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#427 結社の最後 II


「──私は終わらせてほしい(・・・・・・・・)のだよ。他ならぬキミにな」


 ベイリルは眉をひそめつつ、強化感覚で心理状態を把握しようとするものの、遺体を乗っ取った指環という特異性の所為(せい)亡霊(ファントム)を読むことはできない。


「昔話を続けよう。私が作られた当初、まだ自我の獲得には至っていなかった。だから産まれ出でたのは……実のところ400年ほど前とも言えるな」

「当時の誰かが指環を使って、指環自身に生命を与えたってことか」

「その通り、誰あろう──後に"大魔技師"と呼ばれる男にな」

「なっ……」


 世界に安価な魔術具文明を広め、文明を一変させた希代の転生者。

 さらに7人の高弟達は国家や強大な組織といった枠組みをつくり、大魔技師から端を発して人類は大きく底上げされた歴史がある。



「大魔技師は自意識を持った私をどうこうすることはなかった──私もまたできなかった。なにせまだ単なる指環、動くことも喋ることもできない。それゆえ彼の話をただただ一方的に聞くばかり」

「……大魔技師が魔術具文明を興したのは、どんな目的があったんだ?」

「さてな? それは大魔技師が死してなお知り得ることはなかった。そして私は遺産の一つとして扱われ、高弟の一人の手に渡った。だが私が魔王具──もとい魔法具であることは誰も知らず、装飾箱の片隅で私は大魔技師との思い出を一人楽しんだ」


 亡霊(ファントム)はスッと右手の指環を差し出すように前へと出す。


「転機が(おとず)れた。一人の女の子が私を見つけ出し、その手に指環を()めた」

「それが最初の乗っ取りってわけか」

「あいにくと違う。そもそも私にはまだそのような発想もなかった。ただ"神器"と呼ばれるほど魔力に恵まれた彼女と同調するように……意思を疎通できるばかりか、私自身の魔法をも扱えるようにまで至ったのだ」


「生物・無生物を問わず命を与える──」

「そこまではまだ無理だった、が……人々を癒し、死んだばかりの者であれば蘇生するくらいは充分だった。彼女は"神域の聖女"と呼ばれ──人々は求め、崇拝した」

「……」

「そしていつしか、群がり始めた(・・・・・・)。たった一人の手に余ることをわからないはずもないのに……なぜ自分たちを見捨てるのかと(いきどお)り、時に(ののし)ったのだ。私は神域の聖女の指にあって人類の愚かさを知り、その将来に危惧を覚えた」


「それが動機(キッカケ)か」


「最期まで人々の為に尽くしながら死んでいった聖女(かのじょ)の遺体を、その時に初めて動かした。そして私は人類を正しく導くべく、組織を創る為に同志を集めることにしたのだ」



 アンブラティ結社──その立脚点(なりたち)が、結社の創始者にして魔王具"命脈の指環(どうりをけっとばす)"によって語られる。


「導く、とは具体的に?」

「与えられるだけでは、人間が惰弱(だじゃく)となるのを見てきた。そして平和とは毒薬のようなものだ、停滞し……時に緩やかな衰退をも(まね)く。必要なのは競争だった」

「その為に国家を不安定にさせ、土地を疫病や魔薬によって無秩序に(おか)し、戦争すらも辞さなかったわけか」


人間(ヒト)の本質であることは否定できないだろう。他者によって踏みつけられても、また立ち上がるのを繰り返して進歩していく」

「言わんとすることは理解できるが、まさかお前が人類の未来を(うれ)いた上での行動だったとはな」


 ベイリルが結社に入る頃だと、単なる相互扶助組織であると聞いていた。

 しかし方法はどうあれ、人類の行く末を考えての(こころざし)(いだ)いていたとは、いささか驚愕を禁じ得ない。



「──最初の同志、いや仲間となるべき者には既にアタリをつけていた。聖女への貢物(みつぎもの)の中から、私と同じ(・・・・)"魔法具"を見つけていたからな」

「それ、は……」

「"遍在の耳飾り(いつでもどこにでも)"と言った。その魔法とは遍在、すなわち自らの"分身体"を魔力の限り無尽蔵に創りだすこと。私は新たに私を一人(・・・・・・・)、生み出した」

耳飾り(イヤリング)──」


 ベイリルは遠い記憶の中を走査するように、わずかに残った糸を手繰り寄せていく。


「だから……キミも"神域の聖女"の姿だけ(・・・)は、既に見ているはずだ」

「──"仲介人(メディエーター)"か。あいつは同時にかつてのお前自身だったのか」


 アンブラティ結社にあって、特徴的な耳飾りを着けた女性が浮かび上がる。

 ある種において結社の中枢そのものとも言えた、各結社員を繋ぐ役割を持った──この手で討つことが叶わなかったかつての(かたき)



「遍在した分身体は、私の人格と聖女の姿を持っていた──が、私の魔法までは持ってはいない。ゆえに私たちは役割を分担することにした」

「生命を与えるお前と、分身を作り出すお前か」


 "命脈の指環"とはまた別種で、破格の性能とも言える"遍在の耳飾り"。

 魔法とはつくづくぶっ飛んだものなのだと、ベイリルは再認識させられる。

 たった一人で情報収集と共有を(おこな)いつつ、結社員同士に渡りをつけられたのはまさしく魔法というカラクリあってのものだったのだと。


「数少なくない者達を引き入れた……最初は100人以上いたな。"予報士(オラクル)"や、キミもよく知った"将軍(ジェネラル)"。あとは"生命研究所(ラボラトリ)"や"模倣犯(コピーキャット)"も古株に入るか」

模倣犯(コピーキャット)もか」

「……あぁそういえば彼は今シップスクラーク財団の総帥にして、フリーマギエンスの偉大なる師(グランドマスター)──"リーベ・セイラー"を演じ……いや擬態(・・)しているのだったか」

「既に立派な財団員であり、同志(なかま)だ」


 長年、過不足なく仕事をしてくれている。

 俺自身動き回ることも多かった影武者という面倒な部分を任せられるのはありがたかった。



「それは……良かった」

「良かっただと?」

「彼は、私が明確に生命を与えた(・・・・・・・・・)と言っていい唯一の存在だからな」

「そう──だったのか……しかも、唯一?」


「彼はとある集落で(まつ)られていた神族の遺体。もちろん蘇生させるには遅すぎて……ただ純粋に命を吹き込んでみたのだ。神域の聖女の魔力をもってしても自我の獲得は難しかった。だから彼はニセモノではなくホンモノを求め、他者を真似るようになった」

「なるほど、本人も忘れて謎が多い出自について得心がいったよ──」

「最初から未完成。それに私のように劣化すると思っていたが、神族の肉体はやはり別格のようだ。いずれにしても無為に命を与えたのはあれが最初で最後……しかしキミが作り上げた文化によって、彼は自分の人生を歩んでいる。早々に捨て置いたのはどうやら私の認識不足だったようだ」


 大切なのはどういう影響を受けるかということ。

 亡霊(ファントム)自身が自我を獲得したように、模倣犯(コピーキャット)もまた環境が必要だったのだと。


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