第24話 事情聴取
LMC第六研究所の一室、ゼルガ、キヨラ、十二武将のメンバーが集まる部屋にただならぬ緊張が張り詰めていた。
「裏切り者……」
リボルがポツリと言った。
その表情は信じられない物が目の前に迫っているかのような、唖然としたものだった。
視線の先にいるゼルガは誰が見ても不機嫌だとわかる顔をしている。
「ああ、間違いねぇ。何が狙いかはわからねぇが、ガキ共とメビウスの侵入を手助けした裏切り者がいるはずだ。この中に……絶対に……!」
ゼルガがそう言うと、想定外の事態に落ち着きを失い始めた十二武将のメンバーが、お互いの様子をうかがい始めた。
すると、ゼルガがいきなり机をバン!と叩き、張り裂けそうなくらいに緊張が高まっていた十二武将の面々がビクッ!と体を震わせた。
「今から、今回の作戦中のお前らの動きを振り返る。全員オレが聞いたことには嘘偽りなく率直に答えろ。少しでも嘘をついたり変な行動を取れば、裏切り者でなくても始末する。いいな?」
その場が静まり返った。
ただでさえ凶暴なゼルガにこの異常な状況で逆らえるものはおらず、全員ただ従うしかなかった。
静寂とも沈黙とも言い難い妙な雰囲気が漂い始める中、ゼルガはポケットから今回の作戦の計画書を取り出し、それを眺めながらゆっくりと話を始めた。
「まず今回の魔女狩り作戦での全員のポジションを改めて確認する。今回のお前らのポジションは、
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○魔女捕獲支援担当(街の中心部で魔女捕獲を支援)
リボル、ダスト、ハーマン、マルシェル、ウェイブ
○ガキ共始末担当(工場入口で待機)
アローナ、セイラ、ラチェット、ヴァリィ
○メビウス討伐および工場設備護衛担当(工場内の各セクションで待機)
ルシード(魔力吸収装置前で待機)
リーゼ(工場十階で待機)
キャノル(工場一階で待機)
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以上で間違いないな?」
リボルがすかさず口を開いた。
「待ってくれ。ウェイブはポジションを無視して、勝手にガキどもを始末しに行ったんだ」
ゼルガが眉を八の字にさせ、面倒くさそうな表情になった。
「んだと……?ややこしいことしやがって……」
リボルに続き、アローナも今しか言えないとばかりに慌てて口を開いた。
「あ、あのね!ラチェットさんとヴァリィちゃんも途中まで一緒にいたんだけど、ポジションを離れてどこかに行っちゃったの!確かラチェットさんは『トイレに行く』とかで、ヴァリィちゃんは『こんな正面から敵が来るわけない』とか言ってた!」
ゼルガがさらに顔を歪ませた。
「ちっ……!どいつもこいつも面倒くせぇなぁ!てことは結果的には、
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○魔女捕獲支援担当(街の中心部で魔女捕獲を支援)
リボル、ダスト、ハーマン、マルシェル
○ガキ共始末担当(工場入口で待機)
アローナ、セイラ
○メビウス討伐および工場設備護衛担当(工場内の各セクションで待機)
ルシード(地下の魔力吸収装置前で待機)
リーゼ(工場十階で待機)
キャノル(一階の地下通路入口前で待機)
○勝手に移動した奴ら
ウェイブ、ラチェット、ヴァリィ
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こういう状態になったのか……」
ダストが大声で笑い始めた。
「ゲヘヘヘヘ!勝手に移動した奴ら、全員やられてるー!」
意外と的を射た意見にリボルが頷いた。
「確かに……。勝手に移動した奴らは全員、ガキ共と戦ったメンバーだ。ということは、ガキ共は正面ではなく別の場所から侵入してきたのか……。となると、入口で待機していたアローナとセイラを気絶させたのは、ますますガキ共ではないということになりそうだ……。裏切り者はやはり本当にいるのか……」
マルシェルが続けて口を開いた。
「しかも、工場入口の二人は気絶させられたんだろ?じゃあその間、入口はがら空きってことになる……。たぶん、裏切り者は工場入口のメンバー全員を気絶させて入口を無防備にさせるつもりだったけど、ラチェットとヴァリィちゃんの二人が勝手にどこかへ移動していなくなったから、仕方なく残ったアローナちゃんとセイラちゃんだけを気絶させたってことか……」
キャノルが怒鳴った。
「じゃあ、オレは何で生き埋めにされたんだよっ!?」
リーゼが呆れたと言わんばかりの表情でキャノルを見た。
「あんたは地下の入口を見張ってたから、パスワードを解除しようとする裏切り者にとっては邪魔で仕方ないはずよねぇ」
キャノルは拳を握りしめて顔を真っ赤にした。
「ぬーーー!くっそー、許さん!オレ様をコケにしやがって!!」
すると、ハーマンが大きな声を上げた。
「ヴオォォォ!オレたちのチームは工場から離れてた!!裏切り行為なんてできねぇ!疑われる理由なんてねぇだろ!」
大声を鬱陶しがりながらゼルガは資料を見直した。
「確かに、魔女捕獲支援担当のメンバーは工場ではなく街で任務に当たっていたから、裏切り者である可能性は限りなく低い……。だが、確実な証拠は無い。任務中にこっそり工場に戻って来たということも考えられる。裏切り者であるという可能性はゼロじゃない」
ハーマンの巨大な体が寂しそうにうつむいた。
黙っていたセイラが口を開いた。
「敵にやられたメンバーの中の誰かが裏切り者だったという可能性は……?」
ゼルガは首を横に振って即答した。
「それも無いな。気絶させられたメンバーのポジションから考えると、どうやら裏切り者の狙いは敵を工場内に入れることだ。そんな奴が敵と戦うとは考え難い。メビウスにやられたルシードは、オレが地下に着いたときにちょうどガキ共と戦っているところだった。ということは、ルシードは裏切り者ではなさそうだな……」
そこまで言ったところで、ゼルガが何かに気付いた。
「待てよ……。ずっと工場内にいて、敵にも裏切り者にもやられなかった奴なんて一人しかいねぇじゃねぇか……」
ゼルガの言葉で気付いたように、その場にいる全員がリーゼの方を見た。
普段は冷静なリーゼが一気に慌てた。
「なっ……!?ちょっと待ってよ!私を疑ってるの!?私はアンドロイドを捕まえたのよ!?裏切り者なわけ無いじゃない!!」
ゼルガは大きな目をギョロリと動かしてリーゼをにらみつけた。
「ならリーゼ……、お前は任務の間、何をしていたのか言ってみろ」
にらまれているリーゼはビクビクしながら答えた。
「わ、私は工場の十階で待機していたら、上の階からアンドロイドが一人でやってきたから捕まえて……。そしたら、下の階の方からすごい爆発音が聞こえて……、怖くなったからしばらく外の非常口の階段に出て身を潜めてたのよ……。そしたら、空からギルグランド様のヘリコプターが飛んでくるのが見えたから、急いで報告しなきゃって思って……。近くにあった無線でギルグランド様に連絡を取ってから、エレベーターで地下へ向かったわ……」
リーゼの説明を聞いても尚、メンバーたちは疑いの目を向けていた。
「う、嘘じゃないわよ!アンドロイドだってしっかり地下まで連れて行ったし、私が裏切る理由なんて無いわ!」
ゼルガが背中に背負っている斧に右手を伸ばした。
「なら、十二武将に撤退命令を伝えるときはどうしてた?」
ゼルガが斧に右腕を伸ばしていることに気付き、顔を青ざめさせたリーゼが腕を震わせながら答えた。
「か、階段で地下から一階に上がったら、生き埋めになったキャノルと入り口で倒れてるセイラとアローナを見つけたから、三人を助けて目を覚まさせたわ。それから一緒に街へ向かう途中で工場が崩れだしたから、無我夢中で街へ向かって逃げたわ。途中で砂埃に飲み込まれて動けなかったけど、ほとぼりが冷めてから街に到着して他の奴らと合流したわ。」
リボルが割って入った。
「ああ、確かにリーゼは体中埃まみれでオレたちに撤退命令を伝えに来たよ。それは間違いねぇ。」
リボルがそう言うと、ゼルガを始め全員が疑いの目を背け、リーゼがホッと安堵した。
しかし、一向に手がかりはつかめず、自分たちの中に裏切り者がいるという状況に全員の顔から緊張感は抜けきらなかった。
『くそ、わかんねぇな……。どいつだ……?必ずいるはずだ、この中に……、オレたちを陥れようとするネズミが……!』
ゼルガは眉間にしわを寄せ全員の顔を見ながら必死に頭の中で考えていたが、しばらく考えた後、仕方なさそうに口を開いた。
「…………裏切り者が見つかるまで、十二武将は武器の所持を禁止する。各自この第六研究所の与えられた部屋で待機し、必要な時以外の外出は認めないことにする」
「「「えっ!?」」」
急な命令にメンバーたちが目を見開いた。
真っ先に立ち上がったのはマルシェルだった。
「なっ……!そこまでするかぁ!?武器を取り上げて外出も禁止って、そんなのありかよ!?」
マルシェルに続き、アローナも反論した。
「そうだよぉ!私なんて裏切り者にやられたんだよぉ!?もっと優しくしてくれてもいいくらいなのにぃ!」
セイラは座ったまま、ゼルガに声をかけた。
「いくらなんでも外出まで禁止する必要は無いんじゃない……?」
メンバーたちが様々な反論をする中、ゼルガはおもむろに拳を頭上に掲げてテーブルに思い切り叩きつけた。
バキッ!という音を鳴らしてテーブルが真っ二つに割れ、メンバーたちがピタリと口を閉じた。
「…………黙って言うこと聞けねぇか…………?」
ゼルガの目はギラリと光り、苛立ちで頬をぴくぴくと引きつらせていた。
ゼルガの放つ殺気に全員文句を押し殺して黙り込み、しばらくすると、おとなしくそれぞれの武器を取り出してその場に置き、仕方なく自分の部屋へと戻っていった。
メンバーたちが出て行くと、部屋はようやく普通の静けさを取り戻し、部屋の隅に立っていたキヨラがゼルガの元にゆっくりと近寄って来た。
「ゼルガ……大丈夫……?」
ゼルガはふーっと息を吐くと、落ち着きを取り戻してキヨラを見た。
「ああ、大丈夫だ……。それより、お前は誰だと思う?裏切り者」
尋ねられたキヨラは胸に手を当て、いつも以上に不安気な表情になった。
「ん……、わからない……。私はアローナたちが気絶しているところも、パスワードが解除されたところも見てないし……。わからないよ……」
ゼルガはキヨラから目を背け、ボソッと呟いた。
「せっかくアンドロイドをこの研究所まで運び込んだってのに、こんな事態になるとはな……。一刻も早く裏切り者を始末しねぇと、何が起こるかわかんねぇぞ……」
「ずいぶん手こずっているようだね、ゼルガ」
静かな声を出しながら、部屋に一人の青年が入ってきた。
短い金髪に透き通るような青い瞳で整った顔立ちをしており、すらりとした体型でとても上品な雰囲気を漂わせている青年だった。
美青年という言葉を具現化したかのような、非の打ちどころが無い上品さだった。
「ちっ…、話聞いてたのかよ、クロム」
ゼルガが鬱陶しそうに見ると、クロムと呼ばれた青年はニッコリとさわやかな笑みを浮かべた。
「盗み聞きしようとしたわけじゃないんだ。たまたまこの部屋に入ろうとしたら聞こえてきてね。それで、今回の件はゼルガでもお手上げかい?」
お手上げと言われ、見下されたような気がしたゼルガは嫌悪感を示した。
「んなわけねぇだろ。これから十二武将の経歴でも調べようと思ってたところだ。裏切り者はきっちり見つけ出して、相応の報いを受けさせねぇとなぁ……」
ゼルガがまだお手上げではないことを知ると、クロムはきれいな白い歯を見せて誇らしげに笑った。
「そうかい、頼もしいね。あ、そうそう、ここに来た理由なんだけど、ボスがアンドロイドを保管してる研究室の前に集まるようにって呼んでたよ。それで僕は君たちを呼びに来たんだ。」
「え、ボスがオレたちを?何かあったのか……?」
「さあね。詳しいことは聞かされていないけど、どうも十二武将ではなく僕たち五武神の力が必要みたいだよ」
「マジかよ……!それじゃあもしかして、残りの二人もこの研究所に向かって来てるってことか!?」
「そうみたいだね。今こっちへ向かっているみたいだけど、もう少し時間がかかりそうだから、先に僕たちにだけ話を伝えたいそうだ」
クロムが笑みを浮かべながら淡々と話す一方で、ゼルガは面倒くさそうに表情を歪めていた。
「ちっ、裏切り者にボスの指示……。ややこしいことになってきたな……。まぁとりあえず行くしかねぇか……」
ゼルガ、キヨラ、クロムの三人がフロラを保管している研究室の前に行くと、ギルグランドが立っていた。
何を言われるのかわからない三人はやや緊張しながら近づいた。
「ボス。今回の要件は何だ?」
ゼルガが尋ねると、ギルグランドは少し複雑な表情をしながら答えた。
「今回君たちを呼んだのは……、まあ、得意にたいしたことにはならないと思うんだが……、アンドロイドの保護を頼もうと思ってね」
三人がポカンとした表情になる。
「アンドロイドの保護……?」
「そうだ。実は回収したアンドロイドを調べていたら、ポケットの中からこんなものが見つかってね……」
ギルグランドが手を出すと、手の上にはジェットがフロラに渡した発信機があった。
それを見た三人は思わず驚いた。
「えっ……!これって、発信機か!?なんでこんなものが!?」
ギルグランドは話を続けた。
「おそらく、あの子供たちが持たせたものだろう。どうやら、アンドロイドがこの研究所にいるという情報は漏れている可能性がある」
ゼルガの表情が険しくなる。
「てことは……、もしかしたら奴ら、ここまでアンドロイドを取り返しに来るか……?急ぎだったから、ニューオークスから一番近いこの研究所に運び込んだが、奴らもそう遠くまでは逃げてはいないはず……。可能性は十分考えられるな」
顎に手を当てて考えるゼルガを差し置いて、横にいるクロムがギルグランドに尋ねた。
「ギルグランド様。その子供たちが攻めてきた場合、アンドロイドを守れとのご指示ですね?」
「そうだ。本来ならば十二武将に頼めば済むところだが、今はやすやすと頼める状況ではないからな……。ゼルガ、裏切り者は見つかりそうか?」
ギルグランドのその問いかけに、ゼルガは苦笑い以外の表情はできなかった。
「いやぁ……、まだ見つかりそうに無いっすね……。くそややこしい状況になってて参ってますよ、ホント……。こんな時にガキ共が攻めて来たら、結構面倒くさくなりそうっすね……」
すると、苦笑いするゼルガにギルグランドはほんのわずかに笑みを浮かべた。
「そうか……。まあしかし、子供たちが攻めてくることはチャンスと考えるべきだ。利用してやればいい」
「チャンス……?利用……?」
どういうことなのかさっぱりわからず、三人が思わず聞き返した。
ギルグランドのほんのわずかな笑みが少しずつ不気味さを帯びてきた。
「魔女狩り作戦時の状況からして、今回子供たちが攻めて来たら、また裏切り者が何かしらの動きを見せる可能性が高い。五武神でアンドロイドを守りつつ、子供たちをうまく利用して裏切り者をあぶり出せ。私はこれから表向きの用事があるのでここを離れる。具体的な作戦に関しては君たちに任せるので頑張ってくれ。良い結果を期待している。」




