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HUMANOID  作者: 青草 光
第Ⅳ章 フロラ奪還編
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第27話 計画開始

フロラが保管されていると思しき研究室の扉を発見し、四人はゆっくりと顔を見合わせ、下の部屋へと降り立つ決心をした。

息を押し殺し、鉄格子の隙間から改めて下の部屋を覗き込む四人。

物が何も置かれておらず、部屋というよりは広い廊下の様なその部屋には誰もおらず、物音一つ聞こえない。


カイトが慣れた手つきで工具を使いゆっくりと換気口の鉄格子を外し、ジェットたちは静寂に満ちた部屋に降り立った。

研究室の扉と反対側には開放された扉があり、その先には長い廊下が見えている。


周囲を警戒しながら素早く、しかし慎重に研究室の扉へと近寄る四人。


「フロラ……、助けに来たぞ……!」


真っ先に扉に近づいたジェットが扉の取手を握り、力を込めた。

ガン!という鈍い音がした。


「くっそ!カギがかかってやがる……!」


重厚な鉄の扉の前で四人が肩を落とした。


「マジか……。まあ、当たり前と言えば当たり前か。くそ……」


ダイナが腰に手を当てため息をついた。


「カギを探さなきゃなんねぇのか……。厳しいな」


カイトも腕を組みながらため息を吐いた。

すると、ジェットが右腕をゆっくりと後ろに引いて構えた。

その動きは、今まで立ちはだかってきた敵を倒す時に見せる動きだった。


「ん?ジェットどうした?……ってお前、まさか……」


ジェットがやろうとしていることにいち早く気付いたのはキッドだった。

ジェットは無表情で答えた。


「扉をぶち破る」


「「「は!!?」」」


三人が一斉にジェットを取り押さえた。


「バカかお前!そんなことしたら100%気付かれるだろ!!」


三人に取り押さえられながらも、無理やり突破しようというジェットの考えは揺るがなかった。


「でもよ!どこにあるかわからないカギを敵に見つからずに探しに行くよりも、イチかバチかここで強行突破して、急いで逃げた方が可能性高くないか!?」


「狭い通気口の中をちんたら逃げてもすぐ捕まっちまうし、他に出口がどこにあるのかもわかんねぇだろ!」


三人が力ずくでジェットを取り押さえる中、背中にしがみつくキッドが必死に説得し、ジェットが諦めた。


「くっそー……、やっぱダメか……」


がっくりと肩を落としうなだれるジェットを、ダイナがぜぇぜぇと息を切らしながら睨んだ。


「何考えてんだよ、ホントにこいつは……」


ジェットの突発的な行動に呆れていた、その時。



「カギならここにあるぜ?」



「「「「えっ……!?」」」」


後方から聞こえた聞き覚えのある声に、四人が驚いて振り向いた。

振り向いた先には、巨大な斧を肩に担いだゼルガと一本の細い剣を右手に持ったクロムが立っていた。

餌で獲物を釣るように、ゼルガは右手の親指と人差し指で軽くつまんだ小さなカードキーを、ニヤニヤと笑いながら目の前のジェットたちに見せつけていた。


「ゼルガ……!!」


カイトを始め四人に一気に緊張が走った。

目の前の男が以前全く歯の立たなかった相手だということは、頭よりも体が覚えていた。

隣に立っている金髪の男もゼルガに引けを取らないプレッシャーを放っている。

ゼルガがこれ見よがしに手に持ってひらひらさせいる、今にもポロリと落としそうなカードキーを奪い取ることがどれほど困難なことなのか、ジェットたちには容易に理解できていた。


「お前らがアンドロイドを取り返しに来ることはだいたい予想できてたぜ。その扉はちょっとやそっとじゃこじ開けられないよう頑丈に作られてるからよ、通りたきゃこのカギがねぇとなぁ……。欲しいんだろ?ほら、取ってみろよ?」


ゼルガが弄ぶようにカードキーを見せつけ、ジェットたちを挑発した。


「ハハッ、ゼルガってホント嫌な性格してるね」


隣にいるクロムが爽やかな、それでいて冷たい笑顔を見せた。


圧倒的不利な状況に苦悩の表情を隠せないダイナ、カイト、キッドの三人。

しかし、そんな三人を差し置いて、目の前の敵に食って掛かったのはジェットだった。


「そのカギよこせ」


その様子は全く動じることなく、目の前の相手を威嚇するかのごとく、強い眼差しだった。


対するゼルガは獲物がかかったと言わんばかりにニヤリと笑みを浮かべた。


「欲しけりゃ、力ずくで奪ってみなぁ!」


ゼルガが声を荒げるとほぼ同時にジェットが飛び出した。


「お前らにフロラは渡さねぇぇ!!」


飛びかかってくるジェットを見ながら、ゼルガは左耳に装着していた通信機のスイッチを押した。


「予定通り、ガキ4人が侵入してきた。今から戦闘に入る。そっちは頼んだぜ、ヒューゴ」


通信機の向こうから、ヒューゴの応答が帰ってくる。


『了解。それじゃ計画通り、侵入者の警報をキヨラに鳴らしてもらって、十二武将の中で怪しい動きをする奴がいないか、僕が監視カメラで確認するよ。そっちの戦闘はゼルガ、クロム、任せたよ。あー、それと念のためもう一度言っとくけど、くれぐれもすぐに殺してしまわないように。裏切り者が動きを見せるまで長引かせないと意味ないからね。それじゃ、よろしく』


ヒューゴからの応答を受け取ったゼルガは斧を構え、すでに目前に迫っているジェットに対して戦闘態勢を取った。

一方、横にいるクロムは全く何もせず、ただ穏やかにその様子を見ていた。


「ジェットォォハンマァァ!!!」


勢いよく弾ける右腕を、ゼルガの頭めがけて振り抜くジェット。

しかし、狙い通りの手ごたえは感じられなかった。

鉄の拳はまたしてもゼルガの左腕に収まり、止められていた。


「工場の時と同じだな……、全く学習してねぇなぁ……」


ジェットの全力にも全く動じず、やれやれといった様子でため息をつくゼルガ。

ジェットはなぜ自分の渾身の一撃がこうも簡単に止められるのか理解できなかった。


「くそっ……、また止められた……!何でこんな簡単に……!?」


カギを奪おうとするも自分の力が全く通用せず焦りを募らせるジェットに、ゼルガは面倒くさそうに答えた。


「オレはお前らとは根本的に違うんだよ。生まれた時からな」


「は!?どういう……!?」


意味が分からずジェットが困惑したその時。


『緊急事態発生!侵入者の存在を確認しました。研究所内にいる者は、各自緊急時マニュアルに従い、侵入者の拘束および機密情報の保護に努めてください。繰り返します、侵入者の存在を確認しました……』


巨大なサイレンの音と共に、キヨラの声で警告のアナウンスが建物内に響き渡った。


「くそっ……!!敵が集まってくるのか……!?」


突然のサイレンに驚き、動揺を隠し切れないジェットたち4人。


そんな4人とは対照的に、冷静なクロムはさわやかに笑った。


「ハハッ、もう逃げられないね」


動揺するジェットたちやそれを弄ぶクロムをよそに、ゼルガは自分の気持ちが激しく高揚しているのを感じ、いやらしい笑みを浮かべていた。

今から始まる、裏切り者あぶり出し計画に胸を躍らせていた。


『ククク……、始まるぜ、裏切り者探しが……。オレの目的はこんな雑魚どもを相手にすることじゃねぇ。ひっそりとLMC紛れ込んで、コソコソしているネズミを見つけ出し、縛り上げ、自分の行いを後悔させながらぶっ殺すことだ……!まあ、オレの予想じゃ『あいつ』が裏切り者で間違いなさそうだが……、さて、一体どんな動きを見せてくれるんだ……?』


笑いをこらえきれず、ニヤリと笑みを浮かべるゼルガ。

すると、ジェットの後方からダイナがゼルガめがけて飛びかかった。


「こうなりゃ仕方ねぇ!じっとしていても追い詰められるだけだ!さっさとカギを奪ってフロラを取り返すことだけ考えろ!」


ダイナはゼルガの顔面めがけて勢いよく右足を振り抜いた、が、ゼルガはそれを軽く左腕で防いだ。


敵に飛び込んでいくジェット、ダイナの様子を見て、後ろにいたキッド、カイトも戦う覚悟を決めた。


「くそ……!確かに、待ってるだけじゃ状況は悪くなる一方か……!行くしかねぇ!!」


キッド、カイトもゼルガをめがけて走った。

向かってくる四人を前に、ゼルガは首をゴキゴキと鳴らし、改めて戦闘態勢を構えた。


「来いよ。しばらく遊んでやるぜ」





一方同じころ、研究所内にある監視室ではヒューゴが監視モニターをじっくりと眺めていた。

モニターには十二武将たちのそれぞれの部屋の扉が映し出されていた。


「さて……、十二武将あいつらには、侵入者は五武神《僕たち》が対処するから部屋から一歩も出るなと伝えている……。だが、裏切り者にとっては、周りの目が少なくなる今こそ最も動きやすくなる瞬間だ。はたして、部屋から抜け出して動きだす奴は……、裏切り者は一体どいつかな……?」


鋭い眼差しで瞬き一つせずモニターを監視するヒューゴ。

静かな部屋に、ただただ時計の針が動く音だけが響く。


「それにしても、裏切り者の『正体』だけじゃなく、『狙い』も一向にわからないままだな……。そういえば、ゼルガの奴は十二武将の経歴を調べるとか言っていたが、何か掴んだのか……?」


ヒューゴがモニターを監視する横では、キヨラが不安気な様子で座っている。


「う、……うまく成功するかな……?」


手をもじもじさせ不安そうなキヨラの様子を横目でチラリと見て、ヒューゴは呆れたようにため息をついた。


「はぁ…、心配し過ぎだよ。裏切り者からしたら、こんな絶好の機会をみすみす逃せるはずがないんだ。必ずその姿を現すさ。そうだな……、失敗する要因があるとすれば、ゼルガとクロムがうっかりあいつらを殺してしまう事くらいだよ……」




研究所二階、研究室前ではジェットたちとゼルガの戦闘が繰り広げられていた。


「おらあぁぁぁ!!!」


ジェット、キッド、カイト、ダイナの四人が一斉にゼルガに向かって飛びかかるが、ゼルガは斧で難なく受け止める。


「さっきから何度も何度も同じ攻撃ばっかりしやがって、意味ねぇんだよ!!」


「うあっ……!!」


ゼルガが斧を一振りすると、ジェットたち四人が軽く吹き飛ばされ、地面に倒れ込む。


「ハァ……ハァ……、くそっ……強ぇ……」


地面に手を付き、息を切らしながら苦しそうなジェット。


「倒すことを考えるな……!カギを奪うことだけ考えろ……!」


同じくダイナも苦しそうにしながら、何とかジェットに声をかける。


そんなボロボロの四人を見下ろしながら、ゼルガは苛立ちを募らせていた。


「あー…、雑魚の相手続けるのもいい加減面倒くさくなってきたな……。おい、クロム、代わってくれ、後頼む」


戦闘には参加せずゼルガの横でただ立っていたクロムはいきなり声をかけられ、少し驚いた様子を見せたが、あまり乗り気ではないといった様子で首を横に振った。


「いや、遠慮しておくよ。さっきから見てたけど、君一人で充分すぎるくらい弱い相手だし、もうほとんど君が痛めつけちゃってるじゃないか。僕が楽しめる要素が無いよ」


「チッ……、お前気分次第でホントやる気ねぇ時あるよな……」


クロムに交代を断られたゼルガの苛立ちがより一層増した。

ゼルガはくるりとジェットたちの方へ体を向けなおすと、巨大な斧を肩に担ぎ直した。


「しゃーねーな……、『餌』は四人もいるし、今の段階で一人くらい殺っても問題ねぇだろ」


ジェットたちの表情が一気に凍りついた。

今まで本気を出していなかった相手が、自分たちを本気で殺しに来ることを感じ、死が近づいていることを実感した。


「じゃあ最初は……、そうだな、一番うるせぇオレンジのお前だな」


ジェットの頬に一筋の汗が流れた。

ゼルガがゆっくりとジェットに近づく。


「ジェット!!」


キッド、カイト、ダイナが慌ててジェットを助けに行こうと体を起こした。

ジェットは近づいてくるゼルガの放つ気迫に圧倒され、体を動かすことができなかった。


『くそっ……、ここまでなのか……?結局フロラを奪われて、取り返せないまま……終わるのか……!?』


心の中で悔しさを募らせるジェットに向かって、巨大な斧が勢いよく振り下ろされた。


「死ね!!!!」


ゼルガの叫びと同時にとてつもない衝撃が走り、建物全体が大きく揺れ動いた。


「うあっ……!!」


大量の土埃が舞い、ジェットの元へ駆けつけようとしたキッド、カイト、ダイナが思わず腕を顔の前に出し、土埃から顔を守った。


「ジェットォォォーーーーー!!!」


爆風のように埃が飛んでくる方向へ向かって、キッドが必死にジェットの名前を叫ぶ。

しかし、返事は帰って来ない。


「おい……、ジェット……、嘘だろ……?」


カイトが愕然とした表情で立ちすくむ。


三人が呆然と立ち尽くす中、少しずつ土埃が消えていく。

そこには、ゼルガとジェットそしてもう一人、別の人影が見えた。


「う……、あれ……何が起こった……?」


何が起こったのかわからず、ジェットが辺りを見回した。

すると、目の前に一人の男が立っていた。

それは、見覚えのある、懐かしい人物。


ジェットと同じツンツンとした黒髪にきりっとした目つき、落ち着いた表情の男。

その顔を見たジェットは、今自分が置かれている状況など完全に忘れて叫んでいた。


兄貴ジーク…………!!?」


数年ぶりに目の前に現れた兄ジークが、ゼルガの斧を受け止めていた。

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