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HUMANOID  作者: 青草 光
第Ⅲ章 魔女狩り作戦編
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第9話 暴動

カイトの口からLMCの言葉が出た瞬間、ジェット、フロラ、キッドの表情が険しくなった。

三人の表情の変化にカイトは気付いた。

「ん?どうしたんだよ、三人共怖い顔して。もしかして、飯まずかったか? ってか、フロラ飯食ってねぇけど、具合でも悪いのか?」

ジェットは手に持っていたフォークを置き、険しい表情のままカイトの方を見た。

「カイト、そのLMCが捨てたっていうガラクタ、まだあるか?見せてほしいんだ。」

カイトはジェットの険しい表情に少し気圧されつつ答えた。

「ああ・・、分解できねえからとりあえず保管してるが・・・。どうしたんだいきなり・・・。」




空はうっすらと赤くなってきていた。

食事を終え、廃棄場へと戻った4人は隅っこの方にある倉庫へ入った。

「よっこらせっと・・。ほら、これだ。」

分解しきれずに倉庫の奥に大量に積まれたLMCの廃棄物の一つを、カイトが取り出した。

ジェット、フロラ、キッドの三人が顔を近づけてまじまじと眺めた。

LMCが捨てていったというガラクタはカイトの説明通り、人が一人入れるくらいの大きなカプセルとなっており、先端に針の付いた太いチューブのようなものが繋がっている。何かの薬品が入っていたのか、中は濡れており妙な匂いを放っている。

「なんか気持ち悪いな・・・。LMCはこれを何にどう使ってたんだ?」

「あまり良くないことに使ってそうな感じはするな。」

ジェットとキッドがガラクタの使い道を議論する様子を、カイトが後ろから複雑な表情で見ていた。

「お前ら、それが一体どうしたっていうんだよ・・・。事情も話してくれねぇし・・・。」

複雑な表情のカイトにフロラが真剣な表情で言う。

「カイト、LMCの人たちは悪い奴らなんだよ。」

フロラの突然の話にカイトがポカンと口を開ける。

「悪い奴ら?どういうことだ?」

二人の会話を聞いたジェットが話の間に入った。

「あんまり深くは話せねぇけど・・・。カイト、できるだけLMCとは関わらない方がいいぜ。オレたちが旅してるのも、LMCが関係してるんだ。」

カイトの表情がさらに複雑になった。

「言ってることが全然わかんねぇよ。まぁ確かに、ガラクタを運んでくるLMCの奴は不愛想であんまり良い印象じゃねぇが・・・。」

モヤモヤした様子のカイトにキッドが話した。

「すまねぇな。オレたちの頼みを聞いてもらっておいて、事情を話せねぇなんて・・・。ただ、フロラとジェットが言ったことは本当だ。LMCとは関わらない方がいい。今日は飯ごちそうしてくれてありがとう。美味かったよ。」

カイトは納得しきれなかったが、ただならぬ様子を感じ事情を聞くのを諦めた。

「そうか・・・、わかったよ。まあ、お前らが適当なこと言ってるようには思えねぇし、何か言えない事情があるんだな。忠告通り今度からLMCには気をつけるよ。ていうか、元々オレもLMCそんなに好きじゃねぇんだけどな。」

カイトが笑顔で言ってくれたので、ジェットたちも嬉しく思い笑顔になった。

カイトと別れ、ジェットたちは宿へと向かった。




夜になり、昼間とは打って変わって街中は静まり返った。

宿の一室で、ジェットとキッドは話をしていた。

「カイトいい奴だったな。」

ベッドに勢いよく横たわりながらジェットが言った。隣のベッドではフロラがスヤスヤと眠っている。

「そうだな。最初はちょっと乱暴な奴だなって思ったけど、意外と優しい奴だったな。」

荷物を整理しながらキッドが答えた。

「しっかし、わからねぇことだらけだな。この街だけ魔女の暴動が頻繁に起こってるなんて。何か原因でもあんのかな?しかも、どこからともなく現れるってどういうことなんだ?」

仰向けになり天井を見ながらジェットが言う。

キッドはもくもくと荷物を整理している。

「さあな。オレもジェットと同じで実際に魔女に会ったことねぇから、何とも言えねぇよ。ただ、面倒なことに巻き込まれないうちにさっさと次の街を目指した方が良さそうだぜ。」

ジェットは大きなあくびをしながら横で寝ているフロラを見た。

「そうだな。明日は朝早く出発するかぁ。こいつも寝ちゃってるし。」

「フロラって寝る機能までついてるんだな。ていうか、一応女性なのに同じ部屋で大丈夫だったのか・・・?」

キッドは苦笑いしながら言ったが、ジェットは何も気にしていないかのように淡々と答えた。

「こいつ、いつもいつの間にか寝てるからさ、オレも最近やっと気づいたんだよ『アンドロイドも寝るんだな』って。泣くときは涙を流す機能もついてるぜ。でもまだまだ一人じゃ何もできないから、いつもオレが一緒にいなきゃダメなんだよな。それとも、お前何かやらしいこと考えてんのか?」

ジェットがニヤリと笑いながらキッドの方を見た。

キッドは顔を赤らめて強く反論した。

「なっっ!!?バカかてめぇは!!そんなこと考えねぇよ!ロボット相手によぉ!お前こそ、なんでそんなに平然としてんだよ!?さては、お前もうすでに手ぇ出してんじゃねぇか!?」

キッドの切り返しにジェットも思わず焦った。

「は!?バ、バ、バカなこと言うんじゃねぇよ!!オレはこいつの保護者みてぇなもんだからな!オレがついてなきゃダメなんだよ!一緒の部屋にいるくらいでいちいち動揺してられるかっつーの!お前みてぇなムッツリ坊ちゃんと一緒にすんな!」

「はぁあ!今何つったぁ!?てめぇ、ころす!」

枕投げが始まり、夜は更けていった。




翌朝、一晩泊まっただけとは思えない程散らかった部屋を整理し、三人は宿を後にした。

「部屋がすっごく散らかってたけど、何かあったの?」

フロラがジェットとキッドに尋ねた。

「何もねぇよ・・・。」

とても眠そうに二人が同時に答えた。

街の出口を目指してゆっくりと歩いていると、キッドが何かに気付いた。

「あれ・・。何だろうあの人たち?昨日はいなかったよなぁ?」

キッドの指を刺す方向を見ると、ヘルメットやプロテクターを身に着け、銃などの武器を持って武装した30人程の集団が立っていた。

「本当だ・・。何かあるのか・・・?」

「この街の人たちかなぁ・・?」

ジェットとフロラも異様な光景に目を奪われた。

「・・・まあいいか。次の街に向けて出発だ。」

集団のことが気になりつつも、キッドは地図を広げ次の目的地を探し始めた。

顔を寄せ合って一つの地図を眺める三人の横を、数台の大きな黒いトラックが順番に通っていった。

トラックには目もくれず街の出口を目指す三人。

「えーっと・・、ここから一番近い町は・・・あった、ここだ!」

キッドが地図をなぞりながら次の街へのルートを辿っていった、その瞬間だった。


「ドオォォォォン!!!」


爆音と地響きが街中に轟いた。

あまりの音に思わず目をつぶり耳を塞ぐ三人。

街を歩いていた人々も思わず耳を塞ぐ。

「なっ・・!?何が起こった!?」

爆音が鳴りやむと、ジェットが顔を上げ急いで周りを見渡す。

すると、後ろの方で先程通っていったトラックが煙を上げて炎上していた。その向こうに先程の武装した集団が一斉に走っていくのがわずかに見えた。

「トラックが・・・爆発したのか!?」

突然何が起こったのか理解できないキッドが、目を見開いて炎上するトラックの方を眺めた。


「ドォォン!」「ドォン!ドォン!」


「うわっ!!」

炎上するトラックの向こう側で他のトラックも相次いで爆発した。爆発の振動がジェットたちの元まで響いた。

合計4台のトラックが街の真ん中で連続で爆発し、煙を上げた。

4つの煙は空で1つの巨大な煙となり、天へ向かってモクモクと昇っていく。

爆発の近くにいた人々が慌てて逃げてくる。トラックの周りには怪我をして倒れている人もいる。

「な・・何が起こったんだ、一体・・・!?」

ジェットたちは動くことも忘れ、ただただその光景を眺めることしかできなかった。

「魔女だぁぁぁ!!また魔女が出たぞぉ!!暴動だぁぁぁ!!」

爆発の近くにいた男性が大声で叫びながら、こちらへ逃げてくる。

その叫び声を皮切りにだんだんと騒ぎが広まっていくのがジェットたちにもわかった。

「うわぁ!!魔女だぁ!逃げろぉぉ!!」

辺りにいた人々が怯えて一斉に逃げていく。

「おい、ジェット!フロラ!何ぼーっとしてんだよ、逃げるぞ!」

その場に突っ立っているジェットとフロラに慌てて声をかけるキッド。

しかし、ジェットとフロラは動こうとせず、何かを見ていた。

「おい!早く逃げねぇと!魔女が来るぞ!」

キッドが慌てて二人の肩を掴んで体を揺さぶったが、ジェットとフロラはトラックの横に倒れている人を見ていた。

「助けなきゃ・・!怪我してる人がいる!!」

ジェットはそう叫びながら、フロラと共に炎上しているトラックの方へ走っていった。

「な!?おい、ジェット!?フロラ!?・・・あぁもう、くそっ!!」

走っていく二人の姿を見て、キッドも仕方なく後に続いて走っていった。

ジェット、フロラ、キッドの三人はトラックの近くで頭から血を流して倒れている男性の元に駆け寄った。

ジェットが男性の体を起こし、声をかける。

「おい!大丈夫か!?しっかりしろ!」

男性は苦しそうな表情で言葉にならないうめき声を発していた。

「魔女にやられたのか!?安心しろ!すぐに病院に連れてってやるから!」

ジェットが懸命に呼びかけ、男性を背負って歩こうとした、その時、誰かがジェットに声をかけた。

「君大丈夫か!?早く逃げなさい!」

「え!?」

振り返ると、先程の武装した人がジェットに声をかけていた。

「その人は怪我をしているんだな!?私たちが病院まで運ぶから、君たちは早く逃げなさい!」

その人はそう言いながらジェットから怪我人を引き受けて背負った。

「あなたたちは・・誰ですか!?」

ジェットが思わず尋ねた。

「私たちは魔女の暴動を抑える専門の治安部隊さ!さあ、ここは危険だ!怪我人は私たちに任せて早く逃げなさい!」

治安部隊を名乗る人はニコッと笑ってジェットたち三人にそう言うと、怪我人を背負ってどこかへ消えて行った。

「す、すっげぇ!あんなカッコイイ人たちがいるのか!」

感動するジェットとキッドはフロラ連れて街の出口の方へ走っていった。

走る途中、どこからか呼び声が聞こえた

「おーい!お前ら無事かぁー!?」

ジェットたちに呼びかける声の方を向くと、カイトがこちらに向かって走って来ていた。

「カイト!お前も逃げてきたのか!」

カイトはジェットたちの元に走ってくると、下を向きながらぜぇぜぇと息を切らした。

「お・・お前ら・・ハァハァ・・無事だったか!良かった!」

カイトはジェットたちの無事を確認し安心した様子だった。

それを見たジェットたちも安心した表情になった。

「ああ!なんとか無事だったぜ!カイトも無事だったんだな!」

炎上するトラックからだいぶ距離を開けた4人は一旦立ち止まり、お互いの無事を確認し合った。

すると、ジェットはカイトが何かを背負っていることに気付いた。

「あれ?カイト、その背中の物は?」

「ん?あぁ、これか?」

ジェットに尋ねられ、カイトが背中を見せた。背中には皮でできたホルダーに入った剣のような物が背負われていた。

「これは『ブレイカー』っていう、オレの仕事で使ってる道具だ。魔女に襲われた時の為に、家から持ってきたんだ。見た目は剣だが、ただの剣じゃねぇぜ、これは・・・」

カイトが背中の物を見せながら話していると、急に炎上するトラックの方を見て何かに気付き、話を止めた。

ジェットはカイトの表情がだんだん険しくなっていくことに気付き、慌ててカイトの視線の先に目をやった。

すると、遠くから黒いローブを羽織った大勢の集団がこちらに向かって走ってくる姿が見えた。

「ま、魔女だ!!」

カイトが思い切り叫んだ。その一言にジェットたちも驚く。

「あ、あれが魔女・・!?」

頭から黒いローブを羽織って顔もよく見えない不気味な20人程の集団がこちらに向かって走ってくる様子に、ジェットたちは一瞬後ずさりした。

「ドォン!ドォン!」

急に何かが爆発する音が鳴った。

よく見ると、走っている魔女の手から緑色のモヤモヤした光のようなものが放たれ、直撃した建物が爆発している。

「魔法だ!あいつら・・魔法を放ちながらこっちに向かってくるぞ!!」

カイトが叫んだ。

「ダメだ!逃げよう!相手にできる数じゃない!」

キッドの叫びで、4人は一斉に街の出口へ向かって走り出した。

すると、魔女の放った魔法が、走る4人の横に建っている建物に直撃した。

「うわぁ!!」

破壊された建物のがれきが最後尾を走っていたジェットの足元に飛散し、ジェットが転倒した。

「ジェット!?」

フロラ、キッド、カイトが慌てて足を止め、ジェットの元に引き返そうとしたが、魔女がジェットのすぐそばまで近づいていた。

「うっ・・・!?」

ジェットはとうとう魔女に追いつかれ、動揺して動くことができなかった。

追いついた一人の魔女が倒れているジェットの胸ぐらに掴みかかった。

「ジェット!逃げて!」

「ジェット!伏せろ!」

「ジェットォ!」

フロラが慌てて右手を構え、キッドはポケットから武器を取り出し、カイトは背中の武器を取り出しながらジェットに掴みかかっている魔女めがけて走った。

「ま、待て、お前ら!この魔女なんか様子が変だ!!」

突然、魔女に胸ぐらを掴まれているジェットが叫んだ。

「え!?」

三人が慌てて止まる。

ジェットが落ち着いて魔女の方を見た。

よく見ると、ジェットを掴んでいる魔女の手はブルブル震えており、危害を加えてくる様子は無い。

ジェットはローブの隙間から見える魔女の顔を覗き込むと、魔女は泣きながら何かに怯えた恐ろしい形相をしていた。

その魔女の口から、聞こえるか聞こえないかわからないくらいの小さな声が出ているのがジェットには聞こえた。

「・・・嫌だ・・・行きたくない・・・あそこは・・・怖い・・・」

「え・・・?」

ジェットは予想外の魔女の様子に状況が理解できなかった。

後ろにいたフロラ、キッド、カイトは冷静にあたりを見回すと、他の魔女たちが自分たちには目もくれず走り去っていくことに気付いた。

「オレたちには何もしないのか・・・?」

構えていた武器を降ろし、カイトが呟いた。

「ジェット!前!」

突然のフロラの叫びに全員が前を見ると、治安部隊の3人がジェットと魔女の元まで駆けつけていた。

「君!大丈夫かい!?この魔女め!おとなしくしろ!」

「いやぁ!助けて!」

駆けつけた治安部隊が泣き叫ぶ魔女に麻酔薬を打ち込むと、魔女はぐったりと倒れ込みそのまま連れて行かれた。

「危なかったね!怪我は無いかい?ほとぼりが冷めるまで、向こうには近づいちゃダメだよ!」

治安部隊はそういうと、他の魔女を追いかけて行った。

「ジェット!大丈夫か!?」

フロラたちがジェットの元に駆けつけた。

ジェットは地面に座り込んだまま、予想とは違った魔女の言動を理解できず唖然とした表情をしている。

「ジェット!怪我は無い!?」

フロラがジェットの肩に手を当てて心配そうに尋ねた。

「あ、ああ・・。大丈夫だ・・・。」

唖然としながらも返事をするジェットにキッドが声をかけた。

「おいどうしたジェット!?様子が変だぞ!どっか怪我したのか?」

キッドの問いかけに答えもせず、ジェットはゆっくりと立ち上がってから口を開いた。

「今の魔女・・怯えてた。泣きながら、『行きたくない』って・・・。最後は『助けて』って・・・。」

「今の魔女が?そんなこと言ったのか?」

驚いてカイトが尋ねたが、ジェットは自分の中に浮かび上がってくる疑問を整理するので精いっぱいだった。

「暴動を起こした魔女がなんであんなに怯えてるんだ・・・?まるで、暴れてるというよりは何かから逃げているような・・・。」

ジェットはさらに浮かび上がってくる疑問を無意識にカイトに尋ねた。

「カイト・・・。治安部隊の人たちは魔女を取り押さえた後はどうするんだ・・・?」

カイトは顎に手を当てて、少し上を向きながら答えた。

「取り押さえた後・・?さあ・・・、取り押さえた後のことはよく知らねぇ。街の外に追い出すんじゃねぇか?LMCの治安部隊がどうするかなんてわかんねぇよ。」

カイトの返答の中に出てきた一つの単語にジェット、フロラ、キッドの三人は敏感に反応した。

「え・・LMC!?治安部隊が!?」

カイトは三人の異様なまでの反応に驚きながらも答えた。

「あ、ああ・・・。あの治安部隊はLMCの人間で作られた部隊なんだ。ほら、この街で一番でかい工場が見えるだろ?あれはLMCの工場で、治安部隊はそこから来てるみたいだぜ。」

カイトの説明を聞いて、ジェットがゆっくりと話した。

「ということは、さっきの怯えた魔女はLMCの人間に連れていかれたってことか・・・。」

ジェットがそう話した瞬間、フロラ、キッドの驚いた表情が一変して険しいものになった。

カイトは三人の様子の変化に驚いた。

「お、お前らどうしたんだよ・・一体・・・。」

少しづつ状況を整理し、ようやく真剣な顔に戻ったジェットが真っすぐにカイトの方を見た。

「カイト・・・。オレたちは何か勘違いをしているのかもしれねぇ。」

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