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#264 雷音 III


「──というわけで、初夜です」

「っあらためて言うなぁ……」


 キャシーは消え入りそうな声で抗議してくる。

 そこは財団支部ではなく──壁街にある宿屋の一室。星明かりが差し込むベッドの上で、俺はキャシーと向き合っていた。


「な……なぁベイリル、オマエほんとにアタシとしたいのか……?」

「する」


 疑問に対して俺は行動を断言する。


「うぅ……」

「しおらしいなぁ、昼間のイキりっぷりが嘘みたいだ」

「うっせ……だって、その──」

「怖いか? でも大丈夫だ、最初はそんなもんだ」

「……ホントか?」



 流れ的について出た言葉だったが、俺は思い返して前言を即時撤回する。


「すまん、嘘だ。フラウもハルミアさんも、どちらかと言うと向こうから……ノリノリだった」

「ほら見ろ!」

「なぁに、完全リードするのは俺も初めてってことでココは一つ」


 ゆっくりと肩に両手を掛けると、ビクっと体が大げさに震えるのがわかる。

 そうでなくともハーフエルフの感覚器官が、キャシーの緊張を余すことなくキャッチしてしまうのだった。



「声は我慢しなくていい、遮音してあるからな」


 俺はゆっくりと顔を寄せていき、接近距離でギュッと目をつぶるキャシーと唇を交わたところで──違和感を覚える。


「ん、反応が薄いな……もしかしてはじめてじゃ、ない!?」

「いや……それはその……っっ」


 顔が真っ赤なまま、羞恥に返答を困らせたキャシーに俺は前のめりにベッドへと押し倒す。


「なっ──!? 一体どこの誰とだ、いつの話だ!!」

「ぁ……うっ──"フラウ"だよ」

「……うん? なんだって?」


 俺は空耳かと思って反射的に聞き返してしまった。



「だーかーら! けっこう前なんだが、あのバカ──し……下はベイリル(オマエ)のだから、上の"はじめて"はもらうとか下世話なこと抜かして」

「なるほど、それはさすがに……」


 一体全体どういうシチュエーションでそうなったのかはわからない。そこらへんはあとで詳しく聞くとして。


「だろぉ!? ったくあの──」

「それじゃあ上書きしておこう」

「んっむぅ!?」


 そう言って俺はもう一度、口唇を重ねた上でさらに舌をねじ込んだ。

 キャシーから漏れる声と、唾液を交換する音だけがしばらく響き続ける。


 俺はキャシーの心音・体温やあらゆる反応を余すことなく見逃さず、的確に責め立てていく。

 ハーフエルフとしての幼少期から積み上げた研鑽と──フラウで鍛え、ハルミアに鍛えられた妙技である。


 そうしてゆっくりと体にも段階的に()れ、キャシーの服を()がしていき、やがて彼女を導いていった。

 最初の準備を終えたところで、キャシーは潤んだ瞳を()らしながら小さい声で絞り出す。



「はぁ……はァ……くっそぉ、(こっち)でも負けたくない──」

「安心しろ、負けなんてない。お互いに勝つだけさ」


 俺はキャシーを安心させるように、獅子耳へと(ささや)きかける。


「……っ、わかった」


 我ながら何を言っているのか、ちょっと頭の悪い感じではあったものの……さしあたりキャシーは納得した様子。

 俺はキャシーの背に手を回すと、ゆっくりと抱き起こして見つめ合う形となる。 


「いよいよだ、覚悟はいいな?」

「うっ、く……おう、大丈夫だ」

「ところでキャシー、子供は欲しいか?」

「……はぁァア!?」


 キャシーはそれまでのしおらしさも吹き飛んで、急激に現実へと引っ張られた様子だった。



「種族的な問題で、フラウやハルミアさんの時はそういうのをあまり気にせずしているわけでだな」

「アタシは獣人種だから……アイツらよりも可能性が高いって?」

「そういうこと。二人はもしデキちゃってもいいらしいんだが」


 現代地球にあったような避妊具はないし、避妊魔術といった気の利いた(たぐい)のものもこっちの世界にはない。


「一応慣習・統計的にはそれなりに有効っぽい、塗布薬や果実も用意してあるけどどうする?」

「準備いいな!?」


 それでも可能性はどうしたって0(ゼロ)ではない以上、そういった意味での覚悟も必要である。


「もし子供(ガキ)ができたら動けなくなるし、産まれたら育てなくちゃいけない……か」

「やめとくか? それならそれで楽しむ方法はイロイロある」

「いや、ここまできたらやる。アタシだって……その、興味がないわけじゃないし──」

「わかった、一応外には出すけども後悔しないな?」

「まっそん時はそん時……だろ」


 実にあっけらかんとした、ある意味でキャシーらしい答えであったが……すぐに付け加える。


「いちお帯電はするけどな」

「さすがに最中は勘弁してくれよ……」


 俺は呆れたような半眼でそう訴えるしかなかったのだった。





「キャシー攻略完了──っと」


 天井を(あお)ぎながらそう言うと、俺の右腕を(マクラ)にしていたキャシーが起き上がる。


「うっせ、見てろよ……今度はベイリルをヒーヒー言わせてやる」

「ってことは勝負はまだまだ続行だな」


 するとキャシーは下半身のほうへと顔を寄せ、また臨戦態勢に戻した俺のそれに釘付けになる。


「っおぉう……、あらためて見ると──こ……コレがアタシん中に入ってたんか……」

「やり方はわかるのか?」

「知識としては……いちお。ハルミアに教わった」


 そう言うとキャシーはゆっくりと口に含んで、ころころと舌を使い始める。



「らしくないな、教わったってことは負けることを見越していたのか?」

「ん……んく……ぷはぁ──そうじゃねぇ。ただ以前に、ハルミアが正しい知識を身につけとけって」

「ハルミアさん──感謝します」


 俺は心の中で平身低頭、底の底からお礼を述べたい気分だった。

 あのキャシーが俺のをしてくれるというだけで、なにやらゾクゾクと背中に電流が走る思い。

 屈服させた感……ともまた違い、献身的に尽くしてくれる様子がたまらなく愛おしく感じる。


「ところでキャシー」

「っふ……なんだ?」

「魔力感覚は理解(わか)ったか?」

「っかんねぇよ。やっぱエルフやヴァンパイアじゃないとダメなんかな」

「なら何回か繰り返し重ねていけばわかるかも、な?」

「バーカ、見え()いたこと言いやがって」


 口ではそう言いながら軽く笑って流しつつ、キャシーは行為を再開した。

 俺はキャシーの猫っ毛を()きながら、時折その獅子耳をふにふにと触る。

 そのたびにキャシーの体が一瞬だけビクつくが、彼女は負けじと勢いをあげていく。


 やがて俺はキャシーの口内を満たし、本日二度目の余韻に(ひた)った。



「うっ……んぇ、まっず──さすがに飲むのはムリだわ」

「蛋白源だから栄養になるぞ」

「それでもヤだ。そういうのはフラウとハルミアに頼め」


 そう言ってキャシーは吐き出したものを粗布に包んで床へと放り捨てる。


「てもま……ベイリルを支配してる感があって悪くなかったな」

「俺もそっくりそのまま返そうかな」

「その気になれば噛み千切れるし」

「……怖いこと言うなって」


 体も心も(さら)け出す、ある意味で睡眠時よりも無防備な状態である。

 だからこそ得られる充足感というものは、他の何物にも代え難い。



「とりあえずはじめての夜は満足してもらえたかな」

「いちお、な」

「男冥利に尽きるよ」

「昼間に負けたことだけは(しゃく)だけど」

「闘争はまたいずれ、な。こっちの(ほう)は近い内にまた誘ってもいいか?」

「アタシの気が向いたらな」


 こちらと視線を合わそうとはせず、ただ恥ずかしそうにそっぽを向いている様子に俺は薄く笑みを浮かべる。



「つうかハルミアはともかく、フラウがあんだけ(さか)ってた理由はまぁ少しだけわかった」

「フラウは体もだが……心のふれあいも求めているからな」


 ついでに魔力加速の修練にもなるので、一石三鳥といったものである。

 ともするとキャシーはなにやらモジモジしながらも、意を決したように口を開く。


「あー……あのよ、そのあれだ。中だと満たされるってのは本当なんか?」

「男の俺にはわからんけど──フラウは毎回そうだな。ハルミアさんは日による。やっぱり意識的にも違うんだろうが」

「そっか……多分、ハルミアから習った周期からするとアタシも今日は大丈夫なはず──なんだけど」

「そんなことも教わってたのか、もっと早く言えよ」

「アホッ!! それでも万が一はあるって聞いてんぞ」

「そうだけどな、でも一度くらい経験しておくのもいい。何事も経験ってのは今夜よくわかっただろ」


 俺は歩み寄ってきてくれたことを無下にしないよう、とてもとてもそれはもう真っ直ぐな面持ちでそう告げる。


「ベイリル……ほんとはオマエがしたいだけじゃないのか?」

「そうとも言う」


 キャシーが拒否を示す前に、俺はグイッと彼女の体を引き込み布団を被りなおすのだった──



即落ち

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