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#311 魔神 III


 交わした握手──それは異世界においても古来より受け継がれてきた親愛の証明(あかし)


「なにとぞよろしくどうぞです、エイルさん」

「こちらこそ、ベイリルさん。せめて(わたくし)がココに幽閉されていた期間くらいは、身を()にして貢献することを約束いたしましょう」

「ははっ、そこまで気負って頂かなくても結構ですよ。しばらくはゆっくり休んでいただいて、それに息子さんの遺骨も埋葬しなくてはいけないでしょうし」


 俺はそう言うと羽織っていた巨大布を()いで、魔鋼床の上に敷く。

 元々は魔人の遺骸を資源として利用するつもりで用意していたモノだったが、それ以上に価値のある出会いとなった。


「そうですね、とりあえずは持っていくとしましょうか……後のことはおいおい考えるとします」


 エイルは遺骨を丁寧に重ねて包んだところで、床へと指を()わしながら……次いで手の平でグッと押し込む。



「ところでベイリルさん、よく(オリ)を壊すことができましたね」

「まぁ俺も本気でいかないと無理なくらい強固でしたが、これでも魔術戦に関しては自信がありますんで」


「それはすごい。この(オリ)はそれ自体が巨大な魔術具のようになっていまして、内からも外からも……あら? 変ですね」


 エイルは何かに気付いた様子で首をかしげる。


「なにかおかしなことでも?」

「結界の構成が変わっています……」

「触っているだけでわかるんですか?」

(わたくし)は元々魔法探究者ですし、それに魔術方陣を解析する時間はたっぷりとありましたから」


 かつて英傑が使い、現在では失伝している高度魔術方陣まで知識の内とは……つくづくもってとんでもない掘り出し物である。



「元々は三重だったのですが……今は一層だけのようです。経年で劣化したのか、あるいはベイリルさんが壊した所為(せい)でしょうかね」

「いえそれは……俺が伝え聞くところによると、とある人物が改築(・・)した所為(せい)かと思われます」

「はて……?」


「ご存知ないかと思いますが、この(オリ)の上には地下監獄があり、地上には巨大な要塞が建築されています」

「なんとまぁ、それはそれは……(わたくし)のあずかり知らぬところでそんなことに」

「その要塞を包んでいる結界がありまして、元々あった恐らくその三重? ……の結界の一部を拡張させたのではないかと」


 反響定位(エコロケーション)から得た全体図から類推すると、大要塞を(おお)う一枚、監獄を包む一枚、そしてこの空白の中心点を囲む一枚と三層構造になっている。

 結界を拡張していると(おぼ)しき大魔技師の高弟が設置した魔術具の位置も、複数個ほど把握しているのでほぼ間違いはないだろう。



「この(オリ)にもちょうど、中央天井の外壁部分に一つ取り付けられていまして──あの、もしかしてこれ先に破壊してたらどうなってましたかね」

「そうですね、結界の構成が変化して……この(オリ)は"元の三重構造"に戻っていたかも知れません」

「俺もさすがに魔鋼壁に加えて三重結界だったら、ぶち破るのは無理でしたね」

「それどころか縮小する結界によって、押し潰されていた可能性もあります」


 実にあっさりと発せられたエイルの一言に、俺は色々な可能性を考えて軽挙妄動をしないでおいて良かったと肝を冷やすしかなかった。

 最終手段としては考えてはいたものの、まさか救出すべき人物と大要塞まるごと大量虐殺心中など想像したくもない。


「しかしまぁまぁ、英傑グイドの魔術方陣をかってに改造ですか……時代は変わっていくものです」

「そうした発展に喜びを覚えられると、財団(うち)は最高の居場所になると思います」

「なるほど、であれば(わたくし)も楽しみですね」


 そうニッコリとようやく本来の彼女らしい笑みを浮かべてくれたことに、俺も冥利に尽きるというものだった。



「さしあたって今の(わたくし)では、自分を(かろ)うじて動かすのが精一杯なので……ベイリルさん」

「おまかせあれ。結界は自動修復されちゃっているみたいですが、もう何回かはぶち破れます」


「いえ、大層な魔術は必要ありませんよ。最初にベイリルさんが魔鋼壁の一部を破壊したことで、魔術方陣の構成を崩してくれましたから」

「……不勉強ですみません、もう少し詳しく」


「英傑グイドが構築したこの結界は、ほぼほぼ完全なモノでした。特に内部にいる魔力を利用するという部分と、箱に(フタ)をすることで(オリ)としての完成を見た。

 拡張させたというのも実に凄いことなのですが、分散させてしまったことで安定性を欠いているのです。生じた(ほころ)びをさらにいくつか削ってやれば、少ない労力で済みます」


「ほほぉ~、なるほど。結果的には脆弱性(ぜいじゃくせい)を生んでしまったと……なんにせよ、魔力消費が少なく済むなら大いに助かりますね」


 うんと(うなず)いたエイルは、俺が入ってきた魔鋼壁の穴から辿っていくように部屋内を歩いていく。



(ふむ……あれもこれもと惜しんで本末転倒になったら困るから、大結界の二次利用などは考えていなかったが──)


 もしかして魔術方陣の知識を持つエイルがいるのならば、大魔技師の高弟が作った結界拡張魔術具も破壊せずに済むのだろうか。


「エイルさん、つかぬことを(うかが)ってもよろしいでしょうか」

「はい、(わたくし)で答えられることであればなんなりと」

「結界を拡張させた(くだん)の魔術具も、可能ならば回収したいのですがどうにかなったりしますかね?」


 エイルはパチパチと二度ほどまばたきをしてから、真剣に考えた上で答えてくれる。


「一応直接見てみないと断言はできかねますが……少なくとも回収するのはあまりオススメしません」

「う~ん、そうですか」

「先ほども言いましたが、結界が消えるでなく収縮する恐れがありますから」

「残念です」



 しかし俺が意気消沈したところを見計らうように、エイルは救いの(げん)を差し伸べる。


「でも実際に観察したなら、解析くらいはできるかも知れません。ベイリルさんが考えるであろう用途としては、それで事足りるのでは?」

「っおぉ!? 足ります足ります! なんせ財団(うち)には優秀な技術者が多数いますので、再現させることも不可能じゃない」

「それに(わたくし)も個人的にすごく気になります。どういった技術を使って、この魔術方陣を改変するに至ったのか……」

「エイルさんよりも後の時代に出た知識や技術ですからね、それも歴史上で指折りです」


 今はまだ(・・・・)歴史上最高の称号を(ゆず)る、"大魔技師"と呼ばれた転生者の技術を継承した愛弟子の(さく)


「外に出れば当分、そうした興味は尽きず困ることはないのでしょうねぇ」

「"未知なる未来"を見る──既知となった叡智は、また新たな未知を生み出す」


 俺は今までに何度も味わってきた交渉における手応えを、愉悦として笑みに浮かべ両腕を広げた。


「まさしくシップスクラーク財団と自由な魔導科学(フリーマギエンス)の本分というものです」




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