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#319 決戦 I


「──っっっぁぁあああアアアアアアアアッッ!!」


 俺の腕の中で、少女が咆哮()えた。先ほどまで死に(ひん)していた顔色は大いに(みなぎ)り、充実した生気を見せている。

 

「ふっっっざけッッッンなぁァァアアアあああああああああっ!! こんっのぉクソジジイ!!」


 自らの両足で立ったレド・プラマバはビシィッと人差し指を向け、将軍(ジェネラル)はヴァンパイアらしく牙を見せて笑う。


「クカカカカ! 小娘ェ、死にかけが随分と元気になったものだ」

「こんにゃろがぁ……もう許さないかんな!! 冥府でボクに詫び続けろ!!」


 俺は今にも飛び出そうとするレドの両肩をガッシリ掴んで止める。


(はや)るな(はや)るな」

「は・な・せ!! ベイリル!」

「つい今さっきまで死にそうだったのを助けてやったんだ、少しくらい言うことを聞け」

「うっ……くぅぅううう、わかった」


 いかに黒色を吸ってハイ(High)になっているレドと言えど、直近のことまでは忘れてはいないようで……反応に(きゅう)した様子を(あらわ)にする。



 俺はレドよりも一歩ほど前に進み出て、将軍(ジェネラル)と相対する。

 もはや口先の交渉など意味を()さないし、(ちから)をもって意思を貫かねばならぬと互いに理解している。


将軍(ジェネラル)──闘争(たたか)う前に、一つだけ聞いておきたいことがある」

「答えるとも限らんが、あまり冷や水を差してくれるなよ」

「アンタは……"脚本家(ドラマメイカー)"と組んだこともあると言っていたな。ならば"炎と血の惨劇"と呼ばれた、帝国の亜人特区の街が焼かれた事件に関わったか?」


 こうなってしまっては将軍(ジェネラル)を拷問することはできないし、生け捕りにする余裕なんてあるわけもない。

 だからこそ唯一(ただひと)ツだけでいい。黒色の精神汚染で不安定になっている今ならば、答えてくれると……。


 俺とフラウにとっての過去──故郷アイヘルのことを知っているのか、あるいは関わっているのかを聞いておきたかった。


 

「──あぁアレか、大規模な作戦だったから覚えているぞ。しかし一方的すぎて、ヒドくつまらない虐殺だった」


 実際の感触を思い出すかのように語られる、将軍(ジェネラル)本人によってあっさりと認められた事実──

 すなわち眼前の男こそ、脚本家(ドラマメイカー)のシナリオに基づいて炎と血で塗りたくった張本人の一人。

 俺の中で渦巻いていた魔力は、さらに加速度を増し、全身で脈打つように、轟然たる胎動(たいどう)を刻む。


「そしてそうかベイリル、貴様の目的にも得心したぞ。"復讐者"として結社を探し、装っていたわけか」

「……まぁ、そういうことでいいよ」

「ようやく一興(いっきょう)(わたし)を狙ってきた復讐者を返り討ちにするなど、百数十年振りかァ……」


 (ひた)るように思い出している将軍(ジェネラル)に対し、俺は遠く《《空の一点》》を見つめ──指向性を持たせて音圧を最大に叫ぶ。



『フッラァーーーーーウ!!』


 呼んだその名は、幼馴染であり愛する女──戦う理由と、戦えるだけの実力──将軍(ジェネラル)と戦争するに(あたい)する一人。


 10秒とせずに音もなく、倍増重力落下からの反重力で軽やかに地面に降り立つは……青みがかった銀髪に紫の瞳を持つ半人半吸血種(ダンピール)


「どったの、ベイリル。ってレドっちじゃん、やっほ~」

「おーっす、フラウ」

「うん、おひさー……なんでいるの?」

「なんだっていいさ、このジジイをぶっ飛ばしたら闘技祭決勝のリベンジね!」

「……えぇ?」


「旧交を温めるのも、細かい話も後だフラウ。そこの男が俺たちの(かたき)の一人だ」


 俺は状況を把握できていないフラウに端的に伝えると、幼馴染は少しだけ驚いてからスッと余計な雑念を捨て去って魔力を加速させていく。


 俺達と抜群の連係ができる"伝家の宝刀"級の実力を持ったキャシーも、本来ならば呼びたいところであったが……。

 彼女はワーム海賊ソディア・ナトゥールと共に私掠船(しりゃくせん)で航海に出ていた為に、今回の作戦には参加していないのが残念だった。



「また新たな小娘が現れたと思ったら……よもや復讐者が二人も揃うとはな」

「はてさて、これで四対一だが──卑怯とは、言うまいね」


「好きにするがいい。数に頼るも、不意を突くも、逃げおおせて(ちから)を蓄えようとも、最後に立っていればすなわち勝者」


 泰然(たいぜん)とした姿勢を崩さない将軍(ジェネラル)をよそに、俺はフラウにだけ聞こえる"耳打ち(ウィスパー)"を投げる。


『フラウ、奴は以前に話した"黒竜"に類似した魔力を持っている。魔術が効かない可能性を考慮して闘ってくれ』


 魔術を減衰させる──それは攻防両面においてであり、たとえフラウの重力魔術であろうと例外ではない。


 パチンッとウィンクをするのをフラウの了承と受け取り、俺も闘争のスイッチを完全に切り替える。

 エイルは精神を集中させているようで、レドは無手のままグッと腰を深く落とし、重心を後方の足へと置く。


 そして将軍(ジェネラル)は両腕を大きく広げ、どこからでも掛かってこいと言った(ふう)であった。



「ボクに合わせろ! フラウ!」

「しょうがないにゃあ~……いいよレドっち!」


 将軍(ジェネラル)に対し──レドは真正面から、フラウは背後から──挟み込む形で、それぞれ二人は振りかぶる。


「"極大魔王パンチ"!」

「──"反発勁(はんはっけい)"」


 レドのそれは、足の指先から拳まで……素養(パラメータ)を完璧に割り振ることで、加速と(ちから)の伝達を完全な流れとして昇華させた"究極の打撃"。

 フラウのそれは、発生させた斥力場(せきりょくば)を直接的に相手の内部へと浸透させる形で叩き込む掌底。


 即席連係でありながら──かつて闘技祭の決勝で闘った者同士──美事なまでに重ね合わせたレドとフラウの攻撃。

 しかして将軍(ジェネラル)はレドの一撃を右手で受け止めていて、フラウの一撃は背中で受け切っていた。



(あわ)せも加味したなら、聖騎士どもよりはやれそうだ。だが今の(わたし)には物足りないな──」


「まずはそのふざけた減らず口が()れるまでぶっ飛ばす!」

「……まじ、で? 魔術効かないんだ~」


 右拳を掴まれた状態から大振りの蹴りを見舞おうとしたレドは思い切り投げ飛ばされ、フラウは深追いせずに空中へと浮き上がって距離を取る。

 俺は一連の流れを"天眼"によって冷静に観察・分析し、(なか)ば予想していた結論を明確なものとしていた。


(まったくもって厄介極まりないな、"黒色の魔力"──)


 フラウの一撃は減衰し威力を()ぎ落とされていて、レドの一撃は軽く受け止められてしまうほどの力量差。

 それはやはり"黒竜"と同質のもので、魔術と魔力に付随した現象や効力をも強引に塗り潰すモノ。同時にもたらされる肉体強化は人智を超えている。


 これでは俺が使える魔術のほとんどがまずもって通用しないことも明白であった。



「貸しだよ、レドっち~」

「余計なお世話!」


 フラウは"行進曲(マーチ)"による斥力場で形成された巨大な見えざる左手で、投げ飛ばされたレドを受け止めていた。


 続けざまにフラウが右手を(すく)い上げるように振るうと──斥力場が呼応するように──大地が(えぐ)り取られる。

 それはさながらスプーンでゼリーを(すく)うかのようであり、将軍(ジェネラル)が立っていた地面と周囲を丸ごとを持ち上げたのだった。


「直接(さわ)んなきゃイケるよね~」


 さらにフラウは重力を天頂方向へと解放させると、メリメリと引き()がされるように周辺の地表がめくれ上がっていく。



「──面白い、このような魔術は見たことがない」


 言いながら振り上げた足を落とした将軍(ジェネラル)によって、浮遊する岩塊は一撃であっさりと足場ごと砕ける。

 反重力が直接作用させられない将軍(ジェネラル)は一人そのまま落ちていくが、その瞬間を(のが)さず、浮き上がる岩場から飛び出すレドの影。


「今度こそ一発(いっぱぁつ)!!」


 落ちゆく将軍(ジェネラル)の着地点を狙ったレドは防御する()を与えることなく、今度こそ顔面へと一撃を見舞った。


「レドっち、離れて!!」

「ボクごとやっていい!!」


 その言葉を受け取ったフラウは躊躇(ためら)いなく、振り上げていた両手の平を勢いよく地面へと向ける。

 と──天空から大地が墜ちてくる(・・・・・・・・)のであった。




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