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兵士×元貴族  作者: ニャン叉
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暗闇の中の光

ナッシング

一体いつまでこの拷問は続くのだろう。一体私が何をした、私の家がなんだと言うのだ。そもそも小国とはいえ国家が一民間人に対して拷問など…


数年前、ある政策が開始された。共和政党が政権を取ったその日から、国民の生活は一変した。彼ら曰く、「この国に貧富の差があってはならない。」らしいが、当然、名ばかりの貴族の血筋、とうの昔に落ちぶれた我が家がそんな裕福な暮らしをしているわけがない。それなのに、彼らは私が財産を隠しているとの難癖をつけ始めた。まったく、祖父あたりから“元”貴族を名乗っているくらいなのに…


一週間が経った頃から拷問の内容が少しずつ変わっていった。いわゆる“性的”ってヤツだ。こいつらエロ漫画の読みすぎだろう。あんな事本当にやったら体が耐えられるわけがない。そろそろ私がもたないかな…


軍の施設に収容されて1ヶ月新しくここに配属になった兵士がいる。彼は私を見るなり、この状況を近くの警備兵に尋ねる。

「これは誰の指示で行っている?」

「政府の命令であります。」

「俺が元いた基地にはそんな指令来ていないが?」

「司令がそうおっしゃってました。」

「…へぇ、司令ねぇ…面白いことするじゃん。禿げ散らかしたジジイのくせに性欲だけは…」

そう言って彼は去って行った。彼の話ぶりから、最初から目的が私の躰だということがわかった。まさか…なんてこと…私は奴らの慰みモノにされるためにここに連れてこられたのか。また拷問部屋に連れて行かれる。初めて泣いていたかもしれない。

誰か…助けて…


引きずられるように部屋に戻る。部屋といってもドアも窓も格子なのだが…突き飛ばされて中に倒れこむ。奴らは私を淫乱な女だと嗤うと戻っていった。頭上からカチッと小さな金属音。見上げると私を引きずってきた兵士の死角に猫の骸骨のようなフェイスマスクの兵士が隠れていた。彼は私の前に音もなく降りてくる。

「初めまして、化け猫伍長です。」

自らを化け猫と名乗る彼は一体…

「貴女を格子の外へエスコートさせてください。」

聞き覚えがある声だった。

「さっきの新人さん…ですよね?」

「えぇ。そうですね。そういうことで。」

「お前そこで何をしている!」

見張りに見つかってしまった。

「あ、さっきの…いやぁこの子送り届けたら鍵閉められちゃってサァ。」

「…少佐⁉︎」

「伍長でいいって。俺もそっちで呼ばれる方が慣れてるし。」

「なんで、貴方がこんなところに?」

「だから言ったでしょ。鍵閉められちゃったんだよ。出してくれない?」

「わ、わかりました。」

彼は部屋から出る。そして見張りの兵士は頭を撃たれて死んだ。

「ったく逃げれば死ななくてよかったのかもしれないのに…馬鹿な奴。」

「なんで…?」

「色々後が面倒になるから。それよりここから逃げたくない?」

はい。と飛びつきたい。でも、

「…できないんです。弟が人質で…私が逃げたらあの子が…あんな酷いこ…」

何かの写真を突きつけられる。

「弟?あぁ、彼、君の弟だったんだ。」

そこには一人の青年の死体。それは紛れもなく…

「…エド?いやあぁあ!なんで、エドが!」

「ごめん、止められなかった。」

「どう…いうこと?」

「君の弟はもう死んでるってこと。」

「違う!そんなはずない!」

「…。」

「嘘だ!」

「あっちでも君と同じこと言われてたらしいんだ。俺がここにきたのは彼との約束。」

え?

「……。」

「“姉を助けろ”だってさ。」

「………。」

「落ち着いたらまた話そうか。」

彼が殺した兵士を担いで部屋を出て行くのが見えた。その後の記憶はない。


次の日…一晩中泣き明かしたが、まだ弟が死んだと認められない。理解はしていても、どこかで否定する自分がいる。それでも奴等はこちらがどんな状態だろうと私の躰を求める。またあの部屋に連れて行かれた。私の体を弄ぶ奴等。汚い。こんな奴らに弟は…首筋に痛みが走る。注射器だ。薬を打たれた。

そのあと、しばらく記憶が飛んでいた。眼が覚めると、いつもの部屋のベッドの上に寝かされていた。下半身に奴等の体液がこびりついていて気持ち悪い。しかしすぐに彼は来てくれた。体を起こす。


「待ってた。」

「ごめんね。」

「でも着替えてないんだ。」

「いいよ、気にしない。」

「ありがと、ハルトマン。」

「!…わかってたなら言ってよ、アイラ。」

「だって化け猫とか名乗ってたから。」

「うちの部隊はやってることがやってることだから名前伏せてるの。」

話しながら彼は私をベッドに寝かせる。彼自身はベッドを背もたれにして床に座っている。

「手…貸して。」

彼の右手が差し出される。私はそれに手を重ねた。指が絡む。泣いていたと思う。その後、手を離した彼はベッドに乗り出して一度寝かせた私の躰を抱き上げーーー抱きしめられた。

「まだ、好きだって言ったら引く?」

「わからない。」

「じゃあ言っておく。好きだよ、アイラ。」

「返事は、ここから出られたらでいい?」

「んーじゃあ行こっか?」

「え?」

「準備終わったし。」

「本当?」

「うん。行こう。服は動きやすいの持ってきたよ。」

「え?ちょっと待って、シャワー浴びさせて。」

「いいよ。荷物取ってくるよ。」


彼は去る。急いでシャワーを浴びる。彼は待っていてくれた。見覚えのある銃を持っていた。

「アイラ…君の銃だ。」

銃を渡される。古い銃、いや、見たことがある。この彫刻…

「どこから持ってきたの?」

「アイラん家。飾ってあったやつ整備したら使えたからそのまま持って来ちゃった。」

ウィンチェスターのカービンとランドール、それにピースメーカー。渡されたのはランドール。

「ランドールなら扱える?」

「使い方だけなら全部できる。」

「じゃ、軽いほうがいいかな。」

彼はピースメーカーをホルスターに突っ込む。ウィンチェスターは左の腰に下げる。

「行こうか。」

ゆっくりと進んでいく。もっとドンパチをイメージしてたがそうではないようだ。音を立てずにゆっくりと…しかしそううまくはいかないようでもう私がいなくなったことがばれてしまった。まだ基地から出てもいない。捜索が始められた。途中、二人乗りのジープを見つけ、それに乗って捜索隊に紛れて基地の外に出た。


数ヶ月ぶりの星が見える。最後に見たときからずいぶん場所が変わっていた。もう冬は終わっていたが少し寒いな…

彼に上着を渡される。

「寒くないの?」

二人共ほとんど同じような服装だった。

「大丈夫、俺は中に着てるから。」

一度車を止めて地図を見る。

「東に500キロ…燃料食うんだよね、この車。」

再び車を発進させる。

しばらく走り、高速にのる。政権の交代で無料化されていた。何時間か経って、夜が明けてきた。正面から日が昇る。

「まぶしいな…」

「綺麗だよ。」

彼がこっちを向く。

「なに?」

「うん、綺麗だね。」


高速から降りる。国境まであと少し。

「最大の難関は国境越えなんだけど、さすがに検問無視するといろいろ面倒だしなぁ…かといって検問に素直にいったら絶対殺されるし…」

「どうするの?」

「国境の手前の街で車乗り捨てる。そのあとは夜になったら歩いて国境突破。」

「見つかったら?」

「この子たちの出番。」

“この子たち”…戦うのかな…

「俺が守るから。」

私を察したように彼は言う。

「守って。」


国境の町に着いた。今日はここで休もう。宿を取る。ちょうど空きがあったらしい。宿に着くとすぐにまた出かける。どこに行くかと思ったら楽器屋だった。そういえば彼ピアノ上手かったな。

「弾いてみて。聴きたい。」

「…最近やってないからなぁ。」

聞いたことのない曲だった。だけどとても綺麗だった。

「だいぶミスっちゃった…」

「凄かったよ…」

「そう?ありがと。」

そのあとギターケースを買って帰った。

「何に使うの?」

「ライフルそのまま持ってるわけにはいかないからさ。これに入れる。」

「多分そんな使い方するのハルだけだよ。」

「そんなことないって。日本のアニメで思いついたんだ。」


宿に着く。

まずは休もう。夕飯は部屋に持ってきてもらう。

「ところで、基地から無事脱出しましたが、お返事聞かせていただけませんか?」

「…。」

さすがに、真っ向から聞かれると逃げられない。顔が火照る。

「ごめん、もうちょっと待って…今日中に返事する。」

「わかった。」

食事が終わり、シャワーを浴びる。鏡を見てみた。身体中に痣や傷がある。右足も少し痛い。そうやって認識すると、今まで忘れていた痛みが蘇る。痛い。苦しい。頭が痛い。だんだんと前が見えなくなる。酷い耳鳴り。シャワーノズルを落とした。大きな音がする。立っていられない。もう前が見えない。全身から汗が吹き出ている。身体中の骨が軋むようだ。ドアを叩く音、返事を待たずにハルが飛び込んでくる。失禁してしまった。膝に力が入らない。倒れ込んだところを抱きとめられた。






もういいや、はっちゃけよう

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