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十四:聖女と邪神


 あ、あれが私と同じ聖女……。


 黒い甲冑の兵を従え、威風堂々と立つその姿は――まさしく『聖女様』と呼ぶにふさわしい威容を示していた。


「せ、聖女まで引っ張り出して来るとは……っ。協定違反だぞ、ドミーナ王国よっ!」


 髭モジャは鋭い口調で叱責した。

 しかし、邪神リリ=ローゼンベルグはどこ吹く風といった調子で肩を竦めた。


「うっせぇよ、髭。その立派なの全部引き抜くぞ?」


「ぐ、ぐぬぬっ! それは……この私をロンドミリア皇国の宮廷魔導士と知っての戯言かっ!」


 そう言って右手を頭上に掲げた髭モジャの手には、燃え盛る炎の球体がフワフワと浮かんでいた。


(ま、魔法だ……っ!)


 魔法は私の世界にもある技術だ。

 でも、お父さんもお母さんも――もちろん私も使えない。都の方ではほとんどの人が使えるみたいだけど、私の住んでいる村は本当に田舎で誰も魔法なんて使えなかった。だから、この目で魔法を見るのは初めてだ。何というか……とってもかっこいい。


 すると――。


「……あ? 誰に向かってモノ言ってんだ?」


 髭が作り出したのよりも遥かに巨大な炎の塊を、なんと両手に出現させた。

 それを見た髭モジャは、


「……」


 黙って炎の球を消すとサッと私の背後に隠れた。

 さっきの勢いはどこに行ってしまったんだろう……何かとってもかっこ悪い。


「せ、聖女様っ! あのふとどきものに正義の鉄槌をお願いいたしますっ!」


「ティア……どうか、よろしくお願いします」


 髭はともかくとして、ユフィに――大事な友達にお願いされたからには、やるだけやってみなければならない。


「が、頑張ってみるね……っ」


 一度大きく深呼吸をした私は、一歩大きく前に踏み出した。


「それで? ロンドミリアの聖女様は、あんたってことでいいの?」


 髭モジャとの格付けを早々に終わらせた邪神リリは両手の炎を消し去り、私の方をジッと見ながらそう尋ねてきた。


「え、えっと……一応そう、みたいです……」


「……ぷっ。あっははははははっ! 喋る闘神ったこりゃぁ傑作だ! 異物ってのはマジみてぇだなぁ!」


 喋る闘神というのがそんなに面白いものなのか、リリは私の方を見てお腹を抱えて笑っていた。


(そ、そんなに笑わなくても……っ)


 何か言い返してやりたい気になったけど、相手はあんなに大きな炎を一瞬にして二つも作り出す恐ろしい聖女だ。

 あまり安易に言い返してしまうのもどうかと思われた。

 そうこうしている間にも、髭とユフィは私にギリギリ聞こえるぐらいの小さな声で会話をしていた。


「陛下、あの不躾な聖女のステータスは?」


「少々お待ちください……腕力C知能A耐久C敏捷B魔法B幸運A。さすがは『邪神』クラス……かなり高水準にまとまった、いいステータスをしていますね……っ」


「なるほど……しかし、最高位のSランクはなし。それに知能を除く全ステータスにおいてて、こちらの聖女様の方が上っ! これは勝てる戦ですぞっ!」


 知能のくだりは本当に余計だと思うけど……今の情報はとても大きい。

 一応ステータスの上では、私はリリに勝っているみたいだ。


(そ、それなら……っ。勝つことは難しくても、追い返すことぐらいはできるかも……っ)


 私のクラスは闘神。髭モジャの話しによれば、近接戦闘においてはほとんど無敵の存在らしい。……全然、そんな実感ないけど。それと情報ソースが髭モジャというところにそこはかとない不安を感じるけど……っ。


(あの恐ろしい炎に気を付けて、距離さえ詰めてしまえば……)


 何とかなるかもしれない……っ!

 そんな皮算用を頭の中でしていると。


「はいはい、つまんないつまんなーい。そんなステータスランクの小っせぇ違いで、ガタガタ言ってんじゃねぇよ」


 リリは非常に耳がいいらしく、どうやらさっきの話は筒抜けだったようだ。

 すると開き直ったように、髭モジャは大きな声で挑発し始めた。


「ふっふっふっ! レベルの拮抗する聖女の戦いにおいて、ステータスランクの差はあまりにも大きいっ! 残念ながら、負け犬の遠吠えにしか聞こえませんなぁ?」


 しかし、リリはそんなわかりやすい挑発には乗らなかった。


「まっ隠してもすぐにわかることだし、もう言っちまうか……。実は、あたしもいわゆる異物って奴なんだよなぁ」


「……なっ、何だとっ!?」


 髭モジャの顔が一気に真っ青になり、そこに追い打ちをかけるようにリリは拳を開いた状態で突き出した。


「ちなみにあたしのレベルは――500だ」


「「「なっ!?」」」


 ユフィに髭モジャ、それから白い甲冑の人たちに大きな衝撃が走った。


「あ……あり得ませんっ! この世界のレベル上限は100のはずっ!?」


「た、ただのハッタリに決まっていますぞっ! 歴史上、聖女のレベルが100を越えたことは一度もなかった!」


 ユフィと髭モジャの悲鳴のような叫びを受け、リリは満足そうにニヤニヤと笑みを浮かべた。


「あんたらの作った小せぇ、枠組みなんて知らねぇよ。ただ事実として、あたしのレベルは500――まぁ、じきにそれもわかるさ。――その身をもってなぁ!」


 リリは大声をあげると、何もない空間から漆黒の旗を取り出した。

 どうやらアレが彼女の武器のようだ。


「……陛下、これは一時撤退した方がよろしいかもしれませんっ」


「……そうですね、爺や。時空間魔法の展開にはどれくらいの時間が必要ですか……?」


「陛下と聖女様の二人だけを転送させるとしても……最短で五分はかかります」


「……私とティアで、何とか時間を稼ぎます」


 ユフィも髭モジャも、白い甲冑の人たちも――みんな顔が真っ青になって震えていた。


 そんな中、私は一人違う意味で震えていた。


(ど、どうしよう……。このままじゃ、殺してしまう(・・・・・・)……っ)


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