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HUMANOID  作者: 青草 光
第Ⅲ章 魔女狩り作戦編
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第21話 囚われの天使

ギルグランドの指示により、ゼルガとキヨラが戦闘態勢に入った。

キヨラは背中に背負っている、布でくるまれた細長い物を体の前で構え、勢いよく布を剥ぎ取った。

すると、中から大きな弧を描いた刃物が付いた棒が現れた。

キヨラが刃の部分を掴んで90度回転させると、それはたちまち一つの大きな鎌になった。


「あれは……!」


おもむろに現れた武器にジェットたちが驚いていると、不安気な表情だったキヨラの目つきが獲物を狙う目つきへと変わり、メビウスめがけて走った。

対するメビウスも体から銀色のオーラを解き放ちながら蛇を生成し、迎え撃つ体制を取った。


「人のこと気にしてる場合か?」


キヨラとメビウスに注意がいっていたジェットたちは、ゼルガの声に慌てて振り返った。


ゼルガは着ている上着を脱ぎ捨てて上半身裸になり、背負っている巨大な斧を片手でグルグルと回して肩に担いだ。

かなりの重量がありそうなその斧は鎖でゼルガの腰に繋がれており、その巨大さはゼルガの凶暴な印象をより一層高めている。


すかさず一斉に構えたジェットたちの姿を見たゼルガがギルグランドに尋ねた。


「ボス、こいつらは生け捕りじゃなく始末でいいんだよな?」


「そうとも。君の好きに暴れなさい」


ギルグランドは少しだけ後ろに下がって距離を取り、腕を組んで無表情で様子を静観し始めた。


「あいよ」


ゼルガは嬉しそうにニヤリと笑ってから返事をして再びジェットたちの方を見ると、左手でクイクイと手招きをした。


「来いよ。先に攻撃してきていいぜ。三人同時にどっからでもかかってきな」


余裕の表情で宣言され、ジェットたちは熱くなった。


「後悔しても知らねぇぞ!」


ジェットの叫びで三人が同時に突進した。


「強がっていられるのも今のうちだぞ!!」


真っ先に距離を詰めたダイナの右足中段蹴りがゼルガの腹に炸裂した。


「軽い蹴りだな。これが本気か……?」


「え……?」


ダイナは信じられなかった。

渾身の蹴りが軽いと言われた事では無く、防御も回避もせずまともに腹に蹴りを受けたにも関わらず、何事も無かったかのように笑うゼルガが信じられなかった。


「ウラァ!!」


カイトがブレイカーを振り下ろすと、またも避けることをしないゼルガの肩に直撃した。


「お前も変わってねぇなぁ……」


「は……?」


ダイナと同じく、攻撃が全く通用せず唖然とするカイト。


「ジェットハンマァァ!!」


「お前はうるせぇな……」


ジェットは全力で右腕を振り抜いたが、全く手ごたえが感じられなかった。


「なっ!?」


右拳はゼルガの左手の掌に収まり、素手で受け止められていた。


「嘘だろ……、ジェットハンマーを……片手で……受け止めた……!?」


攻撃が全く通用せず、三人の動きが止まった。


ゼルガはそんな三人の表情を楽しんでいた。


「これで本気かよ。弱ぇな。こんなんじゃすぐ終わっちまうぞ……」


肩に担いでいる斧をゆっくりと体の前で構え始めたゼルガから、三人は慌てて距離を取った。


「期待外れだぜ。時間ももったいねぇから、速攻で終わらせるわ!」


そう言うとゼルガは飛び上がり、一気に斧を振り下ろした。


「ラァ!!!」


「くっ……!」


ジェットたちは後ろに飛んで斧をかわしたが、ゼルガの一撃はコンクリートの床を軽々しくえぐった。


「うわぁ!!」


えぐられた衝撃で飛び散るコンクリートの破片を体に受けながら吹き飛ばされるジェットたち。

その中のカイトめがけてゼルガが再び斧を振りかぶる。


「てめぇから先に殺してやるぜ!カイトォ!!」


「くそっ……!」


ゼルガが振り下ろした斧を、カイトは地面に倒れつつもブレイカー構えて何とかガードした。

ブレイカーごと押しつぶそうと、ゼルガは斧に体重を乗せた。


「オレはもうお前の知ってるオレじゃねぇ!お前の後輩じゃねぇんだよ!カイト!」


「ぐうぅ……!」


次第にカイトの腕が少しずつ下がり、巨大な斧の刃がカイトの顔に迫った。


「うおぉぉぉ!!」


ジェットとダイナが左右からゼルガに仕掛けた。


「雑魚のくせにうぜぇんだよ!!」


「くうっ……!」


ゼルガは斧を大きく横に振り払い、ジェットとダイナは義手と義足で防いだが、勢いよく吹き飛ばされ壁に激突した。


「がはっ……!!」


そのまま二人は地面に倒れ込んだ。


「ジェット!ダイナ!……ごふっ……!」


二人を心配するカイトの腹をゼルガが力強く踏みつけた。


「自分の心配しねーと、カイト」


ゼルガはあたりを見回し、倒れる三人と後ろで戦っているメビウスとキヨラを見た。

キヨラはか細い腕で華麗に鎌を振り回し、蛇を切り裂きながらメビウスに迫っていた。


メビウスがキヨラ相手に苦戦を強いられている姿を見ると、ゼルガは床に斧を突き立てて高らかに笑った。


「ははははっ……!どいつもこいつも弱ぇ!弱すぎる!力も無ぇくせにこんなところまで来てよぉ……。無駄だっつーの!おとなしくLMCにすがりついて崇めながら生きてりゃいいんだよ!それがこの世界の常識になりつつあるんだ!」


三人を蹴散らし両手を広げて笑うゼルガ、メビウスを徐々に追い詰めるキヨラ、そしてそれを無表情で見守るギルグランド、地獄で傍若無人にふるまう悪魔たちを相手に、地面に倒れるジェットは心が折れそうになっていた。


「くそ……、もうダメなのか……?せっかくここまで来たのに……。ここで終わるのか……?」


十二武将との戦いで受けた傷も痛み、ジェットたちにはもう戦う力は残っていなかった。

ルシードを圧倒したメビウスでさえキヨラに苦戦している状況は、ジェットの心に重くのしかかった。

横を見ると、ダイナもカイトも地面に倒れながら悔しそうな表情をしていた。

そして、そばには未だ気絶したまま倒れているキッドもいる。


「ここまでか……」


ジェットが歯を食いしばった、その時だった。



『ザザザ・・・・ザーッ・・ザザッ・・ランド様・・・ギルグランド様!いらっしゃいますか!?応答願います!』



突然、部屋の壁に設置されている通信機のスピーカーから音声が鳴った。

それはなにやら興奮気味の女性の声だった。


ギルグランドは壁に近づき、ゆっくりと通信機を手に取って応答した。


「私だ。ギルグランドだが、どうした?」


ギルグランドが応答すると、女性の声がより一層高ぶった。


『ギ、ギルグランド様!私です!十二武将のリーゼです!ご報告します!ア、ア、アンドロイドを捕らえました!!』


「え……?」


その瞬間、ジェットの顔から一瞬で血の気が引いた。

そして、ギルグランドを含めたその場の全員が一瞬目を見開き固まった。


「そうか。今どこにいる?」


ギルグランドは驚きつつも冷静に返答すると、間髪入れずにリーゼの声が返ってきた。


『今エレベーターの中にいます!もう間もなくそちらに到着します!』


返答とほぼ同時にエレベーターが地下一階に到着し、扉が開いた。

すると、目をつむったまま鎖で全身を縛られてぐったりとした様子のフロラと、それを必死で抱きかかえながらゆっくりとこちらに歩いてくるリーゼが中から出てきた。


ギルグランドの硬い表情がほぐれ、笑みへと変わり始めた。


「おお……、ようやく捕らえることができたか。ディゴスがヘマをしてからどうなる事かと思ったが、よくやった、リーゼよ」


フロラを抱きかかえて運んできたリーゼは疲れている様子だったが、ギルグランドに手柄を褒められご満悦といった表情を見せた。


「ありがとうございます。ギルグランド様」


その様子を見たジェットが黙っていられる理由は無かった。


「おい!そいつに手ぇ出すな!!返しやがれ!!」


もうほとんど力の残っていない体を震えながらなんとか起こし、ギルグランドとリーゼをにらみつけた。


ギルグランドは笑みを浮かべたまま、ゆっくりとジェットの方を振り返った。


「ジェット・スカイファインよ。アンドロイドをここまで連れてきてくれてありがとう。感謝するよ」


その言葉はジェットの怒りを爆発させた。


「うおあぁぁぁぁ!!そいつは渡さねぇ!!」


力が入らずおぼつかない足取りでギルグランドに向かって走ろうとしたその瞬間、後ろからゼルガに頭を掴まれ地面に押し倒された。


「がふっ……!?」


「まだ抵抗する気かよ。もうムダムダ。アンドロイドはLMCの発展に貢献して、お前らはここで死ぬんだ」


ゼルガはうつぶせに倒れるジェットの頭を掴んで地面に押し付けながら、ジェットの背中の上に座り込んだ。


「くっ……!!」


ジェットは怒りと焦りと悔しさで熱くなる体で必死にもがいたが、抵抗できる程の力は出せなかった。


先程までとはまるで別人のように、ギルグランドは満足気に笑っている。


「アンドロイドも回収できたことだ。後の魔女狩りは十二武将に任せて、我々はもうそろそろ帰るとしようか。」


ギルグランドはゼルガとキヨラにそう呼びかけ、フロラを抱きかかえたリーゼを連れて、エレベーターの方を向いた。

遠ざかってゆくフロラとギルグランドを見たジェットは、地面に這いつくばりながらも必死で叫んだ。


「待て!!フロラを返せ!!フロラ!起きろ!目ぇ覚ませ!!」


ギルグランドもフロラもジェットの叫びに全く反応を示さなかった。


ゼルガはゆっくりと立ち上がり、ジェットを見下ろしながら斧を頭上に振りかぶった。


「そういうことだ。じゃあな。あの世でLMCの繁栄を見守っててくれよ」


掲げられた斧がジェットめがけて振り下ろされた。


「ジェット……!」


ダイナとカイトがジェットを助けようと必死で体を起こそうとした、その時だった。

銀色の光の蛇がゼルガめがけて飛んできた。


「おっと!」


ゼルガは飛んできた蛇を後ろに軽く飛んでかわし、蛇が放たれた方を見ると、メビウスがキヨラに苦戦しつつもこちらを見ていた。


「メビウス……!どういうつもりだ?オレに構う余裕があるようには見えねぇが……」


キヨラの攻撃によりメビウスの全身には所々切り傷を入れられていた。


「お前から先に死にてぇのか?メビウス」


ゼルガは足元のジェットから目を離し、メビウスに向かって武器を構えた。

その瞬間、メビウスがキヨラから距離を取り、腕から一気に四匹の蛇をゼルガに向けて放った。


「おっ!マジでやる気か!?」


ゼルガは斧を構え、迎え撃つ体制を取った。

すると、蛇はゼルガの目の前で急に進路を曲げ、四匹の蛇はそれぞれジェット、キッド、カイト、ダイナの服に咬みついた。


「何……!?」


自分に攻撃をしてくると思い込んだゼルガは意表を突かれた。


「うわっ……!?」


ジェットたちは咬みつかれた蛇に無理やり引っ張られ、わけがわからないうちにギルグランドたちが乗ろうとしているエレベーターの中に押し込まれた。


ギルグランドとリーゼは突然目の前に飛んできたジェットたちを見て、何事かとメビウスの方を見た。


メビウスの狙いを悟ったゼルガが思わず叫んだ。


「こいつ……!ガキを逃がす気だ!!」


ゼルガは慌ててジェットたちの乗せられたエレベーターめがけて斧を投げ飛ばした。

メビウスはすかさずジェットたちを押し込んだ蛇を使ってエレベーターのボタンを押すと、扉が閉まり始めた。


ジェットは扉が少しずつ閉ざされてゆくその先に、フロラが取り残されてゆくのを見ていることしかできなかった。


「ま、待て……!フロラがまだ……!」


力の残っていない腕をフロラに向けて伸ばすが、無情にもエレベーターの扉が閉まり一階へと動き出した。


ゼルガの投げ放った斧はエレベーターに直撃し、爆音を立てて扉を粉々に破壊したが間に合わなかった。


「くっそ……!メビウス!やりやがったな!!」


怒りを露わにしたゼルガが振り向くと、メビウスは体から血を流しながら素早く走り去り、ジェットたちが入ってきた入り口から逃げて行った。


「待ちやがれ!!」


「二人とも止まりなさい。」


追いかけようとするゼルガとキヨラをギルグランドが引き止めた。

二人が止まって振り返ると、ジェットたちを逃がしたギルグランドは何事も無かったかのように顔色一つ変えず冷静に立っていた。


「もうよい。アンドロイドは我々の手元に戻ってきた。あいつらが今更逃げたところで何もできはしない。今は一刻も早くアンドロイドを近くの研究所に移し、研究できる準備を整えることが先決だ」


ギルグランドがそう言うと、キヨラはおとなしく何も言わずに武器をしまった。

ゼルガは不満気な表情だったが、反論せずにギルグランドに従った。


「「了解」」


二人が返事をすると、ギルグランドはリーゼの方を見た。


「リーゼ、アンドロイドはゼルガに運んでもらう。君は十二武将全員を集めて撤退するように伝えてくれ。ただし、自力で起き上がれない程負傷している者がいれば、そいつはもうLMCには必要無い」


「……かしこまりました」


リーゼはギルグランドの非情な指示に一瞬青ざめた顔をしたが、すぐに返事をするとフロラをゼルガに預け、一階へと走っていった。


戦闘が終わり、地下は静けさを取り戻した。


ゼルガは意識の無いフロラを軽々と肩に担ぐと、キヨラに声をかけた。


「キヨラ、お前今回は発作が出なくて良かったな」


メビウスと戦闘している間は冷酷な表情で静かな殺意を解き放っていたキヨラだが、戦闘が終わると自分の胸に手を当てて不安そうな表情に戻っていた。


「うん……。こんな大事な状況でまた発狂しなくて良かった……」


二人の会話を横で聞いていたギルグランドがキヨラの肩を軽く叩いた。


「キヨラ、君はもっと自信を持ちなさい。発作が起こるのは君の精神の衰弱が原因だ。もっと自信を持ち精神状態を安定に保てば、発作を抑えて今日みたいに実力を発揮できるんだ。メビウスと互角に渡り合った自分に自信を持ちなさい」


ギルグランドの言葉にキヨラはやんわりと笑みを浮かべた。


「はい……。ありがとうございます」


ギルグランドも笑みを浮かべて返すと、ゼルガが近くに倒れているルシードを見た。


「ボス、あいつはどうするんだ?メビウスの毒でやられたみたいだが」


ギルグランドは倒れているルシードを見たが、その目はまるで壊れた道具を見るような呆れた目だった。


「まあ、すぐに毒の手当てをしようか。彼には今まで以上に頑張ってもらわないといけないかもしれないな……」


ギルグランドがそう言った瞬間、ゼルガとキヨラの顔から血の気が引いた。


「え……ボス……それってまさか……?」


凶暴な見た目のゼルガが萎縮したようにおそるおそる尋ねるのに対し、ギルグランドは不気味な笑顔になっていた。


「ああ、そうだ……。アンドロイドが手に入り、魔女の魔力吸収実験も終わりに近づいた今、長年我々が続けてきた研究はようやく第二段階に入る。彼にはそれに協力してもらうとしよう。さて、メビウスの事だ、ここももうじき危険にさらされるだろう。我々も急いで外へ出るとするか……」


ギルグランドの言葉にゼルガとキヨラは言葉を失い、ただただ顔を引きつらせていた。

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