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HUMANOID  作者: 青草 光
第Ⅲ章 魔女狩り作戦編
11/27

第11話 メビウス

LMCの工場へと続く一本道の上、ジェットたちと銀髪の魔女との戦いが始まった。

辺りではトラックから飛び出した魔女がジェットたちを気にする余裕もなく、一斉に逃げてゆく。

ジェットたちに立ちはだかる銀髪の魔女もまた、逃げてゆく魔女を気にするそぶりも見せず、そっと目を閉じた。

「魔力開放・・・」

静かに唱えた魔女の体から、銀色のモヤモヤしたオーラが溢れ出た。

「魔法だ!」

カイトがそう叫んだ瞬間、魔女がカッと目を見開き腕を振り下ろした。

銀色のオーラが蛇の形になり、魔女の腕から鞭のように放たれた。

「うあっ・・!」

オーラでできた蛇が一瞬でキッドの右腕に咬みついた。

「くそっ・・!」

キッドが慌てて振り払うと蛇はしゅるしゅると縮み、魔女の手に戻っていった。

「大丈夫か!?」

横にいたジェットたちが心配する。

キッドが右の袖をめくり咬まれた部分を見ると、二つの小さな咬んだ痕が残っていた。

「たいした怪我じゃない、大丈夫だ。それより、あれは・・・蛇・・・?」

魔女の手から繋がっているオーラでできた蛇が、にょろにょろとうねっており、魔女の瞳はまるで蛇のように細長く鋭い瞳に変わっている。

顔がまるで蛇になったかのような魔女が冷たい表情のまま口を開いた。

「私は蛇の力を持つ『蛇』の魔女。魔女は動物や植物の自然の力を使うのよ。」

しゃべる魔女の口から、蛇の細長い舌が出てくるのが見えた。

すると、魔女はカイトに向けて蛇を放った。

カイトは自分の身長と同じくらいの長さがある大剣ブレイカーを大きく振り回した。

「うおぉぉぉ!!」

飛んでくる蛇を薙ぎ払い、蛇を形作っていたオーラが煙のように分散した。

その一瞬の隙に、ジェットが一気に魔女に近づき右腕を構えた。

「ジェットッ・・・!」

右腕を振りぬこうとした瞬間、魔女のもう片方の腕から繋がった蛇が、ジェットの腰に咬みついた。

「ぐっ・・!」

慌てて蛇を振り払いながら、ジェットは叫んだ。

「フロラ!」

「ロケットフィスト!」

蛇に咬みつかれ倒れ込むジェットの後ろから、フロラの拳が飛んだ。

「ふっ・・・。」

真正面にいるジェットの体で死角となっていた所からの攻撃だったにも関わらず、魔女は冷静に上半身をスムーズに右にずらし、ギリギリのところでかわした。

「これを避けんのかよ・・・!魔法だけじゃない、身体能力も・・・!」

魔女の戦闘能力の高さに動揺を隠せないジェット。

フロラの右手から繋がったワイヤーを見て、魔女が驚いた。

「これは・・・!?」

同じくカイトも驚いていた。

「なんじゃありゃ!?」

ワイヤーが巻き取られ、フロラの右手が元に戻った。

「おら!!」

すかさず、キッドが両手からジャイロスフィアを放った。

しかし、魔女は飛び上がってひらりとかわす。

「まだまだ!」

キッドはかわされた鉄球を磁力で引き寄せ、宙に飛び上がった魔女を後ろから狙った。

「ハッ!」

魔女は両手の蛇を飛んでくる鉄球に向けて放った。

すると、蛇に飲み込まれて鉄球の威力が弱まり、魔女はそのまま自分の手で鉄球を掴んだ。

「なっ・・・!?」

攻撃を軽々とかわされ、武器を奪われたキッドが驚く。

カイトとジェットが着地した魔女に突進した。

「うおぉぉ!!」

カイトが大剣を振り回すが、魔女は表情一つ変えずに最小限の動きでかわす。

「ジェットハンマァァ!!」

ジェットが右腕を振りぬいた。

「ガン!」という金属がぶつかる音が響いた。

右腕の一撃はキッドから奪った鉄球でガードされていた。

魔女は気になったのか、一瞬ジェットの腕を見つめた。

攻撃を簡単に防がれて動揺するジェットと息を切らし始めるカイト。

「こんな簡単に防がれるなんて・・・!」

「ハァ・・くそっ・・。」

二人とは対照的に疲労の色を全く見せない魔女がゆっくりと口を開いた。

「みんな危ない物ばかり使うのね・・・。そんなに機械が好きなら、これ・・・返すわ。」

そういうと、目の前のジェットとカイトに向けて、鉄球が入った蛇を両手から放った。

「ぐあっ・・・!」

鉄球入りの蛇を腹にぶつけられ吹き飛ぶジェットとカイトはそのまま後ろにいたフロラとキッドに激突した。

「うあっ・・!」

「きゃあっ・・!」

4人はまとめて吹き飛ばされた。


「くそ・・・、強ぇ・・・!」

ジェットがゆっくりと起き上がろうとした、その時、体がガクッと崩れ落ちた。

「あれ・・・?」

地面に倒れ込むジェット。

「な・・なんだ・・・?体が・・・動かねぇ・・・!」

地面に手をついて立ち上がろうとするが、体に力が入らない。

横を見ると、キッドとカイトも同じように倒れながらもがいていた。

「くそ・・・どうなってんだ・・・?」

「力が入らねぇ・・・。」

キッドとカイトが苦しそうにもがく。

すると、目の前で仁王立ちしている魔女がニヤリと笑った。

「ようやく効いてきたようね・・・私の毒が・・・。」

「毒・・・?」

ジェットがなんとか顔を上げて言うと、魔女は不敵な笑みのまま答えた。

「そうよ、私は蛇の魔女だもの。咬みついた蛇から毒を送ったわ。本当は4人全員に咬みついて毒を送るつもりだったけど、剣を持った子が毒入りの蛇を薙ぎ払ってくれたおかげで毒が飛散して、咬みついていない子にも毒を回すことができたわ。」

魔女がカイトを見下ろすとカイトが悔しそうにもがいた。

「くっそぉぉ・・・!」

魔女がゆっくりと歩き、ジェットたちに近づいて行く。

「これでわかってもらえたかしら?魔女と関わることがどういうことか・・・。」

ジェットが必死に顔を上げ、魔女をにらみつけた。

魔女は笑みを浮かべながらも冷たい表情で足元のジェットを見下ろす。

「怖いわ・・・。そんな怖い顔されたら、助けるはずの魔女はみんな逃げちゃうわよ・・・。」

毒に少しずつ体を蝕まれ、ジェットが息を切らしながら口を開いた。

「ハァ・・ハァ・・・。まだ・・・諦めねぇ・・・。」

ジェットは目がかすみ始め、目の前の魔女の顔もぼんやりとしか見えていなかった。

「苦しそうね・・・。早く楽にしてあげた方がいいのかしら・・・?」

魔女がジェットに手を伸ばした、その時だった。


「やめて!」


「えっ・・・!?」

魔女が驚きの表情を見せた。

フロラが立ち上がり、ジェットに伸ばした魔女の腕を掴んでいた。

「フロラ・・・。」

ジェットがかすれた声を出す。


魔女が慌てて手を振り払い、後ろに下がった。

「なんなのこの子・・・!?毒が効いてないの・・・?」

フロラはジェットたちの前に立った。

ジェット、キッド、カイトが苦しみながらも心配そうに見つめ、ジェットがかすれた声でぼそっと呟いた。

「そうか・・・フロラは・・・機械だから・・・。」

魔女はその声を聞き逃さなかった。

「機械・・・?さっきの腕といい、毒が効かないことといい・・、あなた一体・・・。」

魔女の言葉にフロラは堂々と答えた。

「私はアンドロイド。これ以上ジェットたちに手を出さないで!」

今まで冷たい表情だった魔女が、フロラの言葉を聞いて急に面倒くさそうな表情になった。


「アンドロイド・・・!?ということは・・・、Dr.アクアが作ったものなの・・・!?」


魔女の言葉にジェットとキッドが反応し、フロラが驚いて尋ねた。

「えっ・・・!?どうしてそれを・・・!?Dr.アクアを知ってるの!?」

魔女が面倒くさそうに答えた。

「知ってるも何も、あいつは私の・・・」

急に魔女が話を止め、驚いた表情で立ちすくんだ。

視線の先には苦しそうに立ち上がるジェットの姿があった。

「ハァ・・・ハァ・・・。」

フロラがすぐにジェットの体を支えた。

「ジェット!大丈夫!?」

フロラの呼びかけにも反応せず、ジェットは意識が朦朧としたまま立っていた。

その姿を見た魔女が動揺し始めた。

「な・・・!?なんで・・?ありえない・・・!私の毒を喰らって・・・なんでまだ立ち上がれるの・・・!?」

ジェットが浅い呼吸をしながら口を開いた。

「・・・えろよ・・・。」

「え・・・!?」

ジェットの言葉を聞き取れず、魔女が思わず聞き直す。


「教えろよ・・・。Dr.アクアのこと・・・。ハァ・・・ハァ・・・、知ってること・・・教えろ・・・!フロラを・・・返すために・・・!」


ジェットはもはや執念で立っていた。

その姿に魔女は圧倒されつつも、ジェットの言葉を聞き状況を整理した。

「なるほど・・・!Dr.アクアを・・・アクアリオの元を目指してるのね・・・!」

ジェットがゆっくりと右手を振りかぶり、力が全く入らないまま魔女を殴ろうとした。

魔女はゆっくりと突き出されたジェットの右腕を掴んだ。


「これは・・・!!」


ジェットの右腕を見た魔女は突然血相を変えた。

「やっぱり、さっきから気になっていたけど・・・これは、義手・・・!?」

魔女はゆっくりとジェットの顔を見て何かに気付き、今までにないくらい動揺し始めた。

「オレンジ色の髪・・・、義手の右腕・・・!」

魔女はゆっくりと言った。

「あなた・・・。ジェット・スカイファインね・・・?」

ジェットは意識が朦朧とし、話を理解できるほど気力が残っていなかった。

魔女は後ろに下がり距離を取った。

顔からはさっきまでの冷静さは消え、ジェットとフロラを見つめながら頭の中で必死に考えごとをしていた。


『どうなってるの・・・?アンドロイドに義手の少年・・・。こんな偶然があり得るの・・・!?まさか、こうなるようにアクアリオが何か仕組んでいたとでもいうの・・・!?だめだ、これはうかつに手を出せない・・・!』


必死に考える魔女の後ろの方から声が聞こえた。

「あ・・あれは、メビウス!?間違いない、銀髪の魔女・・・メビウスだ!まずい!すぐに本部に連絡を・・・応援を要請しろ!!」

振り向くと、治安部隊の隊員が銀髪の魔女メビウスの姿に気付き、慌てて誰かに連絡を取った。

「・・・どうやらここまでのようね。あなたたちはもう思い知ったでしょ?魔女には及ばないことが・・・。わかったらおとなしく諦めなさい。」

メビウスはそう言うと、隊員を蹴散らしてLMC工場の方へ走り去っていった。


ジェットはその場に倒れ込んだ。

「ジェット!」

フロラが必死に声をかける。

すると、遠くから誰かの声が聞こえてきた。

「君たち何やっているんだ!」

振り向くと、別の場所にいた治安部隊の隊員3人がジェットたちの元に駆け寄ってきた。

「危ないからこの先へは進んではダメだ!早く向こうへ逃げなさい・・・、あれ・・・?」

ジェットたちを心配するそぶりを見せていた隊員が何かに気付いた。

3人ともフロラを見ている。

「こいつ・・・社長が探しているアンドロイドに似てないか・・・?」

その言葉にジェットが反応した。

「に・・げろ・・フロ・・・ラ・・・」

ジェットがかすれた声でフロラに叫んだ。

「え・・?」

突然のことにフロラは状況を理解できなかった。

「アンドロイドだ!捕まえろ!!」

隊員たちが一斉にフロラを取り押さえる。

「きゃあ!やめて!離して!!」

フロラが暴れるが、3人がかりで取り押さえられる。

「魔女なんてどうだっていい!こいつを連れて行けば!昇格間違いなしだ!!」

隊員たちは市民を守るふりも忘れて、フロラを取り押さえることで必死だった。

「や・・めろ・・・」

ジェットが必死に立ち上がろうとするが、もう限界だった。

キッドとカイトはすでにぐったりと倒れ込んでいる。

「暴れんなコラァ!!」

「嫌だ!!離して!!」

取り押さえようとする隊員たちに必死で抵抗するフロラ。


すると、突然空から何者かが隊員の一人の上に飛び降りてきた。

「ぐふぅ!!」

隊員の一人が地面に倒れ、その上に一人の少年が立っていた。

驚いた他の隊員が叫んだ。

「なんだてめぇは!!」

隊員は手に持った銃を構えようとしたが、少年は一瞬で武器を蹴り飛ばし、二人の隊員の頭を蹴り飛ばした。

隊員たちは気絶し、掴まれていたフロラが衝撃で転んだ。

「痛たた・・・」

お尻をさすりながら顔を上げると、そこにはジェットと同じくらいの年齢で、ツンツンした黒髪の目つきの悪い少年が立っていた。

目を下にやったフロラは驚いた。

その少年の膝から下は機械でできた義足だった。

少年はポケットに手を入れ、ゴソゴソと何かを取り出しながら言った。

「ほらよ、解毒剤だ。」

少年は小さなチューブに入った薬を3本取り出し、フロラに渡した。

フロラは受け取ったが、それの効果や使い方を全く知らなかった。

「何、これ・・?」

少年がポカンと口を開ける。

「何って・・・。解毒剤だよ。そいつら助けたいんだろ?さっさと使ってやれよ。」

「使う・・・?どうやって・・・?」

少年が呆れた顔になった。

「くそっ・・・めんどくせぇなぁ・・・。貸せ。」

少年は解毒剤を3人に施した。




20分程すると3人が目を覚ました。

「みんな大丈夫!?」

目を覚ました3人に気付き、フロラが声をかけた。

「うっ・・・あれ・・・?オレは何してたんだ・・・?」

「あれ、ここは・・・?」

「うぅ・・・。頭痛ぇ・・・。」

ジェット、キッド、カイトの3人は意識を取り戻した。

意識が戻り、だんだん記憶もよみがえってきたジェットが飛び上がった。

「あ!オレは確か銀髪の魔女と戦ってて・・・!そうだ!フロラだ!お前・・・無事だったのか!キッド、カイトも!良かった・・・。」

ジェットが仲間の無事を確認し安心した。

続いてキッドが飛び上がった。

「そうだ!オレ、毒を受けた・・・のに・・・治ってる!?」

飛び上がるジェットたちにフロラが声をかけた。

「この人が助けてくれたんだよ。」

「この人?」

3人が見慣れない黒髪の少年の存在に気付いた。

「えっと・・・、助けてくれたのか。ありがとう。」

ジェットはお礼を言うと名前を尋ねた。

「名前はなんていうんだ?」

名前を尋ねられた少年のもともと悪い目つきがさらに悪くなった。

「名前聞くなら、お前が先に名乗るもんじゃねぇのか。」

「うっ・・・。」

ジェットはビクッとしたが、落ち着いて自己紹介をした。

「オレはジェット。ジェット・スカイファインだ。こっちはキッドとカイト。女の子はフロラだ。」

ジェットに自己紹介された少年は顔色一つ変えないまま口を開いた。

「オレはダイナ。ダイナ・クラウディアだ。お前らメビウスの毒にやられたんだろ?さっきの戦い途中から見てたぜ。」

ジェットたちが驚いた。

「見てたのか!?ていうか、メビウスって・・、さっきの魔女を知ってるのか?」

慌てるジェットにダイナはゆっくりと答えた。

「ああ。オレは奴を追いかけてここまで来たからな。奴のことはガキの頃から知ってるし、対策として解毒剤も持ち歩いてんだよ。」

ジェットたちが再び驚いた。

「ガキの頃から知ってる・・・?あの魔女は何者なんだ?他の魔女とは違うのか?」

ジェットが驚きながら尋ねると、ダイナが複雑な表情になった。

「奴の名前はメビウス。他の魔女と何ら変わらないただの魔女だ。ただ、どうも考え方や経歴が普通じゃねぇらしい。本人から直接聞いた話だが、奴は魔女の中でも『異端者』だそうだ。」

ジェットは質問をしてもまだわからないことだらけだったが、最も気になったことを率直に聞いた。

「ダイナは何者なんだ?メビウスとはどういう関係なんだ?」

ダイナの表情が一層険しいものになった。

「オレはメビウスを殺すために奴を追いかけて旅をしている。認めたくはねぇが・・・オレはメビウスの息子だ。」

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