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異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~  作者: さきばめ
第七部 因果に応えし宿命の交差 第1章「後悔と再起」
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#405 歴史 II

「──"血文字(ブラッドサイン)"の犠牲者には……おまえの家族(・・)が含まれる」


 ギチギチと心臓が締め付けられる心地が(ぬぐ)えない。


「俺の家族を……"血文字(ブラッドサイン)"が──」

「ヤツの動機は今なおわかっていない。だがサイジック領内における、のべ73人の犠牲者の中に"ハルミア"、そしておまえの娘(・・・・・)も含まれる」


 あの時、あのクソ野郎を逃がしてしまったばっかりに引き起こされた因果に血が滲んでいく。


「ハルミアさん──それに、顔も見てない俺の……子」


 守れなかった、誓いを立てたはずなのに──俺はどこぞに捕まり、眠っていて何もできなかった。

 沸々と燃え(たぎ)るマグマのような憤怒を、俺は前言のとおり表には出すことなく自身の心の(うち)に封じ込める。


 それをぶつけるべき相手は、いまだ敵として存在しているのだから。



「──……続けるぞ。シールフはいない、心を読んで探すこともできない中で財団の多くの人材が失われ、犠牲者はもっと増えていてもおかしくなかった。それをジェーンが止めた、もっとも彼女も一度は殺されたのだがな」

「ジェーンが……どういうことです?」

「彼女は"血文字(ブラッドサイン)"の手によって死の(ふち)にあって、その血を覚醒させた。ベイリルおまえならば知っているだろう? 初代神王ケイルヴ・ハイロードと呼ばれたその血だ」

「それは知っていますが……いまいち要領を得ません」


「"神族大隔世"と言えば理解できるだろう。ジェーンはシールフと同じく、神族の血を人の身のままで発現させたばかりでなく、さらには初代神王に連なるものだったのだ」

「ハイロードの血──って、まさか黄昏(・・)!?」

「左様。代々の"黄昏の姫巫女"に探させていたらしい、黄昏色の魔力を持つ者こそ彼女だった。ジェーン・ハイロードとでも言うべきかな」


(ジェーンの先祖が……かの初代神王ケイルヴ・ハイロード──)



「彼女のおかげで血文字(ブラッドサイン)自身も、一度は死に瀕するほどの大きな深手を負った。しかし仕留めきるまでには至らなかった。

 とはいえ以降の安全は担保された。なぜならばハイロード、初代神王ケイルヴ──彼はその瞳で魔力を見ることができたという。その形質は彼女にも現れていたのだ」


「魔力……そうか、魔力色覚なら血文字(ブラッドサイン)を判別することができるのか!」

「だからこそベイリル、もはやおまえにしか頼れない。血文字(ブラッドサイン)を探し出せるのは、唯一おまえだけだ」


「ジェーンはもう……?」

「あぁ、シールフのように長命とはいかなかったようでな。だがしかし美事な往生(おうじょう)であった」


 シールフの場合は魔導師としての肉体活性あっての、長命であったのかも知れない。


「保護し育てた子供たちも成長し、実に多くの人間に囲まれ惜しまれ、笑顔で迎えた最期だったよ」

「そっか……ジェーン──幸せな人生、少しは救われる心地だ」


 あるいは"至誠"の聖騎士ウルバノも、そうした死に際を得られたのかも知れない。


「うむ。ベイリル(おまえ)と関わったことで、確かに報われた者もいるということだけは忘れてはならん」


 そう言うとサルヴァはポケットから一枚の"赤い紙"を取り出すと俺に手渡してくる。



「なんですかコレ、手紙……じゃないですよね」

色見本(・・・)だ。ジェーンが()た"血文字(ブラッドサイン)"の魔力の色を、ナイアブが再現したものよ」


 ドス黒い乾いた血の色──"血文字(ブラッドサイン)"らしいと言えばらしい、不吉を(はら)んだような色だった。


「近い色の者を見つけたら、三つの泣きボクロと首元から顎にかけて"消えない凍傷"を確認しろ」

「消えない凍傷(・・)……もしやジェーンが?」

「その通り、変身しようが決して戻らぬ──理を越えた(ちから)を持ち得たジェーン(かのじょ)は、紛うことなきサイジック法国の守護者であったよ」


「了解しました。俺が俺だけの責任をもって決着をつけます。必ず"血文字(ブラッドサイン)"を見つけ──この手で殺す」


 たとえ"透過"の異能があろうと関係ない、どのような手段を用いてでも葬る。



「ちなみにナイアブはニアとの一子をもうけ、晩年まで芸術に打ち込み続け、今では世界で最も有名な一人となっている」

「おぉッ──!!」

「ヘリオ、ルビディア、グナーシャ、カドマイアらも引退するその日まで世界を興奮の坩堝(るつぼ)へ叩き込んだ超のつく有名人よ」

「ヘリオ……そっか、そうか!」

「リーティアとティータは(われ)と一緒に、テクノロジーに生ききり──財団を躍進させ続けた。そうそうスミレ、転生者の彼女もよく働いてくれたよ」


(リーティア、いつまでも変わらず……お前らしく生きたことを願う。ティータ、スミレもなによりだ)


「そしてゲイル・オーラムは老いて亡くなる日まで財団と共に在った。付き従い補佐したクロアーネも、料理人として多様に裾野(すその)を広げた第一人者よ」


(オーラム殿(どの)……感謝します──クロアーネ、俺がいなくてもたくましくて安心したよ)



「他の者らもほとんどが変わらぬまま財団に生き、そして天寿を(まっと)うしていったよ。例外の一人は……ファンランか」

「ファンラン? ──は寿命を考えれば生きているはずですが……」


 極東の龍人と呼ばれる種の血を発露させている彼女は、寿命も長命種ばりに長いはずだった。


「残念だがな。第四次"海魔獣"討伐遠征作戦の折に、帰らぬ身となってしまった。主導する者がいなくなったことで、海魔獣は現在も大陸と極東との間を回遊していることだろう」

「そう、ですか──」


 夢への一歩は踏み出せても、それは叶うことのないままファンランは没してしまった。

 そして俺は約束をしたのに具体的な手助けをしてやれなかった、それはとても歯痒いことだった。



「キャシーはどう生きたのか、聞いてもいいですか? 俺の捜索隊として、その後──」

「それを語るには、そうだな……歴史の続きも語っていこう」

「……はい、お願いします」

「戦帝はおよそ20年超の長きに渡って世界中の国や組織を戦乱に巻き込んだ。その死後も戦災復興の為に、半世紀以上の時間が割かれてしまった。文明も停滞どころか、後退した部分も否めん。

 "折れぬ鋼の"も寿命には勝てず、"大地の愛娘"はいつの間にか音沙汰がなくなっていた。幸いにも魔領からの大規模侵攻がなかったのは、ベイリル(おまえ)がレドを見出(みいだ)し懐柔していたおかげと言えよう」


 つまり人類にとって友好的なレドが魔領の北側を統治し、人領への不可侵を徹底してくれたからなのだろう。


「もっとも後の物語においては違う見方(・・・・)がされるのだが──そこはまだいい」

「……?」


「とにかく財団の歩みと世界の歴史にどう関わったかについては、"アレキサンドライト図書館"の禁書庫にある財団記録を、自身で閲覧するのが良かろう。

 王国王弟の大虐殺、堕ちた英傑こと"刃禍"のヴィクトル・イーズデイル、大陸東部大震災、共和国の崩壊と独立解放戦争、皇国で起きた竜教徒の乱、緑竜災害、北洋大瀑布、封印されし魔人の復活、赤竜山の噴火、西部連邦を襲った流行り病、数限りない」


 気になる文言が多すぎるが、とりあえず一つ一つを詳しく語って聞かせる気はサルヴァにはないようだった。



「ことさら問題だったのは、戦帝の死後──大陸中が世情不安となったことだ。各国はおろか各領地や組織が様々な思惑に駆られ、しがらみに囚われ、時に激発した」

「"暗黒時代"──」

「まあそう言えなくもなかったかも知れんな。もっともかつて大魔王が人領を席捲した時代に比べれば……所詮は人と人とのそれなのだろうが」


 人類にとって真の暗黒時代とは、大魔王率いる魔領軍による人領支配である。

 その影響による反動は、後々に魔族への差別、国によっては人権の無視という形で色濃く残っていた。


「なんにせよここから語るのは、半世紀の(のち)。"()英傑"目に数えられる者の物語だ」

「四英傑目……ということは、"折れぬ鋼の"と"大地の愛娘"ルルーテの名がいなくなってからということですか」


「あと"偏価交換の隣人"ラッド・エマナティオも死んでからだな」

「確か王国の……──それで、一体誰が?」


「それが物語にして歴史。そしてその者はおまえもよく知る人物(・・・・・・・・・・)だということだ、ベイリルよ」

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