#204 竜越貴人 IV
俺は浮かんだ疑問を話の流れのままに尋ねる。
「理論が構築されてあっても、グラーフは自分で造ることはできなかったと? 魔法とは"全能の力"ではないのですか」
「魔法は確かに全能と言えるほど理想上の限界はないが、つまるところ使い手には限界があるからのう。
例うるに"万物を斬断する刃"の形成に魔力を使えば、"全てを拒絶する防壁"を展開する魔力は足りなくなるもんじゃ。
もし仮に同時に魔法として発動させれば、大概のモノは斬れる刃と、大抵のモノは防げる障壁程度のモノになってしまう」
(なるほどな……結局は魔力を必要とする以上、真に全能とはならないのか)
だからこそ魔力という根源に異常を来す、暴走や枯渇をどうにかすることもできなかったのかも知れない。
(だとすると、"永劫魔剣"が完全体であったなら──?)
循環・増幅・安定によって、無尽蔵に魔力を得られるのは破格の性能ということになる。
それが実際に魔法を使うだけの容量に足るかは疑問が残るが、少なくとも本来の性能を発揮する一助にはなろう。
(もっとも安定器は俺がぶっ壊しちまったし……)
現状では循環器たる刀身のみ、財団で丁重に安置してある状態。
増幅器は調査してはいるものの、現状において情報は皆無である。
代替器の開発はまったく見通しが立っておらず、実用化するのはいつになることやら。
「当然使う魔法の傾向に得手不得手もある。だからこそ魔王が必要じゃった」
「その言からすると、初代魔王も魔法使だったということですよね?」
「でなければ魔法から魔術など編み出せるもんかいね」
「しかしながら魔王──つまり魔族の王ですよね。魔族ならば魔力の"暴走"があったということでは?」
魔力暴走によって不安定となり、魔法の発動に支障をきたしてしまう。
だからこそ神族から爪弾きにされ、新たに"魔族"として自ら追いやられたのだから。
ゆえに魔法が使えるということは、大前提として暴走や枯渇に見舞われていないと、理屈の上ではなるはず。
「ベイリル、おんしは自分と幼馴染の種族を忘れてはいないかの」
「俺はハーフエルフで……あぁ!! つまり初代魔王は吸血種だった」
頭の中でピタリと欠片がハマる音がして、大いに得心する。
「そういうことじゃ、元神族から暴走を経たゆえの才よの」
魔力の暴走の最中に"魔力抱擁"という技術をもって、異形化ごと止めてしまった種族。
しかも魔力の暴走は通常よりも魔力を蓄える性質があり、その上で自らの掌握下におけたのならば──
むしろ神族の頃よりも強力な魔法を使うことだって可能であったのかも知れない。
「魔力が枯渇してしまってはさすがに魔法具も使えないが、暴走であればその限りではない。
それに魔力が足りず完璧なものでなかったとしても、効果としては十分なモノもあるからのう」
魔力量に比例して効果が増減するタイプなら、魔法具の中にも機能するモノがある。
まさに財団が保有している"永劫魔剣"も、半端に発動させたセイマールが重合窒素爆轟で即死するのを免れた。
「そういった思惑も含めて造られたのが十二個の魔法具──グラーフが製作者に敬意を表して魔王具と呼称したモノじゃ」
「十二個も作ったんですか」
「そうじゃ、ちなみに世界に十二個しか存在せん。ぬしらが死蔵させてある"永劫魔剣"もその一つ」
「うん……──えっ?」
聞き逃したわけではないが、ちょっと脳みそがついていかなかった。
「儂が知る限り魔法具は、後にも先にもあの子が造った十二個のみじゃ。それほど製作が至難なモノじゃった」
「ッッと、ちょっと待ってください。魔法具は全てが初代魔王謹製で?」
「そうじゃ、その場に儂もおった」
「十二個しかなくて?」
「魔王具もとい魔法具は、その創られた十二個だけじゃ」
「永劫魔剣もその一つ……?」
「んむ」
財団の秘匿事項である"永劫魔剣"のことを何故知っているのか──もはやいまさらであった。
そしてなによりも12個しかないのならば、不完全とはいえ……とてつもない超希少品であるということだ。
「アレは正式には"無限抱擁"と言ってな、剣の形をしているがただ単に魔力を貯蔵するだけのモノなんじゃよ。
安定した循環と増幅によって、製作するにあたって必要となる膨大な魔力を外付けで補強する為のモノでしかない。
つまるところ他の魔王具を造る為の"前提"を作る魔王具として、二番目に創られたというのが経緯があるわけよの」
(あぁそうだ、理屈はフラウの"魔力並列循環"と似ている……)
はからずも近い発想であった──ということだろう。
フラウのそれは、魔力をその身に循環させ続けることで、魔力を貯留し続けるだけ。
増幅させるような効果はないが、理論上は無限に貯留し続けることができるというもの。
「"永劫魔剣"と呼ばれるようになったのは、ディアマが実際に剣として使った所為じゃろうな」
「三代神王ディアマが作ったんじゃなかったんですね」
"イアモン宗道団"時代では少なくともそう教えられてきた。
しかしそこは印象操作だったのだろうか。あるいは単純に真実の歴史を知らずに思い込んでいただけか。
なんにせよ魔族を殺して回った神王が、実は魔王が造った魔法具で戦っていたなどと……。
「一番最初に作られた"虹の染色"も含めて、この二つは他の魔王具とは毛色がかなり違った特性でな。
それぞれ魔力に特化した魔王具だったんじゃよ。魔力を己のモノとする魔王具と、無限の魔力を生む魔王具。
その二つをもってして、ようやく他の魔王具を創り出すに足るだけの魔力量を確保することが可能となったわけじゃ」
ディアマの場合はその超魔力を直接、攻撃に転化したということなのだろう。
ケイ・ボルドや故・テオドールといった、魔力を力場として攻防に纏う"無属魔術"とも言える技法。
それで大陸を斬断したというのだから、なるほどそれはある意味で有効な使い方だったのかも知れない。
「だからこそ魔法具は、他の者には決して造れないというワケなんですね」
「逆に言えば、その二つさえ揃えられれば……大魔技師あたりなら造れたじゃろうの」
「でも……揃えられなかったと」
「ぬっはっははは、そうであったなら魔術具文明でなく、魔法具文明になってたやも知れんのう」
アイトエルは冗談交じりに笑い飛ばした。ただ個人的な意見として、その言葉と俺の考えとでは相違があった。
(大魔技師は……必要以上に文明を推し進めようとはしなかった──)
それはほぼ間違いないと確信できる。大魔技師が残した文明が、素晴らしく凄まじかったのは間違いない。
事実として彼が転生者であり、魔術具を改良して広められるほどの賢者であったこと。
そんな人物が現代知識を惜しみなく使っていたなら……世界はまったく別物になっていたに違いなかった。
(それこそ俺の"文明回華"計画よりも、遙かにとんでもないことになっていたハズだ)
しかしながら大魔技師は、意図的にそういった部分を抑えたと思われる部分が随所に見られる。
それはアイトエルの言によって、彼が転生者と知る前から感じていたことだった。
(大魔技師の思惑はどうあれ──)
少なくとも彼は世界を混乱に陥れるような気はさらさら無かったということだ。
あくまで人々の生活を豊かにすることであり、それでもやり過ぎることは決してなかった。
戦争に転用できる技術こそあっても、直接的に人を害する魔術具は一切造らなかったと語られるのだから。
(そういう意味で俺にはストッパーがないし……)
同時に自重するつもりもさらさら無いのであった。




