#412 TEK装備
「──さて、他愛ない話はこのへんで。お急ぎなのでしょう?」
「あぁ、そうだな。準備は早いに越したことはないし、ロスタンお前に何があったかは……全てが終結した後に、酒でも飲んで語り明かそうか」
「楽しみにしています」
そう言うとロスタンは壁際の作業台の一つに向かうと、そこに掛けられていた布を勢いよく引き剥がす。
「では早速ですが義手の取り付けに参りましょう」
「選べたりはしないのか?」
「必要性を感じません。なぜならこれはリーティアさんがあなたの為に遺した、後期傑作品の一つだからです」
「リーティアが……?」
「本来であれば目覚めの時に取り付けていた練習用の義手などで馴らすほうが良いのですが……」
「そんな悠長な暇は、惜しいな」
「そうだろうと思いまして、ぶっつけ本番でいきましょう」
俺は作業台の横にある椅子に座って、喪失した左腕を差し出すように置くと、すぐにロスタンは手慣れた手つきで作業に取り掛かる。
「リーティアさんのゴーレム技術の粋と、新規格の"魔方刻印"を利用した接続。契約魔術を応用した魔力バイパスを使用することで、スムーズで繊細な動作を可能としています。
なお拒否反応が起こらないよう、化学的な生体施術は既に済んでおります。加えて人口皮革で覆うことで見た目もかなり自然となりますので、日常生活では意識する機会も少ないかと」
まるで商品説明でもするかのようにつらつらと、ロスタンは饒舌な語り口で述べていく。
「本当に……リーティアは偉業を成し遂げたんだな」
「財団史上唯一の"大魔導科学者"です。晩年はわたしも御世話になりました」
ガチリと不自然な感覚の接続の後、自然な感覚が指先にまで伝わる。
「お、おぉ……凄っ」
強化感覚によって研ぎ澄まされた生身とは比べるべくもないが、それでもしっかりと触覚まで感じる。
レドにぶっ壊された義手と違って、本来の腕にはない内蔵された兵装までも認識できるのは妙な感覚だった。
「こちらが仕様書になります」
「手書きか──」
俺は渡された──リーティアなりの手紙のような──義手の説明書を読み進める。
基本的な仕様や搭載装備だけでなく、動かす為のコツまで事細かにイラスト付きで可愛らしく。
(なるほどな、完璧だリーティア。俺の求めるもの、浪漫を理解して積んでくれている)
幼少期から物覚えがよく、俺の語る御伽噺に共感し、近い価値観を共有するに至った。
だからこそ……リーティアは俺の為だけの、こうして素晴らしい義手を製作し、残しておいてくれたのだ。
「どうでしょう? これから細かい調整をおこなっていきますが、さしあたって──」
「あぁ、調整するまでもなくアジャストされている。職人芸なんて言葉じゃ言い表せんな、さすが俺の愛する妹だ」
俺はその場で腕を振り、指をスナップさせる。単純な出力であれば、右手を上回る握力も出せるだろう。
魔術使用に関しても問題なさそうであり、義手だからこそできることできないことさえ把握すれば、むしろ戦術の幅も広がりそうであった。
「では他の武装についてですが、以前の装備一式は用意してあります。いかがしますか」
ロスタンが作業台の上に置いたアルミケースを開くと、中には籠手、短剣、ガンベルト、そしてリボルバーが二挺──納められていた。
グラップリングワイヤーブレードが仕込まれた籠手でも、短剣でもなく、まずはリボルバーを両手にくるくると回して感触を確かめる。
「現在は自動拳銃もありますし、散弾銃や携行機関銃も用意できますが?」
「そそられなくもないが、抜き撃ちはコレが最速だ。機構も単純で強度も確保できるし、何より好きな銃を使わなきゃな」
一通りのガンプレイを左義手と合わせて同時に行ってから、俺は一度ケースへと戻す。
「わかりました。義手にも籠手と同じワイヤーが仕込まれていますので、以前と変わらない戦い方ができるかと思います」
ロスタンの言葉に頷いてから、俺は右手にワイヤー籠手を装着し、ガンベルトを腰に巻き、リボルバーを収納して、後ろ腰に短剣を差した。
「──あと準備しておくとすればスライムカプセルか」
「それでしたら、"TEK装備"の方に仕込まれてあります」
「俺のTEK装備……"特効兵装"だったな、結局調整不足でまともに使う機会がなかった」
TEK装備──魔導科学に連なる騎士の為に、最先端技術の粋を凝らした装備。
技術的に大っぴらにするわけにもいかず、"明けの双星"オズマとイーリス兄妹のような、局地的な活動をする人物にのみ試験運用をしてもらっていた。
俺用のモノもあったが、ついぞ実戦投入する機会を失したままであった。
「ベイリルさんは専用の"HiTEK装備"に強化され、しっかりと保管されていますよ」
「HiTEK?」
「ハイテクノロジーエンチャントナイト装備──テクノロジートリオの手によって通常のTEK装備よりもさらに高次元、最先端技術を個々人への転用・調整が施された唯一品です」
「そんなものが……」
ロスタンは新たに12の紙束を取り出すとズラリと作業台に積み上げ、俺は手に取っていく。
「個々の実力と信用度も加味され、採算度外視のHiTEK装備構想が推し進められ……いくつかはその完成を見ました」
真・特効兵装、魔流導合金、超重機神、竜闘士黄衣、氷精、唱熱花火、絡繰兵団、複製永劫魔刃──
どうやら完成・一部運用されていたのは8装備までのようで、残る4つの紙束は凍結の赤印が押されている。
「凄いな……というか超機密書類だろうに、随分とぞんざいに渡してくるんだな」
「えぇまあ本来であれば禁書庫に収蔵されているものでしょうが……内容を理解できる者は限られ、まして扱える者となれば──ですから」
俺はパラパラとめくって見るが、確かに数式まみれでちんぷんかんぷんであった。
そうしている間にロスタンは奥の巨大金庫を開けていて、俺は俺だけのHiTEK装備──"真・特効兵装"と対面する。
「さっ、どうぞ。これは直近まで央都の大地下開拓都市にある"焔炉"──テクノロジートリオの方々が、無限大の夢を見せてくれた特別工房に安置されていたので状態は当時のままです」
(さすがにテンションが上がるわ)
上半身を肩から両腕まで羽織るような形の強化外装。
浮遊極鉄と電磁力アタッチメントで吸着・反発・追従し、六枚の翼を広げたような展開機構。
スライムカプセルあらため"応急活性魔薬"を適時注入できるばかりでなく、換装式の特殊武装も備わっていて……状況・戦術に応じた選択も可能となっている。
「たまらんな」
来る血戦に向けて、これ以上なく頼もしい相棒になりえそうだった。
「ではHiTEK装備の調整の前に、義手のほうを実戦運用しておきましょうか」
「あぁ……正直100年のブランクはきつかった、可能な限り最適化しておかないとな」
レドを相手にボコボコにされたのを思い出しながら、俺はグッパッと左義手を握っては開くを繰り返す。
「100年と言っても起き抜けで馴染んでいないだけかと。今の貴方は100年前よりも確実に強い、はからずも"生命研究所"による肉体魔改造の結果です」
「そう、なのか……──」
「既に聞き及んでいると思いますが、財団の敵として立ちはだかった"冥王"はそれはもう脅威であったと」
「複雑だな」
まったく記憶にはないのだが──結社の手先として改造人間となった俺は、英傑の一人とまでなったフラウをして苦戦するものであったらしい。
己の手で積み上げたものではないのが残念だが、それもまた"力"である以上は有効に使ってやるべきだろう。
「それでは僭越ながら、わたしがお相手しましょう」
「ロスタン、お前……やれるのか?」
「えぇ──かつて貴方を殺すと誓った男の、ささやかな慰めにも付き合ってもらえれば幸いです」




