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HUMANOID  作者: 青草 光
第Ⅲ章 魔女狩り作戦編
14/27

第14話 蛇の道

「くそっ・・・。」

必死にもがくジェットを包むように網が構成され、その網はウェイブの腕輪に繋がっている。

ジェットがいくらもがいても、光のようなもので作られた網は全く千切れる気配は無かった。

もがく獲物の姿にウェイブは満面の笑みを浮かべた。


「よっしゃぁぁ!捕獲ぅぅ完了ぉぉ!!」


ガッツポーズを取り喜ぶウェイブにジェットが叫んだ。

「くそっ、ここから出しやがれ!」

ジェットがにらみつけるとウェイブが呆れた表情になった。

「出せって言われて出す奴がいるわけねぇだろ!それどころか、お前は今から死ぬんだよ。そこをまず理解しな。それとも、その腕でまだもがいてみるかぁ?」

ニヤリと笑ったウェイブの顔は悪人そのものだった。

ジェットは右腕が網に通用しない以前に、右腕の技をすぐには放てないことを分かっていた。

ジェットハンマーは火薬の充填、蒸気の排出、冷却が必要なため、短い間隔での連発はできず、30秒程のインターバルが必要な技だった。

そして、ウェイブも技の様子を見てその事情を察知していた。

ウェイブは得意気な表情でジェットを見下ろした。

「さっきの技、何発も続けて使えねぇんだろ?その右腕程度の大きさの機械で、あんな強い爆発をポンポン連発できるはずがねぇからな。」

ウェイブの言葉を受けたジェットは歯を食いしばり、悔しさを浮かべた表情になった。

その顔を見たウェイブは確信した。

「はっ、図星みてぇだな。それじゃ・・・、おとなしく死にな!!」

そう言うと、ウェイブはジェットを捕らえた網を思いっきり引っ張り、自分の後ろめがけて振りぬいた。

「うわっ・・・!」

ジェットの体は引っ張られて宙に浮き上がり、ウェイブの真上を通り越してそのまま地面に勢いよく叩きつけられた。

「がはっ・・・!」

「ドン!」という音を立て、ジェットの体が地面に激突した。

「まだまだぁ!!」

今度は網を横に振りぬくと、ジェットの体は地面を引きずられ、そのまま近くにあった街灯の柱に直撃した。

「ぐうっ・・・。」

街灯が衝撃でグラグラと揺れる。

「ほらほらどうしたぁ!!」

ウェイブは休むことなく網を振り回し、ジェットの体を地面に引きずり、そこらじゅうに叩きつけた。


「オラァ!」

「があっ・・・!」

「ウラァ!」

「ぐっ・・!」

「ドラァ!」

「うぐぅっ・・・。」


長時間振り回され続け、幾度となく叩きつけられ、引きずられたジェットの体はボロボロになっていた。

「う・・・。」

ジェットは視界がかすみ始め、その目にウェイブの姿が映った。

ウェイブは汗だくになり呼吸が荒くなっていた。

「ハァ・・ハァ・・・。振り回すのも結構疲れるんだぜ・・・。ったく、まだ息があるのか。しぶとい野郎だな・・・。」

両膝に手を当てて大きく呼吸をしながら、ボロボロのジェットを眺めるウェイブ。

すると、ジェットが全身の痛みに苦しみながらも声を出した。


「・・・行かせねぇ・・・。お前は絶対に・・・あいつらの所へは・・・行かせない・・・!」


ジェットは網の中でゆっくりと立ち上がろうとしていた。

その姿を眺めながら、ウェイブは高らかに声を上げた。

「おいおい!その状況で言うセリフじゃねぇぞ!死にそうじゃねぇか!大丈夫だって、仲間はお前程苦しまないように始末してやるから!」

そう言った瞬間、立ち上がったジェットの目つきが鋭くなった。

ボロボロになりながらも、網目の隙間から刺すような視線でにらみつけるジェットの姿に、ウェイブは一瞬寒気を感じた。

「な、なんだこいつは・・・!へっ、そんなに死にてぇなら望みどおりにしてやるよぉ!」

叫びながらウェイブは勢いよく網を振りぬいた。

宙に舞ったジェットの体がウェイブの真上を通り越そうとし、腕輪から繋がった網が完全に伸びきった、その時、ジェットは網目の隙間から何とか右腕だけを出し、自分が振り回されている方向へジェットハンマーを放った。

「ドォン!」という音と共に、肘から放出された爆発の威力で、宙に浮いたジェットの体は前方に勢いよく加速した。

ジェットの体を包んでいた網はその勢いに引っ張られ、繋がったウェイブの体まで勢いよく引っ張った。


「ぐえっっ・・・・!!」


振り回したはずのジェットに引っ張られたウェイブが宙を舞ってジェットの方へと飛び、二人はほぼ同時に地面に激突した。

「痛って・・・。くそ、何なんだよ!!」

ジェットの抵抗に苛立つウェイブ。

ジェットは胴体を網に包まれながらも、網目の隙間から両腕両足だけを出し、素早く立ち上がってウェイブめがけて走った。

ウェイブは迫ってくるジェットに気付き、慌てて立ち上がった。

「どうする気だぁ!?今打ったばっかのその技、打てるもんなら打ってみやがれ!!」

叫ぶウェイブにジェットは技を使わずに右腕で殴る、ように見せかけた。

殴られると思い込み、身を屈めてかわそうとしたウェイブだったが、ジェットはそのまま腕を折りたたみ、ウェイブの額に向けて肘を突き出した。

「え?」

一瞬呆気にとられたウェイブの額に、ジェットは肘を押し付けた。正確には、高温の爆発を放った直後の噴射口を押し付けた。

「じゅわっ」という肉の焼ける音が響いた。


「熱っっっっっっちぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」


ウェイブは腹の底から叫び声をあげて、額を両腕で押えながら地面にのたうち回った。

「熱っっつ!熱!熱っつ!・・・・ハァ・・ハァ・・・くそがぁぁぁ!!」

時間が経過して熱さが和らぎ、仰向けに倒れたまま激怒して上を見ると、ジェットがウェイブの体をまたいで立っていた。

ジェットはウェイブを見下ろしたままボソッと声を出した。


「準備できたぜ。」


その一言で、ウェイブの顔に一筋の汗が流れた。

腕輪から伸びた網は未だジェットの胴体を包んでおり、それを解除しない限り、新しい網を作り出すことはできなかった。

顔を引きつらせたウェイブが必死の形相で叫ぶ。


「ま、待て!やめろ!やめてくれ!落ち着け!まだ・・・・」

「ジェットォォハンマァァァァ!!!!」


ジェットの右ストレートがウェイブの顔面に炸裂した。

「ズドン!」と大きな音を立てて炸裂した右腕はウェイブの頭をコンクリートの地面にめり込ませ、そのまま辺りに大きなヒビを入れた。

しばらくして、ジェットがゆっくりと腕を上げると、ウェイブは完全に気絶していた。

「ハァ・・・ハァ・・・。」

ウェイブが気絶していることを確認したジェットは、荒い呼吸をしながらゆっくりと右腕を伸ばし、網を作り出している腕輪を掴んだ。

腕輪についているスイッチを押すと、ジェットを捕らえていた光の網が解け、腕輪に吸い込まれて消えた。

「痛てて、何とか倒したぜ・・・。これが十二武将なのか、変な武器使いやがって・・・。」

ジェットは傷だらけで痛む体を動かしてウェイブの腕輪を取り外し、今の戦闘を振り返った。

「この腕輪から網が出ていたんだよな・・・。それにしても、網を形作っていた緑色の光はどこかで見たような・・・。ダメだ思い出せねぇ。」

ジェットはしばらく考えたが思い出せず、諦めて工場の方を見た。

「あいつら、大丈夫か・・・?早く行かねぇと・・・。」

ジェットは工場の方へ向かって走った。




LMC工場の敷地面積は広く、ジェットとウェイブが戦った正面ゲートから工場の建物までは距離が開いていた。

正面ゲートから工場までの途中のわきにある狭い通路を先へと進む四人の姿があった。

「ダイナ速すぎだろ!」

俊足で先頭を走るダイナに引き離されそうになり、慌てて必死で走るカイトとキッド。その横には浮かない表情をしているフロラの姿もあった。

「さっさとしろよ。置いてくぞ。」

急かしながらも三人を待つダイナ。

ダイナはジェットが仲間の安全を優先し一人で残る姿を見てから、自分がメビウスを探すために単独行動を取り、フロラたちを置き去りにすることに抵抗を感じ始めていた。

いくら他人とはいえ、誰かが命がけで庇った人間をあっさりと見捨てることができなかった。

また、ここで自分が利己的に動くことは、ジェットに負けたことになるような気もしていた。

「あー・・・、何でこんなことやってんだオレ・・・。一人でメビウスを追いかけるつもりだったのに・・・。」

自分に呆れているところへキッドたちが追いつき、再び走り出した。

四人はここまで進んでくる途中、治安部隊の隊員が何人か倒れているのを見ていた。

「倒れてる奴らは全部メビウスがやったのか・・・?」

また一人、倒れている隊員を見つけたキッドが呟いた。

その呟きにダイナは不機嫌そうな顔になった。

「そうだな。どいつもこいつも、目立った外傷も無いのにぐったりと倒れてる。奴の毒でやられたんだろ。ムカつくが、オレらはたまたま奴と同じルートを通った結果、簡単にここまで来れたみたいだな。奴のおかげっていうのは気に食わねぇが、この先に必ずいるはずだ・・・!」

ダイナがメビウスの事を考える一方で、フロラは未だジェットの事を考えていた。

「ジェット・・・大丈夫かな・・。」

不安な表情のフロラの肩をカイトが叩いた。

「大丈夫だ!あいつはやるやつだとオレは信じてる!」

その様子を見たキッドも続けてフロラに声をかけた。

「心配すんな!あいつはバカだけど結構強いからな!」

ダイナも小声で呟いた。

「まあ、オレと張り合うくらいのやつだからな・・・。簡単に負けられたら困るぜ。」

仲間の励ましを受けたフロラはまっすぐ前を向き、ようやく真剣な表情へと変わった。

「そうだね。ジェットを信じる!」

四人は工場の壁に沿った長い階段をひたすら駆け上がり、15Fと書かれた小さなドアを見つけた。

いよいよ工場の内部へ入る時が訪れ、張り詰めた空気が漂った。

ダイナがドアの取っ手を握り、全員の方を向いた。

「開けるぞ・・・。心の準備はいいか?」

フロラ、キッド、カイトが真剣な表情で頷くのを確認し、ダイナはゆっくりとドアを開けた。

ドアを開けると、巨大な空間が目の前に広がっていた。

建物の中はほとんど吹き抜けの構造になっており、巨大な吹き抜けの部屋の中央に一本の巨大な柱が立っている。

上を見上げると、上空で柱の先から煙が出ているのが見え、柱は煙突の役割も果たしていることがうかがえた。

下は薄暗く、二、三階下の通路までしか見えず、四人が入った十五階は建物のかなり上の方であることがわかった。

中央にある柱の周りには、鉄板でできた簡易の足場と手すりが設けられており、その足場と壁沿いの足場とを結ぶ橋が数カ所に設置されている。

「中に入ると改めてでかく感じるな・・・。」

通路の柵から身を乗り出し、上と下を交互に見て建物の広さを実感するカイト。

「捕まった魔女とメビウスはどこにいるんだ・・・?上か?下か?」

キッドが辺りをキョロキョロと見回し警戒する。

ダイナも冷静に周りを見渡した。

「さっきみたいに、メビウスが倒した奴らがどっかに倒れたりしてねぇか?そいつをたどれば、奴や捕まった魔女の居場所に近づけるはずだ。」

ダイナはそう言いながら辺りを観察したが、妙に静かな工場内には人の気配は感じられなかった。

辺りの様子を一通り確認し終えたカイトはダイナの方を見た。

「ダイナ、すまなかったな。メビウスを探す邪魔しちまって。オレたちはもう大丈夫だから、ここからは、お前の思う通りに行動してくれ。」

カイトがそう言うと、キッドとフロラも同じようにダイナの方を向いた。

まさか謝られるとは思っていなかったダイナは思わず焦ってしまった。

「いや・・、たまたま行き先が同じだっただけで邪魔されたとか思ってねぇし、ジェットの

野郎だけ良い格好させておいて、オレだけ勝手な行動するのも癪だしな・・・。まあ、さっさと先に進もうぜ。」

ダイナが三人から目を反らしながら言い、早く先に進もうとしたその時、中央の柱の陰で何かがキラリと光った。


「伏せろ!!」


突然ダイナが叫んだ。

その瞬間、何かが勢いよく飛んできた。

「うわぁ!!」

飛んできた金属の棒のようなものが近くの壁に突き刺さり、その衝撃に四人は怯んだ。

棒の先端からは緑色の光る糸のようなものが伸びている。

「誰かいるぞ!」

ダイナが光る糸を辿って柱の方を見ると、柱の陰から一人の女性がこちらを見て立っていた。

「メビウスじゃない!LMCだ!」

ダイナが叫び、全員が体制を立て直してその女性の方を見た。

すると、女性の腕に付いている黒い腕輪が緑色の糸を勢いよく巻き取り、壁に刺さった棒が外れて女性の手元に戻っていった。

棒をキャッチした女性は高らかに声を上げた。

「やっぱり馬鹿正直に正面から入ってくるわけないわよねぇ。良かった!ここで待ち伏せして正解だったわ。」

女性は柱と壁とを繋ぐ橋を通って、ゆっくりとダイナたちに向かって歩いてきた。

「誰だてめぇは!!」

カイトが怒鳴ると、歩いてきた女性は指の代わりに手に持った棒を四人に向けて指した。

「あたしはヴァリィ。LMC十二武将の一人よ。あんたたちがメビウスと戦ってた四人ね?ここで始末するわ。」

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