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異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~  作者: さきばめ
第三部 戦が結ぶ合縁奇縁 1章「たった一つのスマートな迷宮攻略」
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#114 制覇特典 I


 ――話をしよう。黄竜を打ち倒したところまでは、全てが順調であったと言える。

 だが"大型穿孔錐(ボーリングマシン)"は人工庭園から引き上げられ、いつの間にか穴は塞がれてしまっていた。

 結局俺達は聞くも涙、語るも涙。迷宮(ダンジョン)を最下層から地上まで、片道制覇するハメと相成った。


 悪意しか感じない即死トラップの雨あられ。精神に訴えかける幻惑空間。

 浮揚する足場をパズルのようにハメこんで、正規ルートを通らねば踏破できぬギミック。


 絶滅したとされる巨人族からの逃走。その先に待ち構えた、素敵で秘密な出会いと別れ。

 既知の生物相から逸脱した、独自の進化を遂げたような謎魔物との遭遇戦。

 生きたワーム内壁が常に形を組み換え続ける迷宮と、奥底で待つミノタウロスとの対決。


 ワーム海の水が流入し満たされたエリアで、水棲魔物相手に大立ち回り。

 温厚なれど竜を信仰するリザードマンの集落へ、黄竜の部位を持ち込んでしまって一騒動。

 攻略途中のバルゥとのはからずの再会、道中苦労話をしながらの共闘戦線。


 はてさて本の一冊にはなろうかという大冒険だった。

 製本技術が発達し、流通も円滑になった暁には、娯楽本として売り出すことも考えるほど。

 

 そして迷宮(ダンジョン)逆走攻略は――黄竜との決戦とはまた方向性が別だった。

 一個体としての総合力が試され、そして結果的に……能力を大いに磨かれる結果となった。

 持ち得るサバイバル技術を余すことなく駆使し、自らの全能を賭して切り(ひら)いた。


 ワーム内では時間感覚も喪失し、少なくとも100日以上は軽く費やしただろう。

 数多くの苦難やトラブルこそあれ、黄竜の部位を運搬していたおかげで、楽に制覇できたことは否めない。

 まともに攻略していたとしたら、一体どれほどの時間が掛かったかわからなかった。


 ただ……自らを高め鍛え上げる――今までになかった"修行"となったことも同時に疑いない。



 そして今――最上層にあたる屋敷広間にて、"無二たる"カエジウスを前にしていた。

 同時にニアも連れて来られていて、久方振りの再会を果たす。


「みんな……ごめんなさい」

「いやいや、ニア先輩はなんも悪くないです」

「それに無事でなによりだったわ」

「ニア先輩は……まさかずっとここに囚われていたとか?」

「いいえ、あなた達が地上に戻ったから改めて呼ばれただけよ」


 俺はほっと胸を撫で下ろしつつ、大きく息を吐いた。

 わざわざ迷宮街の商業権を得たのに、俺達に加担したことで拘束など目も当てられない。


 上座にて一言も発することなく、ただただ静かに見下ろすカエジウスへ向き直る。

 向こうから口を開く様子がないと見るや、俺は神妙に言葉を選んで様子をうかがう。

 


「――迷宮(ダンジョン)制覇しました。これが証拠です」


 そう言って背後に置かれた黄竜の分割された躯尾や爪牙へと、手を広げて指し示す。

 既に見抜かれている上での演技であろうとも……とりあえずそれで反応を見るしかない。


 カエジウスはしばらく黙っていたが、考えがまとまったのかゆっくりと口を開いた。


「誰かしらが最下層へ到達するには、まだまだ猶予があったはずだが……黄竜の"雷哮"が空を走った。

 さしあたり土埋めだけをさせ、自ら周囲を探してみれば――なんとも奇っ怪なシロモノを見つけた」


 虚空を見つめるように、もったいぶった調子でカエジウスは語り続ける。


「見たことのないモノだったが、地面を掘る機能があることは状況からすぐにわかった」


 少しずつ声の抑揚(トーン)が下がっていくのを感じる。

 それはカエジウスの感情を、如実(にょじつ)に表しているようだった。


「"その場にいた者"に問うてみた、我が地にて店を構えるそこな"ニア・ディミウム"にな」


 糾弾するようにぐっとカエジウスの視線が、ニアへと突き刺さった。

 ニアはいたたまれぬ表情で目線をそらしてしまう。


「そやつは地質調査などとのたまった。まあ察しはすぐについたし、地中のモノを引き上げれば一目瞭然」


 こっちとしても弾劾(だんがい)を想定をしていなかったわけではないが、返す言葉が見つからない。

 というよりは気が穏やかでない五英傑を相手に、下手に(げん)を遮って刺激したくなかった。


「当然だが穴はすぐに塞がせてもらった。純粋に迷宮(ダンジョン)を攻略してもらう為に造ってきたが、侮辱された気分よの」


 肩を落として顔を下に向け、目を瞑りながら深く溜息を吐くカエジウス。

 そこに関しては正直なところ、申し訳ないという気持ちもなくもなかった。

 


「そしてキサマらはこうして現れた。もっとも倒された黄竜から名を聞き、だろうな――とは(おも)とった」


 カエジウスは視線を上げると、改めて全員の顔を見つめていく。


「だが振り返ってみれば……確かに、"自由にやれ"という(むね)をまんまと言わされていた」

「申し訳ない。あの時点で頭に絵図が浮かんでいたので、引き出させてもらいました」


 空気を読みながら、すかさず俺は謝罪を述べる。


「もっとも地上へ戻るまで、大分苦戦した様子――」

「正直に言えばまぁ……堪能させていただきました、良くも悪くも」


「なれば、少しは溜飲も下がる」


 剣呑(けんのん)な雰囲気が緩和されたのを、はっきりと感じた。

 時間の浪費こそあったものの、迷宮(ダンジョン)逆走攻略それ自体を通じて得たモノは決して少なくなかった。


「黄竜を討伐したことは事実だし、約束を反故(ほご)にするのも矜持(きょうじ)に関わる」


 問い(ただ)されて制裁すらも覚悟していたのだが、思ったより話がわかる爺さんにとりあえず胸をなで下ろす。



「――よって温情を与える。キサマらのやったことも、今後の良き課題である」

「ありがとうございます、俺たちもいい経験はさせてもらいました」


 俺は深く頭を下げると、フラウ、ハルミア、キャシー、それにニアも続いて礼をする。

 一拍置いてから恐る恐る、俺はダメ元で尋ねてみる。


「ちなみに穴を空けた道具についてですけど――」

「大した使い道もないのでな、没収などはしておらん」

「わたしの店の裏でしっかりと保管してあるわ」


 ニアの言葉にとりあえず安心はする。あれも貴重な商会の財産である。

 個人的に使ったりはしても、それを壊しただの、失くしただのはあまりしたくなかった。


「――ではまず言っておくべきことを一つ。迷宮(ダンジョン)の攻略情報は、向こう二年は他言せぬこと」

「二年もあれば……完全に造り変えてしまうということですか」


「そういうことだ――では。さあ願いを言え、どんな願いでも三つだけ叶えてやろう」


 カエジウスは「許せる範囲でだがな」と付け加え、こちらの返答を待った。


「んでは、遠慮なく。お約束なんですけど、願いを百個にするというのは?」

「別に構わんが、叶うべき価値基準も相応になる」


「じゃあ三つでいいです。一つ目は――」


 これは最初から決めていたと同時に、唯一の願いでもある。

 

「ここカエジウス特区領における"採掘権"が欲しい」

「ほう……」



 冒険者などに依頼していた世界中の"地勢調査"の結果。それらを一部分析していって判明したこと。

 この土地には"浮遊石"が大量に埋蔵されているのがわかった。

 恐らくはワームが関係していると思われ、迷宮(ダンジョン)内部でも散見された。


 どういう原理なのかは不明であるが、工業的にも建築遺産的にも注目すべき素材。

 さらに実用化が進めば、軍事面においても重要な物質になりえよう。

 元世界には……少なくとも地球にはなかったロマン溢れる資源――絶対に確保しておくべきものだ。


「まあよかろう、周囲の環境を過度に破壊することのないよう留意せよ」

「どうもです。この紋章をつけている人間を派遣するので、よしなに」


 俺はそう言って外套(ローブ)の肩にある、シップスクラーク商会の紋章を見せる。

 国家的な干渉はカエジウスにとって御法度(ごはっと)だろうが、今はまだ商会規模だから問題ないようだった。



「二つ目の願いを言うがよい」

「それがまだコレといって決まってなくて――」


 俺はちらりとフラウ、ハルミア、キャシーへと目を移す。


「私はその……攻略前に、叶っちゃった――ってことでいいかも知れません」

「あーしの願いは帰りの攻略途中で叶っちゃったかな~」


 フラウは俺とハルミアをそれぞれ交互に見る。

 まあずっと迷宮に潜っていたゆえに、そういうの(・・・・・)は既に済ませてある。


「アタシの願いはベイリルとフラウに勝つことだしなあ。自分で叶えることだから関係ないや」


 キャシーは後頭部で両手を組みながら言い、俺はニアの(ほう)へと視線を移した。


「というわけで、ニア先輩が良かったら……なんかどうぞ」

「いえ、わたしは遠慮する。対価をもらっての仕事だったし、それも最後まで果たせなかった」


「まぁ……そう(おっしゃ)るなら――」


 細かく考えるなら、それこそ叶えてもらえることは山ほどある。

 金が欲しい、宝物が欲しい、永久商業権でもなんでもいい。

 それらはどんなものでも、小さくない利益に繋がってくれるだろう。

 

 しかし可能な限りで叶えられる3つの願いとなると、なかなかに悩ましいところだった。


 迷惑を掛け世話になったニアになら、一つくらい譲っても良かったのだが……。

 彼女にはそもそも自分自身で努力・遂行し、その成果を良しとする信条がある。

 だからあまり無理に譲っても、逆に反感を買うだけにも思えた。



「"無二たる"殿(どの)、今までの制覇者は何を願ったんでしょう? よければ参考にしたいんで」

「多かったのはやはり"召喚契約"だ」


 迷宮街を構成するのに、切っても切れないカエジウスのみの法。

 強制契約をしつつも相手の思考能力を奪わないその性質は、通常の魔術契約の域を逸脱している。


「"魔法"なんですか?」

「質問ばかりか――完全とは言えんが制覇したゆえ、仕方なく答えてやるが……魔法だ」

「つまり魔法使(まほうし)――さすがは五英傑と言えばいいんでしょうか」

「……さてな、迷宮(ダンジョン)以外のおべっかはいらん。さっさと願いを決めろ」


 引っかかりを感じつつも急かされるように言われ、俺は叶えるべき願いを質問と同時に投げかける。


「ワームって召喚契約できますか?」

「無理だ、この一匹のみしか存在しない。完全に死んだわけではないが、蘇生させることも不可能だ」


(……カエジウス本人は、ワームと契約することはできなかったんだろうか?)


 それは一つの素朴な疑問だった。とはいえこんなデカブツを養えるわけもないか。

 すると様子を眺めていたキャシーが、思いついたように口にした。

 

「そうだ、"黄竜"だ――黄竜と契約しようぜ!」




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