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#437 無二たる II


 地上部に露出したワーム迷宮(ダンジョン)に融合するように横付け建築された、"無二たる"邸宅まで──

 俺はカエジウスと並んで歩きながら、会話に興じる。


「遠い昔──年端(としは)もゆかぬ若かりし頃……誰よりも(ちから)なき子供だった」


(唐突な自分(かいそう)語り……ッ!?)


「満足に動くことすら困難なこの身が歯がゆかった。周囲からは哀れみだけがあり、日に日に精神は摩耗し、いつからか渇望し続けていた」

「……健康は何物にも代えがたいものですね」


 しかし興味深くもあり、機嫌を損ねたくもないので、俺は適度に相槌(あいづち)を打ちながらそのまま大人しく聞くことにする。


「あれが欲しい、これが欲しい、それが欲しい、なにもかも欲しい──そうして一つの境地、"魔導"へと辿り着いた……」

「何の魔導かお聞きしても?」

「"奪う"こと」



 スッと左手が俺の肩に乗せられると、それだけで俺の(ちから)は抜けて両膝をついてしまった。


「っお――」


 "簒奪(さんだつ)の魔導"と呼べばいいか、あまりにもスムーズな発動でまったく反応できなかった。


「欲しいものは奪った。(ちから)も、魔力も、寿命ですらな」

「カエジウス殿(どの)が人族でありながら長命だったのは、そういうカラクリがあったわけですか……」


 魔導を解かれたことですぐに立ち上がった俺は、カエジウスに追従しつつ"天眼"で魔力色を見る。

 黒に近い灰色(・・・・・・)――生来の色なのだろう。

 おそらくは"虹の染色(わたしいろそめあげて)"がなくとも、他者の魔力を奪ってある程度は自分のモノにできたに違いない。


(魔力色が濁るから限界はあっただろうが、逆に言えば"虹の染色(わたしいろそめあげて)"があれば無尽蔵に奪えるってことか)


 凶悪の一言に尽きよう。さらにはそんな魔王具を、あっさり俺に引き渡してくれたことが驚きであった。

 もはや無くても問題ないのか。迷宮踏破の願いを叶えるべく貸与してくれたのか。"第三視点(おれ)"への借りがよほど大きいのか――



「長き眠りから目覚めたワームであっても、奪う対象であることに変わりはなかった。しかしいささか甘く見ていたことは否めず、追い詰められる状況になった」


 そこでカエジウスは立ち止まると、ジッと俺の(ほう)へと視線を投げかけられしばしお見合いをしてしまう。


「――あっ、もしかしてそこで第三視点が出てくる……?」

「正確には第三視点によって導かれたとのたまう"竜越貴人"に、だがな」

「アイトエルを仲介役に……」

「だから直接知るわけではない。しかし他ならぬ"竜越貴人"がそう言う以上、キサマが第三視点とやらなのだろう」


 カエジウスは歩みを再開し、俺は後ろではなく再び隣側を歩き出す。



「"虹の染色(わたしいろそめあげて)"は、その時に借り受けた」

「それで返してくれた、わけですか」


 今の俺にはまったく身に覚えのない魔王具の返却。しかしそうした過去の積み重ねによって、今この瞬間(とき)がある。


「ワームから奪った膨大な魔力で、さらに意思と水分を奪い尽くしてやった」

「そうして残ったのがアレ(・・)というわけですね」


 完全に死んだわけではなく生体ダンジョンとして機能するワームが、遠目にも巨大にそびえている。



「あれは……人生の結晶だ。ワーム(あれ)を打ち倒し――人々に大いに(たた)えられ、英傑の一人に名を(つら)ねた。それは今までにない充足感を与えてくれた、ようやく認められたような気がした。

 奪うだけでは得られぬものがあると知った。弱き身だったころを思い出し、今後は(ほどこ)しを与える側へと回ろうと考えた。かつての己のように……理不尽に(あらが)うだけの不屈の意志を持つ者にな」


「それがワーム迷宮(ダンジョン)と、制覇特典だったと」


 "無二たる"カエジウス、一人の英傑の成り立ち。



「これが思いのほか楽しく、のめり込んだ。いつしか街が作られ、後からやってきた帝国を叩きのめし特区と勝手に定めてきて、収集した財宝の中で"コレ"を見つけた」


 言いながらカエジウスは、首元のチョーカーのようなものを触る。


「魔法具"主なる呼声(わがいにこたえて)"――」


(オシャレで着けてるんじゃなかったのか……)


 ファンキーな爺さん、というわけではなく。カエジウスが所有していた二つ目の魔王具。


「コレは魔力で上回る相手に対し、強制的な契約状態に置くことができる」

「ということは……対象から魔力を奪えるカエジウス殿(どの)にとって――」

「あぁ、色々と(はかど)るようになった」


 カエジウスは単なる便利用品のように言っているが、実際はそんなレベルの組み合わせではない。

 相手の魔力を簒奪(さんだつ)する魔導師であれば、魔力を持つあらゆる生物に対して確実に優位を取って操れるということに他ならない。



("黄竜"ですら最下層のラスボスとして使役できているのは、二つの魔王具とカエジウスの魔導の相性(くみあわせ)があまりにも抜群すぎたからってことだ)


 街中の犯罪奴隷も、邸宅の庭やワーム迷宮(ダンジョン)蔓延(はびこ)っている魔物や獣も、すべてカエジウスの契約下にある。

 あまりにもチートすぎるコンボ。純然たる強度を誇った英傑達とは、また違った鬼札(ジョーカー)と言える強さを持っている。


「コレも欲するか?」

「滅相もないです。第三視点を開眼する予定の自分には不要です」


 邸宅前に近付いてきたところで、カエジウスと共に俺は跳躍して外壁を飛び越え、広いテラスへと二人で着地する。

 その中は――以前にも見たことのある――カエジウスの玉座がある、だだっ広い部屋であった。



「まさか……というか、やっぱり転移(・・)の魔術方陣?」


 スタスタとカエジウスが歩いた先の足元で、ボヤーッと光って浮かび上がる紋様。


「いつだったか"銀髪の女エルフ"が交渉を持ち掛けてきて、その知識の一部を奪ったことがあった。契約の魔法と併用することで、ようやく実用に至ったものだ」

「迷宮改装には有用この上ないですね」


 (うなず)くカエジウスと向かい合うように俺は魔術方陣の上に立つ。


 迷宮最下層で黄竜を倒した時、帰還用の何かがあると思っていたがやはり存在していた。

 後々になって理論的に可能性は低いかとも思い直したのだが、実のところカエジウスは進んだ技術を持ち得ていたのだ。


(契約魔術との併用か、ほんと魔の道ってのは単純なようで奥が深い……)


 少しすると次第に光が増していき、じきに目を開けていられなくなるのだった。


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