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#197 清く正しく都市計画 X 


「今度こそ俺もイイところを、お見せしますよ。"折れぬ鋼の"を相手にした時は無様晒したんで」


 俺はそう言い切ってから、ギチギチと全身の筋肉を絞りながら"魔獣メキリヴナ"を見据える。


「お手並み拝見だネ」

「ぉおー! ぉぉおおおーーー!! なんかすごそうですー!」



 全身を沁み込ませるように極度集中し、俺は体内で流動する魔力を最大まで循環加速させていく。


「其は空にして冥、天にして烈。我その一端を享映(きょうえい)己道(きどう)を果たさん。魔道(まどう)(ことわり)、ここに()り」


 詠唱と共に完成させた"決戦流法(モード)・烈"。

 掛かり続ける魔力負荷によって、肉体と魔術と感覚が限界以上に研ぎ澄まされ続ける。


「くぅぅぅうおおおォォおおぁぁァアアあああッッ──!!」


 そして俺はパンッと両手を合わせ、祈るような仕草のまま……息の続く限りの雄叫びをあげた。


 準備が整ったところで空中から(ひるがえ)って反転し、一気に直上からメキリヴナへと急降下していく。



「空華夢想流・合戦礼法、極伝(・・)──」


 俺は増幅された音圧振動による多重衝撃波を、双掌をもって背部甲殻を通しつつ内部へと叩き込む。

 痛む両腕でもう一度パンッと手を叩き、空中を蹴って軌道を変えながら疾風(はやて)(ごと)く空を駆け抜けていく。

 そうしてウゾウゾと気持ち悪く(うごめ)いている魔獣メキリヴナの真下へと、一瞬の内に到達した。


「"(おん)(くう)ぅ……共振波(きょうしんは)"ァァアアア!!」


 俺は叫びながらもう一度双掌を上方へ浸透させる。

 それは逃げ場なき固有振動数による共振現象によって、肉体内部に"定在波"を巻き起こす。

 上下から重なった特定範囲を、分子結合から粉微塵に崩壊させる極術技。


 本来は両手で人体を挟み込むように、繊細に衝撃波を重ねるのだが、これほどの巨体であれば大味でも問題ない。

 甲殻を介して伝わった音圧振動と、内側から伝わった音圧振動とが、中枢にて幾重にも炸裂する音が聞こえる。

 

 それは撹拌(かくはん)を通り越して、さながら自壊していくかのように──魔獣メキリヴナの機能を停止させた。



「──っぷはぁ……ハァ……ふぅー」


 莫大(ばくだい)な音振を(まと)ったことでボロボロになった両腕は、まともに上がりそうもなかった。


(ま~たハルミアさんに(しか)られるな、こりゃ……)


 ただでさえ半自爆技を全力で2発も立て続けにぶち込んだのだから、当然の代償とも言える。

 さしあたって自己治癒魔術だけでどうにかできる状態は超えていた。


 しかしながらその威力は絶大。ポリ窒素(ニトロ)や非想剣やガンマレイともまた質の違う超火力技。



「ンッン~、やるねェベイリル」

「少しはオーラム殿(どの)に肩を並べられましたかね」


 俺は自慢げな笑みを浮かべながら、いつの間にか隣に降り立っていたゲイル・オーラムへそう言った。

 金糸で止められているおかげで、魔獣の巨体に潰されることはない。


殺せてたら(・・・・・)、背伸びで並べてたってトコかな」

「手厳しいなぁ……まっ解体はお願いします。生き返る前に(・・・・・・)


 確かな手応えはあったが、殺し切ったという感触はなく。それはオーラムにも見抜かれていた。

 リップサービスであることを自覚しつつも、まだまだ遠く及ばないことも再認識させられる。


 俺は生体自己制御(バイオフィードバック)で痛みを鈍化させながら、無事な両足でその場で立ち上がる。

 オーラムはそのまま甲殻を引き剥がすように、金糸を高速で手繰(たぐ)り始めた。



「……ところで、オーラム殿(どの)の若い頃──迷宮(ダンジョン)制覇した頃より俺って強いですかね?」

「どうだろうネ~。まっヤレること自体は、今のワタシよりも多いだろうからイイんじゃないか」

「まぁ"天眼"を含めて、今あるモノを伸ばしていく──確かにそれも一つの手ですが……このままだと頭打ちな予感もあるんですよね」


「なんだァベイリル、ぼくちんに人生相談でもするっ気ィ?」

「まぁまぁ、せっかくの機会なんでいいじゃないっすか」

「答えられるとは限らないけどネ」

「それでも全然構いません」


 己よりも高みにいる人間に吐き出してこそ、何かしら天啓(てんけい)を得られるかもという(あわ)い期待。


「……オーラム殿(どの)は"魔導"を覚えようと思ったことはないんですか?」

「必要としたことがそもそもナイからねェ」


 心の底から渇望し、それを強固に想像すること。それこそが魔術を超越した魔導の第一歩。

 しかしてゲイル・オーラムの半生において、それを欲するような状況がなかったのだろう。



「なんだいなんだい、魔導を覚えたいのかい?」

「一応は選択肢の一つとして、って感じですが考えています」


 強くなる方法論だけで言えば、いくつか考えられる。

 魔導を修得する──魔導具を使用する──科学魔術具による武装──科学兵器の応用──

 持ち得る魔術をとことん伸ばす──個人でなく連係に(ちから)を入れる──


「大体ィ……魔導のことなら、シールフに聞いたほうが早いでショ」

「いえいえ、別にオーラム殿(どの)から教わろうとは思っていません。ただ実例(データ)として知れればいいんです」

「まったくベイリルも言うようになったモンだ、最初は(おび)える仔犬のようだったモノを──」

「こんだけ付き合いが長くなれば、まぁ多少は……」


 大いなる(こころざし)で繋がる絆は、とても掛け替えのないものだと実感する。



「んっでぇ、ベイリルはワタシに話を聞くだけでいいのか」

「シールフにしてもそうですが、俺が目指すには毛色が違いすぎるんで」

「ンん~~~?」


 解体作業は継続しながらも、眉をひそめた半眼を向けてくるゲイル・オーラムに、俺は整然として述べる。


「持たざる者にとって、お二人の歩んだ道を続くことはできないんですよ」

「他人から見れば……キミも随分とイロイロ持っているように見えるがね? ベイリルゥ」

「俺の能力(ソレ)は"外付け"に過ぎません。そこらへんの詳細を語るのは──後日に譲りますが」


「あーカプランから聞いてるよん、隠し事をヤメる(・・・・・・・)って」

「今のお二人なら、正面から受け止め、噛み砕いて咀嚼(そしゃく)し、(しん)に理解していただけると思うんで」


 俺が語った夢と野望は──既に妄想・妄言(もうげん)といった領域から飛び出している。

 地球という別世界の"現代知識"という未来の科学を、明確に信じさせられる段階にある。



「ンまっ、ワタシが知る限りでは魔導師の知り合いはいないしねぇ。過去の敵対者の中にいたとしても、わからんネ」

「なるほど……まったく参考にならないことが、実に参考になりました」


 ゲイル・オーラムという圧倒的強度を前にしては、いかに魔導師とて敵意を見せた時点で殺される。

 最低でも闘争を前提とした魔導師かつ、"筆頭魔剣士"テオドール並の練度があってようやく相手になるといったところだろう。


「ワタシも今さら魔導を修得できる気もしない。なにせ欲しいモノは既にある、これ以上望むことはないってことだヨ」

冥利(みょうり)に尽きる言葉ですね」



「いやはやー……やっぱり"円卓殺し"なだけありますねー」


 どこか心地良さもある会話に興じていると、テューレが舞い降りるように着地してくる。


「まぁな、俺もなかなかヤレるようになったもんだ」

「ベイリルさん、コレ記事にしてもー?」

「申し訳ないがNG(ダメ)だ。商会の名声として利用するからな」

「了解です、それじゃあそっち方向でやっときますー」


 テューレはピッと敬礼のように手を挙げて、解体の様子を記事に書いているようだった。

 俺も同じように解体されゆく魔獣メキリヴナを改めて眺める。


(とりあえずは嬉しい臨時収入だ)


 これほどの生物資源がもたらすであろう、各種発展と経済効果の恩恵は大きい。

 共振(ハウリング)による定在波の所為(せい)で多少なりと内部が破壊されてはいるだろうが、それでもなお──である。



「ところでベイリルゥ、都市計画のことだけどォ──」

「はいなんでしょう」

「首都の名前ってもう決めているのかネ?」

「決めています。ご希望があるなら、一応聞くだけ聞きますが?」

「いンやぁ~、単に気になっただけ」


「──ですか。俺もぼちぼち腕を治療しに戻らないといけないので、ついでに輸送部隊を手配しときます」

「あいよ~」


 ゲイル・オーラムは手を休めることなく、テキパキと()()めていく。

 手際(てぎわ)は良いが……それでも巨獣を適切に完全解体するには、何日かは釘付けになるだろう。

 空属魔術で空中へと飛び上がった俺は、言い残すようにオーラムのさきほどの疑問に答える。


「5つの主要都市に囲まれ、山を背景に海をのぞむ。森河に沿って丘陵に根付きしは──」


 帝国に見咎(みとが)められることのないよう、清く正しい都市計画を──美しく咲かせてみせよう。


「"央都(おうと)ゲアッセブルク"。ありとあらゆるテクノロジーの集積地にして、"文明回華"の発信地。"未知なる未来"を見る場所です」



幕間劇おしまい。


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