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#129 海賊浮島 II


 俺は右手で回した回転式拳銃(リボルバー)に加え、さらにもう一挺(いっちょう)左手で抜いて二挺(にちょう)で構える。


「掛かれやあっ!!」


 無法海賊達はわけがわからないままであっても、苦悶の表情を浮かべる男の声で突っ込んでくる。

 それを俺は"規則的な両腕の動き"をもって、的確な順番で迎え撃っていった。


 弾薬の雷管を撃鉄(ハンマー)が叩き、黒色火薬が爆燃して鉛の弾丸を押し出す。

 反動を利用して親指でコックしながら連射していき、11発の破裂音が周囲を打つ。

 きっかり11人――それぞれが手・腕・肩のいずれかを撃ち抜かれ、手に持っていた武器が落ちる。


 その数瞬の出来事に、さすがの無法海賊達もたたらを踏んだように動けなくなってしまった。



「ふっ――」


 俺は左手に持っていたリボルバーをガンスピンさせながら、腰元のホルスターへしまう。

 そして(くゆ)る白煙の中で、右手のリボルバーの銃口を天へと向けた。

 ローディングゲートを開けて一発ずつ落とすように排莢し、次に銃口を地に向け弾薬を込めていく。


「んな……なんなんだっ……!?」


 混乱する無法海賊になど見向きもせず、俺は装填済みのリボルバーを右のホルスターへ収める。

 続いて左のリボルバーへと、同じように弾込めをしながら頭の中で考える。


 開拓(フロンティア)精神(スピリッツ)――素晴らしい言葉である。

 異世界を開拓し、進化を促し、未知なる未来を見るのにとても相応(ふさわ)しい。

 テクノロジーを示す意味でも、この"手の中のモノ"は実におあつらえ向きの武器と言えよう。


 かつてアメリカ西部の象徴として、"平和をつくるもの(ピースメーカー)"という名を冠した弾倉回転式の拳銃。

 マカロニウェスタンでおなじみ――コルト社の"シングルアクションアーミー"――を、再現したモノ。


 銃身長は"砲兵(アーティラリー)"モデルをイメージし、見目と取り回しのバランスを整えた。

 その六連発リボルバーに加えて、専用の弾薬まで作り上げた珠玉の一品。


 

(――本当(ほんっと)、"テクノロジートリオ"には(せつ)に感謝だ)


 俺が両腕に付けている、"グラップリングワイヤーブレード"が仕込まれた籠手同様――

 完全に俺の私欲と我儘(ワガママ)な依頼でもって作成してもらった。


 現代知識による完成品を既に知っているがゆえの一足飛びの開発。

 化学的な雷管に加えて、"弾薬"という銃における革命的な概念。


 比較的シンプルな連装機構の概要を伝え、ゼノと一緒に設計して煮詰めていった。

 商会に蓄積された冶金技術に加え、フラウの重力魔術とリーティアの変性魔術で作り出された無重力合金。

 そこからティータによる削りだし・成形技術に甘えさせてもらった。

 最後に魔術刻印による魔術具加工によって、強度の確保や補助機能を付加させた。


 試作含めて世界に10丁と生産されていない――希少な限定特注品(オーダーメイド)

 カエジウス特区に行くまでに、賞金首相手に使い倒した弾薬……。

 ニアを通じて補充分を受け取ったものの、迷宮最下層攻略には置いていったのでついぞ使う暇がなかった。



「弓!! 魔術もだ!!」


 無法海賊達は近付くのはマズいと思ったのか、間接攻撃へ切り換えるも時既に遅し。

 弓矢にクロスボウに魔術詠唱と、同士討ちにならないよう敵が布陣し動き出す瞬間には……。

 既に二挺の拳銃とも装填(リロード)は完了していた。


「無駄無駄無駄無駄ァッ!!」


 俺はテンション高く狙い撃つ。集団の合間を縫うように、弾道が幾筋もの軌跡を描いた。 

 射線が通らない相手には、風による補助推進を付加し誘導させた"跳弾"を駆使して命中させる。

 攻撃に入ろうとした弓手と魔術士を、的確に狙い撃って行動不能にした。


「おっとぉ――」


 静観していたフラウは、近付いてきた男達を転がりながら一度の破裂音で3人撃ち倒す。


 ――"ゲット・オフ・スリーショット"。

 引鉄(トリガー)を引いたまま、撃鉄(ハンマー)を右親指、左親指、左薬指でコックし三連射する銃技。

 実際的には3発の発泡音が鳴っていても、早業(はやわざ)ゆえに1発の銃声にしか聞こえない。


 さらにフラウは転がる勢いのままに、反重力によってふわりと浮き上がる。

 天地(さか)さになった状態から、追加で3発の弾丸を撃ち切った。


 銃口から超局所的な倍増重力によって加速した鉛玉は、体内で暴れ回ることなく綺麗な穴を穿つ。

 海賊達の叫び声を背後に、当のフラウは華麗に着地していた。

 


「ンッン~、銃は魔術よりも強し。至言じゃないか? フラウ」


 魔術は魔術によって防がれる。矢は見てからでも反応できる者も珍しくない。

 しかし俺やフラウの抜き撃ち速度は、尋常者(じんじょうしゃ)の反応速度を容易(たやす)く凌駕する。

 構え、狙い、撃つまでを(なめ)らか()つ徹底して速やかに――

 機関銃などが発達した現代地球においても、抜き撃ちにて最速を競い合う名銃は伊達ではない。


 さらにこの世界には、弾薬の存在と発射する銃の情報それ自体がない。

 つまるところ初見殺しの極致――不意を撃つ凶弾を防ぐ為には……。

 俺やフラウが常日頃そうしているように、魔術による防御膜を恒常的に纏っているしかない。


「いやぁ~大概は魔術のが強いっしょ」

「……まぁそうだな、言ってみたかっただけだ」


 立ちこめる黒色火薬の煙を空属魔術によって一息で吹き飛ばしながら、そう口にしつつ唇の端を上げる。

 無煙火薬も遠からず作れるだろうが、こだわるのであればピースメーカーはやはり黒色火薬である。


「その真価は両方(あわ)せてこそ、だしな」


 片手でも照準の()れなく衝撃を抑える膂力に加え、適切に反動を逃がす柔軟性と反射。

 強化した視覚・聴覚・嗅覚・触覚を総動員して空間を把握し、的確に見極め命中させる精度。

 それらは魔力の循環強化に優れた、半分でもエルフ種やヴァンパイア種あってこその物種(モノダネ)

 その肉体と感覚をもってすれば、二挺拳銃とて十二分に実用圏内となりえる。


 さらに空気の膜によって弾倉(シリンダー)周りを包むことで、燃焼ガスの漏洩を防ぐ。

 その気になれば空気抵抗をなくし、回転を増やし、軌道を制御するにまで至る。

 


「別に排他要因じゃない、何事も欲張ってくのが我が人生」


 魔力による身体強化や、銃本体に銃弾やその軌道への魔術的な付与効果は魔導分野の賜物(たまもの)

 銃と弾薬は冶金・化学・工業など、科学分野におけるテクノロジーの結晶である。

 これもまた一つの"魔導科学(マギエンス)"を体現していると言っても過言ではない。


「まっ確かに、重ねると(・・・・)なかなかすごいね~」

「それな」


 いつか使う時の為にと、幼少期から修練し続けてきた的当て技術を遺憾(いかん)なく発揮する。


(武器や兵器も少しずつ進化していく――これもその一つだ)


 シップスクラーク商会としても優先度は低いが……それでも技術の多くが流用され、また応用できる。

 

 初めに憧れ、夢想し、模倣したいと願ったのは――自動拳銃による二挺(にちょう)の銃型であった。

 それを思い描き、修練し続けた恩恵として、闘技祭ではファンランとも超接近戦で()合えた部分がある。

 相手と重なった制空圏――領域を奪い取り、己の攻撃を通し続ける動作を鍛え続けたのだ。


 文明が進んでいけばいずれは多様な選択肢を、この手に掴むことができるだろう。



「さてっと、次に来た奴は……殺してやるかね」


 俺はそう宣告するように、殺意を(みなぎ)らせて言い放った。

 今度こそ無法海賊達の顔色は、恐怖によって完全に染まってしまっていた。


 なにせ得体が知れないまま、破裂音がすれば確実に仲間が戦闘不能になる。

 仲間達が今生きているのは、俺達が手加減しているからだと刻み込まれたのだ。

 そうなればもはや動けなくなってしまうのも無理からぬことである。


 その(あいだ)にもう一度、左右それぞれのリボルバーへ装填(リロード)していく。

 すると横目で覗くフラウが、素朴な疑問を投げかけてくる。


「そいえばベイリルのって何で"ソリッドフレーム"だっけ、なん?」

「こっちのほうが強度が高い。それに薬莢(やっきょう)の排出と、弾薬を入れる()が良い……息吹を感じる」


 俺のリボルバーは"ソリッドフレーム"。いわゆる弾倉部分が動かない、一体型に作ってもらった。

 一方でフラウのは"スイングアウト"方式で、機巧(ギミック)が一つ余計に多い。

 弾倉(シリンダー)を真横に出して、即排莢(はいきょう)弾薬込(タマご)めが可能な作りである。



「"俺のリロードは革命(レボリューション)"ってやつさ」

「ぜったいめんどーだよ~」


 そう言ってフラウは胸の谷間(・・・・)から弾薬を6発分、宙空へと放り出した。

 重力制御を掛けて向きを整えると、そのまま手首を返してリボルバーを振る。

 するとたった一回の動作で、六発分の弾倉(シリンダー)全てに弾込めを完了させてしまった。


「ほらほら~ベイリルにどうしてもと教え込まれた、"胸部式弾込閃術(おっぱいリロード)"!」

「んむ……完璧にモノにしてるな、素晴らしく最高だぞフラウ」

「でっしょぉ~、わざわざ練習したんだからさ。せっかくだからベイリルもやれば?」

「俺がやっても気持ち悪いだけだ」


 風力制御でやってやれないことはないだろうが……想像するだけでとてつもない躊躇(ちゅうちょ)が生まれる。


 空属魔術と重力魔術――勝手は全然違えども、使う術技には似通ったモノは少なくない。

 それは俺もフラウもお互いに、様々な部分で影響をし合っているゆえであった。


 しかしハーフエルフとハーフヴァンパイア、それぞれ枯渇と暴走から成り立った差異が個性となる。

 フラウは力技(ちからわざ)のほうが得意であり、俺は繊細な技術のほうを得意とする。

 それが同じようにリボルバーを使っていても、戦型(スタイル)に如実に表れていた。


「男だから谷間もないし」

「あーしも、もうちょいあったらなー。キャシーくらい」

 


 のんきにくっちゃべりながらも、堂々と道の奥の(ほう)から歩いてくる集団へと注視する。


「おでましか」


 周囲で戦意喪失しているような木っ端ではなく、屈強を絵に描いた海の(おとこ)といった様相。

 海のチンピラ共とは違う――まさに歴戦の海賊然とした連中であった。


「あっちは歯ごたえがありそうだね~」

「と言っても雰囲気がな……」


 船乗りとして鍛錬された筋肉と、精神性を瞳に宿す屈強海賊達。

 彼らは周囲のチンピラ海賊に一瞥(いちべつ)をくれるだけ……それも(さげす)みを孕んだ色であった。


「失礼したなぁ、客人さん。こいつらはまあ……浅い連中でなあ」

「いやなに、良い運動になった」


「はっはっはっは!! まあ後片付けはこいつら自身にやらせとく。でだ――"首領"がお呼びだから案内しよう」

「色々とやらかした手前……いいのか?」

「始終見た上でのお呼びだからな。おれらもあんたらも気にすることじゃない」


 俺はリボルバーをホルスターに納めると同時に、後ろ手に空属魔術で風を操った。

 地面に落としていた薬莢を、フラウの分もまとめて残らず回収する。

 薬莢も再利用可能な大切な資源であり、テクノロジーの漏洩を防ぐ意味もある。


「話が分かる奴がいるってのはいいもんだ」

「お互いにな。さっ、こっちだ」


 バルゥのような人脈(コネ)がない以上、素直に交渉の場を設けられるのは僥倖(ぎょうこう)である。

 不安を期待を入り混じらせ、俺達は待ち人の元へと向かった。


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