ずっと共に
ジャンル迷った末に恋愛に。要素は少ないです。
私は何故成長しないのだろうか。
今日もまたベットから起き上がって鏡を見ると其処には幼い子供がいた。
この光景を10年私は経験した。
8歳の頃から成長が止まった私は両親に見捨てられ、森の中に置き去りにされた。
其処で拾ってくれた爺はもういない。先々月冷たくなってしまっていた。
目から何か流れていたけれど必死に森の中に穴を掘って埋めた。宗教には詳しくないのでわからないが成仏してほしいと思う。
「嗚呼」
爺が私に付けてくれた名前、【クローバー】の文字が入ったハンカチを見る。
これを見ると涙腺が弱くなってしまうものだから敵わない。
ゆるゆると顔を上げて小屋の扉を開ける。
森の中は悪意がないから気持ちが良い。動物達が私の方に駆け寄ってきてくれて朝の挨拶をしてくれる。爺は私のことを動物達に「宜しく」と頼んでいたようで寝ている時は見張っていてくれるし、ご飯も食せる野草を運んで来てくれる。
今日も持ってきてくれたようで兎がぴょこぴょこと跳ね回っている。
「有難う」
そう笑うと兎は一周私の周りを回った後に、森の奥へと消えていった。
さて、私にも仕事はある。
森の環境整備をしていかなければならない。稀に人間が入るこの森だが、希少な植物や動物に溢れており邪な気持ちを持って此処に入る輩も多い。
それを、此処から追い出すのが爺から受け継いだ私の仕事だ。
私は獣道の割には綺麗な道を歩く。
さくさくと小気味の良い音が森の朝に響く。
暫く歩いた頃だった。
「又か」
顔を顰めた。目の先には、男がいる。
此処最近ある男が森に出入りしている。
特に何をするわけでも無く、ただぶらぶらと歩いているだけだから追い出すことも出来ない。
長く伸びた草の間から様子を伺った。
男は若く18〜21くらいだろう。私も成長していればあれ程だったのに、そう思うと少し悲しくなった。
見目は整っているのだろうか?私は他の人間をあまり見たことがないからわからないが爺よりは整っている。すまん爺。
黒髪はギリギリで健康的な長さに保たれており、不快感は感じない。
____まあ、何をする訳でも無いし、放ってくか。
そう思い踵を返そうとした時だった。
「あ!!!!」
男が大きな声を出して此方に走ってきた。
驚いた私は目の前まで来た男を見上げる。
足が速いな。
「君がクローバーちゃんかい?嗚呼良かった!やっと逢えた。ずうっと探していたんだよ。あ、僕は怪しい人じゃないからね?彼奴の知り合いさ。彼奴というのは君が爺と呼んでいる奴でね。嗚呼!やっぱり可愛いなあ、彼奴は僕に手紙を寄越す癖に会わせてはくれないんだから。いやあ、でも最期に「クローバーを頼む」って言われた時はやっと会えるのかと嬉しかったよ!ふふふ、全然会えないものだから彼奴が僕をからかったのかと思って冷や冷やしたよ!」
一気にぺらぺらと饒舌に喋られた。
此奴の舌には油でも塗りたくっているのかもしれない。
私が怪訝そうな顔をしていると男は首を傾げた後に思いついた様に口を開けた。
「そういえば名前を教えてなかったね!僕の名前は六蔵……六蔵って呼んで構わないよ!」
そうじゃない。
***
一先ず小屋に上がらせる事にした。動物達も特に叫ばなかったし、悪意を持っている奴ではないのだろう。……そして、爺を知っている、から。
「あ、この部屋彼奴の好みだね。和風っぽい木の感じの部屋。」
そんなことを言いながら六蔵は小屋の中を見渡したあと、椅子に座った。
私が聞きたいこともあるから口を開こうと息を吸った瞬間だった。
「僕、此処に住むね」
「は?」
何て言った。天国(恐らく)の爺。助けてくれ。何て言う置き土産を置いて行ってくれたんだ。
____それから三月が過ぎた。
六蔵は私に対して擦り寄ってきたり頭を異常に撫でてきたりと変態っぷりを発揮してくれたが、まあ独りの寂しさは無くなったから感謝しないでもない。
六蔵に私の体質のことは言っていない。
爺から聞いているのかもしれないが私から言う事はなかった。
そして、ある日の事だった。
「クローバーちゃんは何時も古い言葉使いをするね。」
「それは六蔵もだろう」
そう言うと六蔵は少し目を伏せた。六蔵にしては可笑しな反応だったから少し気になったが鹿の角探しに夢中になっていてすぐに忘れてしまっていた。
あの時、きちんと問い詰めて置けば良かったのかもしれない。
そう思ってももう、遅い。
次の日。六蔵は居なくなっていた。
最初から六蔵という男はいなかった様に何も、塵一つ六蔵を思い出せるものは無くなっていた。
森中を探したが何処にもいなく、動物に尋ねるも知っている動物はいなかった。
____どうせ、いなくなるとわかっていた。
成長期であるはずなのに三月も経っても成長しない私を気味悪がったのだろう……。
そう考えて寝ようとしても一向に意識はぎんぎんと主張してくる。
それだけでは無く、何か頰を伝っているのを感じた。
こ れ は ?
私はクローバーのハンカチを握りしめると小屋から勢い良く出て街の方へと急いだ。
私の足だと走って街まで1日かかる。それでも私は急いで街へと向かった。
勝手にいなくなるなんて嫌だ、六蔵が私の中で大きくなっているのに気付いた。
走って走って走ってやっと着いた頃には2度目の夜が巡っていた。
街中をまた走る走る走る。キラキラ光る街が化け物の様だ。
途中同じ服を来た男に「何処から来たの?お母さんは?」と言われたが私に両親はもういないし、心配される歳でもないから答えずに六蔵を探した。
また、夜が明け、昼になり、暗くなってきた頃だった。
もう私は気力で立っているところだったが、少し先に六蔵らしき男がいるのに気付いた。
ハンカチを握りしめ、最後の力を振り絞って近付く。
これで違えば帰ろう、そう思い顔を見た時だった。
「……六蔵」
「クローバー……ちゃん?え、いや何で此処に。」
そう言いながらじりじりと後退していく六蔵の腕を引っ張り腰に腕を回して、逃げられなくする。
「クローバーちゃん?えっ……いつに無く大胆な行動と言いますか……お兄さん心臓がばくばくなんですが」
「煩い煩い!…………寂しかった」
嗚呼、私はきっと無様な顔をしているのだろう。温かいものが頰に流れる。
六蔵がぎょっとした顔をしたのを見て、私の意識はぷっつりと切れた。
***
目を覚ますと、六蔵が心配そうに覗き込んでいた。
此処は、小屋の中か。
起き上がると六蔵が気遣う様に声をかけてきた。2日、寝ていたらしい。
だが、この小屋に六蔵がいるのが嬉しくて、そんなことはどうでも良かった。
そして
「何故、森から去った。いつまでも成長しない私が気味悪くなったのか?」
「違う、違うよ!………………………っ僕は」
そう言うと六蔵は私の手を取った。
「僕が、おじいちゃんだって言ったら如何する?」
悲しそうに言った言葉が小屋に響く。
「特に何も思わないな」
「え」
「六蔵は六蔵だろう?」
姿が如何であれ六蔵は六蔵である。私が頷くと六蔵はぽかんとした表情をして言った。
「この姿でおじいちゃんなんだよ……?僕はもう80歳超えるのに成長しないんだよ?体の衰えも感じない」
「私は18歳になるがこの風貌だ」
二人の間に微妙な空気が流れた。
「え……クローバーちゃんも僕と同じ病なの」
「病か如何かはわからないが、そうじゃないのか?」
沈黙が痛い。
「っ……なんだ。僕の心配は要らなかったじゃないか。……君が僕のことを気持ち悪がって逃げ出すのが、怖くて」
「何故、気味悪がる」
「だって、言葉とかお爺ちゃんだし、君は彼奴の言葉が移ったんだろうけど」
はああ大きくため息を吐いた六蔵が私に笑いかけた。
「ああでも、クローバーちゃんは僕を追いかけて来てくれたのか。じゃあ、もう此処にずうっと住まわせて貰おう。この病は別名不死の病と言われていて成長しない代わりに死なないんだ。」
六蔵はいい笑顔を浮かべて私を抱き締めた。
……少し気持ち悪いと思ったのは言わないでおいておく。
友人から、貰ったお題五つで1時間で書きました(*^^*)
・ショタかロリをいれる
・約束
・クローバー
・ハッピーエンド
・ギャグ有り
1時間って結構大変ですね……
楽しんで頂ければ幸いです。