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異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~  作者: さきばめ
第三部 戦が結ぶ合縁奇縁 1章「たった一つのスマートな迷宮攻略」
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#100 無二特区 II


 夜明けと共に、温もりの中で体を起こす。

 寝覚めが良いのは、質の高いベッドと布団のおかげだろうか。

 そこまで要望は出していなかったのだが、ニア先輩が良い部屋を用意してくれたおかげだ。

 

 しかしなにやら下半身に違和感のようなものに気付く。


「んっく――ぷはぁ、ベイリルおはー」


 唇を離したフラウは糸を引きながらいつもの調子を見せる。


「……あぁ、おはよう」

「うん、そいじゃ――」


 同じベッドで横に眠っていたフラウは、先に起き出してなにやらコトに及んでいた。

 再開されるソレに対し、俺としても特に拒むことなく受け入れる。


「ところで、なにゆえ朝っぱらから?」

「っふ……んんっ、だって昨晩やってくれって言ったじゃん」


 答えてすぐにまた始めるフラウの頭を撫でつつ、俺は昨夜を思い出す。



「言ったっけか? それならさすがに覚えてると思うんだが」

「言ったよ~? こうやって起こしてくれって」

「まじかぁ、ハーフエルフに生まれてからの記憶力は自信あったんだが……」


「だよね~ほんとは言われてない」

「……やっぱりか」

「あはは~日頃の調教の賜物(たまもの)と思いたまへ」


 閨を共に過ごし続けたフラウは的確にツボを心得ていて、俺を頂きへと(いざな)う。

 

「なんとなく人聞きが悪いなあ」

「じゃーやめる?」

「やめないで」

「オッケィ、まっかせなさい」


 こちらの反応と限界も見抜かれ、フラウはペースを上げる。

 その手練手管は……確かに俺が仕込んだ(わしがそだてた)、とも言えるのかも知れなかった。


「うっく……ふぁ、んっぐ――うん」

「まぁ飲んでもらうのは嬉しいんだが、美味いのか? 無理してんのなら別に」

「ん~? もう慣れたよ。それにほら、半吸血種(ダンピール)だし血の代わり的な?」

「栄養になる、のか」

「……多分?」


 確かに血肉から魔力は得られるという話だが、それは非常に微々たるものだろう。

 吸血種(ヴァンパイア)と呼ばれていても最初期の風習のみでしか見られず、すぐに(すた)れたと聞く。


「はーい、おしまい」

「ありがとよ、最高だった」


 そう言って最後まで綺麗にしてくれたフラウに俺は素直に感想を述べる。

 まぁ寮生活の頃も何度かあったが、基本的には俺のほうが早起きだからこうした機会は少ない。



「いやーしっかし昨日は久々に燃えたね!」 

「確かに……結構ご無沙汰だったからなぁ」

「思いつきでやってみたけど、意外と良かったねぇ無重力(・・・)

「布団汚したらアレだからって、ちょっとアクロバティックすぎたわ」


 全員とねんごろになってしまえば、気兼ねなくできるのだが……実際はそうもいかない。

 ハルミアとはいずれそうなりたいが、キャシーはまぁそうでもあるまい。


 アホなことを話し、アホなことを考えながら服を着ていく。


「あれっもう一回しないんだ? あーしちょっと昂ぶってんだけど」

「やらんやらん、ハルミアさんとキャシーも起きてくるだろうし」

「一人でスッキリしてずっこい」

「また今夜な、時間はたっぷりあるさ」


 長期滞在になる可能性も考え、希望通り部屋を2つ確保してくれていて本当にありがたい。



 全員揃って食事を()ったら、とりあえず迷宮街最大の店で情報収集でもしようか。

 当然目指すべきは、ワーム迷宮(ダンジョン)の最下層制覇である。

 叶えられる願い事とやらが、どの程度かはわからないが……腕試しにも丁度良い。


(少なくとも一個だけ叶えたい願いは――決まっている)


 シップスクラーク商会の情報網から得た、この土地特有のもの。

 カエジウスの裁量内で叶えられることだし、きっと叶えてくれるだろう。

 "文明回華"という、大いなる野望の為の(いしずえ)の一つとする為に欲しいところだ。


(取らぬ狸の皮算用。まずは目の前のことを達成すること、か)


 前人未到というわけではなく過去に何度か達成されているのだから、やってやれないことはないハズだ。


 なんだったらカエジウス本人とも……戦ってみたいとすら思ってさえいるのだった。


 



 ――"黄龍の息吹亭"。

 "七色竜"の一柱の名を借りるその店は、迷宮街で唯一歴史ある老舗(しにせ)である。

 迷宮街の中央で、拡張を重ね続けた店は圧倒的な広さを誇る。


 情報売買と交流の為の酒場を備え、昼夜を通して活気が絶えることはない。

 さらに迷宮(ダンジョン)で得た素材や物品の売買、その多くを一手に担っている。

 そうした流通が迷宮(ダンジョン)内の生物相や構造のみならず、挑戦者の実力まで測るデータとなっていた。



 俺とフラウとハルミアとキャシーの4人は、酒場の入り口付近から内部を見渡す。


「あははっ結構いんなぁ、歯ごたえのありそうなのが」

「ダメですよキャシーちゃん、問題起こすのは」

「これって全員挑戦者なのかな?」

「う~ん混沌(カオス)だ」


 多種族が雑多にごった返すその光景は、学園の学食風景を思い出す。

 さしあたって有望そうな人間とでも絡もうかと、じっくりと見渡しながら物色していく。


 自然と目に留まったのは――壁際の席に座る、大柄な虎人族の男。

 歴戦の傷のようなものが散見され、グナーシャを思い出させる。

 上半身が隠れるほどの丸盾に、剣とも斧とも取れぬ刃渡りの武器を立て掛けていた。

 

 (かも)し出される雰囲気は……強者然としていることを隠す様子はなく。

 結果的に近寄り難いのか、大きめのテーブルを1人で占有しているように見受けられる。


「あそこにしよう」


 反対意見は出ない、考えることはみんな一緒のようであった。

 それが丁度よい()き席だとばかりに、連れ立って真っ直ぐ歩いていく。



 すると鍛えたハーフエルフの感度高めの聴覚に、薄っすらと声が入ってきた。


『おいアレ見ろ』

『怖いもの知らずか』

『新参っぽいな、なんか揉め事おこさねえかな』


 聞こえるのは獅人族のキャシーも同様のようで、耳がピクッと動いてわかりやすかった。


 虎男の近くまで来ると、ジロリと一瞥(いちべつ)される。

 凄まれているようにも感じるが、威圧されるようなものは感じない。


「どうも、相席いいですか? (おご)りますよ」

「いらぬ世話だ、群れるのは苦手でな」


 淡々と、にべもなく断られてしまう。

 はっきりとした拒絶の意思というよりは、ただ面倒という印象。

 本人の風貌がアレなだけで、粗暴というわけではないようだった。


「まぁまぁ固いこと言うなっておっさん、ちょっと話聞くだけだ」

「キャシー、そこはお兄さんって言おうよ」


 ドカッと遠慮なくキャシーが隣に座り、フラウも物怖じせず続いて座る。


「オレは四十を数えるおじさんだ、間違いではない」

「とてもよく研ぎ澄まされた肢体(にく)ですね、素晴らしいです」


「うん……ああ」


 人体を観察するようなハルミアの言葉に、虎男は少し戸惑った様子を見せた。



「ベイリルです、よろしく」


 俺はスッと右手を差し出し、半眼で値踏みされながらも握手を交わす。

 キャシーとフラウだけでなく、ハルミアも俺も今更恐れるようなことはあんまりない。


「あーしはフラウ~」

「ハルミアと申します」

「キャシーだ。おっさんの名前は?」


「オレは――"バルゥ"だ」


 立て続けに俺達に自己紹介されて、渋々名乗る様子を見せるバルゥという名の虎人族の男。

 こうして座れたことで、とりあえずファーストコンタクトは成功と言えるだろう。



「なぜ貴様らは、わざわざオレへまとわりつく」

「バルゥ殿(どの)()耳をすませてたんですよね」


 そう言うとピクっと虎耳が動く、隠そうとしてもなかなか隠せない習性のようなもの。

 獣人種の反応はリーティアで散々見てきたので、よくよく知っている。

 獣の本能的な部分が、どうしたって理性とは別に反応しやすいのであった。


「この場で見るからに一番強そうですし、有益な情報が得られるかと」

「それをちょっと(おご)る程度で聞き出そうというのか」

「もちろんそれだけじゃないです、いい店を紹介しますよ。大概のモノを安く揃えられます」

「別に店にも金にも困ってないがな」


「なぁバルゥのおっさん、アンタ傷が多いなあ」

「他人に話すようなことじゃない」

「もう他人じゃないだろ? 少なくとも知り合いだ」

「馴れ馴れしいことだ」


 言葉にトゲは感じるものの、バルゥは無礼にも思えるキャシーに対し心底不機嫌な様子を見せない。

 同じ猫科を基本する獣人同士、気が合うところもあるのかも知れない。



「知り合いとて簡単に語るようなことではないがな」


「まっ……悲惨な過去を語らせたら、俺らもなかなかのもんですよ」

「んじゃまずはあーしから」

「一番悲惨なフラウが最初に話すなって」

「となると私からですかねぇ――」


 するとバルゥは何かを思い出すような仕草を見せると、観念したように僅かに微笑を浮かべた。


「わかった、何が聞きたい?」


「せっかくですから、まずは友好を深めましょうか」




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