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#394 最強の血族 II

「──似合わないな、その玉座」


 不意の訪問。

 アレクシス・レーヴェンタールはまるで実家──もっとも実際に生まれ育った場所ではあるが──のように、泰然と現れる。


 長女と長兄が処刑され、モーリッツも早まった継承戦に敗れて死んでしまった。

 今この状況で現れるということは、すなわち戦争となってもおかしくないにもかかわらず……アレクシスは単身で玉座まで乗り込んできたようだった。


「あぁあぁ奇遇だなァ、オレ様も同じことを思っていた。だから近々、そうだなぁ……戴冠式(たいかんしき)の前には新しくするつもりだよ」

「新しくすべきは玉座だけではないだろう」


「お言葉ですが、アレクシス殿下。ヴァルター陛下は先のモーリッツ殿下による謀反を速やかに(しず)め──」

「近衛騎士風情(ふぜい)が、(わきま)えよ」

「ッッ──」


 一睨(ひとにら)み。言葉と視線だけで、主君を守護するはずの近衛騎士を黙らせる。



(なるほど、これはあながち……)


 別に圧力を剥き出しにしたわけではなく。

 強いと知った上で認識を改むれば──ただただ内に秘められ、凝縮され、隠されていた実力の一端を垣間見れようというもの。

 するとアレクシスはヘレナに向けた目線を、俺の(ほう)へと流してくる。


成り上がり(・・・・・)か」

「その説はどうも、アレクシス殿下」

「近衛騎士ともども下がれ、ここはこれより血族の場だ」


「勝手に決めんじゃねえよ相変わらずのボケ野郎が、ここは今後もずっとオレ様の場だ」


 玉座から一足飛びに跳躍したヴァルターは、中央付近で着地してズンズンと距離を詰めてくる。



「アレクシス、降伏しにきたってんなら聞いてやらんこともないぜ? なぁオイ」

「宣戦布告だ。私は火事場に乗じて帝位を(かす)め取る、どこぞの野蛮なクズとは違うからな」

「なるほどねえ、ってことは東部総督府はやはりそっち側についたってわけか」


 あてつけがましく、皮肉を大いに込めたアレクシスであったが……存外にもヴァルターは冷静であった。


「仮にモーリッツであったなら……あるいは私も帝位を譲ったかも知れないが、ヴァルター貴様が上に立つのは許せん。私を(した)い、ついてきてくれる者たちの為にも、気は進まないが戦わせてもらう」

「言うねえ言うねえ、いちいち自分に言い訳を立てるなんてご立派なもんだ。都合いいように祭り上げられてることにも気付かないボンクラとはなァ?」


 互いに退()くことなく舌戦を繰り広げる二人に、蚊帳の外の俺は静かにこの場から帰ろうとするも──


「おいコラ、しれっと逃げようとしてんじゃねェよ。また(・・)帝王を見捨てるつもりか」

「また……? 成り上がり貴様、よもや──共謀して陛下を陥れたのか、だからココにいるのか」


「誤解が過ぎる。自分は戦帝を見捨てるどころか"折れぬ鋼の"を足止めにしましたし、三騎士の方々(かたがた)の身柄も丁重に陣へと運んだというのに」

「そうそう、オレ様の計画通りにな。モーガニトが聖騎士を倒したことで戦帝を深入りさせ、そこで"折れぬ鋼の"に戦帝を倒させたってわけだ」



 ヴァルターの弁舌に対し、俺は手の平をまっすぐ向けて制す。


「ちょっと待て待て、無理やり俺を巻き込もうとするのやめてもらえないか?」

「うっせえ、事実だろうが」

「そりゃそうだけど語弊が生まれる」


「──事実ではあるのか、それに随分と貴様らずいぶんと親しげのようだ」


『親しくはない』


 俺とヴァルターの声がハモり、アレクシスは眉をひそめる。

 そしてその瞳は完全に懐疑的となり、もはや何を言っても信じてもらえそうになかった。

 一応俺はアレクシスの側に付く選択肢について考えを巡らしてはみるものの……成り上がり呼ばわりするこの男の統治下では良い未来は見えそうにない。



「ふゥー……──まったく、さっきの契約は有効ってことでいいんだよな?」

「テメェもオレ様も、生きてりゃな(・・・・・・)。こうなったら後々(あとあと)になっちまうが、オレ様の魂に懸けて約束は守る」


 影を(まと)うヴァルターに、風を(まと)う俺。

 静かに剣に手を掛けるヘレナと、ただ自然体のアレクシス。


「ここで闘う気か? しょせんは血に飢えた野獣(ケダモノ)めが」

「ったりめぇだろ、ここでテメェを殺せばそれだけ余計な損耗はなくなる。国力を弱らせずに済むならそれに越したことはねェ」

「浅はかで、愚かな答えだ」

「それは最後に立ってた奴が決めるんだよ」


 その言葉を合図とするかのようにヘレナの抜刀と、ヴァルターの影剣と、ついでに俺の風太刀も交差する。


「闘争など実にくだらない、このような野蛮なことに熱を上げるなんてバカのすることだ。貴様や戦帝(ちちうえ)のような、な」


 背後からの白刃は左銅で止まり、脳天への影刃は頭頂で止まり、横合いからの風刃は右腕で止まっていた。

 その感触には覚えがあり、同時に俺は"天眼"を()らすと──全身の"無属魔術"によって(はば)まれているのが理解(わか)る。


「強いことで手に入れられたものに、どれほどの価値があるというのか」



 "無属魔術"──便宜的にそう呼ばれてはいるものの、実際に魔術としてカテゴライズするのには研究者の間で物議が絶えない。

 あくまで魔力を物理現象として発露するのが魔術であって、無属魔術はそのプロセスを介さず魔力そのものをエネルギーの力場として利用する為である。


(強制的に減衰させ塗り潰す"黒色の魔力"と違って、同等以上の火力があれば問題なく打ち倒せるものの……)


 理論的には放出エネルギーが足りてさえいれば、あらゆる物理攻撃を防ぐことができるし、逆にあらゆる物理防御を貫くことができる。

 王国"筆頭魔剣士"テオドールや、ケイ・ボルドの魔鋼剣がそうだったように、極限まで集中させた刃は()てぬモノなしと言えるほど。


(三代神王ディアマに至っては、魔法具"永劫魔剣"を使って大陸の一部を斬断までした……だが──)


 魔力をそのまま扱うゆえに消費対効果(コストパフォーマンス)が非常に悪く、実戦レベルで扱うのには並々ならぬ器が不可欠である。

 


(ちから)ある人間が、気取ってんじゃねェぜ!!」

「やられっぱなしなほど、この私はお人よしではないぞ愚弟が」


 変化した影刃が届くよりも速く、(はな)たれた魔力力場がヴァルターとヘレナを吹き飛ばす。

 本来であれば目には映らぬその無属魔術も、"天眼"によって魔力色覚を有する俺だけは退()きながら回避する。


「どうだ(はぶ)いてやったぞ、玉座を壊す手間をな」


 衝撃エネルギーによってぶっ飛ばされたヴァルターは、鋼鉄の玉座へと激突して大きくひしゃげさせながら何とか立ち上がっていた。


「ッづぐ……そいつぁ、余計な……お世話ってェもんだ──」


 一方でヘレナは壁へと豪快にめり込んで、そのまま意識を途絶させているようだった。



「……そのまま動くな、モーガニト。貴様も血気に溢れているようだが、これはどこまでいっても血族同士(われら)のいざこざに過ぎない」

「んなこと言われましても──ちょっと圧倒的が過ぎやしません?」


「それが()というものだ、生まれながらのな」

「そういったものを埋めてきたのもまた、俺の人生ってもんです」

「身の程知らずが。ならば主君とともに死ね、家臣らしくな」

「断じて主君などとは(あお)いでないし、家臣のつもりも毛頭ありませんが──」


 単なる同郷の(よしみ)──しかしそれは異世界において、他では絶対に見出せない関係性を有するに至る。


(えにし)ってのは、実に多種多様で……色彩豊かな形があるもんでしてね」


 喋りながらパンッと手を打ち鳴らした俺は、音圧振動を増幅させた"音空波"を(はな)つ。

 はたして内部にまで浸透して肉体を破壊する音の打撃も、そもそも魔力力場によって止められ不発に終わる。



(効かないか、さすがの出力だな。となれば"無属魔術の弱点"──)


「"持久戦"は意味ねェぞぉ! 円卓殺しィ!」


 壊れた玉座から遠隔でアレクシスを丸ごと球体状の影で(おお)ったヴァルターに、俺は素直に疑問符をぶつける。


「どういうことだ!」

「ヤツの魔力欠(がすけつ)を期待すんなってことだ。こっちが先にバテて終わるぞ!」

「まじかよ……」

「大マジだ。その気なら三日三晩だろうと戦い続けるだろうよ、だからこそ一人でも帝国を──」


 アレクシスを締め上げていた影が、魔力力場の拡散放出によって一瞬にして散り晴らされてしまう。


「無駄な足掻きをするな」

「クソッたれが、円卓殺しテメェちっと時間稼いどけや!」


 もはや玉座と呼べるかも怪しいシロモノにヴァルターはドカッと座り、集中し始める。


「それじゃ()りましょうか、アレクシス殿下」


 一方で俺は平然としているアレクシスへと、首をコキコキ鳴らしながら半身(はんみ)を開いて自然な構えを取って戦闘態勢へ移行するのだった。


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