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HUMANOID  作者: 青草 光
第Ⅳ章 フロラ奪還編
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第26話 潜入

男四人がフロラを取り戻す決意を固めた、その翌日。

明け方の病院の一室で、フロラ奪還の為の作戦会議が行われていた。


四人が一つのベッドに集まり、小さな声で話し合っていた。


「いいか?さっきナースの人から聞いた話では、この受信機が示している辺りはサイプレスタウンっていう小さな町があるらしい。んで、そこにはLMC第六研究所というのがあるみたいだ。フロラがいるのは間違いなくそこだ」


ジェットが受信機の小さな画面を見せながら話した。


「サイプレスタウンなら、ここから北東の方だな。LMCからかっぱらったトラックである程度近くまで行って、気付かれないよう徒歩で町に乗り込むか」


カイトが病院から借りた地図を広げて話した。


「研究所って警備とかきつそうだな……。どうやって潜り抜けりゃいいんだ……」


キッドが不安気に言った。


「さっきテレビで見てたんだが、崩壊した工場の後始末で、今は各地から大勢のLMCの人間がニューオークスに駆り出されてるらしい。一番近いその研究所も人手が薄くなってるはずだ。案外、今がチャンスみたいだぞ」


不安気なキッドに向かってダイナが話した。


「よし……、じゃあ、なるべく早い方がいいな。準備が整ったら出発するぞ。夕方までに町に到着して、夜中に研究所に潜入だ」


ジェットがそう言うと、三人がコクリと頷いた。




時刻は深夜0時を回り、ニューオークスから東に離れた小さな町、サイプレスタウンにあるLMC第六研究所にジェットたち四人が辿り着いた。


閑静な町の外れに佇む研究所は周りを林で囲まれており、建物全体がライトでほんのりと照らされているが、辺りに人の気配は無かった。

ジェットたちは茂みの中に隠れて研究所の様子を窺っていた。


「何か思ってたより普通の建物だな……。もっと大きくて要塞みたいなのを想像してたけど……」


目の前の研究所を眺めながらジェットが呟いた。

二階建ての建物は周りを塀で囲まれており、正面には高さ3メートル程の大きな門がそびえ立っている。


「LMCの人間も辺りにはいないみてぇだな……、門番すらいねぇぞ。ニューオークスに駆り出されてるとはいえここまで人手が少なくなってるなんて、こりゃ意外と楽勝なんじゃねぇ?」


「んな簡単にいくわけねぇえだろ……。相変わらず能天気だなぁ……」


余裕を見せ始めたカイトにキッドは呆れていた。

横ではダイナが冷静に周囲を見渡していた。


「人がいなくても油断はできねぇぜ。セキュリティが仕掛けられてるかも知れねぇし、正面から行くのは厳禁だ。一旦裏に回って忍び込めそうなところが無いか探そうぜ」


「お、おう」


言い終わると同時に迷い無く動き出したダイナに少し驚きながら、残りの三人も後に付いて動き出した。


「ダイナ、お前何でそんなに迷い無く動けるんだよ?まるで、こういうの慣れてるみてぇだな」


建物の周りに沿って、茂みの中を一列になってガサガサと進む中、一番後ろのカイトが先頭のダイナに声をかけた。

ダイナはあたりの様子を窺いながら話した。


「前にも言ったような気がするけど、オレはメビウスに捨てられてから知らない奴らの家を転々としてたんだ。たまに嫌気がさして家出して、金に困った時とかに盗みに入ったこともあったから、こういうのは結構慣れてんだよ」


「「「マジかよ……!」」」


意外な過去を聞かされ、三人は驚きを隠せなかった。

ダイナは三人の様子に気付きながらも淡々と話を続けた。


「盗みっつっても、一応LMCみてぇに悪いことしてる奴らだけを獲物にしてたんだよ。例えば、マフィアのアジトとかな。そっちの方がまだ罪悪感とかが紛れる気がして……。ま、そんな奴らから逃げ続けた結果、戦闘に使う足腰が鍛えられたわけだけども」



そんな会話を続けながらしばらく進むと、建物の裏に辿り着き、ダイナが何かを見つけた。


「おっ、あそこが使えそうだな。通気口ってのは少々ベタだが……」


ダイナの指差す先には、建物の壁の地面から3メートル程の高さの位置に、鉄格子で塞がれた通気口があった。


「でも、手前の塀を超えなきゃなんねぇな。乗り越えると目立っちまうし……」


ジェットはそう言いながら、どこかに潜り抜けれそうな場所が無いか探した。

通気口に辿り着くには建物の周りを囲っているコンクリートの塀を越える必要があった。


「あれ?扉があるぞ……、裏口か……」


少し離れた所に、扉があるのをキッドが見つけた。

四人が近づくと、塀に取り付けられているその扉は、錆びついている以外は特に何の変哲も無い鉄の扉で、セキュリティなどの仕掛けが施されている様子も無かった。


「ここしかねぇか……。カギもかかってねぇ。よし……、開けるぞ……」


先頭のダイナがおそるおそるゆっくりと扉を開け、全員が塀の内側へと侵入した。


「ふーっ……」


塀の内側に入り込んだだけに過ぎないものの、極度の緊張から一旦解放されて深く息を吐く四人。

呼吸を整え、次なる関門、高さ3メートルの位置にある通気口を下から見上げた。


「さて、こいつはどうするか……?」


ジェットが見上げた地面から3メートル程の高さにある通気口は、鉄格子で塞がれている。


「オレが格子をパパッと取り外して開いてやるよ。ちょっと三人で持ち上げてくれ」


カイトが自信満々にポケットからドライバーを始めとする作業道具を取り出した。


「頼んだぜ。よっこらせっ、と……。カイト重てぇな……」


ジェット、キッド、ダイナの三人が騎馬戦のようにカイトを持ち上げると、キッドが苦言を漏らした。

カイトはそんなことを気に留めず、慣れた手つきで格子のネジを取り外してゆく。


「おお……、やっぱ手際良いな。さすが解体職人」


「だろ?」


ジェットが感心すると、カイトが自慢気な返事を返した。


「どうでもいいから早くしろ……!重てぇ……!」


下ではキッドが腕をプルプルと振るわせていた。




しばらくして鉄格子を外し、先に入り込んだカイトが後の三人を引っ張り込み、全員が建物内部へと潜入することに成功した。


通気口は、ほふく前進であれば大人一人が余裕で通れる程の幅があった。

一列になり、暗い通路をなるべく音を立てないようゆっくりと進む四人。


「何かこんなの、映画とかでよく見るよな」


「だから言っただろ、通気口はベタだって」


フロラへと近づいているという実感に、潜入という妙なスリルが相まって、ワクワクしながら話すジェット。

そんなジェットとは対照的に、無表情なダイナがそっけなく返した。


「てか、何でそんなに嬉しそうなんだよ……!?何考えてんだよ、お前はホント……」


「あ?もうちょいで仲間を助けられるってところまで来てんだぞ!?逆にお前の方こそ少しくらい嬉しそうにしろよ!」


「何でこんな時にそんなニヤニヤしなきゃなんねぇんだよ!気持ち悪ぃ!」


「んだと、くらぁ!」


「おい、二人ともやめろって!こんな場所でバカかお前ら!」


狭い通気口内で喧嘩を始めたジェットとダイナの頭をキッドが思い切り抑えた。


「ぶはは……!相変わらずお前ら……!」


カイトは口を押えて笑いを必死に抑えていた。




「……誰だ!?」




突然何者かの声が聞こえた。


『やべっ……!!』


四人の顔から一瞬で血の気が引いた。

狭く暗い通路の中でピタリと動きを止めた四人は全員、自分の鼓動が急激に高まっているのを感じ始め、呼吸は浅くなっていた。

予想よりもあっさりと潜入できたことによって無意識に生じていた気の緩みに、突然見つかったという恐怖と緊張が不意に突き刺さり、身動きが取れなくなっていた。


今自分たちがいる場所は敵のアジトであることを改めて実感しながら、暗い通路の前後をゆっくりと見渡した。


『何だ……!?暗くて良く見えねぇが、誰もいねぇぞ……?』


四人の視界には人影は写らなかった。

しかし、通路の先をよく見ると、下からぼうっと淡い光が差し込んでいるのが見えた。


『ん……?あそこだけ明るくなってる……』


カイトを先頭に、四人はゆっくりと光の元へと近づいた。

その光は、小さな隙間を通して真下の部屋から漏れてくる光だった。

四人が息を潜めていると、真下の部屋での話し声が聞こえてきた。



「一体、誰だよ裏切り者って!!くそ迷惑なことしてくれやがってよぉ!」



それは、十二武将の一人、マルシェルの声だった。

ソファーに座り、リーゼントのように突き出た前髪を掻きむしりながら、足でパタパタと床を叩いている。


「ホントそうだよー。いくら何でも外出禁止は無いよねぇー。あー、何か美味しい物食べに行きたいなぁー……」


マルシェルの向かい側に座ってそう言うのは、ドリルのような金髪を指でくるくると弄びながら、退屈そうな様子のアローナだった。


二人は部屋の真上にジェットたちが潜んでいるなど夢にも思わず、そのまま会話を続けた。


「上の連中たちも何か妙にピリピリしてるしよぉ……、いい加減息が詰まりそうだぜ」


「そうだよねぇー。キヨラちゃんもいつにも増して不安気な表情だったし、大変だろうなー……」


「そういえば、キヨラちゃんって、結構かわいいと思わねぇ?何かいつもオドオドしてて、守ってあげたくなるっていうか、気になっちゃうんだよねー」


「でも、キヨラちゃんって、何か体の具合あんまり良くないんだってね。なんでも、精神に異常があるみたいで、突然変な行動を取ったり、記憶が曖昧になったりするらしいよ」


「へぇー、そうだったんだ……。てか、何でそんなこと知ってんの?」


「キヨラちゃん本人から直接聞いたんだよー。たまにおしゃべりするの!実は仲良しなんだよ!」


「あー、うらやましい!オレも今度混ぜてくれぇ!…………」



真上の通気口で話を聞いていた四人は、先頭のカイトの合図でゆっくりと進み、マルシェル達のいた部屋から離れた場所で止まった。


「ビビったー……。『誰だ!?』ってオレ達の事じゃなかったのか……」


ジェットが苦笑いしながら言った。


「なあ、今の話ってどういうことだ……?裏切り者って何のことだ?」


暗闇の中、一番後ろのキッドが話しかけた。


「さあな……。敵の間で何かトラブルでも起こってんのか……?」


ダイナが答えた。



すると、先頭のカイトが離れた場所に再び光が漏れている部分があることに気付いた。


「おい、静かにしろ……!また部屋があるぞ……!」


カイトの数メートル先で、先程と同じようにぼんやりとした光が下から漏れていた。

四人はゆっくりと近づき、下の部屋から聞こえてくる話し声に耳を傾けた。


ジェットたちの真下、小さな部屋にはリボルとリーゼの二人がいた。

二人ともジェットたちに気付く様子など微塵も無く、ソファーに座って話をしていた。


「くそ……。裏切り者だか何だか知らねぇが、面倒な事してくれたなぁ……。せっかく大きな任務が一段落して、ゆっくり休暇が取れると思ったのによ……」


「ホント……、外出禁止命令も今日で4日目。裏切り者のせいでいい迷惑だわ。この前なんて、危うくゼルガの奴に殺されるところだったわよ。それにしても一体、誰なのかしらねぇ、裏切り者って……?」


「ここだけの話だが……、オレは実はダストがやったんじゃねぇかと思ってる……。聞いた話ではあいつ、昔何十人もの人を理由なく殺した過去があるらしい……。人を殺すことに快楽を感じるんだそうだ。何考えてるかわかったもんじゃねぇよ」


「何なのそれ……、ヤバイわね。でも確かにあいつなら、離れている場所にいても殺せる武器を使うわよね。工場から離れていながらこっそり裏切り行為もできそうだし、案外当たってるかも……」


「あと、実はルシードの事も若干疑ってるんだが……」


「は?何よそれ?ルシードはメビウスにやられてるのよ?ゼルガだって、ルシードは裏切り者じゃないって言ってたし、その可能性は無いと思うわ」


「まあ確かにそうだが、気絶させられた三人から一番近いポジションにいたのは、お前を除けばルシードだろ?それにあいつ、密かに上への昇格を狙ってたみたいだし、オレたちを出し抜くための裏切りだったんじゃないかと思うんだよなぁ……。『十二武将がガキ共に突破されてパスワードも解除されたけど、全部オレが食い止めました』みたいな感じを演出しようとしてたんじゃないか……?」


「無い無い。ルシードはそんな卑怯な人間じゃないわよ」


「んー……。まあ、お前がルシードに好意を持っているのは知ってるし、これ以上悪く言うのはやめておくか……」


「バッ……!?は!?何でそうなるのよ!!?」


「何でって……、オレ以外にもみんな知ってるぞ。気付いてないと思ってたのか?」


「あー、もうこんな話やめやめ!!部屋に戻って寝るわ!」


リーゼが部屋の扉を強く閉めて出て行くと、リボルはゆっくりと煙草を吸い始めた。


二人の会話が終わると、ジェットたちは再び部屋から離れた。


「何かよくわかんねぇけど、さっきの話といい今の話といい、どうも敵の中に裏切り者ってのがいるみてぇだな……」


「さっきの奴ら、外に出たいとか言ってたな……。なるほど、裏切り者がいたから、こいつらは疑われて自由に動けなくなってるってところか……」


「おいおい……、そりゃフロラを取り戻す……チャンス……になるのか……!?」


「よくわかんねぇけど、どさくさに紛れていけそうな気するな……!」


フロラ奪還への希望が見え始め、士気が高まった四人が先へ進むと、新たに床から光が漏れている部分が見えてきた。

全員がゆっくりと覗き込むと、誰もいない部屋の奥に一枚の扉が見えた。

そして、その扉の上に書かれた『研究室』の文字を見た瞬間、四人は息を飲んだ。


「け、研究室……!?てことは、あの部屋にフロラが……いる……!?」


驚きつつも四人はゆっくりと顔を見合わせ、下の部屋へと降り立つ決心をした。

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