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HUMANOID  作者: 青草 光
第Ⅱ章 追手との戦い編
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第5話 両親

家の中に入り、改めて広さを実感したジェットとフロラ。

「ジェットの家よりずっと大きいー!」

「悪かったな・・・。」

すぐに使用人が数人出てきた。

「キッド坊ちゃまお帰りなさいませ。」

キッドは呆れたような顔をした。

「坊ちゃまはやめてくれって言ってるだろ・・。あと、自分のことは自分でやるから。それよりお客さんが来てるから、応接室まで案内してやってくれ。」

「お客様・・?」

使用人の女性がジェットとフロラを見る。

「あっ・・は、はい。かしこまりました。それでは、お客様こちらへどうぞ。」

女性は一瞬何かに驚いた様子を見せたが、すぐにジェットたちを案内した。


使用人の女性に案内され、階段を上っていたジェットは不安だった。

やべえ・・場違いだったかな?使用人は自分の汚れたズボンを見てあまりにみすぼらしかったから驚いたんじゃ・・・。

二階へ上がり長く広い廊下を歩いていると、窓から中庭が見えた。

「うわっ・・中庭まであんのかよ・・・!すっげぇな・・。」

ジェットは落ち着かなかった。こんな大きな屋敷に来たのは初めてだった。

「こちらで御座います。すぐにお飲み物をお持ち致しますね。何が良いですか?」

「えっ?飲み物・・?あ、じゃあ・・・お、お茶で・・・。」

別世界の暮らしに足を踏み入れたジェットは完全に雰囲気にのまれていた。

一方、フロラはそこらに飾ってある剥製や絵に興味津々だった。

「そちらのお嬢様は何が良いですか?」

「やべっ・・・!!」

ジェットはドキリとした。フロラは飲み食いができない。

「飲み物・・・?」

「あ!この子もお茶で・・!」

フロラが尋ね返したが、ジェットが慌てて遮った。

「かしこまりました。少々お待ちください。」

使用人が部屋から出ていく。

「ふぃー・・・。こんな生活してんのかキッドは・・。てか、屋敷の息子っていったらもっと綺麗な洋服着て言葉遣いも丁寧なのを想像してたけど、めちゃくちゃ普通の奴だったな・・・。まあ、あいつだけは普通で助かったな・・。」


しばらくすると、使用人がお茶とたくさんのお菓子が入った器を持ってきた。

「失礼します。お茶とお菓子のご用意ができました。どうぞ、ごゆっくりおくつろぎください。」

「あ、ありがとうございます・・!」

使用人のかしこまった態度にジェットは落ち着かなかった。

すると、フロラが興味を示すターゲットが壁の絵からテーブルのお菓子に変わった。

「わあー!キレイ―!ジェット、これなあにー?」

フロラがお菓子のケーキを素手でわしづかみした。

慌てるジェット。使用人の前で何とかやり過ごそうとする。

「おいっっ・・・!だ、ダメじゃないかぁ・・、いくら腹減ってるからって素手はダメだぞぉ・・。」

おそるおそる使用人の顔を見ると、使用人は口に手を当てくすくすと笑っている。

「ふふふっ・・・賑やかなお方々ですね・・!」

ジェットは恥ずかしくなった。

「すっ・・・すいません!オレもこいつもこんな立派な家に招待されるの初めてでびっくりしちゃって・・・!」

慌てて謝るジェット。フロラは唖然とした顔をしている。

使用人は笑いをこらえて口を開いた。

「いえいえ・・とんでもない。キッド坊ちゃまにこんなに元気なお友達がいたなんて知らなかったものですから、つい嬉しくなってしまって。」

ジェットは驚いた。

「えっ?あいつ友達いないの?」

「そうですね・・・。旦那様と奥様が生きてらっしゃった頃は街のお友達と元気に外で遊んでらっしゃったのですが、お二人が亡くなられてからは外に出ることも少なくなってしまって・・・。」

「そうだったんだ・・。全くそんな風には見えなかった・・。」

「私たち使用人の前では、旦那様と奥様がお亡くなりになられたことを悲しむそぶりは一切見せませんが、きっと今でもつらい気持ちを押し殺しているのだと思います・・・。本当はもっと無邪気にはしゃぐ方だったのですが、その時を境に一気におとなしくなってしまって・・・。」

使用人はとても悲しそうな表情をしたが、慌てて真面目な表情に戻した。

「申し訳ございません。お客様にこのような話をしてしまって・・。」

「いえ、あいつのこと聞けて良かったです。オレたちの方こそ、何も知らずにずかずかと押しかけてしまってすいません。」

「いえいえ、とんでもない。それでは、失礼します。」


使用人が出ていくと、ジェットは呟いた。

「父親のことを話に出しちまうなんて、悪いことしちまったなぁ・・。後で謝らねえと。」

しばらくすると、キッドが入ってきた。

「お待たせ。どれが何の書類かわからなかったけど、とりあえず関係ありそうなやつ持ってきたぜ。」

「おお!ありがとう!」

三人は分担して書類に目を通していき、Dr.アクアの情報を探すことにした。

ジェットが書類に目を通しているキッドの方をチラッと見て言った。

「あのさ・・、父親と母親が亡くなったってのに、無理に押しかけちまってすまなかったな。」

ジェットは謝ると、キッドは作業の手を止めて明るい口調で言った。

「そんなこと気にしてたのかよ。別にいいって、もう6年も前の事だし。それに、ジェットたちには関係の無い話だしな。」

そう言うと、キッドは作業を再開した。

「手伝ってくれてありがとうな。」

ジェットがお礼を言うと、キッドが照れくさそうに返事をした。

「へっ、どういたしまして。まあ手がかりになる情報がこの中にあるかわかんねぇけど。」

そう言うと、書類を見ながら話を続けた。

「オレの親父はさ、仕事でほとんど家にいなかったんだよね。いつも母さんがオレに構ってくれててさ。でも、たまに帰ってくると一緒に遊んでくれてたんだ。それが、6年前に父さんと母さんが二人で別荘に行った時に火事で亡くなっちまってな。使用人の人とかはすげえ心配してくれるんだけど、今はもうそこまで落ち込んでるわけじゃないんだ。ただ、これからどうするかとか、将来の事とかを考えるとつい不安になっちまって。使用人の人にはその部分でも気を使わせちまってるのかも・・。」

「そうか・・・。」

ジェットが心配そうな表情になったのを見て、キッドが慌てて話を続けた。

「あ、悪い。何か暗くなっちゃったな・・・!まあ、要するにオレには気を使わなくていいってことだよ!」

キッドが笑顔になったのを見て、ジェットも安心して笑顔になった。

「そうだな!じゃあ気使うのやめるぜ、キッド坊ちゃん!」

「うっせぇ!!坊ちゃんはやめろ!」

二人は声を上げて笑った。

ジェットはなんとなく、今の笑っているキッドが本来の姿なんだろうと感じた。

フロラは会話の内容は理解できなかったが、とても良い雰囲気になったことは感じ取り、フロラも笑顔になった。


「ジェットの親はどんな人なんだ?」

ふと、キッドが尋ねた。

「オレの父さんはオレが生まれる前に死んじゃったみたいなんだ。事故かなんかで・・・。母さんもオレが生まれてすぐ後に病気で死んじゃったみたいで、全然覚えてねぇんだ。オレは年の離れた兄貴にほとんど面倒見てもらったんだよ。」

「ま、マジか・・。何かすまねえな変なこと聞いちまって・・。」

「いいって、兄貴から聞いた話でオレ自信も深く知らないことだからよ。」

フロラはまた話の内容が理解できなかったが、ジェットが大切な人を失っていたということだけ理解できた。


「フロラ、早く記憶が戻るといいな。」


キッドがフロラに向かってそう言うと、ジェットはドキッとした。

「キオク?」

フロラがぽかんとした表情になった。

「あーー!とりあえず、作業を続けようぜ!」

慌てて遮るジェット。

すると、フロラが何かに気付いた。

「あっ!ジェット見て!」

見ると書類の中にLMCの文字が記載されている部分があった。

ジェットがその書類を取り出し、内容を読む。

「『LMCへの部品提供に関して』って書いてあるぞ。」

キッドが少し驚いた。

「え?LMCってあの有名な? 父さんの会社、LMCとも取り引きしてたのか・・。知らなかった。」

「どうやら、LMCがキッドの父さんの会社に部品を提供してくれっていう依頼をしてたみたいだ。」

「ふーん。Dr.アクアとは関係無さそうだな。」

キッドとフロラは再び書類に目を向け、Dr.アクアの情報を探し出した。

しかし、書類を元に戻そうとしたジェットはあることに気付いた。書類の日付が6年前のものだった。6年前といえば・・・・。

何となく嫌な予感がする。たとえ表向きでもLMCに関わることはあまり良くない気がする。

ジェットはとりあえずキッドには見せないよう、書類を元に戻した。




一通り書類に目を通したがDr.アクアに関係するものは見つけられず、三人はがっかりした。

「結局手掛かりなしか・・。」

「残念だったな・・・。まあ、でもそのうちきっとDr.アクアは見つかるさ。落ち込まずに元気出せよ。」

キッドがジェットとフロラを励ました。

「ところで、もう夜だけど二人はこれからどうすんの?」

「え?」

一瞬、キッドの問いの意味が理解できなかった。

「二人はリーフタウンから来たんだろ?宿でも取ってんのか?」

「あ・・・。」

ジェットは宿を取ることをすっかり忘れていた。

「取ってねぇんなら、今日はうちに泊まってくか?」

「えっ!?いいの?」

ジェットの表情が明るくなる。

「ああ別に構わないぜ。部屋も空いてるし。」

「ありがとう!助かるぜー!!」

「うわっ!おいこら・・!」

ジェットは嬉しさのあまり、思いっきりキッドの肩をつかんで揺さぶった。

「じゃあ、そうと決まれば使用人の人たちに伝えてくるわ。料理と部屋の準備してもらうから。」

「ありがとう!」

ジェットがお礼を言うと、キッドが部屋から出て行った。

フロラは会話に置いてきぼりだった。

「ジェット、何であんなに喜んでたの?」

「そりゃあ、泊めてくれるってことは温かい料理が食べれて、温かい布団で寝れて・・・」

急にジェットの話が途切れた。

「どうしたの?ジェット。」

フロラが尋ねたがジェットは返事をせず、顔が引きつっていた。

「食事・・・?」




使用人も集まり、全員で夕食を食べることになった。

総勢15人程の人間が囲むテーブルには豪華な料理がたくさん並んでいる。

もちろんフロラの前にも平等にたくさんの料理が並び、ジェットは表情が暗くなっていた。

「うわー・・・。どうしよう・・・。みんなの前でこいつだけ食わせないわけにもいかないし・・。」

力の無い声でぼそぼそと呟くジェットの隣で、フロラは初めて見るたくさんの料理を眺めていた。


「いただきます!」

キッドの掛け声で全員が食事を始めた。

使用人の人たちはゆっくりと食事を進めていく。

キッドも年相応の少年らしい食べ方でガツガツと食事を進めていた。

「ん?どうしたジェット、食わねえのか?」

「い、いや・・、その・・、あまりに豪華だからびっくりしちゃって・・。」

ジェットは食事どころではなかった。フロラがアンドロイドだということがバレないようにやり過ごすことだけを考えていた。

「あれ?フロラも食ってねぇじゃん。」

キッドの一言がジェットにグサリと刺さった。

「食ってねぇ・・?」

フロラはキッドの言葉の意味が理解できなかった。フロラにとって料理は「見るもの」だった。

すると、ジェットが突然叫んだ。

「え!フ、フロラ腹が痛いだって!?」

「え?」

フロラがキョトンとする。

「そうか!腹が痛いのか!そりゃあ大変だ!早くトイレへ行かねぇと!」

「何かあったのジェット?」

ジェットはフロラを無理やり引っ張って、使用人たちが心配する中、食堂から出て行った。




とりあえず応接室にフロラを連れ戻したジェット。

「急に引っ張ってどうしたのジェット!?」

「悪い・・。でも、仕方ねぇんだよ。」

「何が仕方ないんだ?」

ドキッとして後ろを見ると、キッドが立っていた。

「何が仕方ないんだよ?」

キッドは怪しいものを見る目でこちらを見ている。

「いや・・、その・・。」

ジェットの焦った表情を見て、フロラも少し不安な表情になった。


妙な静寂がその場に流れる。


追い詰められたジェットはどう切り抜けるか考えていたが、頭の中で使用人の女性が言っていたことを思い出した。

『キッド坊ちゃまにこんなに元気なお友達がいたなんて・・・』

ジェットはふーっと息を吐き、諦めた。

「『友達』か・・・。」

キッドにすべてを話す決心をした。




夜遅く、ジェット、フロラ、キッドの三人は食堂で夕食の続きを食べ始めた。

「そうか。さっき食わなかったのはそういうことだったのか・・。」

「ああ、そうだ。だからフロラは食事はしないんだよ・・。」

ジェットとキッドが自分たちの前に置かれている料理を食べながら話した。

今度はフロラの前には料理は置かれていなかった。

「フロラ、何かごめんな。オレだけこんな豪華な料理食っちまって・・。」

ジェットがフロラに謝ったがフロラは全く気にする様子は無く、ジェットの前にある料理を眺めるのに夢中だった。

「しかし、未だに信じられねぇな、フロラがアンドロイドで・・・、LMCがそんな悪事を働いてたなんて・・・。」

「オレも信じたくなかったけどさ、フロラがここにいるのが証拠だよ。」


料理をすべて食べ終え、満足感に浸るジェット。

「ごちそうさん!こんなに美味い料理食ったの初めてだぜ。」

「そうか。喜んでもらえてよかった。」

「あーあ・・、無くなっちゃった・・。」

フロラが残念そうにしていると、使用人がやってきて食器を片づけていった。

しばらくすると、ジェットは使用人に気付かれないよう小声でキッドを呼んだ。

「ちょっと外に出ねぇか?話しておきたいことがあるんだ。」

「話?まあいいけど・・・。」

「よし。フロラも行くぞ。」

「うん。」

ジェットはキッドとフロラを連れて玄関から外へ出た。


外は涼しい風が吹いていた。

三人は玄関の先にある階段に座った。

「で、話なんだけど・・・。キッド、お前・・・、フロラとLMCの事、誰にも言うなよ。LMCがお前までターゲットにしてくるかもしれねえから・・・。」

ジェットが少し悲しそうな表情になっていたので、気にさせないようにキッドがニヤリと笑って返した。

「なんだ、そんなことか。わかってるって、誰にも言わねぇよ。使用人にもフロラが腹痛で夕食を食べれなかったって伝えといた。」

「まあそれならいいんだけど・・・。」

表情から少しだけ不安の色が消えたジェットに、キッドが尋ねた。

「二人はこれからどうすんだ?どこか手がかりを探すあてはあるのか?」

「んー・・・、ねぇな。ま、気長に探すさ。とりあえず、話はそれだけだ。戻ろうぜ。」

ジェットが腰を上げて中へ戻ろうとした、その時だった。


「すいませーん。」


門の方から誰かが呼ぶ声が聞こえた。

「何だ?誰か呼んでるぞ?」

三人で門まで見に行くと、外に二人の男性が立っていた。二人とも長身で黒いコートのようなものを羽織っていた。フードをかぶっていて口元しか見えないが、二人ともニヤニヤ笑っているように見える。

不審に思ったキッドが尋ねる。

「誰ですか?何か用ですか?」

男たちは不気味に笑いながら答えた。

「そっちの黒髪のツインテールの女の子とオレンジ色の髪の男の子に用があるんだけどー、ちょっとこっちまで出てきてくれないかなー。」


ジェットは一瞬で悟った。


「キッド!さがれ!!こいつら・・・LMCだ!」


ジェットの叫びと同時に男たちは服の中からナイフを出し、門の隙間からキッドに向かってナイフを伸ばした。

「うあっ・・・!」

キッドは反射的に後ろに飛び下がったが避けきれず、わずかに腕を刺された。

「くっ・・。」

キッドの服の袖に血が滲み、ジェットとフロラが慌てて駆け寄る。

「大丈夫か!?」

「キッド!大丈夫!?」

キッドは腕を押えながら立ち上がった。

「ああ・・、大丈夫だ・・!」

ジェットはフロラとキッドを自分の後ろに下がらせた。

「おとなしくこっちに来てたら何もしなかったのにー。LMCを警戒するってことはー、君たち三人とももう秘密を知っちゃってるってことだよねー?ひひひっ・・・。」

血の付いたナイフを光らせ、LMCの二人が門の外で不気味に笑った。


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