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オートマタ  作者: 悠木そら
2/2

オートマタ2

 声を掛けられた瞬間、いや、本を閉じる音がした瞬間には、本能が全力で警鐘を鳴ら始めていた。ダメだ、関わってはいけない、それはきっと良くない結果になる。そういった思考が生まれた時には、既に両手が周囲のマナを集めて終わっていた。手のひらから地面に向けて集めたマナを放出すると、仰向けの体勢からやや前目に向かって跳ねるように飛びあがる。想像していたよりも低い軌道に軽くバランスを崩しながらも、それと対峙するように着地した。


 キインッ


 また頭に激痛が走った。だが、今はそれどころではない。目の前の得体の知れない者と、黒いウサギの耳をつけ、手には先程読んでいたと思われる一冊の本を抱えたその者と対峙しなければいけないのだ。刹那、椅子に座ったままゆっくりとその者がこちらを向く。悪寒なんて生易しい言葉では表せない恐怖が再び全身を駆け巡った時には、気圧されて後ずさっていた。初めて知る、それが人間ではなく機械人形(オートマタ)だということに。仮面の下から覗く目、青白く無機質に光るその目はまごうことなき機械人形の証明。旧世代モデルであること意味する特徴的な目からは、感情の一切を読み取ることなどできない。最新モデルであればその限りではないが、目の前のそれは違う。恐怖を覚えるほどの別物だ。


「おや、この目にいささか驚かれているようですね。まあ、今となってはほとんど見ることはできないモノでしょうからね」


 その機械人形が楽しげに言葉を発したこともあり、余計に思考が混乱した。旧世代モデルは安全面を考慮して著しく制限が課せられているはず。なのに目の前の機械人形(それ)は楽しげに"会話を作り上げている"。そんな芸当は普通ならできない。となれば、カスタムモデル、それも相当ハイスペックの代物だ。そんなものを聞いたことがあるわけもなく、何よりどうして私にそんなものが差し向けられているのか想像すら及ばない。


 しかし、その異常な事態が私を冷静にさせる。確かめなければならないことを思い出させる。そう、旦那様の安否だ。だからこそ、迂闊な発言は避けなければならなかった。目の前の機械人形は、言葉に隠した本当の意図を正確に読み取ることなど造作もなく行えてしまうのだから。慎重に慎重を重ねて言葉を選ばなければならないというのに、だというのに、私は安易に旦那様の安否を尋ねてしまったのである。


 幸いにも、後から沸いて出た私の心配事など気にも留めないように、機械人形は旦那様に危害を加えていないと簡潔に説明した。そもそも用があるのは私にだけだという言う。最初に、なぜ、という言葉が浮かんだ。この生涯、大きなトラブルに巻き込まれたりせず歩んできたと自負できる。なのに、私に用があるというのだが、結局その疑問を音にすることはなかった。


 代わりに帰ると宣言すると、それは出来ない相談だと機械人形は言った。声色は変わらず明るいものの、無表情な目とのアンバランスさが不気味であり、それを嫌った私は話し合いを諦めドアに向かってゆっくりと歩き出す。だが不思議なことに、ウサギの格好をした機械人形はその場から動かず、私を止める気配すら見せない。恐怖という鎖で繋がれてしまわないよう、緊張の糸を張り巡らせたまま進む。一歩進む度に嫌な予感が大きくなり、足は鉛のように重く感じていた。目に映る世界が遅れて届いてくるような、途切れ途切れの映像を見せられているような錯覚に襲われながら、どうにかドアまでたどり着いた。それでも機械人形は、やはり動く気配がなかった。


 一呼吸し、背後に細心の注意を払いながらドアノブを握ると、ゆっくりと扉を開けた。そこにあったのは、果たして壁だった。この部屋に窓はなく、あるのは目の前の扉だけ。それが偽物(フェイク)となれば、ここは魔法の類で作られた空間か、それに準じる何かであることは明白。警戒をしたまま機械人形の方を見ると、だから出来ないと申し上げたはずですと静かに答えた。目的を聞き出したいという意識が芽生えたが、先の失敗もあり慎重に言葉を探していると、それを察したかのように機械人形が悲しげな音色で言葉を紡いだ。


「ここへ連れられてきた意味を、やはり思い出せていないようですね」


 そういうと少し俯きながら言葉を続ける。


「思い出していただくまでこの場所から解放されることはありません。思い出していただくことに意味があるので、こちらからお教えすることもありません。質問には可能な範囲でお答えいたしましょう。そして何より、あなたには時間があまり残っていないことはどうぞ心に留めておいてください」

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