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#431 英傑 I


 獣の王──七色竜を含んだ12柱の竜を産み出した、頂点の竜王の一部を受け継いだと豪語したアイトエル。


「まーでも面倒だから"頂竜の加護"ということでもいいぞ。ではベイリル、先に()ってるでな。ゆるりと高めるがよい」


 そう言うやいなやアイトエルは俺の返事よりも先に、魔法具"神出跳靴(あるかずはしらず)"で瞬間転移していた。


 アイトエルの肉体が消えては現れるたびに、ワームの巨体が空へ空へと打ち上がっていくのが遠目に見える。

 やっていることは極々単純。連続で転移を繰り返し、ひたすら蹴り上げ続けているのだった。


 まるで(アリ)(ゾウ)をぶっ飛ばしているかのような光景──"折れぬ鋼の"もかくやという姿に、俺は笑みがこぼれる。

 頂竜がどんなドラゴンであったのかは想像するしかないが……七色竜よりも当然強く、魔法を使う神族を相手にしていたのだから、()して(はか)ることができるというものだ。



(というか、なんだろう……わざわざお膳立て(・・・・)をしてくれている感じか?)


 俺が一撃で仕留められるように、ワームを引きずり出そうとしているような……。

 さして関わりがないのにもかかわらず、どうにもアイトエルは昔から俺のことをよく知っている(フシ)がある。


(もしかしたら……俺以上に俺のことを知っているような──)


 そんな予感さえあった。だからこそ俺は、アイトエルに会いたいと思った。

 大陸各地に散った彼女の作った組織に接触(コンタクト)を取り、この"片割れ星"にいることを突き止めた。

 いかに双子星と言えど、決して楽ではない星間渡航をしてまで会いにきたのだ。



(なんにせよ期待には(こた)えよう)


 彼女は俺を戦力として見なしてくれている。今の俺の強度であればワームすらも討伐できるのだと。

 極度集中を維持しながら、胸元近くで左右それぞれの拳を構える。


 その魔術は転生前に見た遠い記憶にして、灰竜(アッシュ)が使う吐息(ブレス)の模倣。


「|"天"《システム》起動──連結──最大出力」


 右拳と左拳と、その空間(あいだ)に力場を生成。膨大なエネルギーを収束させていく。



「──"竜血槍"ぉ!!」


 ワームが地中からその容積を少なくなく露出させたところでアイトエルは叫び、彼女の手の平から漏れ出た血がそのまま凝固・形成される。

 血液は長大な巨槍へと変貌を遂げると、ワームを無慈悲に斜め方向から串刺しにした。


「そぉれ、一本釣りィッ!!」


 アイトエルは刺した槍をそのまま振り抜くと、蹴り上げられていた勢いも相まって一気にワームの巨体が空中へと躍り出る。


「さっあとは任せたぞ、ベイリル」


 忽然(こつぜん)と掻き消えたかと思えば次の瞬間にはアイトエルは隣に立っていて、ポンッと背中を叩いてきたのに対し俺はうなずく。

 まるで(はか)ったかのようなタイミング。血の槍が彼女の体内に戻っていくのを横目に、俺は胸元のエネルギー塊へと両の拳を突き合わせる形で解放した。


 共鳴するように(まばゆい)く膨張する光輝がワームもろとも視界を満たし、数瞬の内に()み込んでいく。



 ──光が収まると、(あと)には直径にして数キロメートルのクレーターが残され、真空となった空間になだれ込むように強風が吹き荒れる。


 "冥王波"──有象無象の区別なく、効果範囲内の存在を原子レベルで分解し滅却する。

 文明を無へと帰する、(くう)超越()えし"天の魔術"。

 その加減不可能の超威力にワームは(ちり)一つ残さず、存在そのものが完全に消滅するに至った。


「絶好調ではないかベイリル、(わし)ではこうも簡単にはいかぬ」

「適材適所です。俺もアイトエル(あなた)のような真似(マネ)はできません」


「てっきり素材を欲しがって、穏やかな魔術を使うと思っていたぞ」

「運搬する方法がありませんし。それに体内に幼体とやらがいるとなれば万が一の被害を確実に0(ゼロ)にするほうが最優先です」


 暴風も()いできたところで、アイトエルの充血していた瞳も元に戻り、俺も一息つく。


「もはやおんしも英傑の一人に数えられて遜色(そんしょく)がない実力のようじゃな」

「恐縮です。もっとも高み(ここ)まで到達するのに400年近く掛けましたが」

「ぬっはっはハハハハッ!! (わし)なんぞ今の強度までで7000年よ、それに比べれば才に恵まれておる」


 神話の時代より生きる伝説に、俺は苦笑を浮かべるしかなかった。



「――さて、落ち着いたところで話を再開しようか。ベイリルおんしが会ったことのある英傑は誰じゃ?」

「えっ? はぁ……」


 ガラリと話題転換され、俺はアイトエルの意図するところが読めず……首を(かし)げたままとりあえず指折り数えていく。


「まず最初に会ったのが、"無二たる"カエジウス」


 帝国はカエジウス特区にて、自らが討伐したワームを迷宮(ダンジョン)として改造し、制覇した者の願いを3つまで叶えることを道楽としていた爺さん。

 実際の強さを直接()の当たりにしたことはないものの、あの"黄竜"を使役して最下層に配置している(まが)うことなき英傑。


「次に"折れぬ鋼の"」


 インメル領会戦において戦帝が率いる帝国本軍の反攻を抑制する為に、方々(ほうぼう)に手を回して呼び寄せた真に英雄と呼べる英傑。

 二度ほど相対する機会があったが、どちらも相手にならなかったと言っていいほど、"規格外の頂人"たる強度を体感させられた。


「続いて"竜越貴人"アイトエル、貴方です」


 この世界で生まれた故郷、"モーガニト領"にて出会ったのが彼女であり、結社の一人である"脚本家(ドラマメイカー)"の死体を引き換えに無償で情報を持ってきてくれた。

 また軽く手合わせをして(ちから)の差を理解(わか)らせられ、今はこうして(わら)にも(すが)る思いで星をまたいで会いにきたのだ。


「未だに思い出しても心胆が寒くなるのが"大地の愛娘"ルルーテ」


 人領と魔領を分かつ"断絶壁"をあっさりと作り出し、地上最強どころか頂竜を含めて史上最強とまで白竜イシュトに言わせた英傑。

 (いど)む気も失せるほどの強度であり、白と黒を安らかに眠らせてくれたある種の恩人。また彼女がぶっぱなした副産物のレアメタル類も有効活用させてもらった。



「"五英傑"だった頃か、あと一人(・・・・)とは会ったことないか」

「"偏価交換の隣人"ラッド・エマナティオ、ですか。彼は王国圏でしたから活動範囲とかち合いませんでしたし、俺が目覚めた時には既にいませんでした」


 あいにくと(えにし)に恵まれることはなかったが、本来はそれが普通である。

 同時期に5人中4人と出会えたことが異常としか言えない。


「そして……フラウ。俺の愛した幼馴染──俺が眠っている(あいだ)に、英傑を名乗るまでになった」


 幼馴染にして生涯の相棒(パートナー)となるはずだったが、囚われた俺と離別し、救助するのを含めて長命を燃やし尽くした。

 最期の(とき)だけでも(とも)に過ごせたのはエイル・ゴウンの魔導のおかげであり、おかげで俺は心の整理をいくばくか落着することができたのだ。



「あとは昏睡から目覚めてからの新顔ばかり……。"恵む真徒"リオスタ、"運命への解答者"エリオット・フォルテ、"涙で咲く弔花"サリア・レヴェール"、"厄災清算人"、"国境なき闇医師"イゼル・ダルムンド、それと──」


 俺は以降に出会った英傑についてもさらに列挙していく。


「"塵風"ダリウス・グラーヴス、"吠えよ魂"、"氷獄の城壁"セバスティアン・ボラー、輝ける白き翼"ミアリス──直接会ったのはそんなとこですかね」


 英傑と言ってもその性格は実に様々であり、強度にしてもピンキリであった。

 ただいずれもが一廉(ひとかど)の人物であることには相違なかった。

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[一言] 天のベイリルマーwww
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