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#160 円卓十席 I


 前奏曲(プレリュード)の詠唱を終えて宙を漂いながら、フラウは討伐対象の控える本陣を地上に捉える。

 ベイリルを参考に重力で光を歪めたステルス状態で、目立たぬところに無重力で降り立った。

 最も(くらい)高き人物がいると思しき天幕へと、浮遊したまま足音を立てないよう近付いていく。


 ――円卓の魔術士第10席。"双術士"。

 一卵性双生児である姉妹は魔術士として才知に長け、常に一緒に生きてきた。

 それゆえに魔力を同調させ、全く同じイメージをもって魔術を使うという。


 ベイリルとクロアーネが集めてきた情報を思い出しながら、フラウは護衛なき入り口をくぐる。

 そこには豪奢で大きなベッドがあり、そこで眠っていた人物は起き上がって顔を向ける。



「あらぁ、これは随分とかわいらしい殺し屋さんねぇ」

「ん~あー……なんでバレたん?」


 ステルスを解いたフラウは、敵意を隠したままそう尋ねる。

 ベイリルのステルス性能には及ぶべくもないが、それでも結構イイ線いってると思っていた。


「見え見えよぉ、ここは私の領域内だもの。それにアナタみたいな手練(てだれ)は我が軍にはいないわぁ」

「そっか、じゃあもう正面から()るっきゃないか」


 ベッドから立った双術士は、キョトンと見つめてから口を開く。


「ほんとうに見目かわいらしいわねぇ。アナタがあんな残忍に暗殺して回った賊だなんて嘘みたいだわぁ」

「うんにゃ、その暗殺者はまた別だよ。でもその気ならもっと(むご)たらしく殺せないこともない、多分」

「あら恐い。でもそっかぁ……じゃあ別の暗殺者のほうはもしかして、魔剣士ちゃんのところだったりぃ?」

「えーっと……うんまぁ、そうかな~?」


 一瞬誤魔化そうとも思ったが、双術士が既に察しているから無駄だろうと、少し濁したような物言いになってしまう。

 すると双術士はパンッと両手を合わせるように胸の前で叩き、的中したことが嬉しそうに笑顔を浮かべた。



「戦うのも面倒だしぃ、どうせなら一緒に見物でもしに行かなぁい?」

「それはさすがに無理な相談かな~。隠れてるもう一人(・・・・)も姿見せてくれてないし」

「あらぁ……? やっぱりタネ割れちゃってるんだ――」

「そりゃ狙って来ているわけだし? それに"()術士"なんてあだ名されてる時点でどうかと思うよ~」

「確かにねぇ、でもそれで名が通っちゃったから……」


『しょうがないわぁ』


 フラウの背後から現れたもう一人の双術士、二人で重なるサラウンドの声が耳に響く。

 

「あーしに不意討ちできなくて残念だったね~」

『まったくよぉ、でもお互い様じゃなぁい?』

「う~んたしかに」

『それじゃさっそく――』


 双術士はそれぞれが同じような小ぶりの杖を片手に持ち、同時に詠唱する。


(すこ)やかに撫でる風よ、吠え猛る(ケダモノ)のように破裂なさいな』


 それは風の爆弾と言って差し支えないほど、あまりにも凄まじい風圧であった。

 天幕はおろか周囲全てが一息でまっさらとなるほどの勢いと衝撃波。


 ベイリルを相手に鍛錬し、風を受け流すことに慣れていなければ……。

 いかに"斥力層装"をその身に纏っていようとも、数百メートルと吹き飛んでいたかも知れないほどの威力。



『すごいわぁ、どうやったら微動だにせずいられるのぉ?』

「別に、普通に耐えただけ~。ってか味方がいようとお構いなしなんだ?」


 円卓第10席の本陣には、王国軍の予備兵達が多くはなかったものの存在していた。

 彼らは突然の超風によって、おそらくは大混乱に陥っていることだろう。

 怪我だけならまだしも、先ほどの風圧爆破の規模だと死人も多数いるに違いなかった。


『足手まといの雑兵なんていらないわぁ』


 彼女達からすれば、王国兵など確かに足手まといに違いなのは前情報から明らかであった。

 もしも一般の兵士に配慮などしたならば、伝家の宝刀とは大した切れ味を発揮できないのだから。


「しっかしスゴイね~、ウワサの"双成魔術"?」

『そりゃあ魔術騎士隊なんて(まが)いモノなんかとは違うわよぉ』


 魔術騎士隊の"共鳴魔術"は、彼女らを模倣して修練されたという。

 同じイメージを持たせて、同じ訓練を積み重ねることで統一した魔術を扱う。

 しかしそれはあくまで足しているだけに過ぎず、100人で1ずつ供出して100の魔術を使うだけ。


 確かに規模は大きくなるし、お互いに補強する組織的な魔術というのは戦術的には有用である。

 それでも彼女らが使う魔術の本質とはまったくの別物であり、ニセモノ呼ばわりもうなずけた。

 双術士のそれは、1+1の魔力から200の魔術を産み出すかのようなもの。


 それが円卓の魔術士たる所以(ゆえん)であり、戦術兵器ともなりえる力量なのである。



『それじゃあもっと派手にいきましょっかぁ――』


 双術士はそれぞれ左手と右手で指を絡めて繋がり、魔力を(かよ)わせ合うような様子を見せる。


『動けよ(うごめ)け、土っくれよ――忠実な奴隷(イヌ)のようにかしずき(ひざまずき)なさぁい』


 地鳴りと共に振動する地面が、もりもりと隆起していく。

 それは黄竜並の体長の分厚い巨大な人型ゴーレムとして、周囲が夜になったかと思うほどの影を作った。


『かわいいかわいい殺し屋さ~ん、私たちまで届くかしらぁ?』


 巨大土ゴーレムの双肩の上(・・・・)で、ひらひらと二人してそれぞれ手を振るのが見える。



 フラウは何か思いついたようにニヤリと唇の端を上げると、全身の魔力を加速し胎動させた。

 ベイリルも使えるし、ハルミアも少しだけ使える魔力(マジック)加速器操法(アクセラレータ)

 だがしかし、己の加速力と制御はさらにその上をいく。


「そうだぁね~……魔術には魔術を、刃には刃を、拳には拳を」


 フラウはつぶやきながら両腕を高く掲げ、その上空に"引力場"を創り出す。


 すると根本(ねもと)から引っこ抜かれた木々に、めくれ上がった土岩。

 天幕を作ってた土台や布、打ち捨てられた武器や補充用品の数々。

 周囲からありとあらゆる物質が吸い寄せられていき、一つの形を成していく。


「――質量には質量を(・・・・・・・)


 同等の巨大さにまで造り上げた即席ゴーレムの頭頂部(・・・)に乗り、上から目線でフラウは不敵な笑みを返した。


『ぷっ……あっははははははハハハハハハハハハハッ!!』


 両肩にそれぞれ乗った双術士二人の哄笑(こうしょう)が響き渡る。


『すごいわねぇ、すごいわぁ……本当に殺しちゃうのがもったいなぁい』


(ベイリルにも見えるかなぁ……)


 そのサマは怪獣決戦か、はたまた巨大ロボット合戦とやらか。

 大きいものは浪漫(ロマン)だと語っていた、幼馴染であり愛する男の顔を浮かべる。

 


 フラウに負けじと二人揃って土ゴーレムの頭の上に移動した双術士は、魔力を揃って蠢動(しゅんどう)させた。

 

(うるわ)しき炎よ、汝が右手に(つど)いて(つち)となせ」

「頑健たる岩よ、汝が左手に(つど)いて(つるぎ)となせ」


 それぞれ別々に詠唱した双術士の魔術により、土のゴーレムは炎焼の右腕と硬質化した刃の左腕を宿す。

 

『ハリボテでないことを祈るわぁ!!』


 垂直方向に天を突く巨大な岩の剣に対し、フラウはグッと右拳を握り込む。

 振り下ろされる大岩刃に対し、すくい上げるように腕を回転させると、連動するように引力ゴーレムの右腕も動いていた。

 斥力場を纏わせた引力ゴーレムの右拳は、土ゴーレムの岩刃とまともにぶつかり、どちらも腕ごと砕け散る。


 互いのゴーレムはさらに、それぞれ焼熱右腕と、斥力左腕を振りかぶり――真っ直ぐストレートを衝突させる。

 これもまた双方の腕を破壊し、炎もろとも無数の破片が落下していった。


 周辺は風爆弾と、土ゴーレム生成・引力ゴーレム生成、加えて飛散した瓦礫と炎の雨あられ。

 もはや原型を留めぬほどに変形し延焼する陣地で、両腕のない二(つい)の巨大ゴーレムが鎮座する。



『すごい、スゴイわあ! ちょぉっと甘く見てたわねぇ、こうなったらぁ――』

「まっだまだぁ!!」


 土ゴーレムが再生し始めるのを見るや、フラウはゴーレムごと浮かんで(・・・・・・・・・・)急接近する。

 相手に対抗してやってはみたものの……引力ゴーレムの生成・操作は、思いのほか魔力消耗が激しく継続的運用は困難。

 半吸血種(ダンピール)としての生来の魔力と、魔力(マジック)加速器操法(アクセラレータ)があってもジリ貧は自明だった。


 もとより円卓の魔術士二人分の魔力から繰り出される、双成魔術の魔力効率は自身の上をいく。

 それゆえにこれ以上、好き放題に優位性(アドバンテージ)を取られるわけにはいかなかった。


『えぇっへ? ちょっちょっちょっちょぉおおおお……――』


 迫り来る引力ゴーレムの"頭突き"を眼前にして、双術士は土ゴーレムの後背へと飛び降りる。

 豪快に頭を縦に振ったフラウも、そのまま空中回転しながら追従していった。

 

 倍増重力によって衝突した二体の巨大ゴーレムは、自重を含めて巻き込みながら崩壊していく。


 轟音と共に視界がまったく確保できないほどの、大量の土ぼこりが舞い(ただよ)う。

 するともう一度、双術士による"風の爆弾"が炸裂して一気に霧散してしまった。

 もはや動くことないゴーレムの巨大残骸も多くが吹き飛び、改めて双術士と向かい合う。



『まったく無茶苦茶やるのねぇアナタ』


 疲労や消耗といった様子をまったく見せることもない双術士に、フラウはゆっくりと溜息を吐く。

 彼女らにとってはあの程度は、本当にやれて当然の魔術なのだろうと。恐るべし、円卓の魔術士。


「いや~~~強いねぇ、二人相手だとあーしも正直きついかも」

『違うわぁ、私たちは一人よぉ。二人でも一人なのよぉ』

「そこらへんの機微? みたいなのは、よくわっかんないけど~……」

『でしょうねぇ、私たちにしかわからないでしょうねぇ』


 双術士はまったく同じ笑みを浮かべながら、へらへらと話し続ける。


『対してアナタはたった一人で、本当にスゴイわぁ』

「そりゃどーもどーも。褒められるのはま~ま~まぁ嫌いじゃない」


『使う魔術も見たことがなくって、とっても興味深いしぃ』

「そっちこそ、ちょっと想定外のやばさだよ~」


 ゆっくりとフラウは肩の力を抜き、全神経を魔力と"腕と指先"へ集中させる。


「だからごめんねぃ」


 そんなフラウの一言から、双術士の視界は閃光(・・)によって満ち満ちたのだった――


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