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三:聖女と未知

 ユフィの後を追って飴屋さんに到着した私は、そこに並べられてある商品を見て息を呑む。


「うわぁ……綺麗……っ」


 赤い飴でコーティングされた果物は、宝石のようにキラキラと輝いていた。


「ティアはどれにしますか? ちなみに私は、いつも通りのチビリンゴ飴です!」


 そう言ってユフィは手のひらサイズの可愛らしい飴を指差した。どうやらあれが彼女の好きな食べ物のようだ。


「ちょ、ちょっと待ってね……っ」


「ふふっ、ゆっくりで大丈夫ですよ。飴は逃げたりしませんから」


 それから私は、ズラリと並べられた飴に視線を向ける。


(こっちがブドウの飴で、あっちがサクランボの飴。あれは……イチゴの飴かな?)


 どれも本当に美味しそうなものばかりで、中々決めかねていると――はっと気付いた。


「え、えっと……。ごめん、ユフィ。私、お金持ってないんだけど……」


 朝の水汲みに行っているときに召喚されたものだから、愛用のガマ口のお財布は戸棚の中にしまったまま。現状、私は完全な一文無しだ。


 するとユフィは一瞬驚いたように目を大きく開いた。


「そ、そんな、お金のこと何て気にしないでください! ティアはこの国のために力を貸してくださっているのですから! 全て国費として処理させていただきます!」


「ほ、本当にいいの?」


「はい、もちろんです! もう気の向くままに、好きなだけ食べていただいて構いません!」


「そ、それじゃ……このイチゴの飴が食べたいな」


「こちらですね? わかりました! ――すみません、ヒメイチゴ飴とチビリンゴ飴を一つずつお願いします」


 通りのいい凛とした声でユフィがそう言うと、


「ヒメとチビ一つずつね! 二つで五百ロンドだよ!」


 青色の派手な法被(はっぴ)を羽織ったお爺さんが笑顔で対応してくれた。


「はい、五百ロンドちょうどです」


「まいどあり! 好きなの持ってきな!」


「ありがとうございます。さぁティア、お好きなヒメイチゴ飴を選んでください」


「うん、ありがと」


 私はいっぱい置かれてあるヒメイチゴ飴の中で、ちょっと大きめに見えたものをサッと確保した。


「それでは早速いただきましょうか」


「うん!」


 食べるのがもったい無く思ってしまうほど綺麗なそれを、私はゆっくりと口へ運ぶ。


(っ!?)


 ほんのりあったかい飴は口に含んだ瞬間にパリパリと割れ、口の中が幸せな味で満たされた。


(こ、こんなに甘いの……初めて……っ!)


 それに飴の甘みが染み込んでいるのか、中に入った果物も普通のより濃厚な甘さがあった。


「お、おいしい……っ」


「ティアが気に入ってくれてよかった。実は私もこの飴細工が大好きなんです! とってもおいしいですよね!」


 そうして二人で食べる歩きをしていると、ユフィの好物センサーにまた反応があったようだ。


「あっ、ティア。見てください! あっちにアイスクリーム屋さんがありますよ!」


「あ、あいすくりぃむ屋さん?」


 その聞きなれないお店の名前に、私は首をかしげる。


「……? もしかして……ティアの世界には無かったのですか?」


「う、うん『あいすくりぃむ』なんて食べ物は聞いたことないよ」


「こ、こんなに美味しいものを食べたことがないなんて……っ!」


(ゆ、ユフィがここまで言うなんて……)


 そんなに美味しい食べ物なのだろうか……?


 好奇心を強く刺激された私は、あいすくりぃむ屋さんの方に目をやる。

 ガラス張りの大きなケースの中には、銀色の箱がたくさん詰まっていた。そしてその銀色の箱の中には白・黒・赤・青・黄と、様々な色の『何か』がたくさん入っている。


 多分あれがユフィの言っているあいすくりぃむ何だろう。


(……でも、そんなに美味しそうに見えないけどなぁ)


「こんなカラフルな食べ物見たことが無いんだけど……。野菜……じゃないんだよね?」


 私のいた世界でカラフルな食べ物といえば野菜だ。

 それだって、ここまでいろんな色があるわけじゃない。


「や、野菜ではないですね……。もっと甘くて冷たいものですよ」


「つ、冷たいの!?」


 こんなにカラフルなのに、甘くて冷たい――どんな味がするのか想像もつかなかった。


「うーん百聞は一見に如かず……ですね。一つずつ注文してみましょう! ティアは何味がいいですか?」


「う、うーん……」


 バニラ・チョコ・イチゴ・チョコミント・グレープなどなど、商品の名前が書かれたラベルが張り出されているけど……。


(……どんな味がするのか全然想像がつかない)


「ご、ごめんちょっとわからないや……。ユフィのおすすめは何味なの?」


「私のおすすめですか……。これは責任重大ですね……」


 するとユフィは顎に右手を添えながら、あいすくりぃむをジッと見つめた。


「うーん……。ティアのようなアイスクリーム初心者さんには……バニラやチョコのような一般的な味がいいと思います。チョコミントは好みが分かれますし、果物系統は味が濃い過ぎる場合がありますから」


「な、なるほど……」


 彼女におすすめされたバニラとチョコを見比べっこしてみる。


(白いのがバニラで黒いのがチョコ……。うーん、ちょっとチョコは毒々しい色だなぁ……)


 どちらかという真っ白なバニラの方がまだ食べ物に見える。


「そ、それじゃバニラ……でお願い」


「わかりました。――すみません、バニラとチョコを一つずつお願いします」


 どうやらユフィはチョコのあいすくりぃむの気分のようだ。


「かしこまりました。バニラとチョコですね」


 かわいい制服に身を包んだお姉さんは、大きなスプーンであいすくりぃむをすくい、それを円錐形

の茶色い入れ物に載せた。


「バニラとチョコで七百ロンドになります」


「はい、七百ロンドちょうどです」


「ありがとうございました」


 お姉さんからあいすくりぃむを二つ受け取ったユフィ。


「はい、ティア。バニラ味のアイスです」


「あ、ありがと」


(こ、こんな奇妙な形のもの……本当に食べて大丈夫なんだろうか……)


 私が呆然と手元のあいすくりぃむを見つめていると、


「いただきます」


 ユフィは黒い球体のそれを何の躊躇もなく、そのまま口に含んだ。


「んーっ。濃厚な甘さがとってもおいしいですっ!」


 どうやらその味に満足したようで、彼女は幸せそうに身震いしていた。


「……ティア? 早く食べないと、溶けてしまいますよ?」


「ご、ごめん。い、いただくね……っ」


 私は意を決して、あいすくりぃむを口に含んだ。

 その瞬間。


「……んんっ!?」


 柔らかくて冷たくて甘くて――これまで味わったことの無い未知の衝撃が口内を駆け抜けた。


「お、美味しいっ! とっても美味しいよ、これっ!」


「あは。それは良かったです」


 それから私がバニラ味のアイスに舌鼓を打っていると。


「……ねぇ、ティア。もしよかったら、交換っこしませんか?」


 突然、ユフィはそんなことを言い出した。

高熱に倒れていました……。本日より更新再開です!

あともう少しで『14000』ポイントっ! これからも応援よろしくお願いします!

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もし最新話まで読んで少しでも面白いと思ってくださったのなら、読了報告代わりに評価を入れて頂けると読まれている事がわかるので、とても助かります。m(_ _)m


※次回更新予定は三日後! 『四:聖女と出会い』お楽しみに!

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