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異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~  作者: さきばめ
第六部 権謀うずまく帝国動乱 1章「帝国と竜」
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#364 赤色の足跡


(──どーしてこうなった)


 俺は惨状(・・)を目の当たりにしながら、光陰矢のごとく回想しながら現状を再認識する。

 周囲には荒くれ崩れのチンピラと、さらには騒ぎを治めるべく駆けつけてきた警団までもが複数名──その場に倒れ伏している。


 それらの中央に立っている者こそ、褐色肌に赤い髪を燃やしている"人化"した状態の赤竜ことフラッド。


 帝都までは何の問題もなかった。帝都付近は飛行禁止区域となるので、途中から徒歩で向かうことになった。

 赤竜の姿は妖艶な美女だ、その内に眠る本性を知らなければ……飛んで炎熱()()るなんとやらも、致し方なく思える。


 要するに絡まれて一悶着あり、取り締まる為に出張ってきた自治組織までも巻き込んだ形。


(あぁ……流れに身を任せず、素直に火竜を借りるのがスマートで楽だったんだ──)


 そうすれば飛行禁止令も無視できた。防空隊には引き止められるだろうが、火竜に乗っていれば竜騎士特区から来たのは明らかだ。

 もちろん厄介者に絡まれるようなことなく、平穏無事に王城の手前までは行けたのだ。



「これ以上、手間を掛けさせるな」


 悠然と赤竜フラッドは歩き出し、俺は倒れている全員の安否を、強化感覚によって状態を拾って判断する。


(うん、さすがに殺すようなこともするわけもないな)


 誰一人として赤竜フラッドに触れることはなく、ただ近付いたその熱のみで茹で上げられてしまった。

 

 しかし少しでも離れていれば特に温度変化はないようであり、周囲の人々は平然と野次馬感覚で集まっている。

 とりあえず多くがその光景を見ていただろう、近付いたと思ったら勝手に倒れたということを。


「いやむしろこのまま、向こうから出て来させるのも一興か」

「勘弁してくださいよフラッドさん」


 言いながら俺は、遠巻きに視線を感じた"明けの双星"兄妹へと、ハンドサインで「ややこしくなるから来るな」とアピールする。

 


「まあいい、どのみちヴァナディスはここまで出ては来ないだろうからな」

「ならさっさと王城まで行きましょうでないと──って」


 言葉途中で囲むように集結しだしたのは、なんともはや黒騎士の連中であった。


「──またあなた(・・・・・)か、モーガニト伯」

「その声は……先日の黒騎士か。いや俺は何もしていないし、こいつらが勝手に倒れただけなのは、この場にいる皆さんに聞いてもらえればわかる」


 俺はブワッと両手を広げて大衆に意識を向けさせると、まばらにうんうんと(うなず)いたり同意する反応があった。


「言い分はわかりましたが、どちらにしてもここまでの騒ぎになってはお連れの方共々(かたともども)ご同行願います。……悪いようにはしませんので」


 聞く耳があるようでない黒騎士。俺がどう抗弁するか少し悩んでいる(あいだ)に、フラッドが先に口を開く。


退()け」

「そういうわけにはいきません」

「ならば同じ(てつ)を踏むがいい」



 無視して歩くフラッドを拘束しようとし、一瞬にして熱が上がった黒騎士は──はたして反射的に飛び退(すさ)っていた。


「抵抗! 三型!」


 黒騎士が叫ぶと他の囲んでいた黒騎士が5人ほど、距離を詰めて瞬時にフォーメーションが組まれる。

 練度が高いのは流れるような動きからも明らかであるが、しかしそれだけでどうにかなるような領域の存在ではない。


「敵意を向けるのならば、容赦はしない」


 フラッドは軽やかにステップを踏むと、足元から派手に炎が吹き上あがる。

 それを戦闘開始の合図に、黒騎士達はフラッドの死角を狙った連係アタックを見せる。

 しかし踊る炎に撫でられただけで、黒騎士らはいずれも自らの勢いをもって派手に地面へと激突していったのだった。



「盟約を(ないがし)ろにする、その意味──この調子で王城までわからせ(・・・・)ながら向かうのも悪くないやも知れぬな」

「ぐっ……」


 炎は美しく散り、フラッドが踏んだ地面には熱によって刻まれた足跡が残る。

 そしてリーダー格であった残る黒騎士は一人、(かろ)うじて意識は失わず……剣を地面に突きたて膝をついたまま無力さを噛み締めているようであった


「フラッドさん、精一杯の弁護はしますが結果がどうなっても関知できませんよ」

「好きにしろ。そもそもモーガニトよ、貴様はついてくる必要もないだろう」

「さすがにここまできて投げ出すのはちょっと……──」


 刹那、群集の中から濃密に膨れ上がる気配に俺は視線を向ける。



「なんか面白ェことやってんな? "円卓殺し"ィ──」

「……ヴァルター殿下」


 俺は再三顔を合わせるヴァルターに略式の礼をする。他方でフラッドはわずかに目を細めて観察しているようだった。


「──うっぐぅ!?」


 そして今にも倒れそうだった黒騎士は、隣に立った"ヴァルター・レーヴェンタール"に軽く小突かれると(ちから)なく地面へと倒れ、必死に立ち上がろうとする。


「ここはオレ様が預かる。オイ、黒いの、全員この場を撤収させろ。警団の連中にも話を通しとけ」


 ヴァルターは黒騎士の返答を待たず、そのままフラッドの領域ギリギリまで近付いてニヤリと笑みを浮かべる。


「黒騎士ってぇのは相変わらず愚直なことだ。まっそういうのも嫌いじゃねェが、力量差を無視して命令遵守なバカはオレ様の部下としちゃ()らんな」

「小僧、レーヴェンタールか」

「あぁ……ヴァルターだ。で、あんたは何者よ?」



 赤竜への(おそ)れは潜在的に理解しつつも、ヴァルターはあくまで調子は崩さない。

 民草の前で無様を晒すわけにもいかないだろうが……それにしても、相当な肝が据わっていた。


「似ても似つかぬと思ったが……少しくらいは面影もあるか」

「あん?」


 ヴァルターは無謀にもフラッドへと手を出すことは無さそうであったが、さすがに王族と争うことあっては面倒なので俺は割って入る。


「殿下、彼女のことについてですが今は──」

「あーもういい。やけに早いご帰還のようだが、円卓殺し(てめえ)の特務を思い出したからな。それに……踊る炎熱、"燃えた足跡"、気配(・・)も含めればオレ様にぁ自明だ」


 ヴァルターは七色竜が"人化の秘法"を使えることは知らないのだろうが、それでもすぐに察しえたようであった。


(いやそうか……黄竜とも相対しているわけだしな──)

 

 オラーフ・ノイエンドルフから聞いた、俺と同じワーム迷宮(ダンジョン)制覇者。

 その実力は当然ながら"伝家の宝刀"級だろう。連綿と継がれる帝王レーヴェンタール一族の血統に裏打ちされた、頭脳と肉体を持ち得る者。



「小僧、いやヴァルター。貴様は(われ)が誰かわかるというのか」

「あぁあぁわかったぜ、でもあいにくと国王陛下はもう()っている。交渉? がしたいんなら──」

「必要ない、ヴァナディスの元へ案内せよ」


 傲岸不遜な赤竜フラッドに対して、ヴァルターは肩をすくめて見せてから俺の(ほう)へと向く。



「"円卓殺し"──てめえはかなり使える奴のようだ。とりあえず随分と足が速いようだから、陛下に会って、直接、その口で、伝えとけ」

「……了解しました」


「──モーガニトよ、ひとまずはこれで清算とする」

「はい、フラッドさん。またいつか、お(うかが)いすることあればよろしくお願いします」


 流れとしてはここで俺は御役御免(おやくごめん)。あとはヴァルターが引き継いでくれるだろう。


 ヴァナディス宰相と知己を得る機会を失ったのは残念だが、同時に面倒事の一切を引き受けてくれたのはありがたくもある面も否めない。

 未だにヴァルター本人に関しては測りかねる部分が多いので、ここは下手に刺激することなく受け入れる。


「それと会談の詳細は追ってすぐに使いツバメを出すともな。何か不都合があったらオレ様の名を出しとけ。あーーー中継予定地の場所はわかってんよな?」

「ここ帝都より、西南西の"ガルファルファの大森林"へただちに向かいます」



 俺は一礼して(きびす)を返すと、事情を説明すべく遠め目から眺めているオズマとイーリスへと合図を送るのだった。

 



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