4 初依頼はサラマンダー
俺たち二人は、冒険者ギルドの前に来ていた。
どうやら俺の恩恵の〈全言語理解〉というのも他の奴等は持ってないらしく、葵は話せるが読めない、といった感じだった。しばらくは町の案内も俺がやることになりそうだ。なんでも、この世界の識字率は10~15%だそうだ。読めなくても変じゃないね。
「ここが冒険者ギルド?」
「ああ、多分入った瞬間めっちゃ見られるから気をつけとけよ」
ギィィ···と古い洋館の扉みたいな音が鳴る扉を開けたら、酒の臭いが流れてきた。中を見回してみると、どうやら酒場と合併されているらしい。だからって昼間から飲むか普通。
一気に視線が集まる。葵はビクビクしてるが俺は気にせずギルドのカウンターへ。受付は赤髪のお姉さん系だった。なによりでかい。あえて何がとは言わんが、でかい。だがでかいのはあまり好きではない。俺らは冒険者になりに来たのだ。
「冒険者になりたいんだが。」
「冒険者希望の方ですね。登録料一人銀貨1枚になります」
「あいよ」
俺は銀貨2枚を出した。受付嬢は俺ら、特に葵を心配そうに見ている。危険だとかそんなんは承知の上で来てんだこちとら。
「手続きとかは無いのか?」
「あ、す、すみません。こちらの紙に必要事項を記入し、提示してください。文字が書けない場合は代筆になりますが。」
「俺が書けるから大丈夫だ。」
渡された紙には名前、出身、職業、スキル、魔法の欄があった。まずいな。非常にまずい。
「なあ、受付さん、二つ質問があるんだが。」
「はい、なんでしょう」
「職業ってのは具体的にどんなのがあるか、これに嘘を書いたりしたらどうなるのか、の二つだ。」
「はい、職業というのは、剣士、魔法使いなどの戦闘職や、商人、農家などの非戦闘職が当てはまります。戦闘職は自ら名乗ってもOKです。次に、情報の詐称ですが、特に罰せられる事はありません。ただ、詐称が原因で事故などが起こった場合、罰せられる可能性があります。」
わりと常識の範疇だと思うのだが、嫌な顔ひとつせずに教えてくれた。仕事だからだろうけど。ていうかグリモアさん、そこらの情報も入れてくださいよ。
「祐君、書いて?」
「あーはいはい」
俺は適当に書いていく。回復職も魔法使いでいいんだよな?僧侶とかじゃないよな?
二人分書いた俺はカウンターの方に紙を持っていく。紙を軽く見た後に、「少々お待ち下さい」とテンプレ台詞を言って奥に入っていった。
(ねぇ祐君、なんで名字書かなかったの?)
(ん、この世界では名字は貴族以外持ってないんだよ)
(へぇ~)
葵とヒソヒソ話をしていたら奥から受け付け嬢が戻ってきた。
「ユウ様とアオイ様のギルドカードです。どうぞ」
そう言って受付嬢は青いギルドカードを渡してきた。特に仕掛けが無いように見えるが、よく見たら魔法がかかっているようだ。
「ギルドについての説明は必要でしょうか。」
「ああ、頼む。」
「はい、まずそれはギルドカードと言い、所持者を魔力で判別する魔法具です。依頼に不正があったか等を調べるのに使うので肌身離さず持っていて下さい。次に、冒険者ランクについてです。冒険者ランクは、F~SSSの9段階あり、依頼をこなしたり強い魔物を倒したりすると上げることができます。次に、依頼のランクです。依頼のランクはF~Sの7段階で、Sに近づけば近づくほど難易度が上がります。Fランク冒険者がSランクの依頼を受ける事も出来ます。ですが、命の保証は出来ません。ここまで質問はありますでしょうか。」
簡単にまとめると、カードは持ってる、ランクは強さの証明、依頼ランクは難易度ってとこか。
「じゃあ、低ランク冒険者が高ランク冒険者と組んで高ランク依頼に行ったらランクは上がるのか?」
「いえ、ランクアップは依頼終了時にカードが判断します。なので、本人が努力しなければランクは上がりません。」
なるほど、便利なもんだな。経験値制みたいなもんか。
「ん、どうも。」
「最後に、私の名前はローラと言います。これから頑張って下さいね!」
とりあえず、葵に何も言わないで進めたが大丈夫だろうか。まあ大丈夫だろう。
「じゃあ葵、早速依頼に行こうか。」
「あ、うん!」
さて、恐らく紙がベタベタ貼ってある板がクエストボード的なあれだろう。どんな依頼があるんだ?とりあえず最初は適当にやりがいのありそうなやつを·····
・ゴブリンの討伐:E
・薬草の採取:F
・ベアウルフの討伐:C
・サラマンダーおよび取り巻き魔物の討伐:B
「なあ葵、どれにする?」
「うーん、祐君強いしこのさ、さらまんだー?でいいんじゃない?」
よし、これにしよう。俺はサラマンダーの依頼の紙を取り、カウンターに出した。
「·····命の保証はしませんからね?場所はウルル大火山です」
「死んだら殺してくれて構わねぇさ」
こうして俺たちは、初めての依頼に向かった。
◆◆◆
「うっへぇ、暑いな。とっとと帰ろう。」
グリモアのお陰で火山にたどり着いた俺らは、サラマンダーを探していた。ちなみに、操作術で地面をせりあげて移動したから来る途中で魔物にあったりはしない。便利。
「あっ、祐君、あれじゃない?」
いた。赤いトカゲ。あれがサラマンダーだ。
「お、あれだな。葵、補助頼めるか?」
「付与魔法はまだ微妙なんだけど·····《スペルエンハンス》」
葵が魔法を発動すると、俺が淡い光に包まれた。《スペルエンハンス》、一定時間魔力を上げる魔法。これで一撃で倒せたらいいんだけど·····
俺は前やったみたいに地面を足でトントン、とやる。すると、何もない所から水が発生、槍のように鋭くなりそのままサラマンダーの頭を貫いた。
《レベルが上がりました》
おっ、どうやらちゃんと死んでるみたいだ。レベルが上がった。
《スキル〈鑑定〉〈解体〉〈魔法効率強化〉を取得しました》
おい、ちょっとまて。どうしてスキルを3つも手に入れた。それだけレベルがあがったのか?
ユウ・ヤマザキ
Lv11
HP 41560/41560(+15000)
MP 52460/52460(+25000)
攻撃力 27500(+4500)
守備力 32510(+7000)
敏捷性 19500(+500)
魔力 54200(+20000)
技術 25400(+6500)
なんかもうどうでもよくなってきた。なんだこれ!インフレにも程があるぞ!この括弧の中は今奪ったやつか?だとしたら相当強いな。どうやったらこんなのがBなんだよ。
あ、葵も〈強奪〉の効果でサラマンダーのステータス入ってるのか。ちょっと実験も兼ねて〈鑑定〉で見てみようか。
アオイ・オクヤマ
Lv8
HP 17600/17600(+15000)
MP 26800/26800(+25000)
攻撃力 5230(+4500)
守備力 8600(+7000)
敏捷性 1760(+500)
魔力 22750(+20000)
技術 8270(6500)
·····うわぁ、こっちもなかなか化け物じみてきたな。サラマンダーやべぇ。
それじゃあ次は新しく手に入れたスキルを確認しようか。
《スキル》(newのみ)
〈鑑定〉〈解体〉〈魔法効率強化〉〈火炎放射〉〈熱探知〉
あれ、〈強奪〉ってスキルも奪えたのか。この〈熱探知〉ってなんだ?
〈熱探知〉
熱を視認することができる、竜系魔物の固有スキル。
分かりやすく言えばサーモグラフィ。
·····使う機会は無さそうだな。
それにしても、葵、自分のステータスに気づいてるのだろうか。あ、駄目だ、気づいてない。ボーっとしてるわ、こりゃ。
「おーい、葵ー、どうしたー」
「あ、ああ、いや、ね?初めてレベルアップして、嬉しくって·····」
「お前、ちょっと自分のステータス見てみろ?」
「えっ、ステータス?·····ああ、強奪かぁ·····」
なんか一瞬で顔が青くなったと思ったらすぐ直った。忙しいやつだな。
ところでこのサラマンダー、アイテムボックスに·····入った。帰ろう。取り巻きなんて居なかったし。こんな暑い所に要られるか!俺は帰る!
◆◆◆
フラグなんてへし折って帰ってきたぜ。あー、暑かった。
ギルドの扉はやはりボロい。付け替えた方がいいんじゃないか。そんなことを思ってたら、なんか冒険者っぽいおっさんが話しかけてきた。
「おう、さっきのサラマンダーの坊主じゃねぇか。まだ30分たってねぇってのに諦めたか!ガハハハ!」
相当飲んでたんだな。出来上がってる。そんな酔っぱらいおっさんは無視して、カウンターにギルドカードを提示する。
「·····依頼、完了·····です」
そんな受付嬢····ローラの言葉に、うるさかった回りは一瞬でシーンとなった。だが、それも束の間。
「ありえねぇ!なんか不正を働いたんだ!違ぇねぇ!」
さっきの酔っぱらいおっさんが文句を言ってきた。そうしたら、回りにいた奴等もそうだそうだと騒ぎ立ててきた。ああ、うるさい。
「じゃあおっさん、これ見てみろよ」
俺はイラついたので床に直でサラマンダーの死体を出した。眉間を穿ったので傷は最小限になっている。
ちなみに100人に一人はアイテムボックスを持っているらしいから別にこれは人前で使ってもOKらしい。
「これで満足か?」
その一言でおっさん達は一斉に引き下がっていった。勿論サラマンダーはアイテムボックスに仕舞う。盗まれたら大変だし。
ローラの方に向き直ったら、俺と葵のギルドカードが光りだした。ランクアップか?
「····おめでとうございます。ランクアップ最速記録更新。お二人ともランクC、26分です」
ランクCか。Bの依頼達成したんだからBにしてくれてもいいのに。まあそれは言わずにこんどはサラマンダーについて聞いてみる
「サラマンダーの素材、売ってしまいたいんだが、いくらになる?」
「品質によります。ついてきてください。」
俺らは倉庫のような場所につれてこられた。周りには数人のちっこいジジイ。おそらくドワーフ。ここで解体してくれるのか。
「ふむ、お主のようなちみっこい体でサラマンダーを倒すなぞ信じがたいが·····まあ出してみい。」
魔法職こんぐらいがちょうどいいんだよ、ムキムキの魔法使いとか嫌だろ。とか思いつつもサラマンダーを出す。途端にドワーフの目がスッと細くなる。
「····ほう、見事に眉間を貫いておる。皮も傷一つ無い。目玉も損傷無し。お主、獲物は細い槍かの?」
「いや、魔法だから武器は無い」
そう言うとドワーフは少し残念そうな顔になった。やはりドワーフは鍛冶をする種族なのだろうか。それだったら魔法に残念がるのも頷ける。
「魔法·····こんなに鋭く、なおかつ精密な動きできる魔法っつったら、何があるんだ?」
一瞬、言ってもいいのか迷ったが、別に世界に一人しかもって無い魔法、って訳でも無いしいいやと思い、話した。
「操作術。錬金術の上位互換だ。」
「ちょっと待て。操作術は鍛冶魔法で、戦闘用魔法じゃねぇぞ」
あれ、そうなのか。まあ錬金術の上位ってくらいだし納得はいくけど。
「操作術で戦闘する奴なんざ聞いたこともねぇ。ちょっと見せてくんねぇか」
戦い方まで見せるのはちょっと気が引けるから、今思い付いた方法を試してみよう。俺は床の木を操作してマネキンを作り出した。そして、倉庫だからかそこら辺に落ちてる屑鉄を拾う。
「速いからな、瞬き厳禁だぞ」
俺はそう言った後に指パッチンをする。すると、屑鉄が4本の矢に変わる。そして、それを操作、マネキンに飛ばす。矢は見事マネキンの心臓、両目、頭にヒットしていた。この間僅か0.6、7秒。レベルアップと魔法効率強化によって速度も上がったようだ。
「な、なるほど····おっとすまねぇ、サラマンダーだったよな。目玉、爪、牙、皮、肉。全てに傷が一切ついていない。全て合わせて金貨50枚でどうだ。」
俺的には全然ありな値段だけど、ぼったくられんのも癪だし、グリモア。
【はい、これら全て合わせると、通常金貨300枚程になります】
こんのジジイ、めっちゃ騙しにかかってるじゃねぇか!俺が世間知らずっぽいからって!俺の恐ろしさを思い知らせてやる、マジで。
「50枚か、桁が一つ足りないんじゃないか?」
「ご、500枚だと!?馬鹿言え!50枚だ!」
「あっそ。残念、別の所で売っ払ってくるわ。じゃな」
「お、おい!ちょっと待て!300枚だ!300枚出す!」
かかりやがったな、アホが。こうなったら俺は300枚以上は確実だ。上を目指す。
「400枚だ」
「·····350。これ以上は出さん。」
「毎度あり。今度から相場の1/6とかいうアホみてぇな値段提示すんのやめろよな」
よっしゃ、50枚得した。悪どい?知らん。騙す方が悪い。よし、これは葵に報告だな。