「これより我は竜征に討って出る。しかしあいにくと首都は危険領域だ。ゆえに避難準備を終えている住民たちを速やかに誘導せよ」
後光に照らされるように命令する姿は、これ以上無いほど凛としていて覇気に満ちている。
聞くだけで人心を鼓舞するよく通る声と抑揚、美しい立ち姿はまさしくカリスマという言葉をそのまま人型にしたような印象を受けた。
「ディアマ様、ご助力は?」
「要らぬ。麾下を総動員し、退避を完了させよ。多少の犠牲や損害は仕方ないとはいえ、なるべく我が手にかけたくはないからな」
「了解しました。ただちに命令の通りにいたします」
隊長格と思しき神族の男が一礼をすると、神衛隊の面々は瞬時に散開していった。
「さすがのディアマも、ここへ到達前には無理かいね」
「我も甘く見られたものだ。そんな短時間で出し切れるような全力ではない」
「あははっ、それなら威力に関しては期待できるね神王さま」
魔力量が多いほど循環・増幅・安定させる為に時間が掛かるのは必定。
ゆくゆくは実際に大陸の一部を斬断するほどのディアマの一撃なればこそ、その魔力量は計り知れなかった。
『さっどうする? アイトエルが魔術を使えるようになったおかげで、俺も加勢できるぞ』
(魔力、足りるかの?)
『魔王具"虹の染色"を使えば、黒竜の瘴気──闇黒の魔力も色を変化させて補充できる。アイトエルの頑強な器なら余裕だろう』
(ほぉ……なるほど、そういえば魔王具もあったの)
『忘れてたんかい』
(初めて会った頃とは違うのじゃぞ。儂の魔力が切れて使わざるを得ないほど追い詰められるなんてこと、あると思うかいね。使う機会なんぞナイナイ)
『ある程度は見守ってきたから知ってるよ。昔の可愛げや初々しさが完全になくなって……もう俺のよく知るアイトエルだ』
(それは喜んでいいのか、それとも怒ったほうがええんか?)
『くっははは、正直なところ落ち着くよ。とにかく火力砲台なら任せてくれ、魔力を減衰させる黒色もなんのそのだ』
(ではお言葉に甘えようかの。いやお手並み拝見といったところか)
『あぁ、だから……その前に準備と"必要なもの"を採りにいこうか」
◇
聖王国の首都が黒く染まるのを、大きめの"浮遊岩"の上に立った3人が見下ろしていた。
文明がまるごと破壊され、瘴気によって汚染されていく。
逃げた民たちがが残っても治める土地がなければ、事実上は1つの国家の崩壊に等しい。
「魔獣は数えるのも面倒なほど討伐してきたが……元が竜というだけでこれほどのものになるとは──初代の苦労も知れるというものか」
「……魔法が当たり前だったらしいからね」
「なぁにディアマ、私見ではおんしも負けてはおらんよ」
アイトエルは過去を思い出し、イシュトは昔を知らないフリをし、唯一当時を知らないディアマは握りしめた永劫魔剣を見つめた。
「それはこれから証明してみせる」
魔剣を両手で大上段に構えたディアマの戦型は──無属魔術と剣技の合わせ技。
消費隊効果は悪いものの……単純な魔力放出は攻防一体にして、出力次第であらゆる魔術をも切り裂き、また防ぐことができる。
後の歴史にもいくつかの流派が伝わっていて、ベイリルの戦歴においても些か馴染み深いものだった。
「その意気よ。では儂は先に征く、機を上手く合わせぃ」
言いながらアイトエルと第三視点は、魔王具の効果によって"地下空間"へと一瞬で転移を終えていた。
「さてと、そいじゃ体を預けるぞい」
『あぁ、まかせてくれ』
黒竜が来る前に予め準備しておいた地面下。アイトエルの三本指同士を合わせ、俺はイメージを固める。
それは──いつか見た──"大地の愛娘"ルルーテの模倣とも言えよう。
(あのトンデモ規模には到底及ぶまいが……減衰される魔術ではなく、純粋な質量と運動エネルギーを与えるやり方だ)
魔力は前もって闇黒から蒼色へと染め上げて充填済み。
地下は可能な限り直上方向へ衝撃が行くようにくり抜いてあり、十分過ぎる威力をもって"重合窒素爆轟"をぶっ放すことができる。
「繋ぎ揺らげ──気空の鳴轟」
俺は魔術を使う刹那を逃さず、魔王具を発動させて地下空間からアイトエルの肉体は脱する。
「バッチシのようだな」
アイトエルは採取してきた浮遊岩の上に再び立ち、跳び上がっているディアマの姿を捉えていた。
"片割れ星"にまで届くのではないかと思わせる、魔力を全開放した無属魔術の超々極大刀身。
「ォォォォオオオオオオオオッッ!!」
そこには飾りっけである炎が纏われていて……。
それは言うなれば華麗にして苛烈なるディアマの、絢爛で輝かしい戦場の姿。
戦意を昂揚させる赫色は──地球の北欧神話において、世界を滅ぼした終末の一振りレーヴァテインもかくやと思わせる一撃でもって振り下ろされる。
同時に地下大爆発によって、地面がめくり上がるほどの質量・運動エネルギーが衝撃となり、闇黒瘴気を飛散させつつ黒竜の体ごと地盤が天へと昇っていく。
永劫魔剣の極大刀身と黒竜の巨体が、相対速度を維持しながら交差する。
ディアマはそこからさらに鍔迫るかのように力押していった。
「収斂せよ、天上煌めく超新星──我が手に小宇宙を燃やさんが為」
足場から跳躍しつつ、アイトエルは浮遊岩に含まれる重元素ごと極度圧縮していく。
その間にディアマの永劫魔剣によって大地は斬り断たれていき、大爆発の大穴を含めて黒竜の巨大がさらに地下深くへと沈んでいく。
地表に降り注ぐ太陽光や宇宙線もろとも集約し、核分裂反応による放射性崩壊の殲滅光を固定し終えた時──
空高く光速移動していたイシュトも、既に"光球"の一点凝縮を終えていた。
「今はおやすみ、黒竜」
「またいずれ、ブランケル殿」
イシュトと俺はそれぞれ"光輝"と"放射殲滅光烈波"を感情的に解き放つ。
世界そのものを白く染め上げるが如き、二本の光柱が谷底の黒竜へと直撃した。
咆哮が轟き、やがて沈黙する。
魔力が空っぽになった三人の傑物は、瓦礫に囲まれながら新たに形成された峡谷──"大空隙"の崖際に座り込んでいた。
「上手くいかないものだ、不必要に長くなりすぎてしまった。剣をしっかりと魔竜の等身大に凝縮できていたなら、真っ二つにできたはずなのに。己の練度不足を恥じるより他はない」
「真面目すぎるし、求めすぎじゃ。これが最適解というものよ」
「うん……そうだね、いつか目覚める時にまたなんとかすればいい」
ディアマは歯噛みし、未来知ったるアイトエルは満足し、白竜は感傷に浸る。
「しかしなんだ……二人とも示し合わせたように、凄まじい魔術を使っていたな」
「ふっふっふ」
「……それほどでもー」
「しかもアイトエルは最初のも──それほどの力がありながら……参謀などやらず前線に立っていれば、我らはもっと楽に勝てたというものを」
「なぁに、使うにも条件というものがあるんじゃよ」
「天啓とやらか?」
「それに、ヒト相手に使うようなモノでもない」
(まったく、ぶっ飛んだ魔術よ。一体どういう状況で使うのやら)
『転生者ゆえの魔術ってとこだ。それにアレで打ち倒せない人間もいるし』
(未来は恐ろしかじゃのう)
『単に火力だけなら魔術を使わずとも、いずれ科学がアレ以上に到達する。だから物理法則を超越してくる魔法のが、俺は恐ろしいよ』
第三視点、時間遡行して未来を変えることすらできる魔法のヤバさに戦慄を覚える。
「ふーーー……それじゃ、わたしはそろそろ行くね」
「イシュト、よいのか?」
「あははっ心配してくれなくても大丈夫だよ、アイトエル。とっくの前から気持ちの整理は、つけてるつもりだからさ」
イシュトはやはり無理しているようにも見えて、感情が抑えきれなくなった俺はアイトエルの体を借りて彼女を抱きしめた。
「いつか……いつか必ず会えます、だから──」
「ん~なになに、慰めてるつもり? 大げさだなぁ、でもありがと」
逆に背中をポンポンッとなだめるように叩かれ、俺はアイトエルから意識を浮かせる。
(今のはバタフライなんちゃらにならんのか?)
『……変わらないさ、イシュトさんは諦めない』
(ふ~む、詳しくは聞かないでおこう。知りすぎるとつまらんからな)
「どのような因縁があったかはわからないが……ご助力、感謝する。イシュトどの」
「こっちこそありがと。アイトエルの縁ってだけで信用してくれて」
イシュトは笑いながら"大空隙"の崖際に立つと、そのまま後ろ向きに倒れ落ちながら手を振った。
「はっ……?」
「オイッ──」
さしものディアマとアイトエルも驚愕の表情を浮かべる中で、第三視点はイシュトの後を追う。
彼女は辛そうに黒竜の闇黒を一息だけ吸い込み、次の瞬間には光子化して天高く跳躍してしまったのだった。
わずかばかりでも黒竜の闇黒をその身に取り込み、その魔力を用いた白竜を見届けた俺も──次の時代へと跳ぶのだった。




