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異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~  作者: さきばめ
第八部 ~時を駆ける異世界譚~ 第1章「神話と興亡」
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#447 魔王具 I


 ──俺は次元が一つ上の世界から傍観する。

 ()のままの世界を、ありのままに受け入れ……咀嚼(そしゃく)し呑み込み、己に刻むように入力する。


 "感情"とは……世界に対して何かを提供し、吐き出し、出力する為の発火点のようなもの。


 この遥か遠き過去の時代に、俺の肉体は存在しない。

 俺は手足を持たず、声帯を持たず、肺を持たず、発熱もしない、代謝の為の器官を一切持ち得ない。

 つまり俺は単独において、世界へと介入する手段がない。


 ゆえに四次元の視点において発火点(かんじょう)は何の意味も持たないし、あったとしてもそれはどこにも引火しない。

 今の俺にできるのは、ただ、見るだけ……。しかも"見る"という行為すら、現実の感覚とはかけ離れている。


 さながら"視覚"は、感情や思考に先立って遥か彼方の前方にあり、完全に孤立し乖離しているような心地。

 時間の流れは漫然と見るというよりも、たった一つの刹那に凝縮し、目の前で炸裂していく花火が(ごと)く。


 俺は時代の大河、"文明史"の潮流を一瞬の内に目撃していく。

 そしてその一瞬の中で──時の止まった世界に(たたず)み、俺は何もかもを見る。





(最後にその声を聞いたのはいつだったかいね)

『200年ほど前の魔力"枯渇"で人族が生まれた時、その時以前となると400年前の魔力"暴走"で魔族が誕生した時だ』


 アイトエルにとって、俺とは実に200年振りの再会。


(んあ~~~そういえばなんかデータを集めて分析したい()って、色々と走り回されたような──)

『その(せつ)は助かったよ。あの頃よりもさらにアイトエルはスレちまったな』

(言うてくれるじゃん)

『まぁ時間感覚が曖昧とはいえ、俺からするとアイトエルがまだかよわい少女だった3000年前の頃も……最近と言える』


 俺にとってはほんの数秒前か、数分前か、数時間か、数日か──精々がその程度の気分である。


(私にとってはもう遠すぎる記憶よなあ、ほとんど覚えていないわ)

『忘れられないように顔を出してく必要があるかな──今回はさしあたって……』


 俺はアイトエルの瞳を通した、今の興味深い時代、世界を見る。



「──アイトエル、ぼーっとしてどうしたの」

「ん? あっはっは!! いやなに、私にとって最も旧い知己──いや恩人が来ていてな」

「……誰もいないけど」

「いやはや見えはしない、ただしっかりここ(・・)にはおるのよ。私に(ささや)く妖精さんがな」


 そう言ってアイトエルは自分の頭をトントンッと指で叩く。


「もしかして疲れてる……?」

「失敬な。もっとも私の幻覚とか別人格とか言われても否定はできん。まっ気にしなくてええて」



 アイトエルと話しているのは、腰ほどまで届く銀髪に、暗闇の中で浮かぶような紅瞳を持った小柄な女性であった。

 耳は下向きに尖っていて、口からは2本の鋭い犬歯が覗くのは純吸血種(ヴァンパイア)たる証だが……さらに黒い皮膜のような翼まで生えている。


(魔力災禍──"暴走"の最中にあって、自らの体内魔力を操作した種族。昔のヴァンパイアは翼まであったんだな)


 それも恐らくは始祖たる存在である彼女だからこそであろう。

 魔力を際限なく吸収し暴走する状態にあって、自らの魔力操法(コントロール)でもって抱擁し自らのものとした種族。



「お待たせした」


 すると新たにやってきたのは、赤銅色の巻き髪に切れ長の金眼。スラリと手足の伸びた、背の高い男。

 その顔には上向きに尖った耳と……背中には"()き通るような薄羽"が生えていてたのだった。


(おぉう……二代目(・・・)って神族じゃなく、エルフだったのかよ。しかもヴァンパイアと違って、妖精みたいな羽だ)


 柔らかい笑みを貼り付けた男の背後には、空虚(うつろ)な瞳を宿した10人ほどが付き従っている。



「さぁ始めようか"魔王(・・)"」

「……わたしをその名で呼ばないでって言ったよね? "神王候補(・・・・)"」


「おっと、これはこれは失礼した。では敬愛をもって呼ばせていただこう、"ウィスマーヤ"」

「はじめからそうしてくれる? "グラーフ"」


 初代魔王ウィスマーヤと、後の二代神王グラーフ。

 それまでの世界史にはありえない、神族陣営と魔族陣営の頂点とも言える人物同士の邂逅。



剣呑(けんのん)はやめーや。こうして私が渡りをつけたのだから、少しくらいはお互いに譲歩し合ってほしいものよ。我々は学び知り、相手を思うことができる知的生命同士なのだから」


 アイトエルが仲介役として──魔王具が生み出される場に、俺は立ち会っている。


「特にグラーフ、数に(たの)んで変な気を起こすでないぞ」

「おやおや名指しとは心外ですな、重々承知しておりますとも」

今の私(・・・)なら、叛意(はんい)あってその人形たちを総動員させても、全員を叩き伏せるのは難しくないからのう」


『……もしかして俺のことをアテにしてるのか?』

(もちろん。ベイリルがいれば第三視点(みらいよち)が借りられるし)

『いい根性してるよ、本当に』


 第三視点(おれ)がアイトエルの肉体を借りるのと同様、その間だけはアイトエルも第三視点そのものを借りることができる。

 短期的な未来予知を用いることで、これまでも数々の修羅場を潜り抜けてきたのだった。




「あいにくと恐れる必要はまったくありませんよ。(わたくし)は何よりも創造と調和による"秩序"を重んじます。それにこの者達はいずれも長寿病を発症し、既に死体となった古き英雄たちですから」

「へーグラーフ、それどうやって動かしてるの? 魔法じゃないし、魔術とも思えない」

「気になりますか? いやぁ実はですね、(わたくし)"魔法"は使えませんがウィスマーヤ(あなた)が編み出した"魔術"を参考に、さらに"魔導"というものを発展させまして」


「魔導……? 導く、か。なるほどそういうやり方もアリなんだ、スゴいじゃん」

「素直に褒めていただけているようで、望外の至りです。これは"屍体操作の魔導"と呼称してまして――」

「なかなか外道だね。でも率直に言って興味深い、理論的には――」


 同じ魔の道を探究する者同士なのか、ひとたび談義し始めると専門用語が飛び交い、止まる気配を見せなくなっていった。


「仲が良いのう、心配と警戒が完全に杞憂(きゆう)だったじゃん」


 アイトエルは呆れたように肩を落とし、俺は歴史的会話を観覧しながら一つのことに思いを致す。


(屍体操作──ほぼ"傀儡の魔導"か、エイルさんって()しくも魔導を開発した二代神王と同じレベルの魔導師ってことか)


 さすがは神族と魔族のハーフにして"魔神"と呼ばれ、大魔力を保有する神器を備え、失伝した魔術方陣を独学で復活させた偉人である。



「──おっと、思わず盛り上がってしまいましたが……こういった話はまた後日に致しましょう。(わたくし)の魔導でも、魔法使10人を動かし続けるのは限界がありますから」

「……そうだね。さっさと終わらせよう。でもつまんない魔法だったらお断りだよ」


「ふむ、(きょう)が乗らないのは駄目ですか」

「うん。それと刻む為の道具は12個用意したけど、グラーフ(あなた)が魔法使えないんなら余っちゃうな」

「いやはやこれは期待を裏切ってしまって申し訳ない」


 グラーフの言葉にウィスマーヤは少しだけ考えた様子を見せてから、特に気にした様子もなく続ける。


「まっ収まりが悪いけど、11個でもいっか。それじゃ長く付き合わせても悪いし、アイトエルからいく?」

「オイ待て、言っておくが私も使えないぞ」

「えっそうなの?」

「魔術すら使えん!」


「これはこれは……意外ですな」

「うわ……すっごいムダした。なんだよもう二人して」



 今度は露骨に半眼になって、やる気を削がれたような表情を見せた。


『──なぁアイトエル、俺の"第三視点(まほう)"を魔法具にできたりしないかな?』

(無理じゃない? それに下手なことしてベイリルが消滅でもしたら目も当てられぬ)

『……確かに、やめておこう』


 "第三視点"はその概念から存在に至るまで、かなり特異な性質である。

 万が一にも悪用されれば──たとえ純粋な気持ちから利用されたとしても、世界が改変されまくった結果がどうなるかもわからない。

 思いつきの()(ごと)はほどほどに、俺は記憶の中にある12の魔王具の効果を思い出していく。



「ではウィスマーヤどの御自身の魔法を、魔法具にしてみてはいかがですかな?」

「わたしの魔法を……? その発想はなかった」


 初代魔王(ウィスマーヤ)はポンッと手の平を拳でポンッと叩いた。

 魔法は自分が使うもので、作れるのも自分だけなのだから、その必要性を一切感じなかったのも当然である。


「わたし自身は魔術に集中しつつ、魔法は外付け……アリかも。はじめてのことだし、死体のなんかより自分の魔法(それ)のほうが調整しやすい」


 自分の頭の中で構築しているのか、ウィスマーヤはブツブツと呟きながら思考に没頭するのだった。


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