第12話 LMC十二武将
ジェットたちは息をのんだ。
「ダイナが・・・メビウスの・・・息子!?」
ジェットたちの驚く様子を見たダイナは嫌そうな顔をする。
「こんな事実、消し去りたいんだがな・・・。」
下を向きながら歯をギリギリと食いしばるダイナを見て、ジェットが不安気に尋ねた。
「今、メビウスを殺すって言ったのか・・・?なんで母親を・・・殺そうとしてんだよ・・・?」
ジェットが尋ねると、他のメンバーが静まり返った。
メビウスの息子という点に気を取られ、殺すという点を忘れていた。
ダイナは下を向いたまましばらく黙った後に答えた。
「・・・まあ、『復讐』だ。奴のせいでくそみたいな人生を歩まされたからな・・・。奴の都合で勝手に産んで勝手に捨てられて・・・、大変だったぜ。」
ダイナのボソッとした話し声が静寂の中に響いた。その声は静かでありつつも怒りが込められた声だった。
その様子を見たジェットたちはそれ以上ダイナの過去に踏み込むことができず、なんと言えば良いのかわからなくなってしまった。
しばらく沈黙が続くとダイナは無表情のまま顔を上げ、ジェットたちの方を見た。
「さて・・・、オレは目の前の工場に入っていったメビウスを追いかけるが、お前らはどうすんだ?ていうか、お前らは何しに来たんだよ?」
ダイナの言葉でジェットたちはハッとして、ここに来た目的を思い出した。
「そうだ!オレたちあんまりのんびりしてる場合じゃねぇよ!早く魔女を助けに行かねぇと!」
慌てて立ち上がりながら言い放ったジェットの言葉を聞いた瞬間、ダイナは変なものを見るような目をした。
「魔女を助ける・・?なんで?」
半開きの目でダイナに見られているジェットは自信満々に答えた。
「助けてって言われたからだ!」
ジェットの答えた内容と自信気な答え方に、ダイナの顔は完全に呆れていた。しばらく沈黙が続いた後、ダイナは口を開いた。
「アホだろ、お前ら。」
「アホとはなんだ!!」
バカにされて怒ったジェットが食らいついたが、ダイナは呆れ顔のまま続けた。
「魔女を助けようなんて何考えてんだよ。魔女は人間を嫌ってるんだぞ。関わらないのが常識だろ。この地球上で魔女を助けようとしてるのなんて、お前らくらいじゃねぇか?」
バカにされたジェットはさらに怒り、子供のように両腕をブンブン振り回した。
「うっせぇ!オレは魔女に助けてって言われたんだよ!LMCの犠牲になる奴はほっとけねぇんだ!ていうかお前だって魔女と関わってんじゃねーか!」
痛いところを突かれ、ダイナも思わず声が荒くなった。
「オレは関わってんじゃねぇ!追いかけてるだけだ!」
「関わろうとしてんじゃねーか!」
二人がギャーギャーと言い争う姿をフロラ、キッド、カイトは後ろから見ていた。
キッドは魔女を助けることをバカにされ、不機嫌そうな顔をしている。
「あいつ、結構ふてぶてしい奴だな・・・。」
一方、横に立っているカイトはバカにされたことをあまり気にしておらず、不機嫌なキッドをなだめながら二人が喧嘩する様子を見て面白がっていた。
「うはは!まあ人それぞれの考えがあるからな!」
フロラに至っては、喧嘩するジェットとダイナが仲良く見えていた。
「あの二人仲良しだね。」
しばらくして、ジェットが諦めてダイナから手を引き、喧嘩が終了した。
「ああ!こんな奴相手にしてる場合じゃねぇ!さっさと行くぞ!」
ジェットがフロラたちにそう呼びかけてLMCの工場へと走り始めたので、フロラたちも慌てて付いていった。
しかし、先頭を走るジェットがふと横を見ると、ダイナも一緒に走ってついてきていることに気付き、再び喧嘩腰で食いついた。
「おまっ・・・、ついてくんな!魔女には関わらねぇんじゃねぇのか!?」
再び喧嘩腰で挑まれたダイナも怒りを露わにし、走りながら第二ラウンドが始まった。
「ついていくわけじゃねぇよ!オレはメビウスを追いかけてるだけだ!」
「だからって同時に出発すんな!もうちょいタイミングずらすとか・・・何かやり方あっただろ!」
「何でお前らに気使わなきゃなんねぇんだよ!」
「・・・・・また喧嘩かよ。」
走りながら再び始まった二人の喧嘩にキッドはもはや呆れていた。
喧嘩の途中で、ジェットたち四人は走りながらカシャカシャと音を鳴らしている、金属でできたダイナの義足が気になり、ジェットは思わず真面目に尋ねた。
「お前、その義足自分で作ったのか?」
喧嘩相手のジェットが急に真面目に聞いたので、ダイナは面倒くさそうな表情をしつつも答えた。
「もう名前も覚えてない奴に作ってもらったんだ。オレはメビウスに捨てられた後、知らない奴の家をたらい回しにされながら育って、その中のもう名前も覚えてないおっさんが作ってくれたんだ。」
それ以上踏み込まないでおこうと思っていた過去の話になってしまい、ジェットは思わず口を噤んだが、ダイナはそんなジェットの様子に気付いた。
「何気使ってんだよ、気持ち悪い。」
「気持ち悪いってなんだよ!」
第三ラウンドが始まった。
「・・・また。」
「うははは!お前ら喧嘩ばっかだなぁ!」
喧嘩ばかりの二人にキッドは呆れ果て、カイトは笑ってばかりだった。
「あ、入り口が見えてきたよ!」
フロラの声に反応し全員が前を見ると、高さ10メートル程の大きなゲートがだんだん近づいてきていた。
時は少し遡り、ジェットたちがメビウスと遭遇する少し前。
LMCの工場の最上階、広い部屋に十二人の人間が集まっていた。
集まった十二人は年齢、性別、風貌様々であり、共通点といえば、全員黒っぽい服を着ていることと、胸に銀色のLMCの紋章を付けていることくらいだった。
十二人は大きな丸いテーブルを囲むように座っており、ほとんどの者が落ち着かない様子だった。
「いつになったら出動命令が出るんだよ!せっかく十二武将全員が集まったってのによぉ!」
色黒の短髪の青年がテーブルをドンと叩きながら叫んだ。
「落ち着けウェイブ。そんなにイライラしてると作戦も上手くいかないよ。」
右の方に座っている落ち着いた雰囲気の男が声をかけた。
「そんなこと言ったってよぉ、ルシードは待ってるだけで我慢できんのかよ?早く魔女捕まえて評価もらいたいと思わねぇ?」
ウェイブと呼ばれた男が尋ねたが、隣に座っている女性が会話に割り込んできた。
「うっさいのよウェイブ。雑魚のくせに粋がってんじゃないわよ。ルシードもそう思うでしょ?」
ルシードと呼ばれた男が何か答えるより先に、ウェイブが飛びかかるような勢いで女性に迫り寄った。
「雑魚だと!?その言葉そっくりそのまま返すぜ、ヴァリィ!」
すると、ヴァリィと呼ばれた女性の隣に座っている、金髪の派手な格好の女性が泣くような声を上げた。
「うぇーん。二人とも喧嘩しないでよぉ。仲間同士で喧嘩するなんて、アローナ嫌だよぉ。」
ウェイブがその女性にイライラして、机をドンドン叩きながら身を乗り出した。
「うっせぇ、アローナ!いい加減その泣きまねはやめろ!このぶりっ子が!かわいくねぇんだよ!」
そう言った瞬間、アローナの隣に座っている太った男が声を上げた。
「ア、アローナちゃんに悪口言うのはやめろ!こ、このヤンキーめ!」
ウェイブの怒りの矛先がその男に変わった。
「あぁん!?何か文句でもあんのかキャノル!?このデブオタクがよぉ!表出るかぁ!?」
キャノルと呼ばれた男はビクビクして何も反論できないでいると、アローナが声をかけた。
「アローナのこと守ってくれるのぉー?うれしー!」
ニッコリ笑って声をかけられたキャノルは、アローナの顔を直視できず顔を真っ赤にしていた。
「キモ・・・。」
キャノルの様子を見たヴァリィが小声で呟いた。
「アローナちゃん!今日もかわいいねぇー!」
斜め向かいに座っている全身に鎧を纏った金髪の青年が、指を指しながら叫んだ。
「ホントー!?マルシェル君ありがとー!」
アローナは鎧の男に笑顔で手を振った。
「ウェイブっちも、今日はいつも以上にきまってるねぇー!」
鎧の男マルシェルが机の上に身を乗り出しているウェイブに向かって、同じように指を指した。
「うっせぇ!チャラ男は黙ってろ!」
ウェイブは机を脚でドンと踏み鳴らした。
「いやー、若者は元気だねぇ。そう思わないラチェットさん?」
騒ぐ若者たちの斜め向かい側に座っている、鼻の下に整った髭を持つ中年の男が呟いた。
「そうだなぁ。オレらはもうおっさんだからなぁ。もう少し若けりゃオレもあんな風に『うぇーい』とかやるんだけどなぁ。さすがに無理だわリボルさん。」
隣に座っている、ラチェットと呼ばれた屈強な体をした中年の男が話した。
「リーゼさんはまだまだ若いからいけるだろ?」
ラチェットが横に座っているショートヘアーの女性に話しかけた。
「あんなガキどもと一緒にされたくないわよ。ていうか、おっさんそれセクハラじゃない?」
リーゼと呼ばれた女性は、机を指でコツコツと叩きイライラしながら答えた。
「ダハハハハ!!セクハラしちゃったぁー!」
中年二人が汚い笑い声をあげる。
「あんたはどう思うのよ?セイラ。」
リーゼは中年組をほったらかし、隣に座っているピンク色のロングヘアーの女性に話しかけた。
「・・・・・・・・・・・・・・・興味無い。」
セイラと呼ばれた女性はリーゼの方を見向きもせず、下を見たまま小さな声で呟いた。
「ふん。相変わらず暗い子ね。」
セイラの態度に怒りながら、リーゼが再び机をコツコツ鳴らし始めた。
「ゲハハハハ!楽しみだなぁ!早くオレの『罠』で魔女を捕まえてぇなー!グヘヘヘ・・・・」
黒髪の長髪の男が椅子をガタガタ揺らし、目をギョロギョロと動かしながら叫んだ。
「ちっ・・・相変わらず気味悪ぃな、ダストの奴・・・。」
ウェイブがボソッと呟いた。すると、十二人で囲めるほどの大きなテーブルがガタガタと大きく揺れ始めた。
「ヴォォォォォ!出動命令はまだか!?もう我慢できねぇ!」
人間離れした強大な体躯を持つ男がテーブルを掴みガタガタと揺らしていた。掴んでいる部分は指がめり込み、ヒビが入っている。
「おい、やめろ!ハーマン!ウザイんだよ!」
ウェイブが机から飛び降りて怒鳴ると、ハーマンと呼ばれた男が荒い息を漏らしながら机を揺らすのをやめた。
テーブルの上に置いてあった人数分のコーヒーがすべてこぼれており、部屋中に気まずい雰囲気が漂った。
『早く出動命令来ないかなー・・・・。』
部屋にいた全員がそう思った、その時、治安部隊の隊員が息を切らしながら部屋に駆け込んできた。
「出動命令です!十二武将の皆さん応援をお願いします!」
「しゃあ!きたああああ!」
ウェイブが叫びながら飛び上がり、他のメンバーも一斉に立ち上がった。
すると、隊員は動き出そうとしている全員に聞こえるよう、大声で話した。
「あ、あの・・・!メビウスの目撃情報が入っています!」
十二武将全員の動きがピタリと止まった。
一瞬その場が静まり返った後、ヴァリィがニヤリと笑いながら口を開いた。
「またあいつが来てるんだ?」
隊員はヴァリィの不敵な笑みに寒気を感じ、一瞬ビクッと全身を震わせて説明を続けた。
「は、はい!この工場へと続く道路の上で、何者かと戦闘しているのを治安部隊が目撃したとの報告を受けております!おそらく、まもなくこの工場に侵入してくるものと思われます!」
隊員の報告を聞くと、すぐにウェイブが反応した。
「メビウスと戦ってる『何者か』って誰だよ?奴は治安部隊を蹴散らしてるんじゃねぇのか?」
隊員はウェイブの放つ荒々しい雰囲気にビクビクしている。
「い、いえ・・!それが、治安部隊ではない四人程の人間と戦闘していたようで・・・、少し離れた場所からの目撃だった為、特徴などはつかめなかったようですが・・・!」
それを聞いたリーゼが声を上げた。
「もしかして、アンドロイドとそれを拾ったっていうガキじゃないの?」
リーゼの言葉に十二武将全員が反応し、ルシードが口を開いた。
「そうかもしれないな。なぜメビウスと戦ってるのかはわからないが・・・。ここに向かってくる奴で心当たりがあるとすれば、そいつらくらいだな。」
ルシードが話すと今度はマルシェルが口を開いた。
「マジで!?そいつら捕まえたらめちゃくちゃポイント高いんじゃね!?魔女は後回しで、そいつら狙うのもありっすねー。」
「わあー!マルシェル君あったまいいー!」
「だろぅー?」
マルシェルとアローナが騒いだ。
隊員の男は手に持った紙を見てビクビクしながら再び説明を続けた。
「あ、ですので・・・!今回は魔女、メビウス、謎の四人を仕留める為に、十二武将の方々はこちらで指定したポジションに向かうようにと、上からの指示が出ております・・・。」
その説明に十二武将全員が動揺した。
「えぇ!?もうポジション決められてんの!?何だよそれ!獲物を指定されてるようなもんじゃねーかぁ!」
ウェイブが頭を抱えて上半身をくねらせながら喚いた。
「上からの指示なら、仕方ねぇなぁ・・・。」
たばこに火を付け、リボルが冷静に説明を受け入れた。
「さっさとポジション教えなさいよ!」
ヴァリィが隊員に食ってかかると、隊員はビクビクしながら全員に資料を渡した。
「こ、こちらの資料に記載してあります。皆さんには『魔女捕獲の支援』、『メビウス討伐兼工場設備の護衛』、『謎の四人の討伐』、以上三つのポジションに分かれて頂きます。」
十二武将がそれぞれ隊員から奪うように資料を取り、集中して目を通す。
出動命令に沸き立っていた十二人が一気に静かになり、隊員がビクビクしながらその様子を見ていた。
「なるほどね・・・・。こりゃ面白くなりそうだぜ・・・。」
資料に目を通したウェイブがニヤリと笑う。
全員が資料を確認し終えると、隊員が叫んだ。
「そ、それでは皆さんすぐに各ポジションに向かってください!」
隊員の指示を受け、十二武将全員が一斉に動き出した。
「過去最大規模の『魔女狩り』かぁ・・!こうでなくっちゃなぁ!」
「獲物とっ捕まえて、ギルグランド様に認めてもらわないとねー。」
「ま、無理し過ぎず頑張るか・・・。」
それぞれがまるでお祭りに参加するかのように騒ぎながら部屋から飛び出て行った。
ウェイブ、ルシード、ヴァリィ、アローナ、キャノル、マルシェル、ラチェット、リボル、リーゼ、セイラ、ダスト、ハーマン、LMC十二武将が戦場に解き放たれた。




