* 6 *
朝の光に自然と目が覚めたモネは、布団の上で上半身起き上がり、伸びをする。と、
(……? )
窓の障子の向こうに人影が見えた。
モネは立ち上がり、窓へと歩いて障子を開ける。
瞬間、人影の主が、隠れようとしたのか、ササッとしゃがんだ。カイだった。
モネは窓も開け、昨日のことで、まだ少しカイが怖いのと、まだ昨日のことをカイにキチンと謝っていないことから、
「カイさん」
そっと、恐る恐るととられてしまうかも知れないくらい遠慮がちに声を掛ける。
カイは、チラッとだけモネを見、目を逸らして、バツが悪そうに頭を掻きながら立ち上がった。
条件反射でビクッとしてしまうモネ。それでも、
(昨日のこと、ちゃんと謝らなきゃ……)
小さく息を吸って吐いて、気持ちを落ち着けてから、
「昨日は、ゴメンなさい」
口を開いた。
同時にカイも、モネに向けて、全く同じ意味の言葉を口にする。
どうしてカイさんが謝るのか、と、首を傾げるモネを、真っ直ぐに見、カイは続ける。
「ほっぺた、痛かったか? 」
(ああ、叩いたことを気にして……)
モネは頷いておいて、
「でも、心配かけちゃった私が悪いんですから……」
カイは、再び目を逸らし、モゴモゴと、
「オレ、さ、モネの行った場所が、サナの所じゃなくて、どこか別の場所だったら、叩いたりしなかったような気がするんだ……」
(…どういうこと……? )
「オレ、サナに嫉妬したんだ、多分……。…サナも、オレと同じで家族がいないけど、サナには、同じ種族が大勢いて、その上、たった1人のオレと同じ種族のモネまで、オレよりサナを慕っててさ……」
それを聞いて、モネは、
(駄々っ子? )
呆れた。いっきに、カイを恐れる気持ちが吹っ飛んだ。自分が手に入れたいものを他の人が手に入れたからってヤキモチを焼いて暴れるなんて、本当に、ただの駄々っ子だ、と。同時に、
(カイさんって、正直で、不器用なんだ……)
カイの性格を気の毒に思った。せっかく、と言うのは、おかしな気もするが、モネが昨日、カイに叩かれた理由を、皆に心配をかけたことで叱られたのだと勘違いして反省し、謝ったのだから、わざわざ本当のことなど話さずに、そのままにしておけばよかったのに、と。
その時、
「モネ様、おはようございます」
モネの、少し離れた斜め背後、襖の向こうから、コリの声。
モネが振り返ると、襖が開いて、正座しているコリ、
「間もなく、朝食のお時間です」
言い終えてから、初めて、窓枠の向こうのカイに気づいたようで、
「あ、これは、カイ様……。おはようございます」
カイは、またまたバツが悪そうに、
「おう」
と、短く返し、じゃあ、オレは母屋へ戻る、と、独り言のようにボソボソ言い、背中を向けて、そそくさと立ち去ろうとした。
モネは、これから先の自分とカイの関係のために、このままでは良くないと考え、
「カイさん」
呼び止め、振り返ったカイを、
「一緒に、朝ごはん、食べませんか? 」
誘う。
カイは、パアッと顔を輝かせた。
(…分かりやすい……)