ボトルメール
幼い頃、旅行先の海でボトルメールを拾った。初めての、絵本やテレビで見たような経験に踊った心を、今でも覚えている。
少し色のついた瓶の中に入った、何かが書かれている紙。幼い私は、それを取り出すのに随分と苦労した。
今思えば、その瓶を割ってしまえばよかったのだろう。しかし、その小ぶりでかわいらしい瓶を割るという発想はその時の私には無く、狭い瓶の口からようやっと取り出せた手紙はボロボロになっていた。
そのボロボロの手紙に何が書いてあったのか、私はもう忘れてしまった。
今の私に残るのは、ボトルメールを拾った時のドキドキと、手紙を取り出すのに苦戦し試したあれやこれ、そして、色のついたかわいい瓶だけだった。
それでいいのだ、と。
それさえ残っていれば十分だと、私は思う。
ペンを取りながら、考える。色のついた、かわいらしい小瓶。ボトルメールを拾った時の、あのドキドキ。それさえ残せたら、私は悔いはないのだ。
中身が無いわけではない、それでも取り留めのない文を綴った手紙を、私は小瓶に詰める。
願わくば、あなたの思い出の一幕に。
遠くに流れていく小瓶を見ながら、私はただそう願うだけなのだ。