二:聖女とお祭り
こっそりとお城を抜け出すにあたって、私たちはまず変装をすることにした。
私はともかくとして、ティアはこの国の皇帝陛下。街中の人に顔を知られているため、せめて服装だけでもガラリと変える必要があるのだ。
(私はユフィだけ変装すれば十分だと思ったんだけど……)
彼女の話によると、私の顔や服装は国中の衛兵がしっかりと記憶しているらしく、絶対に変装する必要があるとのことだった。
それからいろいろな話があって、まず先に私が変装することになった。この世界の一般的な服装を知らないので、コーディネートは全てユフィ任せだ。
「うわぁ、凄く似合ってますよ、ティアっ!」
ユフィの選んでくれた服に着替えた私を、彼女はそんな言葉で出迎えてくれた。
上には白を基調としたシンプルな縦縞、半袖のブラウス。下には黒のロングスカートをはいた清楚な服装だ。
「そ、そうかな……?」
私は部屋に取り付けられた大きな姿見を見ながら、クルリと一回転してみる。
ここまでガラリと服装が変われば、印象も大きく変わるもので……何だか別人になったような気分だ。
「ものすっごく可愛いですっ! これにしましょうっ!」
「そ、そう……? それじゃ、これにしようかな……っ!」
何だか当初の目的からかなりズレている気がしなくもないけど……楽しいからいいや。
「ねぇ、ユフィはどんな服にするの?」
「私ですか……? そうですね……せっかくなので、お揃いのものにしましょうか」
そう言いながらユフィは鼻歌交じりに、私の着たのと全く同じブラウスとスカートを手に取った。
「い、いや……それはさすがに目立つんじゃないかな……?」
全く同じ服装を着た二人が一緒に街を歩くのは、少し目立ち過ぎる気がする。少なくとも私が通行人なら、ちょっとだけ注目して見てしまう。
「そうですか……。では、せめて色は変えることにします……」
ユフィはちょっとだけしょんぼりしながら、ベージュのブラウスと灰色のロングスカートを手に着替えるための別室に移動した。
少しして別室の扉が開き、
「ど……どうでしょうか……?」
ユフィは少し緊張した声で小首を傾げながら、そう問いかけてきた。
いつもの修道服のような服装も凛、とした感じがしてとても似合っている。でも、こういった柔らかい印象の服を着たユフィもとても『女の子』という感じがして可愛らしかった。
「うん、とっても可愛いよ!」
「そ、そうですか、ありがとうございます……っ」
実際のところ二人とも同じような服装だが、これは問題ないらしい。というのも上にブラウスを着て、下にロングスカートをはくのが、ロンドミリア皇国での一般的な女性の服装らしい。
そうしてこの国の平服に着替えた私とユフィは、場内を警備する衛兵の目を盗んで、こっそりと街へ繰り出した。
■
「ふぅ……ここまで来ればもう大丈夫、脱出成功です!」
「ま、まだ胸がドキドキしてるよ……っ」
ユフィは城内の衛兵の警備ルートを完全に把握しており、まるで針の穴を通すような完璧なタイミングで警備の目を潜り抜けた。
「さぁ、ティア。こっちに来てください」
「あっ、ちょっと待ってよ、ユフィ!」
そうしてユフィの後を付いて行くと、人の往来が盛んな大通りに到着した。
そこには私が生まれ育った村では考えられないほどたくさんの人がいた。
もちろんそれだけではない。
通りの両端には所狭しと露店が並び、芳ばしいソースのにおいや飴細工の甘いにおいがそこかしこから漂ってくる。
「す、凄い……っ!」
今まで体験したことのない『密度』に圧倒された私は思わず息をのむ。
「ふふっ、今日は百年に一度の降臨祭ですから」
「こ、降臨祭……?」
「はい。聖女大戦が行われるのは百年に一度。そして実は今日、聖女大戦が正式に開始される日なんです」
ユフィは笑顔のまま、とんでもないことを口にした。
「えっ!? そ、それって、大丈夫なのっ!?」
聖女大戦が正式に開始されたということは、今この瞬間にでも他の聖女が襲ってきてもおかしないということだ。それなのに、こんなにまったりとしていていいのだろうか。
「はい。むしろ今日が一番安全な日です。この日は他のどの陣営でも降臨祭が開かれ、これまで戦ってくれた聖女様に感謝を。そしてこれから戦う聖女様への必勝を祈願するもの。奇襲や不意打ちは過去何度もありましたが、この降臨祭の日に戦闘があった記録はありません」
「そ、そうなんだ……」
よくわからないけど、ユフィがそう言うならそうなんだろう。
「さぁ、行きましょう、ティア! 今日一日は存分に羽を伸ばして、遊びまわりましょうっ!」
「う、うんっ!」
そうして私たちはいろいろな露店を見て回った。
焼きそば屋さんに飴屋さん、それに割り箸の刺さった白くてフワフワな何かを売っているお店。様々な露店の中で、一際私の目を引くものがあった。
「ねぇ、ユフィ。あれはなに……?」
「ん? あぁ、あれはこれまでこの国に召喚された聖女様のお面です」
続けて彼女は、詳しい説明をしてくれた。
「左から雷神様・剣神様・創造神様・龍神様――といった感じです」
「へぇ……そうなんだ」
「その中でも特に、剣神様は熱狂的な人気があるんですよ! 特に女性のファンが多いですね。ここだけの話、実は私もその一人だったりします」
そう言ってユフィが指差した先には、ピンク色の髪をした美しい女性のお面があった。
「……剣神様?」
何か似たような呼び方を聞いたことがあるような……。
それにあのお面……誰かに似ているような……?
(はて……?)
私が何とも言えない既視感を覚えていると。
「ティア、あそこにリンゴ飴が売っていますよ! 行きましょう!」
好きな食べ物を見つけたらしいユフィが、興奮した様子で飴屋さんに向かって行った。
「あっ、ちょっと待ってよ。ユフィ!」
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※次回『三:聖女と出会い』お楽しみに!




