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異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~  作者: さきばめ
第四部 未来を変えゆく偉人賢人 1章「故郷と再会」
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#209 新たなる道のしるべ II


「さて……とりあえず俺も聞いた話を整理する時間が必要だし、落ち着いたら使いツバメを出して──」


 するとクロアーネが割り込むように、淡々と釘を刺すように言葉を紡ぐ。


「あいにくとそんな暇はありません、特秘事項についてすぐにでも動いてもらいます」

「うん? どういうことだ?」

「アーセンの動きを捕捉できたのはたまたまです。すぐにでも場所を移す可能性が非常に高い。

 こうして私が直接来たのも、裏周りを含めた案内が私にしかできないからに他なりません」


 クロアーネは「でなければわざわざ来ない」とでも言いたげな表情を浮かべていた。


「そうか、じゃあすぐにでも出発したほうがいいか」

「使いツバメは道中からでいいでしょう。テューレも大分モノになっていますし、情報部に任せておけばいい」



 専門部署があるのだから、その道の人間に一任するのがやはり具合が良い。

 優先的な情報は把握してはいるつもりだが、統括・管理するにはどうしたって人手も()り用だ。


「……そうだな、どのみち重大案件だからカプランさんを(とお)る。不備があれば全て整形してくれるだろう」


 なんでもかんでもカプランに任せっきりで本当に申し訳ない気持ちになる。

 多少なりと後進も育ってきているし、在野(ざいや)から有能な人材を引き抜いてはいるものの……。

 同時進行で財団の規模が拡張され続けているので、実際的な負担はあまり変わっていないのだった。



「英気は充分に(やしな)ったし、早速行くとするか」


 幾分か(なま)った気持ちを入れ替えようとしたところで、フラウが思いつきとは違う声音で口を開く。


「ごめん、ベイリル。あーしは残っていいかな」

「んっ? 一緒に行かないのか?」


 再会してからいつも一緒だったし、ずっと一緒だろうと思っていた。

 しかしここにきてフラウは、別れて行動することを提案してきたのだった。


「う~ん……シールフ元せんせに記憶を読んでもらおっかなって」



「それはつまり、向き合う(・・・・)のか……フラウ」

「そだねー、せっかくだからそのアンブラティ結社ってのもちょっち調べたいし」


 フラウにとって両親を(うしな)ったあの惨劇の日は、当然ながらトラウマとなっている。

 脚本家(ドラマメイカー)以外にも、アンブラティ結社に潜む巨大な悪意があるのならば……。

 それらも一網打尽に潰したくなる心情も、納得できるというものだった。


「仇討ち、か」

「ま~ま~そんなとこも……あるっちゃあるかな。ベイリルと違ってやっぱり忘れらんないや」

「いやいや俺も忘れたわけじゃないぞ」

「ほんとぉ~?」

「ただ他に優先すべきことがあるだけだ」


 それに俺の母は殺されたわけではなく、失踪しているだけで惨禍(さんか)に巻き込まれたわけではない。

 フラウの父と母には世話になったが……それはフラウに(むく)いることで、恩を返すことにしている。



「まぁ実際的に調べるのは、財団の情報部に任せておけよ」

(もち)餅屋(もちや)ってやつ?」

「そういうことだ、素人が手を出しても逆撃を喰らいかねないしな」


 こちらから調べて突き止めることはあっても、あちらから調べられて先手を打たれることは()けたい。

 それこそ今回アーセンを見つけ出したのと同様、常に相手より優位に立つことこそ肝要(かんよう)なのである。


「もしも記憶の中に手掛かりがあったとしても先走るなよ」

「それはベイリルには言われたくないかな~?」

「ぬっ……むぅ、言い返せない」


 俺自身、思い当たることはいくつもあったのでぐうの()も出ない。


「しかしまぁなんだ。正直心配だな、少しだけ待てないか?」


 フラウは昔も今も家族同然である、"誓約"をしていないだけでもはや俺の嫁と言って過言ではない。

 そんな幼馴染を置いてアーセンを追うというのも、いささか二の足を踏ませてしまう。



「んじゃっアタシが付き添ってやんよ」


 すると軽い調子でキャシーがそう口にした。フラウは瞳をぱちくりした後に、にまーっと笑う。


「えーいいの~? 」

「今さら遠慮がいる関係かっての。どうせアタシは他にやることないし」

「キャシーにあんま弱いトコ見せたくないんだけどな~」

「言ってろ」


 俺は首周りで丸まっている灰竜をつっつくと、アッシュは頭を上げて「クゥゥ……」と一声だけ鳴いた。


「ドラゴンセラピーだ、小動物に癒してもらえ」


 指でクイクイッとフラウの(ほう)を示すと、翼を広げたアッシュは肩から肩へと飛び移った。



「……ハルミアさんも、フラウの心理療法(メンタルケア)をお願いできます?」

「私は精神医療(そっち)は専門外なんですけど、フラウちゃんの為ならいいですよ」

「やった~、ハルっちも一緒だー」

「おいこらアタシと反応違うじゃねえか」

「そりゃぁねぇ~え?」


 フラウとキャシーの距離感に、俺はハルミアと目を交わし笑い合う。

 

「それに……私も少し結社とやら調べたいです」

「──その心は?」

「もしも結社とやらが魔薬の流通に関与しているのであれば、看過することはできかねます」

「なるほど、確かに」


 医療術士としてのハルミアの立場からすれば、決して許せることでないことは明白。


(あるいは戦災復興すらも、今後邪魔されるという可能性も考えるなら──)


 そういった見通しも含めた上で、態勢を整えていく必要があろう。



「それに言われてみて気付いたんです。もしもなんらかのの組織の手によって実験(・・)をしていたのなら、と──

 色々と中途半端だった効果はもとより、不明瞭な流通経路と中毒者の拡大の仕方にも不可解な点がありました。

 それこそ治験データを取るように、魔薬の効果を試していたとすれば……()に落ちる部分があるんです」


蔓延(まんえん)それ自体も、実のところコントロールされていたというわけですか」


 そうなればインメル領はまさしく実験場であった。

 同時に侵攻してきた王国軍や、援軍に来る帝国軍すら対象であった可能性もありえる。

 アンブラティ結社とやらが、実際的にどれほどの絵図を(えが)いていたのかはわからない。


 そういった背景を知る為にも、より突っ込んだ調査が必要なことなのは大いに理解できる。

 一つの事情を念頭に置くことで、新たに見えてくるものもきっとあるはずなのだ。



「伝染病もあるいは……大陸を移動する騎獣民族を保有者(キャリア)にした可能性という観点からも探ることができます。

 機会が機会です。今回の一件が完全終息を迎えるのはまだ先でも、早めに調べておきたい部分がいくつもありますから」


 ハルミアの決意は強く、そうなると同時に頑固であることもよくよく知っている。

 であればそれを邪魔する理由は特になく、(こころよ)く送り出すことにする。


「わかりました、色々とよろしくです。さしあたって使いツバメは本部を(とお)しつつ、相互連絡は欠かさず」

「そうですねぇ、何か緊急案件があればベイリルくんを呼び出しちゃいます」

「最速で駆けつけるんで遠慮なく」


 こういう時の為の機動力──というわけでもないが、己の能力はフル活用して(しか)るべきである。



「さて、となるとだ。クロアーネと二人旅になるわけね」

「はぁ……」


 シンプルにこれみよがしな溜息をされながらも、俺は一切気にすることなく風に流す。

 彼女としてもあくまでポーズとしての態度であって、心底から嫌がってるわけじゃないのはわかっていた。

 ただ俺とクロアーネの関係性が、そういう形として収まっているがゆえのもの。


「ふゥー……。それじゃフラウ、ハルミアさん、キャシー、アッシュも──また後で」

「は? ちょっ──!?」


 俺は"六重(むつえ)風皮膜"を(まと)うと、クロアーネを抱き寄せて天空へと勢いよく舞い上がったのだった。


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