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異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~  作者: さきばめ
第四部 未来を変えゆく偉人賢人 1章「故郷と再会」
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#208 新たなる道のしるべ I


 俺が"遮音風壁"を()いたところで、フラウがふわりと身軽に距離を詰めてくる。


「アイトエルさんは~?」

「もう帰ったよ、(いそが)しい身だろうしな──って」


 気付けば3人と1匹に混じってさらに、犬耳がフードより少しはみ出ている女性がそこにいた。


「"クロアーネ"、いつの間に」

「特秘連絡事項がありましたので……私が直接来ました」

「あれ? まだ情報部の仕事やっているのか」

「色々と落ち着くまで、です。それもこの仕事で終わりでしょう」

「そうか、まぁ会えて嬉しいよ」



「うん? う~ん~?」


 反射的に発してしまった俺の返しに、フラウが耳聡(みみざと)く食いついてくる。


「前に興味ないと言ってはなかったかね~? ねぇベイリルぅ~?」

「まぁ胃袋を掴まれてしまっては、(あらが)うことは難しい」

(はなは)だ心外です」


 素直に認めるもクロアーネの反応は否定的であり、俺は笑いかけながらさらに付け加える。


「それ以外にも魅力はいくらでも()げられるぞ」

「不要です」


 スッパリと断じたクロアーネに、俺は肩をすくめてフラウへと目配せする。

 終始こんな調子であることを察したフラウは、うんうんと納得した様子。

 ハルミアは微笑ましくこちらを見ていて、キャシーはやや呆れた表情を見せていた。



「それでクロアーネ、特秘事項ってのは?」

「……"アーセン"の所在が判明しました」


 クロアーネは一瞬言うべきか躊躇(ためら)った様子を見せたが、この場にいるのは全員見知った面子(めんつ)

 またその内容も財団に直接関わるような重大なものでもなかった為、普通に内容を通達する。


「ようやく見つかったか」

「アーセンって誰だっけ? なぁ~んか聞いた覚えはあるんだけどなー」

「個人的なやり残しだ。"イアモン宗道団(しゅうどうだん)"時代の──ほとんど会ったことのない兄弟子みたいなもんか」


 奴隷として買われ、馬車に揺られ、刷り込み洗脳の為に石牢に閉じ込められたあの日。

 そこから解放時に教師セイマールと共にいた元教え子。俺達より前の、最初の生徒だった青年"アーセン"。


 以後まったく接触を持たないまま育ってしまったので、顔はそこまで覚えていなかったのだが……。

 シールフの読心の魔導による記憶走査のおかげで思い出せたので、兼ねてより調査してもらっていた案件の1つ。


 故郷の土地やアイトエルに続いて、昔からの(えん)が俺に追いついてくるようであった。



(なんにしても忘れた頃に"宗道団(しゅうどうだん)を潰した復讐"、なーんて……いきなり襲い掛かられでもしたら面倒だからな)


 他の有象無象の教徒であれば、俺達が宗道団(しゅうどうだん)をぶっ壊した犯人であることにはまず辿り着けない。

 ゲイル・オーラムが防波堤となって、そこで情報が一度途絶えるようになっている。

 また道員(どういん)名簿(リスト)にあったほとんどの構成員は、既に崩壊した宗道団(しゅうどうだん)本部へ来たところを捕縛している。


 しかしアーセンだけは宗道団(しゅうどうだん)本部に近付くこともなく、彼が"オルセニク"という偽名で潜入していた任務先も引き払われていた。


宗道団(しゅうどうだん)の異変にいち早く気付き、身を隠すだけの能力があったってことだ)


 アーセンの優秀さはセイマールが授業の合間に、まるで自分の自慢話のように語っていたのをよく覚えている。

 能力も高かったようであり、セイマールからもかなり信を置かれていた男である。


 アーセンだけは明確にベイリル(おれ)とジェーンとヘリオとリーティアの存在と……あるいは価値をも認知している。

 そうなれば宗道団(しゅうどうだん)を経由しないで、直接的に調べられるという可能性もないとは言えない。



後々(のちのち)の火種は徹底的に潰しておくに限る──が、とりあえず早急(さっきゅう)に話しておきたいことがある」

「そこに(ころ)がっている死体のことですか?」


 スッと一瞥(いちべつ)だけしたクロアーネは、興味は示さず視線を戻してさらに続ける。


あの(・・)"竜越貴人"が持ってきたそうですが」

「あぁ既に聞いてたか、ちなみにそいつは脚本家(ドラマメイカー)というらしい」


「つーかどーすんだよ死体(コレ)?」


 言いながらキャシーはつまさきで死体を持ち上げる。

 まだ目に見えた腐敗はしていないものの、匂いが鼻腔に届く限りだと時間の問題ではありそうだった。



「どうですか? ハルミアさん」

「ベイリルくんが話している(あいだ)に、軽く検死して()た限りですが……正直手掛かりとなるものはなさそうです」

「なるほど……それじゃぁ、アッシュ──」

「クルゥァ」


 名を呼ばれた灰竜は地面から飛び上がり、俺が教えたハンドサインを見て取ると吐息(ブレス)を死体へ浴びせかけた。

 二つ名しか知らぬ男が(ちり)一つなく風化し、跡形もなくなっていく中で……その死に顔をしかと見届けゆく。


 灰竜アッシュはそのまま俺の肩へと着地するとマフラーのように体をくるめ、俺は「よくやった」と頭を撫でてやった。


 幼竜も随分と賢くなってきたもので、しつけを通り越して普通に学習させる段階に入ってきている。

 しっかりとこちらの感情を読み取って、適切な反応(リアクション)を見せるようにすらなっていた。

 


「あれ? ベイリルのことだから、てっきり持ち帰って財団で調べるとか言いそうなのに?」

「とある事情があってな、証拠を残すとマズいかも知れん」

「どういうことでしょう?」


 俺はどこからどこまで話すか、勘案(かんあん)しながらゆっくりと慎重に言葉を紡いでいく。


「まず脚本家(ドラマメイカー)は個人じゃない。それぞれ違った目的の協力者がいる」

「へ~……」


 フラウの眼がわずかに細まる。つまるところ復讐はまだ終わってないということ。

 炎と血によって塗りたくられた故郷の真相についても、未だ不明瞭なままだ。



「アイトエル殿(どの)は"アンブラティ結社"と言っていた。存在は(よう)として知れず、多方面に悪意を伸ばしている」

「多方面ってなんだよ?」

「直近のインメル領会戦でも関わっていたらしい。財団の情報にも引っ掛かってない──よな? クロアーネ」


「……そうですね、アンブラティという()も聞いたことはありません」


 クロアーネは平静を崩さず答え、フラウは目をつぶり、キャシーは露骨に眉を歪めていた。

 ハルミアは顎に指を添えつつ、さらに迫った疑問をぶつけてくる。


「具体的に、どの程度まで関わっていたのでしょう?」

「魔薬の流通に関しては、ほぼ間違いないようです。さすがに伝染病までは不明だそうでしたが……。

 なんにせよ王国軍のインメル領侵攻を誘発させた遠因の一つに、アンブラティ結社が噛んでいたという話です」


「なるほど……んー、そうですかぁ」


 ハルミアはしばし考えた様子を見せ、俺は気楽な心地で口にする。



「まっそう心配することはない、シップスクラーク財団とフリーマギエンスなら大丈夫だろう」


 なんなら財団の"仮想敵"としては丁度良いとすら考えている。

 確かに恐れるべき相手には違いないが、新たに財団は賠償金と領地と人材とを得た。


 (こと)ここに至って、一撃で再起不能になることはまずありえない。

 内部から蚕食(さんしょく)されるにしても、何かしら兆候(ちょうこう)はあるはずで……。

 なによりアンブラティ結社の、存在自体(・・・・)が既に知れたことがかなり大きい。


(せん)(せん)は取れないまでも、遅れは取って甘んじることだけはないよう足元を固めていこう)


 より盤石で隙のない体制を確立し、情報関連に(ちから)をさらに(そそ)いでいく。

 どうせなら(くだん)の秘密結社そのものを呑み込んで、より強大化するくらいの気概でいこうじゃあないかと。



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