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0話 戦争の終結と50年の別れ

 アダムス歴3000年、〔リソスディア〕の6大大陸最大の大陸〔ウェスタール大陸〕では人族と魔族とで互いの領地を巡っての、後に《大戦》と呼ばれる血で血を洗うような戦争が続いていた。しかし、その戦争は魔王が討たれたことで突如として終結を迎えた。『ファイブスター』と呼ばれる最強の5人によって───







「遂に終わったな。」


 隣のローブを纏った男が声をかけてきた。


「ああ。だがリゲル、これは始まりだ。」


 ローブの男、リゲルは俺の答えに頷く。


「アレクは寝なくていいのか?いくらこの戦争を終結に導いた英雄でもまだ14歳だろ。馬車の中くらい寝てもいいんだぞ。」


「これ竜が引いてるから竜車だろ。それに、まだ安全が保障されたわけではないしな。はぐれ魔族がいつ襲ってくるかも分からんだろ。それに──────」


 俺は向かい側に体を寄せ合うように眠る金髪の双子の姉弟を見やる。

 姉の方がライラ・アルマー、弟がライル・アルマー。二人は俺と同い年だ。

 ライラは〈剣姫〉と呼ばれ剣術に秀でており、敵の集団を一瞬で細切れにすることができる天才だ。

 そしてもう一方のライルは〈拳王〉と呼ばれ拳闘の才能があり、敵がいくら陣形を組もうと彼は一振りの拳の拳圧だけで崩してしまう。


「まったく幸せそうな顔しやがって。」


 二人とも年相応の寝顔を浮かべて少し顔がニヤついていて、よだれが口からはみ出ている。俺は紙で丁寧に拭き取ると微笑んだ。


 いつもの俺なら「戦場で気を抜くんじゃねえ!」と頭にげんこつを食らわせるところだが、今日くらいは許すとしよう。



「アレクはもう少し子供らしさというものを持つべきだと思うのだが。」


「子供らしさってどんなもんかを俺は知らねーもん。」


「だからよぉ、少しくらいは大人に甘えてもいいってことだよ!お前なんでもできちまうから本当の大人の俺らの立つ瀬が・・・ってうおっ⁉︎」


 もう少しで王都が見えてくるというところで、竜車が突然止まった。俺は不思議に思い外に出て竜車の運転手に声をかけた。


「どうしたんだゼノン。」


 俺の声を聞いて、ゼノンは振り返った。


「それがなぁ。ジオの様子がおかしいのだ。」


  ゼノン・サクシースは大柄の偉丈夫で、相棒である火竜のジオにまたがり真っ先に敵陣に乗り込む特攻隊長だ。その戦う様から〈竜騎士〉という二つ名をを持つ。


「確かに。」


 ジオはグルゥと声を唸らせ落ち着きなく周囲を見渡している。古くから竜は危険察知能力が高く邪悪な気配に敏感だと言われているため、何かをよくないものを感じ取ったのだろう。


「【探知(サーチ)】を使おう。」


 俺は己の魔力を周りに放出するイメージをする。すると、王都の南側に位置する《エルネスト大森林》付近にドス黒い大きな魔力がある。そして、すぐそばには小さな魔力が二つ。片方は小さく消え入りそうだ。


「いたぞ!《エルネスト大森林》の近く!この反応は・・・魔族だ!誰かが襲われている!」



「どうするリーダー!」


「ゼノンはこのことをリゲルに説明してきてくれ。その後で追ってきてくれ。俺は先に行く。」


 俺は「身体強化。」と一言呟くと音を置き去りに駆け出した。







 リゲルはアレクが竜車から出た後に途轍もなく巨大な魔力を感じた。


(こりゃあ、リーダー【探知】を使ったか・・・ハハッ。100キロメートル先の《エルネスト大森林》まで探知できるなんざ、やっぱ規格外にも程があるだろ。)


 リゲル・オルスタインは魔法のエキスパートであるオルスタイン家の長男であり、基本属性の火水木地光闇無の全ての属性の魔法を行使することができ、小技のような魔法から辺りの地形が変形するくらいの超絶魔法などありとあらゆる魔法を熟知している。その知識の多さから《賢者》の二つ名が付いているが、その《賢者》でさえもありえないと思わざるえなかった。



 基本的に人族の国〔ディクティミシア王国〕の優秀な魔法師で10キロメートル、《賢者》であるリゲルで25キロメートルなのに対しアレクはその4.5倍も広い。


(どーしてもこいつを追い抜くビジョンが見えねえ。)


 リゲルが乾いた笑みを浮かべていると、竜車の入り口からゼノンが入ってきた。


「ゼノンか。何があった?」


「ちょっとな。ん?こいつらまだ寝てんのか?」


「けっこう衝撃が強かったはずだがな、未だにぐっすりだ。とりあえず本題を頼む。」


 ゼノンは今起こっている事態を簡単に説明した。


「なるほど。こいつらのお守りは任せてくれ。」


「ああ、頼んだぞ。」


 ゼノンはアレクを追いかけるべくジオに跨り曇天の空へ飛び立った。



〜エルネスト大森林付近〜


(なんでこんなところに・・・)


 《エルネスト大森林》の近くに位置する《アルム》という小さな村の兄弟ザックとケインは村の外へ薬草を取りに出た。

 しかし、悪夢は不意にやってくる。弟のケインが草の茂みに誰かが倒れているのを見つけた。いや、見つけてしまった。近づいてみると人ではなく魔族だった。そいつは俺たちが近づくやいなや襲いかかって来た。

 まず、そいつの近くにいたケインが奴の鋭利な爪で左肩口から斜めに切り裂かれた。傷が深く血が止まらない。じきに失血死してしまうのは明らかだった。


「にいちゃ・・・」


「ケインッ!!!」


「フン、やはり低俗な人族どもの体とは脆い。軽く腕を振るだけで壊れてしまう。だが今回は感謝しているぞ。」


「な、なんだと?」


「貴様らの魂でこの傷を癒すことができる。感謝するがいい、魔王軍参謀であるデモンド様の血肉となることができるのだからな。」


 よく見ると、胸に大きな1本の切られた跡がある。その傷口はかすかに白色に輝いており、再生の邪魔をしているような気がした。

 怖くて膝が震えているが、ここで引いてはいけないと思い俺は勇気を振り絞り背中の護身用の両手剣を抜いた。


「お、お前なんかに渡すわけにはいかない!」


「ほう、我を知った上で楯突くとは勇敢な少年よ。その心意気に免じて、痛みなく殺してやろう。では、死ね」


 奴の爪が上から振り下ろされる。極限まで集中力が高まったのか奴の動きがスローモーションに見える。俺は爪に向かって剣を振り上げた。


「うおぉぉぉぉ!」


 剣と爪が衝突した。しかし、鍔迫り合いすら起こることなく剣は切り裂かれ爪は俺の眼前に迫る。俺の頭の中には両親の顔が浮かぶ。心の中で「ごめん」と一言謝り俺は目を閉じ死の時を待った。


 ・・・・・・どれくらい待ったのだろうか。一向に痛みが襲ってこない。いや、奴の言葉通り俺は痛みなく殺されてしまったのだろうか。俺はゆっくりとまぶたを開いた。俺の顔5センチメートル前には奴の爪がある。しかし、白と黒の入り混じった剣によって爪は防がれていた。


「間に合ったようだな。よく頑張った。あとは任せろ。」


 そこにいたのは顔まですっぽりと覆った全身鎧の男だった。




▼▼▼


「まさかあの一撃で死んでなかったとはな、なあデモンドよ。」


「なぜ貴様がここにいる!〈戦神〉アレクッ!」


「近くに魔族の反応があったもんでね。」


「クソが!」


 デモンドは《エルネスト大森林》の中へ姿を消した。


「さてと、大丈夫か?」


 ザックは緊張の糸が切れてしまったのかへなへなと地面に崩れ落ちた。


「ケイン・・・」


 ケインは気を失っている。まだ息をしているだけ奇跡であった。


全回復(コンプリートヒール)


 俺が回復魔法をかけるとケインはまるでその怪我がなかったかのように傷が消え去った。


「なっ・・・」


「後から来るやつに先に王都に帰ってくれと伝えといたくれないか?俺はあいつを追う。」


「あ、ああ。ありがとう。」


「気にすることはないさ。そんじゃな。」


 俺はデモンドを追うべく《エルネスト大森林》へと足を踏み入れた。




▼▼▼


 〔ディクティミシア王国〕の王都レーベルンの南に位置する《エルネスト大森林》は年中濃い霧に包まれている。この霧によって方向を狂わせられ、同じところを何回もループさせた挙句、森の外に出されてしまうという奇妙な森だ


「ギャアァァァァ!」


 叫び声がした方へ向かうと木に蔦で縛り付けられ死んでいるデモンドと背中に大きな角笛を背負った銀の鎧の老騎士がいた。俺は【透明(インビジブル)】と【同化(アダプト)】を使い、様子を伺った。


(あいつが発するオーラ、半端なものじゃねえ。一体何者だ?)


 突然老騎士がこちらを向いた。


「隠れても無駄じゃ。特異点(イレギュラー)よ。」


 俺は驚いた。なぜならあの4人と魔王しか見抜けなかった、【透明】と【同化】のハイディングコンボを一発で見抜いたからだ。


(あの老騎士の言っている特異点とは一体・・・)


 俺は魔法を解き姿を見せた。


「覗き見したのは悪かった。だが、あんた一体なにもんだ?」


「ついてこい。」


 老騎士は俺の質問に答えることなく歩き始める。俺は見失わないように急いでその姿を追った。


 そうして暫く歩くとある場所に辿り着いた。


「ここは・・・祭壇か。」


《エルネスト大森林》にこのような場所があるとは思わなかった。


 すると、老騎士は俺に祭壇に登るよう指示し、俺と10メートルほど距離を置き、腰の剣を抜いた。


「我と戦え。そして力を証明せよ。」


 どうやら戦うしかなさそうだ。敵の力は未知数。だが魔王と同等かそれ以上の力はあると見ていい。特に背中に背負っている角笛からは途轍も無い力を感じる。


「〈神界の番人〉ヘイムダル。」


「『ファイブスター』〈戦神〉アレク・ローゼン。」


「「いざ参る‼︎」」


 戦いの火蓋は切って落とされた。




▼▼▼


 それからというもの、剣同士のぶつかり合いで周辺の木は吹き飛び、数々の超絶魔法の応酬、戦いは熾烈を極めたが、とうとう戦いの終わりを告げようとしていた。


「ぜあぁぁぁぁ!」


「ぬおっ⁉︎」


 俺の剣の乱撃によりヘイムダルの剣を弾き飛ばし、喉元に剣の切っ先を突きつけた。


「はぁ、はぁ。俺の、勝ちだ。」


「お主もここまで強いとはな。このワシが敗れるとは。」


「何言ってんだ。じーさん強すぎだろ。魔王よりつえーじゃねーか。」


「当たり前じゃ。神界の番人たる者、魔王ごときに遅れはとらん。それはともかくとして。」


 ヘイムダルは立ち上がり「ついてこい」と言い俺はヘイムダルについていった。


 移動の最中、俺はヘイムダルに質問した。


「その背中の角笛をなんで使わなかったんだ?」


「ああ、ギャラルホルンのことか。これは戦闘には向いておらんものじゃよ。じゃが、この笛は来るべき終焉の日に必要になる。」


「へぇ。じゃあさ、さっきの特異点(イレギュラー)ってどういう事?」


 ヘイムダルは急に悩み始めた。


「・・・この事はワシらからは話すことができん。その答えは、自分で見つけ出すのじゃ。着いたぞ、ここじゃ。」


「おお・・・!」


 ヘイムダルに案内してもらうと開けた場所に着いた。中心には天を貫かんとそびえ立つ大樹、その根元には人一人登ることができるくらいの小さな祭壇があった。


「おいおい、まさかもう一度戦えとか言ってんじゃないだろうな?」


「そんなわけなかろう。ほれ、その祭壇に登れ。」


 俺は言われるがままに祭壇に登った。すると突然魔法陣が地面にあらわれた。


(これは【転移(トランス)】か!)


 俺は直ぐに【魔法破壊(スペルブレイク)】を使ったが、一足遅く、一筋の光線が天へ昇っていった。


 祭壇の前で一人きりになったヘイムダルは呟く。


「アレク。この世界の命運はお前が救世主になるか破壊者になるかにかかっておる。お前さんが己の全てを知った時どんな決断をするのか・・・」




 そして『ファイブスター』リーダー〈戦神〉アレク・ローゼンの消息は絶たれた。



初投稿です。評価など、よろしくお願い致します。

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