四:聖女と羞恥
「交換っこ?」
「はい。私もバニラ味を食べたくなってしまいました。それに……ティアにもチョコ味も食べてみてほしいんです」
「ちょ、チョコ味を……っ」
あの黒い謎の物体を……食べる。
私が思わず言葉を失っていると、
「ダメ……でしょうか?」
ユフィは見るからにしょんぼりとした様子で、上目遣いでそう問いかけてきた。
(うっ……それはズルいよ)
そんな捨てられた子猫のような目をされたら断れるわけがない。
「……もぅ、わかった。いいよ」
「やった! ありがとうございます!」
するとユフィはさっきまでの元気の無い表情から一転、花のような笑顔を浮かべた。
「でも、交換っこって言ってもどうやって――」
私がそう言い切る前に、ユフィはチョコ味のあいすくりぃむをこちらに向けた。
「はい、あーん」
「……ふぇ?」
私が困惑げに首を傾げると、ユフィも同じように首を傾げた。
「えっと……あーん、ですよ?」
そう言って彼女は小さく口を開けて見せた。
「え、あ、ご、ごめんねっ」
ようやく「あーん」の意味を理解した私は、ぎこちなく口を開けた。
何だか周りに見られているような気がしてちょっと……ううん、かなり恥ずかしかったけど……。この流れで断るわけにはいかない。
「あ、あーん……あむっ」
チョコ味のあいすくりぃむが口の中に広がった。
「ふふっ、おいしいですか?」
「う、うん、おいしいよっ」
口ではそう言ったものの……正直、ドキドキしてあんまり味はわからなかった。
多分、甘くておいしかった……と思う。
「では今度は、ティアのバニラ味もいただけますか?」
胸のドキドキが収まらない内に、ユフィは続け様にそう言った。
「え、あ、うん……っ」
混乱しながらもとりあえず私が頷くと、
「あーん」
目を閉じたユフィが口を開けた。
「あ、あーん……っ」
ユフィの口元にバニラ味のあいすくりぃむを差し出す。
(こ、これは……)
される方も恥ずかしいけど、する方もする方で恥ずかしい……っ。
顔を赤くしながら「は、早く食べて……っ」と願っていると、ようやくユフィの口が動いた。
「はむ……うん! やっぱりバニラ味もおいしいですね!」
「そ、そっか! それはよかった!」
キョロキョロと周囲を見渡して、誰にも見られていないかを確認する。
別に知り合いの人がいるわけじゃないけど……とにかく恥ずかしかった。
「あっ、ティア。動かないでくださいね」
「え、ど、どうしたの?」
ユフィの言う通りにその場で固まっていると、彼女の細い指が私の頬っぺたをスッと走った。
「ふふっ、アイスがついていましたよ?」
するとユフィは手に付いたアイスを口に含んだ。
「……うふふっ。ティアの味がします」
「も、もう何を言っているの!」
「あはは。冗談ですよ、冗談」
「も、もぅ!」
いたずらっ子のように笑うユフィの背中をポカポカと叩く。
それからユフィと一緒にあいすくりぃむを食べ終わると、
「あっ、ティア。あっちで輪投げがありますよ! 行ってみましょう!」
すぐに新しい出店を見つけた彼女が、私の手を取って走り出した。
「ちょ、ちょっとユフィ!?」
その後も二人で一緒にいろいろ催し物を楽しんだ。
彼女は私が思っていたよりもずっと活動的で、少し子どもっぽいところもあるみたいだった。ユフィの新たな一面を見れたような気がして、何だか嬉しかった。
何より、これまで私は同年代の友達が一人もいなかったので、こんな風に女の子と一緒に遊ぶのがとてもとても楽しかった。
■
その後、
「ふぅ……。ちょっとだけ疲れましたね」
輪投げにボールすくい、くじ引きと一通りお祭りを堪能した私たちは、近くのベンチに腰を下ろしていた。
「あはは、ユフィがはしゃぎ回るからだよ」
「ふふっ。普段はお仕事があって、城内からあまり抜け出せませんからね。こういうときは目一杯遊ぶって決めているんです」
「な、なるほど……」
そう言われると、納得してしまう。
彼女はロンドミリア皇国の皇帝。
私なんかには想像もできないほど、忙しい毎日を送っているのだ。
「あっ、そうだ。この近くに気持ちの良い風が吹く河原があるんですよ。もしよろしければ、一緒に行きませんか?」
「うん、それいいね!」
今回のお祭りはとても楽しかったけれど、田舎育ちの私には少しだけしんどいところもあった。日頃から畑仕事を手伝っているから、体力的には全然大丈夫なんだけれど……。
(『人疲れ』って言えばいいのかな……?)
これまで見たことないほどたくさんの人に囲まれて、何だか精神的に疲れてしまっていた。
そんな状況の私にとってユフィの申し出は本当にありがたかった。
それから彼女に連れられて右へ左へと街を進んでいくと、パッと視界が開けた。
「さぁ、到着です」
「うわぁ……いい風」
ユフィの言う通り、本当に気持ちの良い風が吹く河原だった。
透き通るような綺麗な水が流れ、小鳥のさえずりに心が洗われる。
そう、本当にいい場所なんだけれど……。
「な、何か変な人がいる……」
私の視線の先では、獣の仮面をかぶった大柄の男の人がいた。その手には大きな木刀が握られており、上半身裸のまま素振りを繰り返していた。
※次回更新は数日以内。
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