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異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~  作者: さきばめ
第四部 未来を変えゆく偉人賢人 1章「故郷と再会」
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#199 郷里に咲く花 II


 6つの柱が並べられた紋章が掲げられた、モーガニト領は伯爵屋敷。

 俺は分相応なのかもわからない広い部屋で、4人と共に会話に興じる。


「やはり帝国の姿勢(スタンス)としては、名ばかり領地を押し付けてきたってとこだな」


 アイヘル国立公園予定地から、さらにモーガニト領内をいくつか回った率直な感想だった。

 スィリクスから土地情報や運営状況も教えてもらい、日々ぼーっと考えて至った結論。


「へ~、そんなん?」

「フラウよ、お前の功績も含めての報酬なんだからな」


 ハーフヴァンパイアの少女は、特注の長椅子を1人で占有するように寝転がっている。

 どうせ領地を貰うのは(まぬが)れないのならばと、わざわざ2人分の戦果でもって要求した結果である。


「いやぁ~領主はベイリルだし」

「もっとも俺も運営はスィリクス任せなわけだが」


(戦帝としては……──)


 おそらくそこまで考えてなかったようには思う。彼にとっては本当に単なる褒美のつもりだったろう。

 ただまことしやかな情報によると、ヤリ手の宰相閣下(さいしょうかっか)とやらによって伯爵位にまで押し上げられたとか。



「まがりなりにも円卓の魔術士を倒したわけですから、そりゃもう囲い込んじゃいますよねぇ」

「ハルミアさんの言う通り、土地という(かせ)で繋いでおくほうが好都合って公算なんだろうな」


 ダークエルフの彼女は、折り目正しい姿勢でベッドに腰掛けている。


 特区税制の適用にしてもそうだが、つまるところ甘く見られているということに他ならない。

 それもそのはず──まだ(よわい)20すら数えぬ若造にできることなど、たかが知れていると思われて当然。

 また帝国という最強の軍事国からすれば、シップスクラーク財団は驚異(・・)ではあっても脅威(・・)にはなりえない。


(まぁまぁ、"文明回華"を目指す俺らから見れば──)


 結果的には代え難い恩恵がいくつかあるので、これはこれで良かったのは間違いない。

 確かに幾分か割を食ったし、今後も負担は()いられるが……既に起きてしまった状況の有効利用は絶対である。



(外部からの情報はなるべく隠匿しているから、相応に突っ込んで調べないとわからないし)


 調べられればこっちも気付いて、逆に調べ上げるくらいの情報網は既に張り巡らせてある。

 そこに引っかからない以上は、向こうにとって気に留めるほどの存在ではないということ。

 逆に言うと相手にされていないとも見ることもできるのだが……。


(そうした認識の甘さが、(こと)ここに至って将来の内患(ないかん)(まね)くことになる)


 俺は顔には出さずにほくそ笑みながら、不測すら好転させる財団の強い地盤に達成感を覚える。


 "星典"の量産とフリーマギエンスの布教も順調に進んでいる。

 シップスクラーク財団の(こころざし)とその意義も、少しずつ市井(しせい)に浸透していっている。

 各所で芽吹き、花開き、結実して、種子を撒き散らし、どんどん侵食し続けようじゃあないか。



「んっなことよりもさぁ、いつまでアタシらは持て余してんだよ?」

「クゥアッ! クゥアッ!」


 キャシーは柔軟するように手や足を伸ばし、灰竜アッシュの止まり木になって遊んでいる。


 こうして伯爵屋敷で過ごし初めて数日ほど。

 今までが(せわ)しなかった所為(せい)か、怠惰(たいだ)淫蕩(いんとう)な生活を送ってみるも思ったより馴染まない。

 トランプや麻雀他ボードゲームなども多く持ち込んだが、そもそも学園生時代に割とやり込んでいる。

 

「確かに休暇も飽きてきたし、どうすっかね……」


 "国立公園化事業"も、"領内資源探索"についても、とりあえずの段取りは整えた。

 内政面で俺ができるのは、直接的な実務ではなく大まかな指示出しのみ。

 テクノロジーにおける"知識の種"も、シールフと財団の秘匿事項として既に共有済みなのでお役御免。


 仮に俺が死んだとしても、テクノロジー特許として現代知識は伝わり、財団と"文明回華"は進んでいくだろう。



「それじゃぁ……次に行くところでも決めますか?」


 ハルミアの提案に、やんわりと俺達の(あいだ)で肯定する雰囲気になる。


「んじゃ、ソディアの船に乗るってのはどうだ? 海賊やりながら色んなトコ回れんだろ」

「帝国領海はいいとしても、王国側は難しいですよねぇ」

「それって海賊やる必要ある~? 船だけ借りれば良くない?」

「俺としては割とアリだな、海賊業も」


 七つの海──ではなく、あくまで内陸の湖だが……海をまたに駆ける浪漫はすごく良い。


「ただどうせ航海するなら、外海で"諸島"巡りしたほうが面白いかも知れん」

「あーしらが海賊やってもさぁ、一方的すぎてつまんないよ~」

「船医、どれくらい学べるんでしょうかねぇ。ただ環境が限られてしまいますから……」

「イマイチっか、じゃぁオマエらも案出せよな」


 ほんの少しだけむくれた様子で、キャシーは俺達に意見を求める。



「俺はそうだな……風の向くまま気の向くままもいいが、今言った諸島巡りか、あとは各国の首都巡りもいいな。

 帝都、王都、皇都──連邦西部なら"壁街"も一度くらい、東部は"大魔技師"が生まれた都市なんかも行きたいところだ」


("極東"も俺一人に限れば、長距離飛行でおそらく辿り着けるが……それはまぁいい)


「大陸中を巡るなら、騎獣民族の方々(かたがた)に合流しちゃうってのも一つの手ですよねぇ」

「あーなるほど確かに。バリス殿(どの)らなら、色々な穴場を知っているかも」


 国家としても手出しできない集団。移動拠点の中心にしつつ、各所へ出張しながら見識を広げるのは良い。



「フラウはどっか行きたいとこねーんか?」

「あーしはねぇ~、"神領"とか?」

「それは相当思い切った意見だな」


 キャシーにうながされて言ったフラウの提案に、俺はすかさず突っ込んだ。


「え~なんで?」

「神領への通行(アクセス)は皇国にある"黄昏の都市"からだけで、他からは近付けないって話だ」

「ほぇ~、そうなんだ」


「なんでなんだよ? あっこって確か地続きだろ?」


 もっともなキャシーの疑問に、ハルミアが先に答える。


「たしかまるで結界のように(・・・・・・・・・)異常気象が発生しているんでしたよねぇ」

「そうです、神族の"魔法"かなんか……原因不明の自然災害で完全に隔絶されている」


 自分達の領域以外を拒絶しているかのように、何者も侵入することは不可能なのだとか。


「その唯一行ける……たそがれ? の都市からってのはダメなん~?」

「特別な権限がないと無理。皇国貴族はおろか、聖騎士でも難しいらしい」


 それでも神領と唯一交流を持てる皇国の外交的権威は大きく、神族も何人か在籍しているという話。

 


「んじゃっ逆によ──魔領に殴り込むってのはどうよ?」

「キャシーちゃん、それアリ寄りのアリです」

「ハルミアさんからすれば故郷の土地ですもんね」

「魔領なら暴れがいはあるな~」


 黄竜の撃破から、迷宮逆走を完了し、戦争まで経て、俺達もかなり強くなった。

 上を見ればキリがないものの、少なくとも"伝家の宝刀"たる戦力を倒せるくらいの強度を誇る。

 4人で連係するのを前提とするならば──どうにかできない生物の(ほう)が少ない。


「それじゃぁ魔領が第一案ってことで、他にどうするか」

「キャシーの故郷は?」

「あぁ? アタシの村はいいよ、ムカついてぶっ飛ばして回るかも知れんし」


「ぶっ飛ばすだけで済むのか」

「人柱にされた恨みこそあるが、殺して回りまではしねぇよ……多分(・・)。今はいろんな主義・主張や信心があるって知ってるし」



 キャシーも大人になったなあなどと思っていると、ハルミアが思いついたように口を開く。


「あとは竜騎士特区なんかどうでしょう? "赤竜山"を登ってアッシュちゃんに竜の社会性を学ばせるんです」

「キュゥアァ!」


 名前を呼ばれた灰竜は一声あげ、ハルミアの膝へと降りてくる。


「あそこは帝国特区でもさらに特殊だから、特別な許可が()るはずだったような……」

「そこはベイリルくんの伯爵権限でなんとかしてください」

「……はい、その時はがんばります」


 竜騎士特区とも呼ばれる"赤竜特区"。

 領内はともかくとして──頂竜山に立ち入る際は、色々と審査を通す必要があったと記憶している。

 ワーム山脈が消失した現在において世界最高峰の山脈であり、"赤竜"とその眷族竜が竜騎士と共存する土地。


(まぁたかだか四人と一匹が登頂するくらいであれば……)


 そこまで厳しくもないだろうと思う。灰竜という立場を利用することもできるかも知れないと。

 

「そうだ、せっかくなら──」



 俺は言葉途中にゾワリと……一瞬にして掻き消されかねない思考が襲った。同時に既視感(デジャヴュ)をも感じる。。


 その殺意が入り混じったような魔力が織り成したかのような圧は、黄竜と対峙した時のそれと酷似しているが──

 実際的な感覚としては、ゲイル・オーラムと初めて会った時の(ほう)が先んじて浮かび上がる。


「真っ昼間から物騒な……」

「これってあーしらがいるって、わかっててやってるのかな~?」

「っ……私にはちょっとキツいですかねぇ」

「くっは! おもしれェ、喧嘩なら買ってやろうぜ」


 四者四様の反応に、アッシュは鳴き声を発さぬまま部屋内を落ち着きなく飛び回る。

 かつては死すら予感したものと同等レベルの圧力(プレッシャー)も、今の俺は問題なく受け止められるだけの強さを得た。



「顔は……俺でもよく見えないな──」


 窓から外を覗いてみると、侵入者と思しき人物は隠れる様子もなく堂々と立っていた。

 "遠視"するような距離ではなく、ただフードをかぶっていて角度的に顔をよく見ることができない。


「でも小柄ですねぇ、女の子のようです」


 ハルミアは遠目で見るだけでも、確信をもった様子でそう言い切った。

 少女の後ろには、なにやら引きずった跡が門外から続いてきている。

 恐らくは隣に置いてある、"大きい麻袋"によるものであろうと推察された。


「まっタダモノじゃねぇよなアレ」

「普通の女の子が出せる殺気じゃないね~」


 侵入者の少女はこちらの反応を待っているのか、まったく動こうとする様子がない。


(らち)が明かないし、用事があるのだろう。(おが)みにいくとするか」


 そう言うと我先にキャシーとフラウが窓から飛び出し、アッシュもそれについていく。

 ハルミアは医療具を手に持ち出す中で、俺は装備一式と風皮膜を(まと)いつつ、一拍(ワンテンポ)遅れて後に続いたのだった。



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