3 全知書(グリモア)
「さて、これからどうしようか。」
近くに村か町は無いのか。
【西に10km、冒険者の町が存在しています】
「うおっ!」
「どうしたの?」
いきなり声が聞こえてきたぞ。ああ、これがグリモアか。
「いやね、なんかさっきのレベルアップで恩恵が一つ増えたっぽくて。グリモアっていうんだけどさ。」
「ぐりもあ?何それ」
あー、説明しづらいよなー。葵にも声聞こえるように出来ないかなー。
【可能です。設定を変更しますか?】
お、できるのか。勿論変更する。
「葵。お前とも対話できるらしいぞ、グリモア。」
「え?対話って何?」
【葵様。つまりはこういうことです。】
「ひゃあん!?な、なに!?」
「あー、つまりな?喋る辞典みたいなもんだ。」
間違ってないよな?よな?
「そ、そうなんだ······じゃ、じゃあ質問しても良いって事?」
【はい、なんなりと】
「えっと、じゃあ····あなたは何?」
【はい、私は全知書。この世の全ての知識を持つ恩恵です。分からない事があればお教えしますし、私を仲介して念話をする事も出来ます。】
念話なんてのも出来るのか。そりゃ便利だ。
「ところで、《スキル》と《恩恵》の違いって何だ?」
【はい、《スキル》は、努力により手にすることが出来る技術です。ものによって取得難易度は違いますが、難しいものほど有用なものが多いです。
《恩恵》は、生まれた瞬間から存在するもので、努力をしても入手する事は出来ません。ですが、祐様のように神の加護を授かっている者は、レベルアップにより新たな恩恵を取得出来る場合があります。また、神の加護を受けている者の側にいる者は、神に気に入られる可能性があります。】
なるほどなぁ。じゃあ恩恵は隠したほうがいいのか。
じゃあ最後に、これをやってもらわないとな。
「じゃ、俺らの脳にこの世界の基本的な情報を全部叩き込んでくれ」
【情報量が多いので少し頭痛に襲われますが、よろしいでしょうか】
「かまわん、やってくれ」
その直後、凄まじい量の情報が脳に入ってくるのがわかった。頭痛もほんのすこしだし、こりゃ便利だ。それにしても、魔法って演算が必要なのか。面倒だな。
「魔法の演算を代わりにグリモアにやってもらいたい」
【承知しました。お二人の演算、脳に掛かる負担を0にします】
「ん、どうも。また必要になったら呼ぶから。」
いやー、随分と便利のものを取得しちまったみてーだ。定期的に出てきてもらおう。
「じゃあ、町が近いみたいだし、向かう?」
「そうだね。食料とかも欲しいし。行こうか」
◆◆◆
今向かっている町はバルトの町と言って、大きめの冒険者ギルドがあるらしい。他にも、町の回りに薬草の群生地帯があることから、薬草、およびそれを原料とした回復薬の名産地でもある。まあ、全部グリモアに聞いた話なんだけどね。
適当に歩いていたら、町の門が見えてきた。どうせテンプレ通り、身分証発行の為に金を要求されるんだろうよ。わかってるぞ、俺は。ほら、門番のおっさんが話しかけてきた。
「止まれ!身分証を提示してもらおう。」
「わりぃなおっちゃん。旅の途中で盗賊にあってな。服以外全部ぶんどられちまった。」
「そうか、それは災難だったな。再発行には銅貨1枚だ。二人だから2枚だが·····金も全部取られたか?」
「いや、緊急用に隠しておいた金貨1枚がある。それを崩してくれ。」
「わかった。ちょっと待っててくれ。」
そう言って門番のおっちゃんは町の中に入っていった。
何故か、俺の隣から凄い視線を感じるんだけど。気のせいだよね?
「·····祐君って、年上とかに敬語使わないタイプの人だっけ?」
「····せめて、別の世界では根暗でぼっちな俺と決別しようと思ってさ。」
嘘じゃない。本ばっかり読んでた俺は、自然と性格も暗くなっていったし、葵だって誰でも下の名前で呼ぶだけで俺が特別って訳じゃない。つまりぼっちだ。今回は何故か葵がついてきただけで、別に好かれてる訳じゃない。
門番のおっちゃんが帰ってきた。重そうな袋を持って。
「ほれ、銀貨99枚と銅貨98枚だ。確認····は必要だったらしてくれ。相当時間かかるかもだがな。ほれ、身分証の元だ。血垂らせ。」
おっちゃんがカードを俺たちにポイッと投げてきた。見ると、本当に何も無い、無地のカードだった。俺は操作術で血液を操作して自分の皮膚を貫通させて、カードに垂らした。貫通させた部分は治した。超便利。そしたら、カードが光りだし、みるみる文字が浮かんできた。
「どうもな、おっちゃん。じゃ、入らせてもらうぜ。行くぞ、葵」
「ふぇっ?あ、ああ、うん。」
「ははは、彼女は大事にしろよー」
後ろからおっちゃんの忠告?を貰った。入る前に忠告されるとか、どんだけ物騒な町なんだ、ここ。つーか、彼女じゃねーし。葵の顔が赤くなってても彼女じゃねーし。可愛いとか思ってねーし。
「ね、ねえ祐君、これからどこ行くのか決まってるの?」
「おうよ。今から向かうのは───冒険者ギルドだ!」