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異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~  作者: さきばめ
第八部 ~時を駆ける異世界譚~ 第1章「神話と興亡」
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#449 華麗にして苛烈 I


 ──絶えぬ戦乱を、俺は空から睥睨(へいげい)し続ける。

 

 新たに二代神王となったグラーフによる秩序ある統治と管理。

 魔術が世界中に広がり、第九代魔王による魔領内の統一に伴う大魔王の呼称。


 神族と魔族の大戦争。魔王具の散逸。


 混沌の時代──星を餌とする"ワーム"の出現と、大暴れによる地形の改変。

 さすがに見かねて撃退するに至った、アイトエルと白・黄・青の3柱の竜。


 そして人族にとっての"暗黒時代"。

 ただひたすらに蹂躙され、身を潜め(かろ)うじて生き続けるだけの時間が続く。

 


 (のち)、グラーフから王位を継承した三大神王ディアマの誕生。

 彼女はすぐに頭角を現して神族軍を再編し、自ら率い、大陸中を行動圏としていた魔族に対して大攻勢に打って出た。


 現実主義者(リアリスト)で魔法はおろか魔術すらも満足に使えない神王。

 しかし彼女には絶大な魔力と……魔法具が存在した。


 魔王具無限抱擁(はてしなくとめどなく)を新たに、魔法具"永劫魔剣"と名を改め──(ちから)のままに振るった。

 魔王具真理の瞳(すべておみとおしだ)を、元の魔法名である"万里神眼"と称し──"自らの魔法"としてあらゆるものを見通した。



 彼女は天性の戦略家にして華麗極まる戦術家であった。

 そこに見通す(ちから)と、軍団を一撃で斬り断つ(ちから)が加われば──いかな劣勢とて(くつがえ)しえた。


 遠大な戦略構想。常に更新され続ける情報。戦術的勝利を積み重ねて、戦略的大勝利をもぎ取っていくディアマ。


 解放した土地に対しても適切な人員を割り当て、わかりやすい中央集権体制を確立させていく。

 また助けられた人々から多くの支持を得たことで、より円滑な統治を実現していった。


 最初の5年で魔王を討ち果たし、さらに10年掛けて魔族を南の旧魔領まで押し戻した。

 次に20年ほど統治の為に尽くし、(つか)()の安寧を満足(よし)としなかった三代神王ディアマは大規模な侵攻戦を開始する。

 続く30年で魔領に散っていた、(ちから)ある魔王候補までも鏖殺(おうさつ)して回った。


 ディアマの苛烈さは言うに及ばず……それまで抑圧され、虐げられ続けた人々の熱狂が合致したからこその結果であった。



 それからさらに年月は過ぎ――【聖王国】と呼ばれた国家の滅びに、俺は降り立っていた。


「フンッ……まったく好き勝手暴れてくれる」


 濃い真紅の髪に陽光に輝く金色の瞳を持ち、白と金を基調とした鎧を身に(まと)う見目麗しい女性は……その顔に似合わぬ言葉を吐き出す。

 その右手には一振りの剣を剥き出しに持ち、左目には片眼鏡(モノクル)を付け、左腕にはチリチリと炎が揺蕩(たゆた)っていた。


「はてさてどうしたもんかのう」

「ほう……かつては我が(かたわら)らにあって、魔王を相手にその神算神謀(しんさんしんぼう)を振るった()"参謀長"の知識の源泉(いずみ)もどうやら枯れたと見える」


 高き塔の頂上(てっぺん)に立つ三大神王ディアマの隣で、胡坐(あぐら)をかいているのは他ならぬアイトエル。

 二人は【聖王国】の首都よりもさらに先──地平線の彼方に見える、"黒い塊"を共に見つめていた。



「大層な買いかぶりというものよ。あんなものは単に相手の心理を読んでいたに過ぎん」

「だが他の何者にも、アイトエル貴公の真似はできまい。魔領征──あの掃討戦でもいてくれたらと、幾度となく思ったことか」

「後任がおったじゃろ、エルフなのに"珍しい銀髪"の」

「……使えないわけではないが、どうしても比べてしまうとな」


「そうかい。じゃが(わし)やりすぎ(・・・・)はしないと先に言うておいた、ゆえに(たもと)を分かったのは理解しておろう」

「無論。今こうして肩を並べてくれているだけでありがたく、そしてどうにも郷愁に駆られるというものだ」


 ディアマはフッと笑みを浮かべつつ、ふと視線を上へと移した。

 すると星が(またた)いたかと思いきや──ディアマとアイトエルの(あいだ)に挟まるように──1人の女性が着地する。


「やっほ~、っと」


 白い長髪に白い肌に白い瞳、服までも白を基調とし統一された白竜(イシュト)は、高高度偵察を終えて戻ってきたのだった。


「おかえり、イシュト。どうじゃった?」

「このままだと直撃かな。チョッカイもかけてみたけど、"黒竜"は止まる様子も進行方向を変える雰囲気もなし」


「どうやら"()の魔導師"も形無しのようだな」

「……そだね。無力な自分がとってもかなしいよ」



 ディアマはイシュトが七色竜の一柱であることを知らぬまま、単なる魔導師として扱っていた。

 魔竜とも呼ばれた暴走黒竜を前にして、イシュトとアイトエルが三代神王に協力していた事実は……驚きと納得の絶妙なブレンド具合である。


「チッいい加減どうにかしないと、"神都(しんと)"と同時に、我が権威をも(おとし)められることになる」

「天災の魔法具でも止まらないだろうし、神人や神獣もちょっとした足止めくらいにしかならないだろうねぇ」


 ディアマは舌打ちをしながら方策を考え、イシュトはお手上げといった様子だった。

 そんな中でアイトエルが右の拳をポンッと左手の平に当てる。


「──あっ、天啓(・・)がきたかも知れん」

「は? ……そういえば昔もそんなようなことがあったな──」

「へぇ~、なになにアイトエルどんなん?」



 うんうんと(うな)るアイトエルに、憑依したばかりの第三視点(おれ)は呆れ顔を作るイメージで存在しない口を開く。


『天啓って俺のことかよ? おひさしアイトエル』

(もちのろん! おひさかたベイリル。はよ昔みたいに未来の結果を教えてくりゃれ)


『時間遡行をしている身としちゃ、あまりそういうのはしたくないんだよなぁ』

(なぁに、ベイリル自身の手で未来を確定させるものと思えばええ)

『いやだからそれは以前にも説明したが、タイムパラドックスやバタフライエフェクトなんかも──』

(知ってる知ってる)



『というか、アイトエル。"魔空(アカシッククラウド)"へアクセスする魔導を会得したんだから、そこから知識を引き出せばいいだろう』

(あれは"記憶維持"の為くらいにしか使うつもりはない。それに"アカシッククラウド"から引き出すのであれば、もたらされる結果はおんしから聞くのとなんちゃ変わらん)

『……まぁ、それはそうだが』


 アイトエルは魔力の"枯渇"に()ったことで、血に混ざった頂竜の魔力色も一時的に薄まり、結果として魔術を使えるようになった。

 そして消失したアスタートの面影を追って、長い時間を掛けて魔導を修得するにまで至ったのだった。


『……イシュトさん』

(イシュトがなんぞ、どうかしたか? おんしには久しぶりの再会ではあるか)

『いや──なんでもない。未来のことだからな』

(未来……左様(さよ)か、であれば時間も無いしさっさと答えを教えるがよい)



 俺はアイトエルの肉体を借りて、仕方なく発声する。


「閃いた、古来より大きな獣を狩るのに最も効率的なモノ」

「なんだそれは……具体的に言え」

「落とし穴」


 10秒ほど沈黙が場を支配し、ディアマが辟易(へきえき)した様子で口を開く。


「どうやら新たに湧き出したかと思った(ちしき)は、とんだ幻想だったようだな」

「黒竜は巨大だし、作ってる時間もないねぇ」

「時間など一瞬──いや一撃(・・)で十分」


 そう言ってアイトエル(おれ)は、ディアマの持つ"永劫魔剣"を指差した。


「なにをバカな……単なる力押(ちからお)しではないかッ!!」

「物事は単純なほど良い。それに造作もないはず、大陸を叩き斬って隔離するくらいの気概で大地を()()けばいい」



 再びこの場が静寂し、風の音だけが聞こえる。


「えっとさ、アイトエル。それってつまり黒竜にぶちかましながら、穴の底に追い落とすってこと?」

「そう、その後はもちろん二人で追撃を掛ける。そうして一時的な"行動不能"に追い込んでしまえばいい」

行動不能(・・・・)、か……うん、いいね。アイトエルの案に乗った!」


「ふむ……我は後先を考えない一撃にのみ、全身全霊を懸ければいいのか──確かにそれなら、やってやれないこともない。どうやら討ち果たすことばかりに、囚われてしまっていたようだ」


 ディアマの持つ"永劫魔剣"の刀身が、魔力循環によって(きら)めきだすのだった。




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