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HUMANOID  作者: 青草 光
第Ⅲ章 魔女狩り作戦編
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第13話 ジェットVSウェイブ

ジェット、フロラ、キッド、カイト、ダイナの五人の前に、工場の敷地に入る為の巨大なゲートが近づいてきた。

目標が近づき、ジェットたちの間に緊張が走る。

しかし、どうやって工場の中に入るかをまだ考えていなかったことにジェットは今更気付き、走りながら仲間に尋ねた。

「なあ、どうやって中に入る?やっぱり、あんまり目立つわけにはいかねぇよなぁ?」

他のメンバーもジェットと同じく何も考えていなかったようで、尋ねられて初めて考え出した。

「どこかに隠れていけそうな入り口が無いか探そうぜ。正面から行くのはいくら何でも危険すぎる。」

キッドが全員にそう言うと、ジェット、フロラ、カイトが賛成して頷いた。

ジェットは一人だけ無反応だったダイナに声をかけた。

「お前はどうすんだよ?」

ジェットは少しふてくされた表情で聞いた。

ダイナは自分たちとはほとんど関係が無いが、助けてもらった上に行き先が同じだったので、あまり気が進まないながらも気にかけざるを得なかった。

ダイナは少し考えてから答えた。

「オレも隠れていけそうな道を探す。メビウスを探す途中で誰かに見つかったら厄介だからな。一緒に行くのは嫌だが、仕方ねぇ。」

ダイナのそっけない返事にジェットが怒った。

「一緒に行くのは嫌ってなんだよ!嫌なら一人で行きゃいいだろ!何さりげなく、ご一緒しようとしてんだよ!」

「はぁ!?こっちのセリフだバカ!メビウス探すだけなのになんで五人でまとまって行かなきゃなんねぇんだよ!特にオレンジ頭!お前みたいなうるせぇのがいたら、一瞬で見つかる気しかしねぇよ!」

「・・・・はぁ。」

止まることのない喧嘩にキッドが呆れてため息をついた、その時、正面のゲートが独りでにゆっくりと左右に開き始めた。

「えっ!?」

慌てて足を止める五人。

すると、まだ開ききっていないゲートの向こうから、四輪の大きなバギーが勢いよく飛び出してきた。

「うわっ!」

慌てて道の端に避けるジェットたちを、走り抜けてゆくバギーの上から眺める五人の人影があった。

「おっ!あれが噂のアンドロイドと少年じゃないか?」

バギーを運転するリボルが視界の片隅にジェットたちを捉え、後ろに乘る仲間に声をかけた。

「うおっ!あの子めっちゃかわいいじゃーん!」

マルシェルがフロラの姿に興奮して飛び跳ね、着ている鎧がガチャガチャと音を立てる。

「ヴォォォォ!あいつら仕留めてぇぇ!」

ハーマンが大きな雄叫びを上げる。

「ゲヘヘヘヘ!でもオレらは魔女の捕獲支援担当なんだよなー。残念―。」

ダストが口を大きく広げて笑う。

驚くジェットたちの横を走り抜け、バギーは街の方へと走り抜けて行こうとしていた。

すでにバギーに乗る十二武将のメンバーはジェットたちから目を反らし、魔女がいる街の方を見据えていた。

しかし、ただ一人、まだこちらを見ている人物がいた。

「オレンジ頭・・・黒髪ツインテール・・・間違いねぇ!あいつらだ!」

ぶつぶつ呟くその人物は、走行中のバギーからジェットたちへ向かって勢いよく飛び出した。

「おい、ウェイブ!?何やってるんだ!?」

計画には無いウェイブの突然の行動に驚くリボルたち。

ウェイブは飛び降りながら仲間に捨て台詞を吐いた。

「オレはあいつらを仕留める!魔女の方はお前らに任せたぜー!」

「うぉーう!ウェイブっち、せこいけどカッコイイーぜ!」

マルシェルが飛び降りるウェイブの姿を見て叫んだ。

「ちっ、勝手な事しやがって・・・。まあいい。魔女はオレらだけでやるぞ。」

リボルはバギーを止めることはせず、そのまま走り去っていった。

地面に降り立ったウェイブは拳の骨をポキポキと鳴らしながら、ゆっくりとジェットたちに向かって歩いて行く。その目は獲物を狙う動物のような鋭い眼光をしている。

「へっ、ポジションなんて細けぇこと守ってられるかよ。仕留めたもん勝ちだろ。」

一瞬の出来事に、ジェットたちは何が起こったのか理解できなかった。ただ一つ、こちらに向かって歩いてきている人間がおそらく敵であるということだけ、本能的にわかった。

カイトは目の前に迫る敵に動揺しつつ、仲間に話しかけた。

「この工場から出てきたってことは、今のバギーの奴らは99.9%LMCだな。ってことはあいつも・・・。」

目の前の敵が遠くからじわじわ近づいてくる中、あまり状況を整理している暇は無かった。

すると、ジェットが仲間の前に出ながら口を開いた。

「お前ら先に行け。こいつはオレがやる。」

突然の宣言にダイナを除くメンバーが驚いた。

キッドはすでに取り出していた武器を握りしめながら怒鳴った。

「は!?なんでだよ!?一人で残る必要ねぇだろ!」

「そうだぜ!カッコつける必要なんてねぇっての!」

カイトも同じく武器をすでに構えながら言った。

二人の忠告を聞き入れた上で、ジェットは落ち着いて話した。

「メビウスが言ってただろ、先に捕まった魔女がいるから時間が無いって・・・。あんまりこいつにかまってる暇は無いと思うんだ。工場内はたぶんメビウスが敵を蹴散らしてるだろうから、そこまで危険じゃないと思う。先に行って、魔女がどこに捕まってるのか見つけといてくれ。」

ジェットは話している間も敵から目を反らさなかった。

仲間の顔を見向きもしないジェットにキッドが怒鳴るように言った。

「だからって、一人で残る必要ねぇだろ!オレも一緒に戦うぜ!」

ジェットは即座に言い返した。

「ダメだ。ダイナが単独行動に移ったら、フロラを守れるのはお前とカイトしかいなくなる。これ以上手薄になるわけにはいかねぇよ。」

キッドは何か言い返そうとしたが、言葉が見当たらずに拳を握りしめた。

そのキッドの肩に、説得を諦めたカイトがポンと手を乗せた。

「まあ、いいじゃねぇか。こいつが負ける前提で考えるのは止めようぜ。これ以上説得しても無駄だろうしな。」

カイトがニコッと笑うのを見て、キッドも仕方なく諦めた。

ダイナは少し険しい表情でジェットに声をかけた。


「勝てるのか?」


ダイナはメビウスを探すために自分が単独行動をすることによって、メンバーが手薄になることに少しだけ申し訳なさを感じていた。また、喧嘩ばかりしていたジェットがそこまで先の事を考えていたことに驚きと悔しさを感じていた。

すぐ近くまで歩み寄って来ている敵を前にし、ジェットは手短に返した。


「勝つ。」


ダイナはその言葉を聞くと無言で工場の方へと体を向けた。

ただ一人、フロラだけがまだ不安な表情をしている。

「ジェット・・・。」

こういう時にどんな言葉をかければいいのかさえ分からないもどかしさを感じつつ、フロラはジェットの名前を呼ぶことしかできなかった。しかし、そのもどかしい部分を拾って、ジェットはしっかりと言葉を返した。

「フロラ、キッドの屋敷で似たようなことがあったから不安なんだろ?大丈夫、オレは必ずフロラの元に戻る。屋敷の時だってそうだっただろ?それに、フロラがここに来ることをオレが認めたように、オレがここに残ることをフロラにも認めてほしいんだ。発信機、無くすなよ。それをたどってすぐに戻るから。」

ジェットはフロラを安心させるため、振り返って笑顔を見せた。

工場の入り口のゲートが完全に開ききった。

「ジェット・・・、絶対戻って来てね・・・。」

フロラは最後まで不安な表情を拭いきれなかったが、キッド、カイト、ダイナと共に工場の中へと走っていった。


ジェットは大きく息を吐くと、目の前に近づいてきている敵だけに集中した。

目の前の色黒の青年は細身でありつつも、捲った袖から出ている腕は引き締まった筋肉をしており、走行中のバギーから飛び降りた姿も相まって、高い俊敏性を感じさせる。そして、鋭い目つきとニヤリと広げた口角が好戦的なイメージを与えてくる。

ウェイブはジェットの数メートル前で立ち止まった。

「お前がアンドロイドを拾ったっていうガキで当ってるんだよな?」

ウェイブは質問をしながら戦闘態勢を取り、両腕に付けている腕輪のような物をいじった。

同じくジェットも袖をまくり義手を露わにして戦闘態勢に入った。

「そうだ。オレがアンドロイドを見つけた。だったらどうした?殺すのか?」

ジェットは堂々と言った。恐怖が無いわけではなかった。しかし、過去二度にわたるLMCの人間との戦闘を冷静に思い出し、自分を落ち着かせていた。

ウェイブはジェットの腕を見て嬉しそうに目を見開いた。その腕はジェットが確かに獲物であることの証明だった。

「もちろん殺すさ。そして、先に進んだアンドロイドも生け捕りに。ついでに一緒にいた奴らも始末。そしたらボスからオレへの評価は爆上がり。そういうことだ。」

ジェットは敗北は絶対に避けなければならないと確信した。

「させねぇよ。」

ジェットの冷静な一言に、ウェイブは嬉しそうに笑った。

「いいねぇ。それくらいの方がやりがいがあるってもんだ・・・。」

そう言うと、ウェイブは地面に手を付いて足を曲げ、クラウチングスタートのような姿勢を取った。

来る、ジェットがそう感じたと同時にウェイブは突進した。

「その威勢がいつまで続くかな!!?」

ウェイブが素早く距離を詰め、右ストレートを繰り出した。

ジェットは右半身を後ろに捻ってかわした。そのまま右手を握りしめ、技を繰り放った。

「ジェットハンマァァ!!」

爆音が鳴り響き、ジェットの右ストレートは相手の腹に打ち込まれた、ように見えた。

ジェットは打った瞬間、妙な手ごたえに気付いた。まるでゴムのような柔らかく弾力のあるものを殴った感触だった。

すると、ウェイブの重く不気味な声が響き渡った。

「ふーっ・・・。危ねー危ねー。これが噂のパンチか・・・。思ったより威力あるじゃねーか。」

よく見ると、無数の緑色の光が網目状に交差し、それがネットのようになりジェットの拳を腹の前で受け止めていた。

そのネットは、ウェイブが前に突き出した両腕に装着した腕輪から出てきている。

「これは・・・!?」

得体のしれない物に警戒し、ジェットはすかさず後ろに飛んで距離を取った。

すると、ネットを形作る光はウェイブの腕輪に吸い込まれて消えた。

「今のは・・・網・・・?」

ジェットは構えを崩さずに、目の前に見えた謎の物体をそのまま言葉にした。

それを聞いたウェイブがニヤリと笑った。

「・・・その通り。オレはLMC十二武将の一人、『網』のウェイブ。この両腕の腕輪から作られる網がオレの武器だ。」

ウェイブは両腕を上げ、装着された腕輪を見せた。平たい形の黒い腕輪だった。

十二武将という言葉にジェットは反応した。

「十二武将・・・。どっかで聞いたような・・・。あっ!あの双子が言ってたやつか・・・!お前がそうなのか!」

ジェットは以前戦った双子が言っていたことを思い出した。

ウェイブが笑いながら口を開く。

「そういや、あの双子戻って来ねぇと思ったら、お前らにやられてたんだな。ざまぁねぇ。まあ、オレはお前にやられるようなヘマはしねぇ。この網でお前を捕まえてボスの元まで連れてってやるよ。ただし、連れて行くのは・・・・」

ウェイブは再びジェットに突進した。

「お前の、『死体』だがな!!」

突っ込んでくるウェイブに向かって、ジェットは右腕から蒸気を排出した。

バシュッと音を立てて、蒸気がわずかに視界を遮った。

「目くらましのつもりかぁ!?面白くねぇよ!」

ウェイブは全く動じず、しっかりとジェットの姿を目で捉えていた。

「ウラァ!!」

「がはっ・・!」

ウェイブの拳が顔面に直撃したジェットは、殴り飛ばされて転倒した。

「はい捕獲ぅぅ!!」

ウェイブが倒れたジェットに両腕を向けると、腕輪から緑色の光が放たれた。

その光は網を構成し、ジェットをその網の中に閉じ込めた。

「くそっ・・・!」

ジェットはウェイブの網に捕らえられた。

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