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十一:聖女のレベル


 その翌日。

 私はユフィと髭モジャに連れられ、廃墟同然となった聖殿へと足を運んでいた。

 目的はもちろん、私のステータスを正確に測定することだ。


「ささっ、聖女様。どうぞこちらの高台までおいでください」


 何故か異様にテンションの高い髭モジャは、鼻息を荒くして高台を身軽に登っていった。


「ティア、足元に気を付けてくださいね」


 ユフィは意外にもスイスイと、軽やかな足取りで階段を登っていく。

 一国を束ねる立場ということもあって、いろいろとトレーニングをしているのかもしれない。


「う、うん、ありがと」


 私は恐る恐るといった感じで階段の一段目に足をかけた。


(だ、大丈夫……だよね?)


 二人が既に通ったところなので、ほぼ間違いなく大丈夫なのだが……。

 いざ自分が足を乗っけるとなると、少し臆病風に吹かれてしまう。


(だ、大丈夫……っ。私はそんなに重たくない……はず)


 少しばかり勇気を出して、階段に体重を掛けてみると。


(お、おぉ……っ。セーフだ……っ)


 基礎がしっかりとしているのか、ヒビの入った石段はピクリとも動かなかった。

 最初の一歩をこなせば、後は気楽なもの。

 そのまま一気に高台の一番上まで登ると、白い線で描かれた大きな魔法陣が目に入った。


「どうですか、爺や? 聖殿はきちんと機能していますか?」


「もちろん、問題ございません。いくら外観である建物が損傷しようと、それは所詮ただの『皮』のようなもの。『この場所に』聖殿がある限り、その本質が失われることはありません」


 二人は何だか難しい話をしていたけれど、とにかく聖殿は無事なようだった。


「さっ、聖女様どうぞこの魔法陣の中心へお立ちくださいま……っと、これは失礼いたしました。その前にまずは少し説明をする必要がありますな。私としたしたことが、少々急いでしまったことをお許しください」


 そう言って髭モジャは深く頭を下げた謝ってきた。

 相変わらず一つ一つの行動や発言が大袈裟な髭だ。


「い、いえ、全然大丈夫です」


「おぉ……っ! 左様でございますか! 聖女様の深きお心に感謝いたします」


 髭モジャは再び深く頭を下げると、ゆっくり説明を始めてくれた。


「数百年の歴史を持つこの聖殿には、いくつもの特別な機能が備わっております。例えば聖女召喚の儀や聖女様との契約を結ぶ聖痕も、聖殿の持つ聖なる力を借りてのこと。そしてその機能の一つに、聖女様のステータスを計測するというものがあります」


「な、なるほど……」


 とにかくこの聖殿が本当に大事な建物だということはよくわかった。


「聖女様のステータスは腕力・知能・耐久・敏捷・魔力・幸運の六系統。Fランク~Sランクの七段階で評価され、これらは聖女様だけが持つ特別なステータスでございます」


 全く同じ内容を昨晩ユフィから聞いたばかりだけど、わざわざ丁寧に教えてくれているので黙ってコクリと頷く。


「ただし、聖女様の力はステータスのみで推し量れるものではございません。単純な能力としてはステータス×レベルという関係にあるとお考えください」


「なるほど……」


 私のいたあの世界とは違うみたいだけど、こっちの世界にもレベルというものがあるらしい。

 すると髭モジャは、


「そういえば聖女様は、いったい何レベルなのでしょうか……?」


 非常に回答に困る質問を投げかけてきた。


(うっ……。いったい……どれくらいを言えばいいんだろう)


 私の本当のレベルは9999……。お父さんとお母さんの話では、生まれたときからこのレベルだったらしい。


(本当ならこれをそのまま伝えればいいんだろうけど……)


 二人からは「自分のレベルをみだりに言い回るものではない」と耳にタコができるぐらいに注意されている。いつもは優しいお父さんが、どうしてかこのときだけはとても真剣な顔をしていたのをよく覚えている。


(友達に――ユフィに嘘をつくのは申し訳ないけど……)


 お父さんとお母さんは多分、私のためを思って言ってくれているに違いない。

 だから私は、申し訳ない気持ちになりながらも、嘘のレベルを伝えることにした。


「え、えーっと……100ぐらい、かな?」


 とりあえず、かなり低めのレベルを言ってみると――。


「な、何と100レベルですかっ!?」


 髭モジャが目をひん剥いて、こちらに詰め寄ってきた。


 ……まずい。少し低く言い過ぎたかもしれない。


「あ、え、えーっと……っ。実は……」


 目をあちらこちらに泳がせながら、何レベルと言うのがいいかと考えていると。


「凄いです! さすがはティアっ!」


 ユフィが私の両手をギュッと握ってきた。


「……え?」


 どういうわけかその目には羨望の光が灯っており、握る手の力は少しだけ強かった。

 続けて髭モジャは鼻息を荒くしながら、早口で解説を加えた。


「私の調べによりますと――我が国における歴代の聖女様の平均レベルは約70。それに言い伝えによりますと、この世界のレベル上限は100。つまり、聖女様はまさに歴代最強クラスのお力をお持ちということになりますぞ!」


(え、えー……)


「レベル100って、そんなに凄いんですか……?」


「それはもうっ! ここにいる爺や――ロンドミリア皇国最強の魔法師カロン=エステバインでさえ、そのレベルは21でございますから。レベル100となると……もはやどれくらいの強さなのか想像すらつきません!」


「やはり『聖女』は人間とは一線を画す能力がありますな!」


「あ、ありがとう、ございます」


 嘘をついたのに――それもかなり低めの鯖を読んだのに……こんなに褒められるなんて……。

 何とも言えない微妙な気持ちになりながらも、とりあえずお礼を言った。


「それでは聖女様。そろそろステータスを測定いたしますので、そちらの魔法陣の上に移動していただいてもよろしいですかな?」


「は、はい」


 私は言われた通りに高台の中央にある魔法陣の上に立つ。


「それでは開始いたします。お体の力を抜いて、リラックスしてくださいませ」


 髭モジャの言う通りに体の力を抜き、深呼吸をしてリラックスを呼吸を整えた。

 それから少しすると――突然、足元の魔法陣が緑色に発光し始めた。


「わ、わわっ!?」


 何というか、とても不思議な感覚だった。


 すると不思議なことに私の頭上にいくつもの文字が出現した。


 その文字を見た二人は、


「こ、これは……っ?」


「す、すごい……っ!」


 大きく口を開き、目を見開いていた。


(な、何が書かれてあるの……っ!?)


 慌てて魔法陣から飛び出し、そこに書かれた文字を見る。


聖女ティア=ゴールドレイス

クラス:闘神

腕力S

知能F

耐久A

敏捷A

魔力S

幸運S

加護:

【英雄の娘】武術を極めた英雄の娘。全ての武術を即時に会得可能。

【剣聖の娘】剣術を極めた剣聖の娘。全ての剣術を即時に会得可能。

【武器の心得】武器の扱い方を即時に理解可能。

【徒手の心得】一切の無駄を排した体裁きが可能。

(ことわり)の超越者】理外の存在である彼女は全ての理を超越可能。


 ほぼ全てのステータスがAランク以上。腕力と魔力、幸運に至っては最高ランクのSだった。


 二人の反応を見なくてもわかる――これはあまりに凄過ぎではないだろうか?


 加えて下の方には、『加護』という何だかよくわからないものがビッシリと書き込まれていた。


「す、素晴らしい……っ!」


 そんな髭モジャのつぶやきが、静かな聖殿に大きく響いた。

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