#423 生命研究所 II
「──"女王屍"、お前自身が"生命研究所"だったんだな」
俺はかつて、ジェーンとヘリオとリーティアと共に殺した相手の名を呼ぶ。
「……?? だれえ? ソレ、だれのことお? ワタシは生命研究所だけど、そのじょおうばねって」
「本人ということはありえない、塵一つ残さず消滅させてやったからな。だから双子……いや、複製体か」
謎に包まれていた"生命研究所"という人物──断片的な情報から構築した遺伝子工学的研究内容から、あるいは継承者の存在を疑っていた。
かつて"女王屍"とその場で俺が命名した、キマイラ女の研究を──"大魔技師"における高弟のように──誰か同僚や部下が引き継いだか、あるいは別系統で発展させたものなのかと。
「ううん? お? ああ! そういうことかあ、思い出したあ。そういえば"冥王"って学苑の関係者だっけえ? "仲介人"が引き渡してくれた時に言ってた気がするう」
生命研究所はうんうんと大きく首を縦にうなずく。
「そういうことかあ、あの頃キミがワタシを殺したってえわけだねえ?」
「いくら複製体とはいえ、自分を実験台にするとはな」
「いやあ? 学苑に出向いたのは本体だよ」
「──!? 真剣か……複製体がいたのに、本体自身にキマイラ移植していたのかよ」
つくづくもって狂っていた女であり、同時にクローンも同じ危険性を孕んでいるということでもある。
「それでえ本体が行方不明になったあとは、ワタシたちが引き継いだけどお」
生命研究所がパンッパンッと手を叩くと、生体床が蠢いて同じ姿をした生命研究所が新たに2人、産まれるように現れたのだった。
「お客さんだよお、なんとあの"冥王"。しかも元のワタシを殺してたんだってえ~」
『へええええ~~~、ってえずっと聞いてたけどお』
並び立った2人の生命研究所が同時に声を重ねる。
『ねえねえ、冥王。元の本体はどうだったあ? 無理やり女王蟲を混ぜたところにトロルの再生能力を利用しすることで、なんとか自我を保ててたけどお』
3重雑音のような生命研究所を冷ややかに睨みつつ、俺は答える。
「元のお前となんら変わらない狂人だよ、どの時点からは知らんがお前は人間をやめすぎた」
『わああーーーお、穏やかじゃないねえ冥王。ていうかあ、聞いてよおお。キマイラってやっぱり生物として歪でさあ、おんなじ複製同士をいっぱい混ぜて"人造神器"を作ってもお……知能を保てないんだあ』
「興味浅くない話だが……お前は財団に勧誘もしないし、今この場で殺す──同じように塵一つ残らず消滅させる」
『それはこれは宣戦布告かあ?』
「積んだ罪業は贖えず、何より危険過ぎる。ついでに俺の感情の捌け口になってもらう」
『でもそっかよかったあ、キミは敵なんだねえ。研究所が止まったから犯人捜ししてさあ……実験体に擬態っててえ。結局吐かなかったけど、彼を拷問した意味もあったねえ』
生命研究所の内1人が生体床に腕を突っ込むと、中からズタボロの"模倣犯"を取り出したのだった。
(……まだ息は残ってるな)
その立場と擬態能力を活かした潜入をしてもらい、その情報から辿り着いたのだが……どうやら見つかって手酷くやられたものの、生きているようでひとまずは安心する。
『ううう~ん、どうしようかなあ。ワタシの最高の手持ちは"魔獣使い"から奪ったこの研究所でえ~、そうそう魔獣と言えば色々混ぜすぎて死んじゃったんだけどお……実はあ寄生蟲を利用して動かしてるんだあ』
聞いてもいないことを唐突にベラベラと喋り出すのは、女王屍のクローンだけあってよく似ていた。
『素体を産み、醸成させる"苗床"としても最高だしい。もっと早くに手に入れられてればなあ~~~。それでなんの話だっけえ……あああーなんか魔獣も全然動いてくれないから、傑作である"冥王"に抗するには戦力が足りないかなあ~~~ってえ』
「寄生させた屍体の数に恃んでも、無駄だぞ。俺単独でもまとめて蹴散らして終わりだ」
さらに俺と同等の強度を誇るヤナギに、外にもアッシュと烈風連という戦力を用意してある。万が一にも漏らしはしない。
『うんうん、作ったワタシがそれくらい一番知ってるよお──……そういえばさあ、冥王がどうして成功したか知ってるう?』
「……なに?」
戯言など切って捨てるつもりだったが、自分のこととなると半長耳を傾けざるを得なかった。
研究内容であれば回収すればいいが、その目的や意図となると死人になっては口無しである。
『あはははああ、実はあキミと同じような血をひくハーフエルフをさあ……むか~し弄ったことがあるんだよお。だから適合しやすいのを把握できてたんだよねええええ』
「──ッッ!?」
俺は息を飲んだ。その言葉の意味することとは、つまり──
『ずうっっっと前に不具合があってえ、調整しっぱなしだったの忘れてたあ。傑作同士ならさあ、どっちが勝つと思うかなああああああああああああ???』
今度は生体天井から1人、ボトリと落とされ……灰銀髪に碧眼を開いた女性は、幽鬼のように立つ。
『同じ髪に同じ瞳の色おおおお、ハーフエルフで血も似てるとなれば……もうこれは決まりだよねえええ? ねえねえ姉? 妹? どっちい? あっ双子とかあ?』
「貴様……いや──」
俺は瞬時に沸騰した憤怒を凝縮させ、心は熱くしたまま頭は冷静に考える。
"運び屋"フェナス──他ならぬ肉親を、むしろ1年ちょっとでこうして再会できたことを喜ぶべきだろうと。
「姉さん!!」
スゥ──っと大きく空気を吸い込んだ俺は、一息に拡声はしない単なる生の大声をぶつけるのだった。




