十二:聖女と加護
確かに私のステータスはとんでもないものだった。
一瞬、『何かの間違いでは……?』と思ってしまうほどに。
でもその中で一つ、どうしても気になる項目があった。
(知能が……え、F……!?)
髭モジャの話によるとステータスのランクはF~Sまでの七段階――つまり、私はとっても頭が悪いと判定されてしまったのだ。何と言うか穴があったら入りたい気分だ。
(……うん、他の諸々と合わせて考えると。絶対におかしいよね、これ……)
腕力がSもあるはずが無い。それは私の線の細い体を見れば一目瞭然だ。それに一番おかしいのは魔力がSということだ。私は生まれてこの方魔法を習ったことがないし、お父さんとお母さんも魔法はからっきしだと言っていた。……それに知能がFというのも絶対に何かの間違い……だと思いたい。
「こ、これちょっとおかしいですよね……? ほ、ほら知能がFなんて……ね?」
前半は髭モジャに対する問いかけで、後半はユフィに同意を求めたものだ。
すると二人は真剣な表情で口を開いた。
「ふむ、それは闘神クラスの負の側面でしょうな……」
「はい、間違いありませんね」
どうやら二人はこのステータス情報が間違っているとは微塵も思っていないようだった。
『闘神クラスの負の側面』――その言葉の意味がわからなかった私は、ただ小首を傾げた。
するとそれを敏感に察知した髭モジャが「これは失礼いたしました」と前置きしたうえで説明を始めてくれた。
髭はこんな風に見えて、実はすごく気が利く。昨日も自然な素振りで椅子を引いてくれたり、今みたいにこちらの理解度に目を光らせてくれている。私の中で髭モジャへの好感度がジワジワと上昇していた。
「聖女様はその召喚されたクラスに応じて、ステータスに大きな補正がかかります。例えば雷神であれば『敏捷』が強化される代わりに、『耐久』が弱体化される。闘神であれば『腕力』が強化される反面、『知能』が弱体化されるといった具合でございます」
「な、なるほど……」
……つまり、私は元々頭が悪くて知能がFになったのではない。闘神というクラスのせいで、こんなひどい評価になっているというわけだ。ちょっとだけホッとした。
「本来知能がF――ここまで目が当てられないほど低ければ、言語を操ることはおろか、意思の疎通すらも難しいはずですが……。いやはや、さすがは100レベルでございますな! 本来あまりにも低過ぎる知能を、その高いレベル補正で補っているのでしょう! お見事でございます、聖女様!」
「そ、それはどうも……っ」
これで本人は褒めているつもりなのだろうか……?
正直、全然嬉しくない……。むしろ遠回しに馬鹿にされたような気分だ。
髭モジャに対する好感度が急速に下がっていった。
「それにしても……特筆すべきはやはり『加護』の多さですね」
ユフィは私のステータスを見ながらシミジミとそう呟いた。
それに同調し髭モジャも「全くですな!」と満足げにうなずいた。
「……加護?」
そう言えばステータスの下にはギッシリと文字が詰まっていて、何だかよくわからないことがズラズラと書き連ねられていた。
するとユフィが優しく説明をしてくれた。
「加護というのは、その聖女が持つ固有の能力のことです。有名どころですと魔法の威力を強化する【魔の理】や耐久力を強化する【金剛の鎧】などがあります」
「へぇ……そうなんだ」
それから一応全ての加護に目を通した。
その間に髭モジャは背後に引き連れていた白い甲冑に、のステータスを書き記すように命令していた。
それにしても……。
「【英雄の娘】に【剣聖の娘】……」
この英雄と剣聖というのはお父さんとお母さんのことで間違いない。
十年以上も昔――私が生まれるよりもずっと前、世界は魔王と呼ばれる恐ろしい悪魔に支配されていたらしい。それを討伐したのがお父さんとお母さん……という話だ。嘘か本当かはわからないけど、お父さんが酔っ払ったときに、よくお話ししてくれた。
お母さんは、「話半分で聞いておきなさいよ」と言っていたけど、小さい頃の私はそのお話が大好きで、何度も『お話しして!』とねだっていた。今でもどんな話だったかはよく覚えているほどに、何度も何度も聞かせてもらった。
そんな昔のことを思い出していると、突然髭モジャが大声をあげ始めた。
「それにしても見事なまでの近接戦闘特化! 美しいステータス配分でございます! このあたりは闘神クラスの影響を強く受けておりますな! 圧倒的なステータスに、加えレベルは上限いっぱいの100! ――まさに規格外! これは勝ったも同然ですなっ!」
「爺や、油断と慢心は禁物ですよ?」
「これはこれは陛下。申し訳ございません……ふふふっ。しかし、笑いが止まらんのですよ! ふふふふふっ、はーはっはっはっはっはっはっ!」
……やっぱり髭モジャは危ない人だ。常識と非常識が混在しているような……とにかく変な人だった。
その後、無事にステータスの確認を終えた私たちは一度お城へと帰ることになった。どうやら、そこで聖女大戦の詳しい話をしてくれるみたいだった。