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#287 深層談話


「──で、どうよ?」


 俺は記憶の海の中にワイヤーフレーム状に構築された"大監獄"にて、隣に浮かぶ"読心の魔導師"と話しかける。


「どうって、なにが?」


 すっとぼけた様子でのんきに首を(かし)げているシールフ・アルグロスに、俺は一拍置いてからわざわざ言葉にする。


「いやいやだから、俺の記憶を読んだんだからわかっているだろ。"今回の企画"のこと」

「あーそっちね」

「まだ草案段階だが、俺なりに色々考えた案だ」

「うん、いいんじゃない? 多分なんとかなると思うよ」

「雑だなあ……」

「だってぇ私はそういうの専門じゃないし、だいたい"文明回華"そのものがはじめてことで、あれやこれやの正解なんてわからんてば」


 シールフの(げん)もごもっともではある。

 ただし俺の頭の中で(えが)かれている絵図は、単なるカドマイア脱獄計画だけに留まらない。


 あくまでアーティナ家はキッカケに過ぎず、もっと壮大な企画の内となる以上は判断を(あお)ぎたいところであった。



「それに私の意見って言ってもさ、ベイリルは後押しが欲しいだけでしょ?」

「あぁまぁ、それもあったが……ただなんか俺にも気付かない、致命的な見落としとかがあればと」

「ベイリルって割と周到(しゅうとう)なとこあるし、肝心(かなめ)あなたが失敗しなきゃ(・・・・・・・・・・)なんとかなるんじゃない?」


 気軽に言ってくれるが、インメル領会戦以来の大規模作戦になる。

 サイジック領都建設もあるので直接的な戦力は導入しないが、構築した情報網はフルに使うほどの規模。


「ベイリルが集めた情報とあなたの企画、十分実行圏内だしおもしろい(・・・・・)と思う……不確定要素(イレギュラー)は怖いけど」

「……そうだな。囚人に聖騎士、"機器トラブル"も考えられる」


 他のあれこれもきちんと狙い通りに動いてくれないと、本来達成すべき目標を土壇場になって大幅に縮小しなくてはならなくなる。

 もちろん最大の目的はカドマイア救出にあるのだが……"黄昏の姫巫女"まわりも含めて、やるからにはこれ以上ない成果を挙げたいところ。



「ちなみにわたしは戦う気はないからねぇ~」

「わかっているよ。助言は求めても、助力を求めはしないさ」


(オーラム殿(どの)は捕まらないし、カプランさんも多忙だ──俺たちだけで遂行せねば)


 いつまでも"おんぶにだっこ"では、より多角的・多面的に展開する段になってまともに動けないなんてことになりかねない。

 これは俺にとってもいい機会であり、他の仲間たちにとっても"文明回華"の大いなる一歩となるだろう。


「しっかしベイリルは、自分の()を切るのが好きだよねえ」

「そりゃあ今回のことは俺主導で、しかも俺が最適格なわけで。それに体を張ることが、今の俺の最大の持ち味ってなもんだ」


 いい加減に刺激(・・)が欲しかった、というのも少なからずな本音だった。

 子供らの育成やら研究開発の協力だのをしているのも、決して悪いわけではない。


 しかし迷宮(ダンジョン)逆走やインメル領会戦、白竜イシュトと共に黒竜を相手に"大地の愛娘"も呼び込んだ一件からも大分()ち……。

 そろそろ(たくわ)えた自身の腕試しをし、存分に暴れたいという気持ちも強かった。


「まっ心配しなさんな、たとえ失敗しても財団は小揺(こゆ)るぎもしないから」

「おう、やぁってやるぜ」

「そうだそうだ好きにやっちゃえ、ベイリル(あなた)が設立させた財団だしね」

「俺とオーラム殿(どの)で創ったとはいえ、そういう傲慢(ごうまん)さは流石(さすが)(はばか)られるっての……もう俺たちだけのモノじゃない」


 既に何万人もの者達が財団に関わっている。枝葉まで含めれば何十万という規模にまでなっている。



「そんでだ、もう一つ聞きたいことがある」

「アレ、かな」


 するとシールフは脳内構築されている大監獄の三次元見取り図の、地上層・予備階層・一般囚人獄・特別囚人獄のさらに下へと続く……5番目の"最下層"を指差した。


「俺なりに情報は可能な限り収集したが、あの"謎の空間"だけはついぞ不明のままだ」


 大監獄の一部ではあるが、完全に隔絶されたスペース。

 それでいて大要塞を(おお)う結界の中心点ともいえるような場所にある。


「長生きなシールフなら知っているだろうと思ってな、学園に引きこもる前だし」

「いやいやわたしも知らないよ。当時は"使いツバメ"もなかったし、他国の情報なんて早々わからんて」

「ぬぅ……」

「でもいくつかの記憶を組み合わせて見えてくることはあったよ」

「なんだよ、もったいつけて」


「あくまで不確定な伝聞レベルってことに留意すべし」

「オーケィ、それでも全然構わんから頼む」



 俺とシールフは宙に浮いたまま下降していき、拡大された(くだん)の隔絶部屋を目の前にする。


「んっとねぇ~え、大監獄ができるよりずっと前にかつて皇国に魔人が現れたそうな──」

「ふむふむ、それで?」

「魔人はそれはもう恐ろしいほどに強く、時の"英傑"を含めて当時の誰にも討伐することができなかった」


 魔獣メキリヴナと同質──魔人とは魔力暴走の成れの果てに、人型を保ったまま精神を蝕まれたさらなる果て。

 人の領域を超越した歴代の英傑と同じく、歴史の中で生まれては消えていく怪物である。


「でもねぇ、殺す事はできなくても封印することはできたんだ」

「なるほど……つまりこの隔絶空間は、その魔人を閉じ込めた時にできたモノってことか」

「そーゆーこと。なんかこう、とにかく上手いこと罠に()めて無力化することには成功したっぽい」

「であれば──さすがに死んでいるよな」

「そりゃね。物理的に殺すことはできなくても、餓死に追い込めば終わりだし」



(そんなら魔人の遺骸が残っている可能性が高い、か……資源として有効利用したいがはてさて)


「残ってるとしても骨くらいじゃない?」


 記憶の共有・再現空間において、俺の筒抜けな心中に対してシールフが答える。


「んでね~この結界を、今の大監獄と大要塞の形にする際に……"大魔技師の高弟"が関わっているっぽい」

「実に納得できる話だ、ココとアッチにも魔術具っぽい反響があった」


 俺は順繰りに指を差すと、当然ながら俺の記憶を読んでいるシールフも承知の上な(うなず)きを見せた。

 

「うんうん。多分だけど、元々あった封印結界を拡張する形をとったんだろうね」

「……? それってつまり、魔力を奪い形成する結界を新たに作ったとかじゃないのか」

「むしろ元の結界を利用する構成にしないと魔人を抑え込めなかったんじゃない? その封印した英傑ってのが、"グイド"という名の"魔術方陣"の使い手だったし」


 事実だとすればとんでもない話である。

 今のドデカい大要塞をすっぽりと(おお)えるほどのポテンシャルを持つ結界──

 それが元々は魔人一人に対して構築されたモノだったとすれば……魔人も半端ないし、英傑グイドも規格外である。



「魔術方陣か……」


 たとえば物体に(きざ)むことで、多様な効果を発揮する"魔術具"として製作したり。

 リン・フォルスやロスタンが体に(きざ)んだ術印を用いて、ノータイムで魔術を発動させたり。


 そういった魔術式や魔術刻印などとも呼ばれるモノと、源流は同じ──魔術そのものを文字や紋様といった形で扱う技術。

 リーティアも流動魔術合金(アマルゲル)の形を変えつつ、内部の魔術紋様をも組み替えることで(こと)なる効果を発動させようと研究(なか)ばである。


「私が直接見たわけじゃないけど、映像記憶あるから見せたげる」


 そう言うやいなや、シールフは誰かの目を(とお)して見られたであろう……鮮烈な英傑の姿を幻影として映し出した。 



「っべぇよ……まじヤバい」

「ん~~~こりゃわたしでも真似できない」


 その男グイドは、歩くたびに地面に魔術方陣を(えが)き出し、魔物の群れを相手に大立ち回りをしていた。

 幾何学的な模様が上書きされるように幾重にも張り巡らされ、その内側に存在するものは例外なく滅却されていくサマ。


置き罠(トラップ)としても恐ろしいほどの精度と威力、やっぱ"英傑"って相手にするもんじゃねぇな」

「そりゃそうよ。歴代の英傑もそりゃピンキリだけど、それでも呼ばれるには呼ばれるだけの理由があるもの。こいつは関わっちゃマズいタイプのだね」


 グイドはさらに己の肉体にも方陣を描き加え、それを戦闘中に描き変えながら身体能力を多様にブーストさせている。


「あーっと──ここまでか」


 魔物を殲滅し尽くした魔術方陣の英傑グイドは、次なる戦場へと向かう様子だった。

 この光景を見ていた者に、それを追えるほどの実力はなかったようで……残るはただ鏖殺(おうさつ)の地平が広がるのみ。



英傑(かれ)の映像はこれしかないね。なんにせよあのレベルの魔術方陣は"失伝魔術(ロスト・マジック)"って言っていいよ」


 そんな化け物でも殺しきれなかったという魔人との決戦も、是非とも見てみたいくらいだったが……ない記憶を再生することはシールフとて当然不可能である。


あの男(グイド)だけの一世一代の魔術ってことか、惜しいな。構造解析でもできないもんか」

「解析の可否はともかくとして、その為にはまず大要塞を奪い取らないとね~え?」


「……そりゃさすがに無理だ、今はまだな」


 そう言って俺はシールフと共に肩をすくめて笑ってみせるのだった。


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