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HUMANOID  作者: 青草 光
第Ⅳ章 フロラ奪還編
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第25話 生きる道

十二武将のメンバーたちが事情聴取を受けた部屋に、キヨラ、クロム、ゼルガの三人が集まっていた。

ゼルガが破壊したテーブルがそのまま放置されており、その周りに置いてある椅子に座る三人はギルグランドから与えられた難題に悩まされていた。


「アンドロイドを取り返しに来るガキ共を利用して裏切り者をおびき出す……かぁ……。本当にそんなことできんのか……?」


椅子を前後逆に向けて座り、背もたれに腕と顎を乗せながら疲れたようにゼルガが呟いた。


「ギルグランド様も中々難しい支持を与えるね。まあでも、信頼されてると思って頑張ろうよ」


クロムが相変わらず爽やかな笑みを向けたが、楽観的なその様子にゼルガは呆れていた。


「相変わらず呑気だなお前は……。全然頭回んねぇよ……。ガキどもを利用するっつったって、どうすりゃいいんだ?そもそも、本当にここまで来るのかどうかもわかんねぇし、裏切り者だって動きを見せる保証はねぇぞ……。どうすればいいと思う?キヨラ?」


話を振られたキヨラはオドオドと慌て始めた。


「え……、えっと……、んーと……。ごめん……、私も全くどうしていいかわからない……」


胸の前で手を合わせ、泣きそうな顔で申し訳なさそうに謝るキヨラだったが、いつもと変わらないその様子にゼルガは特に反応しなかった。


「だよなぁ……。ガキ共を『始末する』のは簡単だが、『利用する』となるとどうしていいやら……。あー、こんな時にあいつがいてくれりゃあなー……」


ゼルガは背もたれを掴んで、椅子を前後にガタガタ揺らしていた。



「ずいぶんと面倒くさいことになっているみたいじゃないか」



声のする方を三人が見ると、一人の青年が部屋に入ってきた。


「おっ、噂をすればちょうど来やがった。」


ゼルガが待っていたとばかりにニヤリと笑う。

隣にいるクロムが空いている椅子を差し出した。


「久しぶりだね、ヒューゴ」


ヒューゴと呼ばれた男はクロムに差し出された椅子に座って足を組んだ。

190cm近くある長身、細身の体型に整っていない無造作な黒髪、部屋の中でもコートのフードを被り、眼鏡の奥にある切れ長の目は狡猾的な雰囲気を漂わせている。


「ここに来るまでにボスから連絡はもらった。で、どうするんだ?何か良い作戦でもあるのかい?」


「それをお前に考えてもらおうと思ってたところだ」


ゼルガがいやらしく笑うと、ヒューゴが舌打ちをしてあからさまに嫌悪感を示した。


「そんなことだろうと思ったよ。これだから脳筋は……」


「へっ、なら頭脳派のお前の実力を見せてくれよ」


ゼルガがそう言うとヒューゴは軽くため息をつき、やれやれといった様子で姿勢を正した。


「仕方ないね。まあ、段取りだけ僕が決めて、アンドロイドの護衛や戦闘やらは武闘派の君たちに任せるとするよ。僕は戦闘に関してはそんなに好きでも得意でもないし」


「あざーす」


ゼルガが全く感情を込めずに適当に言ったが、ヒューゴも気にするそぶりを見せなかった。


「とりあえず、要点だけをまとめよう。今回重要なのは、アンドロイドの護衛、裏切り者の抽出の二点だね。アンドロイドの護衛は僕たちが揃っていれば特に何も考えなくても大丈夫だろう。問題は裏切り者の抽出だ」


先程まで穏やかだったゼルガ達の表情が、いつの間にか真剣なものに変わっていた。


「ボスからの情報だと、裏切り者はどうやらアンドロイドを連れていた子供たちに手を貸していたそうだね?」


ヒューゴに横目で見られたゼルガが顔をしかめた。


「ああ。オレの感覚だと、厳密には『奴らに手を貸している』というよりは、『オレたちを陥れようとしている』というのが正しいような気がするな……。単純にこっちの警備を手薄にさせていただけだったことを考えると、誰でもいいからLMCの内部に入れ込もうとしていたんじゃないかと思う」


ヒューゴが頭の上に両手を乗せ、宙を見た。


「なるほどね……。だとすると、裏切り者の狙いは敵をLMC内部に侵入させ『混乱を生じさせる』こと……かな……」


ヒューゴ以外の三人がピクリと反応した。


「なぜそう思うんだい?」


クロムが尋ねた。

ヒューゴは頭の上に両手を乗せたまま淡々と話した。


「裏切り者が内部に侵入させる人物は誰でも良かったとするなら、目的は『LMCを潰す』ではなく、『混乱を作る』だけで十分だと考えられる。誰でもいいから侵入さえすればLMCを潰してくれるなんて単純な考えはしないだろうし、LMCを潰すつもりなら十二武将のメンバーを気絶ではなく殺しているだろうからね」


「なるほど……」


クロムとキヨラが感心したように頷く横で、ゼルガは首を傾げたまま話の内容についてこれないでいた。

ヒューゴはそんなゼルガの様子に気付きながらも、無視して続けた。


「おそらく、裏切り者は侵入者によって発生した混乱に生じてLMCの中の『何か』を狙うつもりなのだろう。さすがに何を狙っているのかまではわからないが……、それが分かれば裏切り者の動きはかなり読みやすくなるはずだ」


ヒューゴが頭の上から両手を降ろし、腕を組んで目を閉じると裏切り者の狙いについて考え始めた。

その様子を見たヒューゴ以外の三人もそれぞれ頭を働かせた。


「うーん……、裏切り者は何を狙っているんだろう……?」


キヨラがポツリと呟いた。


「魔女狩り作戦中に動きを見せたとなると……、LMCの機密情報や財産とかではなさそうだな……。あの工場にはそんなものは保管していないし……」


ヒューゴが腕を組んだまま、右目だけを開いてキヨラの方を見て言った。


「ボスの命」


ゼルガが絶対に正解だと言わんばかりの自信満々な表情で言った。


「それもたぶん違うだろう。作戦中にボスが来ることは伝えられていなかったんだから」


ヒューゴはゼルガの方を見向きもせず言った。


「魔女を助けること、はどうだい?」


クロムがにっこりと笑いながら言った。


「うーん、それも違う気がするなぁ……。それならもっと早い段階で動きを見せていたはずだ」


ヒューゴは両目を開け、宙を見ながら言った。


「あ、あの……アンドロイド……は……?」


キヨラがおずおずと言った。


「いやそれも違う。裏切り者はアンドロイドが捕まる前にはすでに十二武将を手にかけていたと聞いたよ。」


「じゃあ何なんだよ!?」


苛立ちが募り始めたゼルガが怒鳴った。

全員がしばらく無言のまま考えたが、心当たりが思い浮かぶ者は誰もいなかった。


「これ以上考えても埒があかないね。とりあえず、子供たちの狙うものがアンドロイドであることだけは確実だ。おおまかな作戦として、『アンドロイドを保管している研究室前で待ち構え、わざと侵入させた子供たちと戦闘するふりをしながら裏切り者の様子をうかがう』という作戦でいこう」


ヒューゴがそう言うと、ゼルガが驚いて目を大きく見開いた。


「戦闘するふりって……始末しちゃいけねぇのかよ!?」


「当たり前だろ。裏切り者は侵入者による混乱があって初めて動き出すはずだ。一瞬で殺してしまって騒ぎが収まったら、裏切り者が出てこなくなる可能性が高い。ただ、裏切り者が見つかりさえすれば、その後は好きにすればいいさ」


ヒューゴが言い終わると、クロムがぎょろりと目を開き、口角を上げて笑った。


「いたぶるのは構わないんだよね?」


尋ねたクロムの表情はいつもの爽やかな笑みでは無かった。

気品などというものはまるで感じられず、狂気じみた残虐な表情だった。


「ああ、構わないだろう。ただし、裏切り者の様子をうかがう為にはできるだけ戦闘を長引かせる必要がありそうだ。うっかり殺したりしないように気を付けないとダメだよ。まあ、そのあたりの戦闘は君たちに任せるよ」


ヒューゴはそう言うと、ゆっくりと立ち上がった。


「僕はより細かい計画を考える為に、いったん部屋に戻るとするよ。まだ来ていないあいつが到着したら、改めて全員にまとめて伝えるよ」


ヒューゴはそう言い残し、部屋から出て行った。


話し合いが終わり、緊張がほぐれたゼルガは呆れた表情でクロムを見ていた。


「ったく……、てめぇはきれいな顔して相変わらず殺人狂だな。誰かをいたぶったり殺すことに快感を覚えるとは、とんだ変態だぜ。」


クロムは椅子から立ち上がりながら、いつもの爽やかな笑みでゼルガの方を向いた。


「君に言われたくないよ。君だってこういうの好きなんだろう?」


クロムに言われたゼルガもゆっくりと椅子から立ち上がった。


「勘違いすんな。オレは暴れたり戦闘するのは好きだが、いたぶるのは趣味じゃねぇ。どちらかというと、実力を見せつけて一瞬で終わらせる方が好きだ」


「ほとんど一緒じゃないか」


「てめぇと一緒にすんじゃねぇよ。くそっ……、こんな奴がオレを差し置いて五武神トップの戦闘力を持ってるなんて、理解できねぇな……」


「ハハハ。よしてくれよ、照れるじゃないか」


「もうウゼェからどっか行け!!変態ナルシストが!!」


つかみどころのない態度にイラついて怒鳴るゼルガを置いて、クロムは笑いながら部屋を後にした。

ゼルガの横にはキヨラが残っていた。


「お前はこれからどうすんだ?部屋で待機か?」


姿勢良くちょこんと座っているキヨラにゼルガが声をかけた。


「そうだね、私もちょっと一休みしに部屋に戻るね……。ゼルガはどうするの?」


「オレはこれから十二武将の奴らの経歴を調べる。何か手がかりがつかめるかも知れねぇからな」


ゼルガはニヤリと笑いながら言うと、キヨラは申し訳なさそうな表情になった。


「そっか……。ごめんね、何も手伝えなくて……」


「はっ……。体の弱い奴は休んどけばいいんだよ。これくらい、お前の手を借りるまでもねぇよ」


ゼルガとキヨラは部屋を後にした。




それから四日後、魔力吸収プラントが崩壊してから一週間後の夜、ジェットたちは病院のベッドに横たわっていた。

依然フロラを失ったショックから立ち直れず、四人共眠ることも無くただ静かに時が過ぎてゆくのを感じていた。


そんな中、突然ジェットのポケットからピピピッという電子音が静かな部屋に鳴り響いた。


「な、何だ!!?」


慌てて飛び起きるジェット。

他の三人も驚いて一斉に飛び起きた。


ジェットはポケットから光が放たれていることに気付き、勢いよく中の物を取り出した。


「これは……!フ、フロラだ!フロラの発信機の電波をキャッチしてるぞ!!」


ポケットの中で電子音と光を放っていた物の正体は、フロラに渡した発信機の電波を受信するための受信機だった。

画面にはヒビが入っていたが、電波の発信元がしっかりと表示されている。


「フロラの居場所が分かるのか!?それ、完全に壊れたってわけじゃなかったのか……」


ジェットの隣のベッドから、キッドが身を乗り出して受信機を覗き込んでいた。


「それで、フロラはどこにいるんだよ?」


カイトがベッドから飛び降り、ジェットの元まで駆け寄って来た。

ジェットは画面に表示されている電波の発信源を示す点を慎重に見つめた。


「かなり近くにいる……。ここから北東にある町だ!そこにフロラがいるはずだ!」


一週間ぶりに三人の顔に活気が戻って来た。

しかし、そんな雰囲気に水を差したのはダイナだった。


「それで、どうするって?場所が分かったらからって、取り返せると決まったわけじゃねぇんだぞ。二度と奪われないように厳重に守られてるに決まってるだろ」


「「………………」」


キッドとカイトの中に芽生えたフロラを取り返せるかもしれないという希望は、冷静に現実を見ていたダイナの言葉で一気に縮んでしまった。

しかし、ただ一人、目の輝きを失わない人物がいた。


「オレは行く。フロラを連れ戻す」


静かに、それでいて力強く響くジェットの声に三人が驚いた。


「お前本気で言ってんのかよ?敵のアジトから連れ戻せるわけねぇだろ。それどころか、お前……、殺されるぞ。この前戦った奴らだっているかもしれねぇんだぞ」


ダイナはまっすぐに前を見据えるジェットを説得するつもりで言い放った。

ジェットが何も考えず、ただ感情に任せてフロラを連れ戻しに行こうとしているようにしか見えなかった。


静寂に包まれた暗い部屋に月明かりが差し込んだ。

照らされて鮮明に見えたジェットの目から、力は失われてはいなかった。


「危険だってことも、馬鹿げてるってこともわかってるさ……。だけど、あいつはもうオレの家族なんだ。夢を失くしたオレにとっては、あいつを親の元に返すことだけが目標で……それが生きる道なんだ。だからオレは行く。無茶だと言われても……、フロラを連れ戻しに行く」


月明かりが差し込む部屋に、涼しい夜風が吹き込んだ。


ジェットに触発されたように、キッドとカイトの表情にも力がみなぎり始めた。


「ジェット、オレも行くぜ。屋敷での戦いの時には、フロラに助けてもらったんだ。ここで逃げるわけにはいかねぇよ」


「うははは!オレだって行くぜ!オレたちは今回フロラの犠牲で脱出できたようなもんだ。ここで逃げたら男じゃねえ!」


キッドとカイトがジェットに賛同し、決意に満ちた表情を見せた。


「お前ら……」


ジェットの表情がわずかに歪み、泣きそうな、それでいて嬉しさに満ちた表情になった。


そんな三人の様子を見ていたダイナは頭をガクンと下げ、うなだれるような低い声を出した。


「あー……、くっそー……、何でこんなことになるんだよ……。もうオレも行くしかねぇじゃねぇか!」


ダイナが勢いよく顔を上げた。

ダイナが行くと言い出すとは思わなかったジェットは驚いていた。


「ダイナ、お前……」


ジェットが言いかけている途中にダイナは切り返した。


「ああ、行ってやるよ。こうなったのは、オレがフロラを一人で行かせちまったせいもあるからな。逃げるに逃げられねぇよ。しっかりけじめつけさせてもらう」


ダイナは不機嫌そうにしながらも、その目はジェットと同じく、力強く前を見ていた。


「へっ……、ありがとな……」


ジェットは面と向かってダイナにお礼を伝えた。

驚いたダイナは目を細め、鬱陶しそうな顔をした。


「けっ、気持ち悪ぃんだよ。言っとくがお前の為じゃなくて、オレが自分の責任を果たすだけだからな」


ダイナはジェットに向かって言い放ったが、そこから嫌味は感じられなかった。


ようやく希望を見出したジェットが右手の拳を握りしめた。


「よし、行くぞ!フロラを連れ戻しに!取り返してやる!!」

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